解雇の事前通告と解雇手当(付:緊急報告「個人所得税免税点の引き上げ」)

執筆:元田時男

タイでは日本と異なり、会社の都合で解雇する場合、労働者保護法118条により120日以上の勤続者には勤続年数に応じた解雇手当を支給しばければならない。ただし、日本と同様事前通告が必要で、タイの場合1給与期間以上前に文書により事前通告通告するか、事前通告に代えて、上述の事前通告から解雇の日までに支給しなければならない額の賃金を支給することにより即時解雇できる(17条)。

1給与期間前の意味は、例えば月1回30日が給与支給日である場合、30日かその以前に次の給与支給日に解雇するよう事前通告をしなければならないと解されている。また、裁判もこの解釈を支持している(最高裁判例8249/1999年など)。つまり、事前通告日と解雇の日の間に2回給与支給日がなければならないのである。それにより、例えば労働者が月給制であれば、事前通告の日から次の職を探すことを始め、次の賃金支給日には解雇されないのであれば当然もらうべき給与をもらうことができるように配慮されているのである。

この規定は、労働者に次の職場を探すまでの期間、経済的に困らないようにすることを目的としていることは明瞭で、日本の場合も労働基準法20条1項において、少なくとも30日前に予告し、30日前に予告しない場合、30日分以上の平均賃金を支給することが義務付けられている。

次にタイの労働者保護法では会社都合により解雇する場合、労働者が120日以上勤続しておれば、勤続期間に応じて解雇手当を支給することが義務付けられている(118条)。この点、30日前の事前通告か30日以上の給与を支給することにより解雇でき、解雇手当が法律的に義務付けられていない日本の労働基準法より、労働者には有利な規定である。ただし、日本の場合、就業規則に退職金規定があるのが普通であり、使用者は就業規定は守らなければならないので、実際は日本の方が有利であることが多い。

それから、勤続年数による通常の解雇手当のほかにも、事業所を移転するとき、30日以上前に通告し、新しい事業所で働くことを望まない労働者に対する特別解雇手当支給義務(120条)、業務改善による解雇の場合、60日以上前に通告を要し、6年以上の勤続者には勤続1年当たり15日分以上の解雇金を通常の解雇手当てに上乗せして支給する義務が定められている(121条)。

また、タイの場合、労働者保護法118条、119条により解雇手当てを支給しないで解雇できる場合を次の通り定めている。いずれの場合も事前通告は不要である(17条)。

1. 期間が明確に定められており、その定めにより雇用を終了する場合(118条3項)
(注:この「期間が明瞭に定められている業務」とは、通常の業務でないもの、臨時的性格を有するもの、季節的労働であるもの、2年間で終了するものであることを要するがかなり抽象的である。しかし、この解釈については判例もあるので、労働問題に通じている弁護士か、労働省に確認することが望ましい。)
2. 会社に不正行為を行い、使用者に対して故意に刑事犯罪を犯した場合
3. 使用者に対して故意に損害を与えた場合
4. 過失により使用者に重大な損害を与えた場合
5. 就業規則、使用者の合法的、正当な命令に違反し、文書で警告を受けた場合
6. 正当な理由がなく3労働日(間に休日のあるなしにかかわらず)連続して職務放棄した場合
7. 最終判決により禁固刑を受けた場合。ただし、過失、軽犯罪によるものを除く。

緊急報告
タイの景気対策租税措置を閣議決定−2003年から個人所得税の免税点再引き上げなど

タイ政府は12月3日の閣議において、不動産売買促進のための税制、消費拡大のための税制について以下のような決定を行った。タイにおいては、タイ特有の憲法に基づく勅令があり、内閣の決定を国王が署名することにより国会の審議を経ることなく法律と同様の効果を及ぼすことから、税制改正に多用されており、今後、勅令等の公布により実行に移されることになる。

(1) 不動産登記手数料と特別事業税の引き下げ措置延長

1997年経済機危機により、それまで急拡大してきた不動産市場は沈滞したが、政府は不動産登記手数料を0.01%へ時限措置として引き下げ、その後数回延長してきたが、この時限措置が2002年末で切れるところから、再度2003年12月末まで延長することとした。

不動産取引について課せられる「特別事業税」も本来取引価格の3.3%であるが、時限措置として2002年12月末まで0.11%に引き下げられていた。これも2003年12月末まで延長することが決定された。「特別事業税」とは、1992年に事業税を廃止して付加価値税が導入されたとき、金融機関、保険、不動産取引について付加価値税の代わりに導入された租税である。

なお、経済危機に伴う債務再編成、企業再編に必要な不動産取引についても上記の措置が活用されていたのであるが、不動産以外にとられていたその他の時限的減税措置も2003年12月末まで延長されることになっている。

(2) 個人所得税の免税点の引き上げ

タイは日本同様累進税を採用しており、国税法により各種控除を差し引いた課税所得1バーツから10万バーツまでについては税率5%であるが、国税法はそのままにして、1999年3月31日付勅令352号により1999年1月1日から5万バーツまでは無税としていた。それを今回の閣議で2003年1月1日からの所得について8万バーツまで引き上げることとなった。これは、上記(1)と異なり恒久的措置であり、これにより独身者であれば年俸17万バーツ(約51万円)までの個人は無税となる。工場の一般ワーカーは5万バーツまで無税であったときでも、ほとんど無税であったので、今回の措置により、一般ワーカーより上のフォアマンクラスでも配偶者、扶養子女があれば無税となる者が増加することになり、低所得者といってもかなり上まで減税対象を広げたことになる。

(3) 個人用不動産買い換えに伴う免税措置の新設

これは、不動産市場活性化対策であると同時に個人所得税減税対策でもある。自ら居住していた不動産を買い換える場合、不動産の売却益に対する個人所得税を免税とするものである。ただし、1年以上居住した不動産を買い換える場合であること、不動産を処分した日から1年以内に買い換え不動産を購入しなければならないという条件がついており、2003年から実施することとなっている。

ちなみに、景気対策を目的とした個人所得税の減税措置は、上記免税点引き上げのほか、以下のように個人所得税の所得控除の引き上げを行ってきた。
まず、住宅取得用利息控除である。住宅を購入したとき、住宅(土地も含む)を担保にした購入資金の利息は年間1万バーツまで所得控除が可能となっているが、2000年度から1万バーツを超え5万バーツまでは無税とし(2000年大蔵省令226号)、実質的に5万バーツまで控除できることになっている。

次に、生命保険料控除は、タイの生命保険会社の保険で10年を超えるものについて、年間1万バーツまでであったが、2002年度から住宅取得用利息控除同様1万バーツを超え5万バーツまでは無税とし(2002年9月27日付大蔵省令240号)実質的に5万バーツまで控除できる。
以上の所得控除はいずれも国税法では1万バーツまでであるが、国税法では別の条項42条(17)で、個人所得税の免税について大蔵省令により定めることができるようになっており、住宅取得用利息控除も生命保険料控除も、当該条文はそのまま残し、大蔵省令により1万バーツを超え5バーツまでの分は免税とするという、日本では想像もつかないタイ独特の税法を使っているのである。同様のことは法人所得税、関税、物品税などについても行われている。