目次へ
ホーム

タイにおいて労働組合結成が阻止できるか

         元田時男 2006121

はじめに

 筆者の所には社内で労働組合結成の動きがあるが、何とか阻止する方法はないかという問い合わせが来ることがあるが、結論から言えば阻止するような行動は労働関係法第9章の不当労働行為となることがあり、そうなると同法158条により使用者は6ヶ月以下の懲役もしくは1万バーツ以下の罰金、または両方の併科となるので注意しなければならない。

 そもそも、労働組合があってもなくても労働者から要求は出るのであるから、労働組合があったからといって一概に使用者側が不利になるとは言えないのではないだろうか。確かに労働組合がなければ、要求書の提出は要求書に関係する(例えば工場内の労働者の要求であれば工場内労働者)労働者の15%以上の署名と7名以内の代表を選出する必要があるが(労働関係法133項)、労働組合がある場合は、組合として要求書が出せるので労働者側としては頻繁に要求書が出せるという利便はある。ただし、その場合、組合員の数は総労働者の5分の1以上でなければならないのである。5分の1に達しなければ、労働組合がない場合と同様に15%以上の署名と7名以内の代表選出が必要となるのである(労働関係法151項)。

 それでは、要求書が頻繁に出されると使用者側は本当に困るのであろうか。考え方によっては、要求が一向に出て来ないのも何か不満が溜まっていることもあるのである。使用者としては、労働者の不満は早め早めに把握してタインミングよく対処することも必要なのである。

 以下、果たして労働組合結成が可能であるかどうかを検証してみたい。

 

結成を阻止する行為とは何か

 労働組合は規約を作り登記官に申請をして、労働関係法の労働組合に関する規定に反しない限り許可となり法人格を有することになる(労働関係法86条から92条)。また10人以上の発起人が必要である。

 このような準備を執務時間中に就労場所で行えば、これは就業規則に違反することもあるので、通常は執務時間外に会社に外で行われる。これは阻止しようがないのである。また、1997年憲法45条では「国民は協会、組合、連合、共同組合、農民団体、民間団体あるいはその他の団体を結成する自由を有する」とあり、労働組合結成の自由は守られているのであり、これを妨害すれば憲法違反ともなるのである。

 そうすると、残る手段は労働者個人に働きかけて組合に加入することを阻止することになる。これを実行すればどうなるかについて以下に述べる。

 

組合加入の阻止、脱退の勧誘は可能か 

 まず、考えられることは金銭、物品を与えることにより入会させないようにすることでいわば買収行為であろう。しかし、労働関係法121条の(3)により、組合に入会させないようにするため、脱退させるために金銭、物品を与えることは不当労働行為となるのである。

 また同法122条の(1)では、直接、間接に強制的、脅迫などにより、組合への加入を阻止すること、脱退させることも不当労働行為として禁止されているのである

 

組合員の解雇は可能か

 次に労働組合員を解雇することであろう。これも121条の(2)によって、労働組合員であることを理由として解雇すること、または就労を不可能にするような行為は不当労働行為となるのである。労働組合員を解雇するには、労働者保護法119条において一般的に要求される以下の理由がなければならないのである。

(1)不正を行い使用者に対して故意に刑事犯罪を犯した者

(2)使用者に対して故意に損害を与えた者

(3)過失により使用者に重大な損害を与えた者

(4)就業規則、使用者の合法的命令に違反し、使用者から書面で警告を受けた者

   (重大な場合は警告は不要)

(5)正当な理由なしに、間に休日があるなしにかかわらず、3日連続して職務を放棄した

   場合

(6)最終判決により禁固刑を受けた者

   (過失によるもの、軽犯罪は除かれる)

 また、労働関係法123条により、以上のほかに、労働条件協約、決定、裁定に違反させるよう扇動したり、支援したり、勧誘する行為を行った者は、労働条件協約、決定、裁定が有効期間内であっても組合員を解雇することはできる(有効期間中は要求に関係した組合員等を解雇することはできない)。

 以上の理由がなければ解雇できないのである。

 では、以上の理由でなく、例えば会社の都合で人員整理を行わなければならないときにはどうなるかであるが、当然、労働者保護法118条による解雇補償金のほか、同法17条による事前通告、67条による未消化有給休暇分の賃金支払いを必要とする。更に、重要なことは、労働者が人員整理による解雇を組合のアクティブ組合員を狙って行ったと労働裁判所に提訴した場合である。

 この場合は、会社はそうでないことを証明して裁判官を納得させなければならないことになる。裁判官の納得が得られなければ、労働裁判所設置・訴訟法の49条によって裁判官が不当解雇と判断することになる。そうなると職場復帰の命令が下されるか、両者が今後一緒に就業できないと裁判官が認めた場合、上記の解雇に伴う補償金等のほかに損害賠償金の支払いを命じて分かれさせることになる。どちらになるかは裁判官の心証次第ということになる。同時に、使用者側は労働関係法121条の(2)で禁じられている組合員であることを理由に解雇したことにもなりかねず、そうなると、この違反は冒頭述べたように懲役6ヶ月もしくは1万バーツの罰金、または併科となるのである。従って、人員整理解雇を行う場合は組合員と非組合員の数に比例させるなど慎重な対応をしなければならないことになる。

 また、人員整理解雇は、労働裁判所に提訴された場合、何故人員整理を行わなければならないのか、その理由、他に対策がないことなどの証明責任は会社側にあることになる。

 

労働組合活動の妨害、干渉

 以上のほかに、労働関係法121条の(4)では、組合活動を妨害すること、組合員としての権利行使を妨害すること、また、同条(5)では組合の運営に干渉することが不当労働行為として挙げられている。役員の選挙の妨害はこれに該当するであろうし、日本でも禁じられている組合に金銭的支援をして御用組合にすることなどが該当するであろう。

 

不当労働行為の処分

 不当労働行為があった場合、労働関係法124条により、被害者はその行為があった日から60日以内に労働関係委員会に提訴することができ、労働関係委員会は提訴受理の日から90日以内に是正命令を出すことになっている。更に同法126条により違反者が命令に従った場合、刑事事件としての処理は中止されることになっている。従わなければ、同法127条により冒頭述べた刑事罰が科される。

 

おわりに

 以上で見てきたように、組合結成阻止、組合活動の妨害は不当労働行為になるのである。

組合結成の動きがあっても容易には阻止できない。そういう動きがあれば静観し、むしろ組合との友好関係を築く手段を考えた方がいいのではないか。

(おわり)