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タイにおける労働条件協約とは何か

    元田時男(20051220日)

はじめに

 タイの労働関係法10条では「20人以上の労働者を有する事業所は、労働条件協約を持つようにしなければならない」とある。原文の意味は義務なのかすすめなのか判然としないところもあるが、同条3項で「労働条件協約があるかどうか分からないときは、就業規則を労働条件協約とみななす」とみなし規定を設けているところを見ると法としては強い期待を持っていると理解することができるであろう。また、どの判例でも就業規則は労働条件協約であるとなっている。 この労働条件協約の役割は労使が最低限、雇用、労働条件、労働日、時間、賃金、福利厚生、雇用終了、労働者の苦情申し立て、雇用条件の改定について話し合いで決め、労使双方が守らなければならない労使の自主的合意事項である。 

 その点、就業規則は、少なくとも創立段階では会社が一方的に定めるものであり、合意事項である労働条件協約とは異なるのである。ただし、就業規則は労働条件協約とみなされるので、当初、会社側が作成した就業規則を改定する場合は、労働者側との合意が必要で、一方的に改定することはできないのである。

 日本では、労使合意には2種類ある。一つは労働組合法により使用者と労働組合の間で合意されるもので「労働協約」と称されている。もう一つは、労働者の半数以上を代表するものとの間で合意されるもので、「労使協定」と称されている。タイの場合、この両方の場合を含んでいるので「労働条件協約」と一つの言葉を使用、訳も日本のものと混同しないような訳語が当てられているのである。

労働条件協約の制定、改訂要求書の成立要件

 労働関係法(以下法と称す)13条で、労働条件協約を制定、改定をする場合で、労働者側が要求書を提出する場合に、労働組合が出す場合と労働者の代表が出す場合とに手続きを分けている。労働者の代表が出す場合は、要求書に関係する労働者の15%以上の氏名、署名がなければならない。また、7名以内の代表を選出しなければならない。代表の選挙の手続きは省令で定められている。

 労働組合が出す場合は、加盟労働者に代わって組合出すことができるが、その場合、法15条で労働組合員の数は全労働者の5分の1以上でなければならない。

団体交渉の手続き

 これは、日本では「労働協約」または「労使協定」で、労使が自主的に定めるものであるが、タイでは法律で手順を定めている。つまり、この手順を踏まなければ法律違反となる。

 まず、要求書(使用者側が出す場合と労働者側が出す場合がある)を受理したら、受理者の氏名を通知すると同時に、受理の日から3日以内に交渉を始めなければならない。3日以内に始めることができない場合は、法で「労使紛争」が始まったとみなされ、要求書提出側は受理の日から3日を経過した時点から24時間以内に調停官に文書で通知、調停官は通知受理の時点から5日以内に双方が合意に達するように調停を行う。

 3日以内に交渉が始まっても合意に至らない場合も、法では「労使紛争」が始まったとみなされ、要求書を提出した側は交渉決裂の時点から24時間以内に調停官に文書で報告、調停官は前述と同様、通知受理の時点から5日以内に双方が合意するように調停することになっている。

 ここで5日以内と定めてあるが、要求項目が順次合意に達しているときであれば、5日を過ぎても調停は続けられると解することができよう。

 この調停という手続きは法で定められたものであるから、日本のように「労働協約」で手続きを合意できる場合と異なり、必ず通らなければならない手順であることに注意願いたい。この手順を踏まないでいきなりストライキ、ロクアウトの実力行使に出るのは違法であり、139条により違反者は6ヶ月以下の懲役か1万バーツ以下の罰金、または併科である。

ストライキ、ロックアウトの手続き

 以上の団体交渉で調停官の調停でも合意に至らない場合、つまり決裂した場合は法では「合意できない労働争議」が発生したとされ、二つの選択肢がある。ストライキまたはロックアウトという実力行使に出るか、仲裁にかけるかである。仲裁は、仲裁というものの性格から双方の合意が必要であるので、特別の場合に限って行われる場合を除き余り例はないといわれている。

 ストライキ、ロックアウトを始める場合は、法342項により一方の当事者と調停官に対して24時間以上前に文書で通告することが求められている。これも守らないと前述の法139条で処罰される。

団体交渉で合意した場合

 調停官をわずらわすことなく自主的に合意に至った場合、調停により合意に至った場合とも同様であるが、法18条により合意書つまり新たな労働条件協約は文書にして労使双方が署名、合意の日から3日以内に職場において合意の日から30日以上公示すると同時に、合意の日から15日以内に労働事務所へ提出、登録しなければならない。

労働条件協約の有効期間

 労働を取り巻く環境は刻々と変化するので法12条により最長3年と定められ、3年を超える期間を合意しても3年と読み替えられることになっている。期限が定められていない場合は、有効期限は1年とすることになっている。

労働条件協約の拘束力

 協約が合意により成立すれば労使双方はこれを守らなければならないのであるが、それでは、守らなければならないのは、また、協約の条件を享受できるのは誰であろうかというのがここでのテーマである。

 法191項では労働条件協約は、使用者および要求書に署名した労働者を拘束するとある。また、交渉に参加する代表者の選挙に関係した全ての労働者を拘束するとある。前述の通り労働者が要求書を出す場合、要求書に関係する全労働者の15%以上の署名が必要で、かつ7名以内の代表者を選ぶことが求められているので、署名した者、選挙に参加した者全員が協約の恩恵にあづかり、また協約を守らなければならないのである。仮に事務所内の労働条件改善について要求書が出され、事務所内の労働者だけが署名、代表者の選挙に参加したのであれば、合意された協約は事務所内の労働者だけと使用者を拘束することになる。

 また、192項で、全従業員の3分の2以上が加盟する労働組合との協約、または要求書作成に参加した同種の企業で働いている全従業員の3分の2以上の労働者との協約は同種の全労働者を拘束するとある。

 以上は、日本では「一般的拘束力」と呼ばれるもので、日本の場合は労働組合法17条で同種の労働者の4分の3以上の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至ったときは同種の労働者に対しても適用されるとしている。

労働条件協約と雇用契約

 20条では、労働条件協約が発効した以後、使用者はこれに反する、矛盾する雇用契約を締結してはならないと定めている。とまり、個々の雇用契約より労働条件協約の方が優先するのである。ただし、同条後段で雇用契約が労働者に有利な場合を除くとあることに注意されたい。日本の場合は労働組合法16条で、労働協約の労働条件、待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効と定められ、さらに労働基準法92条で就業規則は法令または労働協約に反してはならないとあるので、労働協約がまず優先するのである。

(おわり)