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日系企業への提言

     20051025日  元田時男

はじめに

 筆者は「タイ国経済データベース」なるホームページを運営しており、タイでのビジネスに関するメールでの質問については、全て無料で答えている。月曜から金曜日までで平均して日に3件の質問が来ている。そのうち3分の2がタイの現地法人からのもので、3分の1が日本の本社からのものである。

 この質疑応答を通して日ごろ感じている問題をまとめて読者の参考にしたい。こんな初歩的なことを言われるほど自社はお粗末ではないと怒られる向きもあろうが、結構こういう問題は頻発するので、失礼を省みず申し上げる次第である。

 

原点に戻ろう(BOI企業なら奨励証書)

 ご承知の通り、BOIの奨励を受けると、奨励証書(Promotion Certificate)が発給される。法人所得税免税等の特典と、その特典が与えられるための条件が記載されている。特典と条件は表裏一体のものであり、特典を活用するならば条件は守らなければならないのである。

 ところが、筆者の所に奨励証書を読まないで質問される企業が多数あるのに驚くのである。「そのご質問については奨励証書の条件の部分に書いてありますので、よく読んで下さい」と答えると、「読んでいませんでした。失礼しました」との言葉が返ってくるのである。

 BOIの問題なら奨励証書であり、契約の問題であれば契約書である。労働問題なら労働法であり就業規則である。まず原点に返ってみることである。

 

引継ぎは文書で

 筆者は毎月のように日本の本社からタイの現地法人の社長となって赴任される方の事前研修なるものを依頼されている。大手企業ばかりである。数名で手分けして行い、筆者は労務、経営管理の部分が多い。

 2-3日の研修を行っても、とても十分な事前研修ができるとは思えない。赴任までに1ヶ月位の余裕があるのが通常であるので、分厚なテキストを渡して口頭での講義で足りない部分はテキストをよく読んでおくようにお願いするのであるが、後で聞いてみると殆ど読まないで赴任する人も多い。赴任の日まで残務整理がありテキストを読むような時間はない、行けば引継ぎで何とかなるだろうと言われる方もある。

 ところが、現地へ赴任すれば、取締役の交代登記、BOIや税関の署名権者の変更、ワークパーミットなどなどと事務的なことに忙殺される。帰任者は帰心矢のごとくで、とても十分な引継ぎができる状態ではないのである。人事などの重要な問題は当然引き継がれることであろうが、現地の社長ともなると非常に幅の広い問題があるのである。また、タイ人スタッフも入れ替わりが激しい。

 こういう状況で、引き継ぎがうまく行かず、前任者と同じ失敗を繰り返す社長が後を絶たないのである。つまり、折角前任者が汗と涙で積み上げたノウハウは生かされないのである。

 そこで、提案であるが、前任者は常日頃から問題と解決については文書化しておき、後任者へ引き継がれるようにしておくことが望ましいと感ずる次第である。筆者の研修を受けられる方は全部大手の企業の社員であるが、お話を聞いてみると本社でも文書による引継ぎなるものは殆ど行われないというのが現実のようである。引継ぎ後問題がおきても、お互いに同じ釜の飯を食っている仲間同士、何となく責任の所在はうやむやになってしまうのが現実のようである。しかし、昨今の日本の企業風土は「なあなあ」主義はさようならの気風がひたひたと押し寄せてきているのである。その意味からも引継ぎの際の責任問題はきちんと明らかにしておくのが必要ではなかろうか。

 

命令は明快に

 筆者はBOIで5年間アドバイザーを勤めたのであるが、現地法人の社長に今度は制度がこう変わったなどというような話をすると、「うちのタイ人スタッフは毎週のようにBOIに行っているのに、そういう報告が一回もない」と憤慨されるのである。「それではその職員はどういう職務でBOIへ行っているのですか」と聞くと、原材料の輸入手続であったりする。

 何かして貰うことを期待するのであれば、それもきちんと指示することが必要ではなかろうか。なるほど、日本では「会社のために」というのは錦の御旗であり、そのためには命令されなくてもやるという気風があるが、これは日本特有の企業風土であるように思われる。

 筆者も長く企業の中にいたが、一番困るのは何をして欲しいのかが見えない上司で、ほとほと手を焼いたものである。

 でも、タイにおいても企業によっては、一々指示を出さなくても、例えば経理であれば、日本人の上司から命令はなくても、税務の参考書を揃え、税務の講習会には毎年参加しており、いつも最新の情報をタイ人スタッフだけで備えている企業もある。こういう企業では担当者は何が自分の仕事であるかが分かっているのである。つまり、業務の分析と分担がきちんとスタッフに伝えられていることを痛感する。日本式の「皆で協力して仲良くやってよ」というような曖昧さはないのである。

 

初めからベテランであるスタッフはいない

 民間企業が官庁と折衝することは多い。BOIなどはその最たるものであろう。そういう場合、タイ人スタッフならタイ人同士で言葉の問題もないからといタイ人スタッフに任せられる企業は多い。しかし、後で調べて可能なことが分かっても「駄目と言われました」帰って来ることは結構多い。そういうときに「うちのタイ人スタッフは駄目だ」と言われる向きもあるが、そう即断する前に考えていただきたいことがある。それは官庁といえども、折衝には折衝技術というものがあるということである。尋ねられないことには答えないというのは日本の官庁も同様である。

 タイの工業化はまだ始まったばかりで、タイ人全体の仕事の能力が向上するまでまだ時間がかかると思わなければならないであろう。スタッフも若い層が中心である。そうした人たちが最初からベテランであるわけがないのである。重要な問題の場合、ベテランであるがためにタイへ派遣された日本人が出て行って折衝能力の範を示すことも必要であろう。事実、筆者のアドバイスにより日本人ベテランがタイ人スタッフとともに折衝に当たり、不可能が可能になったケースはよくある。

 

正確な情報をとろう

 タイでのビジネスのネックの一つとして制度情報がタイ語であるために日本人が容易にはアクセスできないという問題がよく挙げられる。しかし、日本人だけであやふやな情報を交換して事たれリとするのは如何なものであろう。疑問があれば担当官庁へ出向いてきちんとした情報をとることである。

 1997年憲法、1997年情報公開法の影響もあり、最近の行政は民の問い合わせには親切に対応しているのは筆者もよく経験することである。また、官庁のホームページからも情報は取れるのである。タイ語だから読めないというのでは経営者としての能力にいささか欠けると言わざるを得ない。タイ人スタッフと協力してアクセスすればいいのである。

 筆者の所には依然として、間違った風説にも基づく問い合わせが絶えない。また、10数年かかって、日本人同士の口から口へ伝えられた情報により大変な問題に発展した事件も現実として起きているのである。

(おわり)