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解雇に当たり注意すべきことがら

   2005年8月6日元田時男

はじめに

 日本では会社の都合により解雇することは実際問題として非常に困難である。90年初頭のバブル経済がはじけて以来、日本ではリストラと称する解雇、転配、出向など人事上の改革が進められ、それは現在でも続いている。退職金の割り増しにより自主的に辞めてもらう方法がかなり多いようであるが、いずれにしても労働組合との折衝もあり、日本では解雇は大変な苦労を伴うのである。

 一方、タイでは労働者保護法では、本人に非がなく会社都合により解雇する場合、事前通告かそれに代わる補償金と一定の解雇補償金を支払うことが義務付けられている。従って、事前通告をして解雇補償金を支払えば、特に工場ワーカーの場合、一時に金が入り、職は探せば日本より探し易いということもあり、辞める労働者が多いのが現実ではなかろうか。

 それでは、事前通告と解雇補償金さへ払えば自由に解雇できるのであろうか。そのように理解されている向きも多いようであるが、今回はそれについて考察してみてご参考に供してみたい。

日本は妥当な理由がなければ解雇できない

 まず、日本の場合について見てみよう。労働基準法21条では「労働者を解雇しようとする場合においては少なくとも30日前にその予告をしなければならないと」定めており、また「30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」と定め、タイと似たような規定となっている。しかし、従来、裁判上は、判例により「客観的に合理的な理由を欠き社会的通念上も相当として是認することができない場合には、権利の乱用として無効になる」として使用者の解雇権を制限していたのであるが、2003年に労働基準法が改正され、18条の2が追加され、上記の判例が正式に条文化されている。

 合理的な理由があり、社会的通念上相当とは抽象的な表現であるが、人員を整理しなければ会社が潰れて皆共倒れになるという場合は当てはまるのではないかと思われ、事実、認めた判例もあるのである。ただし、その判例では「整理解雇が有効とされるためには、企業運営上の必要性、配転による余剰人員の吸収措置、人選の客観性、合理性の要件を充足することが必要」としているのである。つまり、会社が潰れそうになっても使用者側があらゆる努力をしたあとでなければ認めないという考え方である。

 これは日本もタイも加盟している世界労働機関(ILO)の世界労働基準である条約82号「1982年使用者の発意による雇用の終了に関する条約」で定めている「使用者は、労働者の能力や行為に関する妥当な理由、企業運営上の妥当な理由がなければ、労働者を解雇することができない」という趣旨に沿ったものと理解することができよう。実はタイも日本もこの82号条約は現在まで批准していないのであるが、ILO条約は批准にかかわらず、模範とすべき基準とされているのである。

タイで解雇が禁止されている場合

 それでは、逆にタイの労働法で明確に解雇が禁止されている場合を見てみると、労働者保護法では妊娠を理由にした場合(第43条)、労働関係法では、労働組合員であることを理由にした場合(第121条第2項)、労働者もしくは労働組合が集会招集、苦情申請、要求書提出、交渉、法的訴訟しているときなど(121条第1項)、さらに雇用条件協約、決定、裁定が有効期間内にある場合で使用者が要求書に関係した労働者、労働者代表、労働組合の委員、小委員、組合員、労働組合連合の委員、小委員を解雇することは禁じられている。

 また、労働者委員会(詳細は本シリーズの15「労働者委員会とは何か、その目的と留意事項」を参照されたい)の委員は労働裁判所の許可なしに解雇、減給、懲戒、委員活動の妨害を行ってはならないと定められている(労働関係法52条)。

タイで解雇が認められている場合

 次に明確に解雇が認められる場合について見てみると、労働者保護法第119条では以下の場合には、雇用終了した労働者に対しては解雇手当を支払う必要がないとし、また第17条第5項では事前通告も必要とされていないのである。つまり解雇は許されるのである。

1.職務に対する不正または使用者に対して故意に刑事犯罪を犯したとき

2.使用者に対して故意に損害を与えたとき

3.過失により使用者に重大な損害を与えたとき

4.労働者が就業規則または使用者の合法的、正当な命令に違反し、使用者から書面で警告を受けた場合

5.正当な理由なく、間に休日があるなしにかかわらず3日間連続して職務放棄したとき

6.最終判決により禁固刑を受けたとき、ただし、過失によるもの、または軽犯罪を除く

 ただ、どの程度が重大であり、規則違反であるかは裁判でよく争われることであり、事例によっては重大でも、違反でもないと判断されることもあるので注意が必要である。

 また、試用期間中、労働者が職務に不適当であると判断された場合の解雇は、本シリーズ29「試用期間中の解雇について」で述べたように判例で認められている。ただし、不適当である場合は解雇するという名文の契約が必要と解される。

誰が不当解雇と判断するか

 以上見てくると、労働者保護法119条の場合以外には、容易には解雇できないと解釈すべきであろう。とういうのは、前述の通り雇用条件が有効期間内にある場合も、要求書に関係した労働者を解雇することも禁止しているからである。労働者の要求により労働条件協約が締結されていない企業は余りないと思われるし、労働関係法第10条では20人以上の労働者を有する事業所は雇用条件協約を締結することを勧め、それがない場合は就業規則を労働条件協約とみなすと規定されているのである。

 そうなると、日本同様、タイの社会通念上妥当であるという理由がなければ不当解雇とみなされる恐れは十分にあるのである。工場の一般ワーカーであれば、冒頭述べたように、解雇補償金を貰えば辞めるという風潮に助けられることもあろうが、これがマネジャークラスともなると本人の面子もあり解雇補償金を示しても、不当解雇として損害賠償、職場復帰を求めて労働裁判所に提訴することはあるのである。タイの労働裁判所は、提訴は口頭でも書記官が訴状にまとめてくれるし、訴訟費用は無料であり、提訴し易い仕組みになっている。また、上告は第2審を飛び越えて最高裁判所に対して行うことになっており、迅速な裁判が期待できるのである。

 こうなると、不当解雇であるかないかは法律だけでは判断できないのである。「労働裁判所設置法および訴訟法」の第49条では、「使用者が労働者を解雇した場合で、労働裁判所が、解雇が不当であると判断した場合、労働裁判所は使用者に対して解雇時の賃金を払って引き続き就業させることを命ずることができる。」とある。つまり裁判所が不当でであるか、ないかを判断するのであり、労働裁判所は裁判官のほかに使用者を代表する者と労働者を代表する陪席裁判官の3者の合議により判決は下されるのである。ただし、同じく第49条で、「今後労使が協力して仕事を続けられないと判断した場合、労働裁判所は使用奢が払う損害賠償金を決定する。」とあるので、タイらしく、こじれた人間関係は修復しようがないと逃げ道を作ってある。

 不当であるか不当でないかの判断の基準は、やはり日本と同様、タイの社会通念に従うのではなかろうか。本人に能力がないと言えば、本人に向く職務はないかと問われるであろうし、会社の業績が苦しいと言えば使用者にその証明責任が問われるであろう。

単に同僚の間を回って何か画策して好ましからざる人物であるという理由では難しいであろうし、能力がないという理由では、逆に使用者の使い方が悪いのではないかと突っ込まれる恐れもあるのである。タイでも日本同様、会社都合の解雇は難しいと思わざるをえない。

最後になったが、119条の場合以外で解雇する場合、繰り越してきた有給休暇とその年の有給休暇を解雇するまでの日数に応じて有給休暇の賃金を支払わなければならないことが労働者保護法67条で定められていることを付記しておく。

(おわり、次回は「BOI奨励事業に関するタックスルーリング(国税局の税法解釈)」についてお送りする。)