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会社の重要書類を点検してみよう

  2005225日元田時男


はじめに

 1997年の通貨危機に始まる経済危機は、特に合弁会社にとっては受難のときでもあった。各社大きな為替差損を抱えて、合弁相手も自身が危ないということで、損をどう処理する

かで合弁相手と度々もみ合いになり筆者の所にも多数の相談が寄せられた。その中で、もう一度原点に戻ってみようと会社の書類を点検しているうちに様様な問題点が浮かび上がったのである。例えば、合弁契約書に署名をした相手は当然代表権、つまり署名権を持っていると理解していたが、実は相手企業の署名権は奥さんにあり、夫は単なる取締役であったというケースもあった。日本的な考えでご主人が署名権を当然持っていると誤解していたのである。これなど合弁契約書に、日本でいう代表証明書、タイでは登記簿の署名権の欄を添付しておけば当然明らかになったはずである。これはタイで重要な契約をする場合の常識なのであるが、日本の常識をタイでは失念した例であり、笑うに笑えない出来事ではある。

 経済危機はすでに過去のものとなり、今は製品が売れれば、不良品が出なければ平穏無事に企業は動いていくのであるが、まさかに備えて会社の書類をもう一度点検しておくことは極めて重要であろう。


翻訳ミスに気をつけよう

 タイの公用語はタイ語であるから当然様々な役所関係の書類はタイ語であり、日本人責任者は翻訳されたもので仕事をしているのであるが、筆者の経験によると翻訳ミスは非常に多いのである。前述の危機の時代に会社の登記簿を点検してみてミスが非常に多いのに驚いたものである。ひどいものになると署名は二人が同時に行うはずであったのが、登記簿ではいずれかの一人になっていたのがあった。付属定款にも合弁契約と相反する記載のあるものがあった。前の例では、双方とも合弁契約のとおりになっているものと双方が署名していたのであるが、善意の第三者には登記事項がものをいうのであり、もし仮に相手に悪意があり署名権の部分の証明書とともに一人で重要な行為を行わないとも限らないのである。

 では、なぜこうした翻訳の単純ミスが多いかといえば、筆者は二つの原因があろうかと考える。一つは、会社の登記事項など決まりきった書類は、現在ではパソコンのワープロに定型的なものが入っており、弁護士事務所などでは依頼された英語の文書を必要な所だけ修正して行けば直ぐ出来上がるのである。この手軽さがあだとなって、重要な部分が抜けたり、余計なものが入ってきたりするのである。もう一つは、タイ人は自分の仕事が終われば、もう一回チェックするという習慣のない人が多いような気もする。そういうことで、筆者は数社の会社登記を弁護士、会計事務所に依頼してミスがなかったことがないのである。筆者はタイ語が読めるから直ぐ発見できるが、大方の日本人は大手の事務所の翻訳を疑うことなく、ミスを抱えたまま登記してしまうことになるのである。

 翻訳は、もう一回別の翻訳者の点検させるということは欠かせないことである。10年も20年もミスを抱えたまま動いてきた企業も結構な数に上るのではないかと思われる。BOIの奨励証書、会社登記簿など、この機会にもう一度チェックされることをお勧めする。


整理して保管しておくべき重要書類

 筆者は在タイ時から現在に至るまで実に多くの日系企業を訪問したが、応接間に書類が積み上げられている企業も散見される。おそらく工場の建物を設計するとき技術者の意見が多く取り入れられ、総務担当の意見は無視されたか、または中小企業の場合であるが、元々本社には総務的感覚のない人ばかりであるという企業も珍しくはないのである。技術こそが当社の生き残る道というのは事実であるが、総務も大事な仕事である。工場の設計は当然ながら経理、シッピングなどの書類が1年間にどのくらい出てくるかを予測して設計することは重要なことである。応接間であればまだしも安全であるが、工場の片隅に書類を積み上げる企業もあるのである。

 その結果、必要な書類が直ぐ出てこないという結果になる。筆者の所に相談が来て、こういう書類を現地からファックスで送ってもらえば見当をつけますと申し上げても、現地からなかなかファックスが届かないことがある。タイ語だから見つけにくいということはあるかと思われるが、それはそれで、日本語で付箋をつけてきちんと整理しておけば済むことである。

 従って、以下のような重要な書類は直ぐ出てくるように整理して金庫なりキャビネットに厳重に保管しておくことである。責任者が何代も変わると保管がいい加減になるので注意したいし、引継ぎ簿にも明記しておくべき書類でもある。経理、シッピング書類は当然厳重に保管されるべきものであるから、ややもするとうっかりするものに限ってみた。

1.BOIの奨励証書(法人所得税の免税その他に必要なものであるから、発給されるときも固い紙の表紙がついている。オリジナルは金庫に保管しておくこと。品目の追加など投資を要しないものなどは1枚のものが追加で発給され、また事業の拡大とともに何件もの証書が発給されていることもあるので、全部が揃っているかは一度チェックしておく必要がある。)

2.BOIへの奨励申請書(奨励を受けて用済みと思われるかも知れないが、奨励証書には工程はBOIと打合せた工程を守ることと記載されてあるのに工程表は奨励証書には添付されないのである。それを失念して申請書に添付した工程表にない工程を導入して結果的にBOIとの約束違反となるケースは少なくない。)

3.工場設立許可書(期限があるので注意すること。)

4.建築許可書(タイでは日本のように建物の所有権登記制度がないので、建物の所有権は、この書類で立証することになる。)

5.会社登記簿写し(幾つかの書類に分かれているので全部を揃えておく。)

6.株主名簿(登記簿の株主名簿で代用する企業がほとんどと思われるが、特に合弁の場合、株主に変動があるとき名簿を別に作成しておかないと混乱をきたす恐れがある。作成保管は取締役の義務でもある。)

7.法人所得税申告書、納税領収書(領収書は小さな紙切れでもあり注意したい。)

8.年少労働者(満15歳以上、18歳未満の労働者)の雇用状況記録(労働者保護法45条参照)

9.労働者登録簿(労働者保護法112条により10人以上を使用する場合タイ語で作成、事業所に置いて、労働官の検査に備えなければならない。)

10.賃金台帳(労働者保護法114条により10人以上を使用する場合、整備して備え、更に労働者が離職した日から少なくとも2年間保管する必要がある。また、115条では、労働裁判所に提訴された場合には重要な証拠として確定判決が出るまでは保管しなければならないことになっている。)

(おわり)