Index
Home
合弁契約を見直してみよう
元田時男(04年12月17日)
はじめに
BOI認可の日系企業の中には2000年までのBOIの合弁基準もあり、やむを得ずタイ資本との合弁企業としたものもあり(原則として第1、第2ゾーンでは輸出比率により合弁基準が設けられていた)、また自らの意思で合弁企業としたものもある。また、BOI以外の企業では、外国人事業法により、特にサービス業の場合51%以上をタイ資本とした企業がある。それぞれ、タイ資本との間で合弁契約を締結しているのである。
こうした合弁契約も事業が順調な間は大過なく事業は進行するのであるが、一旦大きな問題、例えば資金不足、赤字の拡大などが起きると合弁両者の間はこじれてくるのである。
そこで、今回は自社の合弁契約に問題がないか、チェックして問題あれば、問題がこじれないうちに契約を見直すことを勧める意味で、よく起こりがちな事項を挙げてみたい。もちろん、合弁契約は相手があることであり、相手が見直しに応じなければそれまでであるが、交渉次第では上手く新たな合意に達することもあるのである。少なくとも問題点は把握しておくことが必要であろう。
準拠法、裁判地
日本側が立場が強いので契約の準拠法は日本とし、裁判も日本のどの裁判所と指定した契約書にお目にかかったことがあるが、これはいかにも実行に困る条項である。もし、仮に日本の裁判所で勝訴したとしても、その判決によりタイで強制執行できなければ、再度タイで訴訟を起こさなければならないのである。日本の判決がそのままタイで執行できるかはタイの弁護士とよく相談することである。この問題は国際私法上の難しい問題を含んでいるのである。
執行できない契約書は単なる紙切れに過ぎない。それであれば執行が保証されている後述の仲裁の方が、日タイ両国とも加盟している「外国における仲裁判断の執行にかかる条約」で執行が保証され、更にタイの場合2002年に改正された仲裁法41条で外国(例えば日本)での仲裁判断のタイでの執行は保証されているのである。また、日本の場合は2003年に制定された仲裁法45条により同様保証されているので、仲裁判断を裁判所へ持ち込めば、再度裁判することなく強制執行が可能となるのである。
仲裁条項の仲裁地、機関、仲裁規則の特定
筆者が今までに見た契約書には、正に教科書通り仲裁条項が入っているのがほとんどであるが、中には紛争は仲裁によって解決するとのみうたってあるのが散見される。1審から3審までの長い長い裁判の過程を踏むより、1審で決着がつく仲裁による解決を合意するのは最善の策であるが、この場合仲裁地(東京、バンコクなど)、仲裁機関(日本国際商事仲裁協会、Thai Arbitration Institute など)、仲裁規則(前記それぞれの仲裁規則など)を契約の中で合意しておかないと、いざ紛争が起きたときに、お互いに自分の都合の良いことを主張して合意が得られなければ、仲裁には入れないので、意味の無い仲裁条項となってしまう。
仲裁と裁判の違いなど基本的なことは、別途稿を改めて述べてみたいが、こうした仲裁条項を抱える向きには、関係が良好なうちに、例えば訴えられる方が日本側の場合は日本の仲裁機関とその仲裁規則により、逆の場合はタイでと合意する方法もあるのである。
相互の責任分担を明確に
合弁で経理をタイ側にまかせた場合、ずさんな経理により問題が起きるケースは結構多い。その場合、契約上で責任の所在がはっきりしていないとお互いの罪のなすりあいとなる。それを明確にするには取締役会議での合意により分担を行うこととして、取締役の選出方法(日本側何名、タイ側何名、議長をどちらが取るかなど)、取締役会議の運営方法(定足数、議決の方法など)を細かく明確に決めて、取締役合同の責任とする方法もあるが、はじめから契約上、日本側取締役の責任、タイ側取締役の責任を明確にしておく方法もある。
つまり、責任の所在をあいまいにしたままでは、何か起きたときに困るのである。
株式譲渡制限
合弁はお互いの信頼関係の上に立っているのであるから、どちらか一方が他人に株式を譲渡されては困るのである。会社法上は定款で定めない限り譲渡は自由となっているので(民商法典1129条)、合弁契約で相互の文書による承認なしには株式を譲渡できないとし、付属定款にも同様うたっておくことは重要である。
取締役の先買い権
譲渡制限と関連する事項であるが、合弁相手の都合でどうしても株式を譲渡しなければならない事情があるとき、それは止めようがないこともある。そのような場合に、もう一方が優先的に買い取る、または指定した先が優先的に買い取るという条項も重要である。
ただ、タイの場合は法による外国人の持分制限があることもあるので、注意が必要である。
株式譲渡の場合の評価方法
前2項の続きであるが、もう一方が買い取る場合に株式を幾らで買い取るかという問題が出てくる。会社が儲かっておれば株式は当然額面より高く買ってもらえると期待するのは当然であり、累積赤字があれば当然額面より低く買い取りたくなるのは当然である。この評価方法をきちんと合意しておかないとまさかのときに困るのである。
合理的な評価方法としては、双方が合意した公認会計士により直近の貸借対照表から株価を計算するという合意の方法がある。ただ、タイではいい加減な会計がまかり通るという風土から見て、公認会計士または指名方法も双方で事前に合意しておかないと、いざというときに自分の都合のいい主張を出し合ってらちがあかないという結果になりかねない。
合弁契約の解約
一般に相手が契約に違反した場合、解約するというような条項も多数あるが、実は解約してもその始末をどうするかという問題にぶっつかるのである。合弁契約を解約しても会社は解散、清算しない限り残るのである。解散、清算はタイでは民商法典に厳しい規定があり、税務上の手続もあり、当事者の法的責任は残るのである。
であれば、解約の次の段階まで合意しておくことも重要なこととなる。一番簡単な方法は契約不履行者から株式を全部引き取るというのが現実的な合意であろう。ただし、法による持分規制がある場合の対策も必要である。また、罰則的な意味で契約不履行者から罰金を取るという条項も必要であろう。
要は解約のあとの問題について弁護士ともよく相談して取り決めておくことである。
資金調達の方法
これは1997年の通貨危機のときに頻発した問題であるが、相手の資金力によってはよく起きる問題でもある。会社の資金不足には一方的に日本側が借款を提供するというケースが多いが、特に会社に土地などの資産が乏しい場合、合弁契約では例えば株式の持分に応じて資金の提供を行うなどの合意をしておいた方が良かろうと思われる。
秘密保持
これは日本側がノウハウを提供する立場にあり、通常合弁契約書の契約当事者のみならず従業員の秘密保持管理の責任についても盛り込んであるのが通常である。だだ、最近に至りタイでも日本の不公正競争法が1990年に改正された条文と同様、新たに2002年に「営業秘密法」が制定された。これはウルグアイラウンドで合意された知的所有権協定によるもので、秘密であることにより営業上の価値があるという正にノウハウを漏洩した場合、差し止め請求権、損害賠償請求権を認めるほか、日本にはない刑事罰を科すことができるようになっている。
つまり、私的契約である秘密保持契約は、現在では法的にも支持されているのである。従って、秘密漏洩があった場合、この法律により当事者を提訴することができるのであるから、この法律と契約書との整合性について弁護士と相談して、契約書の改訂が必要であればそのように対応しておくことも検討してみることである。
(おわり)