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タイ国の労働裁判所設置ならびに訴訟法

   2004年8月27日 元田時男


1.はじめに
 この法律は1979年に成立、同年5月12日から施行されている。労使紛争は経営者にとっては、いつかは必ずあると覚悟を決めなければならない問題であろう。紛争は、先ず、「労働関係法」に従い、要求書の提出、労使の話し合い、調停という段階を経なければならない。それとは別に、退職金なしに解雇されるなど個々の労働者から、不当労働行為として訴えられることもある。以上のような労使間の専門裁判所として、労働裁判所が設けられたのである。


2.労働裁判所の管轄

 労働裁判所の専属管轄は、8条により概略以下の通り定められている。

(1)労働契約並びに労働条件協約に基づく権利、義務

(2)労働者保護法、労働関係法に基づく権利、義務

(3)労働者保護法に基づく担当官の裁定に対する不服申立

(4)労働関係法に基づく労働関係委員会または大臣の裁定に対する不服申立

(5)労働争議、雇用契約による労働に関して労使間で起きた違反事件

(6)労働関係法に基づき大臣が労働裁判所に裁定を求めた場合

当然ながら、労働裁判所以外の裁判所が労働関連の裁判を受け付けることはできない(9条)。また、関連法律に解決の手順が決められている場合は、その手順に従った後、始めて提訴を受け付けることになっている(8条2項)。


3.労働裁判所の特色

 この法律の特色は、労使間の紛争という特殊な分野において、専門家を起用すること、労使双方にとって公平であること、裁判を迅速に終わらせること、労使双方にとって裁判費用を節約させること、簡便であることにあると言っていいであろう。そのため、中央労働裁判所長は、最高裁判所長官の同意を得て、さまざまな規則を公布することができ、官報で告示された日から、その規則は発効する(29条)。
 以下、この法律の特色に沿って、概説する。
1)専門裁判官、専門家の起用
 裁判官は、キャリア裁判官の地位にある者の中から労働問題に専門的知識のある裁判官が選ばれることになっている(12条)。また、必要な場合、専門家を喚問することができる(30条)。
(2)労使双方に公平性が保たれている
 裁判官は上記のキャリア裁判官のほかに、労働者側を代表する者と使用者側を代表する者が、陪席裁判官として裁判に加わることになっており、裁判において、双方の陪席裁判官は同数でなければならない(11、17条)。いわゆる参審制をとっている。労働者側陪席裁判官は労働組合連合等から選挙で選ばれた者、使用者側陪席裁判官は使用者協会から選挙で選ばれた者がキャリア裁判官と同様国王によって任命される(14条)。また、陪席裁判官はタイ国籍者、成年であること、破産者でないこと、犯罪暦がないこと、政治職公務員でないこと、政党委員でないこと、政党役員でないこと、国会議員でないこと、バンコク都議会議員でないこと、選挙で選ばれた地方議会議員でないこと、弁護士でないことなどの厳しい資格が要求されるほか、裁判官としての訓練を受けることになっており、任期は2年であるが再任を妨げない(14条)。陪席裁判官の報酬その他手当ては、勅令で定められることになっており、身分と同時に中立性を守れるよう配慮されている(21条)。
 さらに、陪席裁判官は、その職につくとき、裁判長に対して、労働者側にも使用者側にもつかず、公平に職務を全うすることを宣誓しなければならない(14条5項)。
 また、裁判では、同種の労働者の労働事情、生活費、困難を考慮に入れると同様に、使用者側の事業の状況、経済社会事情を考慮しなければならないと定めてある(48条)。
(3)裁判は迅速性に行われる
 通常、労働者が提訴する場合は賃金、退職金など金銭にまつわることが多く、低所得者である労働者の要求の緊急性に鑑み、裁判を迅速に終わらせる配慮がなされている。例えば、裁判は休みなく継続して行われることが要求され、休廷は1回につき7日以内と定められている(45条3項)。

 また、陪席裁判官が病気などで止むを得ず裁判できないとき、裁判長は他の陪席裁判官に担当させることができる(20条)。
 次いで、控訴は第2審を飛び越えて、判決、命令が出た日から15日以内に最高裁判所に対して行うことになっている(54条)。また、最高裁判所は迅速に裁判を進めるよううながされている(56条)。 
 裁判手続きは、いかに迅速に行われても、ある程度の期間は要する。また、労使間に感情的しこりが残るのも、今後一緒に仕事をする上で避けたいところである。そこで、労働裁判所では、正式の裁判を始める前に、お互いに話し合い、妥協するように調停することが明記されている。もし妥協できなかった場合には裁判を進めることになる(34条)。
(4)費用の節約
 低所得者である労働者の事情を考慮して、裁判には労使双方とも、手数料は無料である(27条)。

(5)手続きが簡便である
 矢張り、経験知識に欠ける労働者に配慮して、提訴は口頭でもいいことになっている。裁判所は口頭の訴えに対して、調査をして、内容を文書にまとめ、提訴人に読み聞かせて署名させることができる。また、提訴人が多数ある場合、裁判所は代表を選ぶことができる(35条)。必要な場合、証人の証言の簡潔にまとめて証人の署名をとることができる(35条)。

 また、必要な場合、訴訟手続きを事件発生地またはその他の場所で行うことができるようになっており(28条)、現場検証、調書の作成などの事務がはぶける仕組みにもなっている。


4.労働者解雇に伴う審理

 これはもっとも数の多い事件であろう。使用者、は労働者保護法119条では以下の場合は解雇補償金を払わず解雇することが認められている。

(1)職務に対する不正、使用者に対して故意に刑事犯罪を犯したとき

(2)使用者に対して故意に損害を与えた場合

(3)過失により使用者に重大な損害を与えたとき

(4)就業規則または使用者の合法的、正当な命令に違反し使用者から書面で警告を受けた場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。

(5)正当な理由なく、間に休日があるかないかに関係なく3日連続して職務を放棄したとき

(6)最終判決により懲役刑を受けたとき。ただし、過失による場合、軽犯罪を除く。

 労働裁判所法の49条では、特に解雇事件について規定しており、裁判所が解雇が解雇された労働者に対して不公正であると判断した場合、解雇を無効として引き続き就業させるように命令することはできるようになっている。

 ただし、それでは円満な労使関係を維持できないという配慮から、解雇を認める代わりに使用者が支払う損害賠償額を決定することができるようになっていることに注意されたい。

 以上、労働裁判の概要を述べたが、規律違反などで解雇補償金なしで解雇し、労働者側から解雇補償金を払えと訴えられる件数は、判例を見る限りかなり多い。また、使用者側が負けることも多い。しかし、ことを穏便に済ませようと、規律違反でも退職金を払って円満に分かれようとすることは、他の同僚にどういう印象を与えるであろうか。裁判に負けることも覚悟して、退職金を払わず解雇することは大事ではなかろうか。 
 (おわり)