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株主の責任と権利

   2004626日  元田時男

1.はじめに

 日本からタイの現地法人の取締役として赴任している読者は、株主総会の決議と付属定款の定めを忠実に執行するという責任があるのであるから、株主の責任と権利は充分に承知して業務の執行に当る必要がある。日本100%の企業であれば、株主の意向すなわち本社の意向であるから本社と絶えず連絡をとればいいのであるが、日タイ合弁であれば、それぞれ利害関係が異なる当事者が株主であるから、株主が本来法的にはどのような責任と権利利持っているのかについてはきちんとした認識を持っておく必要がある。

2.所有と経営の分離

 株式会社の本質は、株主の責任が有限であることにその特徴がある。有限の反対は無限であるが、例えば個人商店であれば、仕入れた商品代金の支払い、融資を受けた資金の返済には無限の責任があり、資金が足りなくて支払い、返済ができなければ私財を投げ打っても支払い返済する責任があるのである。しかし株式会社は多数の株主から資金を集めるのであるから、株主に会社の負債にまで責任を負わせれば、株主のなり手がいなくなるし、株主は執行役員、つまり、取締役の業務執行に絶えず関与しなければならないこととなり、それは会社が大きくなればなるほど実行不可能となる。

 従って、株式会社というものは株主には資金を提供するというだけの責任を負わせ、取締役には株主総会の決議と定款の規定を忠実に執行させるというように、所有(株主は会社の所有者である)と経営(取締役は株主から経営を任せられている)を分離させて、会社が変化する経済情勢に臨機応変に対応できるような仕組みになっているのである。

3.株主の責任(有限責任)

 それでは、具体的に株主の有限責任とは何であろうか。それは引き受けた株式を払いこむという責任であり、会社が多額の負債を背負って破綻すれば、自己の株式の値打ちがゼロとなり、単なる紙切れと化すことを受容するという、限定的な責任のことである。

 従って、会社の負債には一切責任はないのである。会社がいくら多額な負債を背負って破綻しようが、株主はその負債を負担する責任はないのである。この一言が株式会社の本質を語っていると言っていいであろう。

 このことはタイの民商法典株式会社編では、1096条で「株主は自己が所有する株式の未払込分を超えない限度で責任を有する」と規定されている。これを端的に解釈すると、全額払込めばそれ以上に責任はないとうことである。

 日本の新聞で、よく「株主の責任を問う」という表現に出会うことがあるが、それは株主が所有する株式の価値を下げるか、ゼロにすることであり、会計上は減資して損失を埋めることもその一つである。減資という操作を行っても株式の価値をマイナスにすることはできない。つまり、株主はどんなに損しても、株式の価値がゼロとなる以上には損はないのである。株主の責任はそこまでである。

 タイの非公開株式会社の場合、資本金の4分の1を下回る減資はできないので(民商法典1225条)、減資の場合、株主は4分の3以上の損をこうむることはない。ただし、債務超過(損失が資本額を超える)で会社の全資産を動員しても債務が返済できない場合は、破綻となり、その場合、会社が何らかの方法で再建できない限り、株式の価値はゼロとなるのである。

4.株主の権利行使の場としての株主総会

 株式会社は、組織が大きくなれば不特定多数の株主から資金を集めて事業を行うのであり、その事業運営は取締役に任されている。そして株式会社の最高意思決定機関は株主総会である。つまり、株主は株主総会において議決に参加することにより、自己の権利を行使し、自分の利益を守ることができるのである。民商法典1176条では「株主は誰でも、いかなる総会にも出席する権利を有する」と規定されている。つまり、株主総会に出席し、議決権を行使するのが第一番目の権利である。ただし、民商法典1184条では、払込が催告されて払込が済んでいない場合、議決権はないと定められているので注意を要する。

 株主が自己の利益を守るとしても他の株主の利益を無視して勝手な行動はゆるされない。そこに株主総会のルールというものがあるのである。以下株主が自己の議決権を行使するためのルールが法的にどうなっているか重要な事項に絞って述べる。ただし、付属定款で法以上に厳しい規則を定めることはできるのである(民商法典1177条)。

(1)株主総会の定足数

 民商法典1178条では「会社資本の4分の1以上を代表する株主が出席しない限り、総会はいかなる議決も行うことはできない」と定め、少数株主による独走に歯止めをかけている。これは最低限であるから付属定款でそれ以上に厳しく半数以上を代表する株主数を定足数とすることも認められている。

(2)議決の方法

 多数決が原則であるが、賛否同数の場合は議長が決定票として追加の1票を持つ(民商法典1193条)。また原則として出席株主の挙手により1名につき1票であるが、挙手の結果が発表される前か、そのときに2名以上の株主による要求があった場合は秘密投票を行い、その場合は11票である。株主1名に1票というのは危険もあるので、付属定款において11票と定めるのが通常である。

(3)特別決議

 以上の(1)、(2)は通常の議題の場合であるが、基本定款、付属定款の変更、増資、増資の場合金銭以外で払込むとき、減資、解散、合併の重要事項については特別決議によらなければならない。特別決議とは総会を14日以上6週間以内の間隔をおいて2回開催、第1回目は投票数の4分の3以上の賛成、第2回目は3分の2以上の賛成で可決する必要がある(民商法典1194条)。

5.株主の株主総会招集権

 株主総会は通常取締役が行うが(民商法典1162条、1172条)、株式総数の5分の1を代表する株主により召集の要求があった場合取締役は臨時総会を招集しなければならず(民商法典1173条)、要求の日から30日以内に召集されない場合、5分の1を代表する株主によって召集することができる(民商法典1174条)。

6.株主の株主総会、取締役会議議事録の閲覧権

 株主総会は定足数があるので全部の株主が出席するわけではない。また、取締役会議も株主が参加するものではない。しかし、いずれもどのような会議が行われたかは株主にとっては重要な事項であるので、民商法典1207条において、株主は、会社の執務時間中に議事録を閲覧する権利があると定めている。

7.株主の取締役に対する賠償請求権

 取締役が会社に対して損害をこうむらせた場合、会社はその取締役に賠償を要求できらが、会社が拒否した場合は、株主は誰でも賠償請求ができることになっている(民商法典1169条)。ただし、取締役の行為が総会で承認されれば、承認した株主と会社に対して責任はないのであるが、承認しなかった株主は総会の日から6ヶ月以内であれば訴訟を提起することができる(民商法典1170条)。

8.株主の検査役任命請求権

 会社の会計は会計監査役が行い、会計監査役は株主総会において選任されるが(民商法典1209条)、そのほかに、取締役に重大な疑義が生じたなどの場合、株式総数の5分の1以上を代表する株主は、商務大臣に対して1名以上の検査役を選任するように請求することができる(民商法典1215条)。

 この検査役は取締役、従業員、代理人が保管する全ての帳簿を検査し(民商法典1216条)、商務大臣の指示により報告書を作成し、本店と要求した株主に送付しなければならない(民商法典1217条)。

(おわり、次回は「タイの労働組合の概要と経営者が留意すべき点」についてお送りします。)