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小切手にまつわる問題

 元田時男

 

はじめに
  小切手は会社の責任者は毎日のように接するもので、一日に何十枚と署名する日本人も多いことと思われる。署名した小切手が何事もなく相手に支払われ、受取った小切手が全て無事に現金化されていると、つい油断をしてしまうこととなる。何十万バーツ単位の小切手に事故が起こると大変なことになるのはいうまでもない。そこで今回は、法律的に特に注意すべきことを紹介して、読者の参考にしたい。
  小切手とは何かなどは今更説明するまでもない、振出人が銀行にあてて、受取人に対して一定金額の支払いを委託する有価証券である。そのためには銀行に当座預金口座を開設し、預金をして、銀行がその預金により小切手の支払いを約束する旨の契約をしておかなければならない。

小切手法の世界的統一

 小切手は世界的にも流通するものであるから、それが小切手としての役目を果たすためにどのような形式にするかは、世界共通のものとなっている。タイの小切手用紙はタイ語と英語の両方で印刷されているので、タイ語の読めない日本人でも容易に理解できる。また、法律的な問題を世界的に統一するために、1931 年(昭和6年)に小切手法統一条約というものが締結され、日本は当初からの署名国になっている。また、日本ではこの条約に沿って1933 年(昭和8年)に「小切手法」が制定されている。それにより、小切手としての役割を果たすためには小切手にどのような事項をどのように記載するかも統一されている。
 タイの場合は、民商法典の987 条から1005 条までに規定があり、日本の小切手法とほぼ同様のことが定められているがタイ特有の規定もある。従って日本の小切手に慣れている者でも、タイ特有の問題については理解しておかなければならない。

小切手の種類

 理論的には色々な種類分けができるが、実務的に知っておかねばならないことは、「持参人払い」と「記名式」であろう。持参人払いは、振出人は特定の宛先を記入していないので、その小切手を所持している者に銀行は支払うことになる。ここで注意しなければならないのは、支払い先の会社の集金人にうっかり持参人払いの小切手を振出すと、集金人に悪意があれば、自分で支払いを受けて会社に入金しない恐れがある。従って、支払いは全て記名式として、支払い先の会社名を記入しておくことが肝要となる。タイの場合、小切手の左肩に英語ではPay と印刷された部分があるので、その横に支払い先の会社名を記入しておけば記名式となり、何も記入しなければ持参人払いとなる。ただし、Pay の後に空白があり、
一番最後にor bearer(持参人)と印刷してある小切手がある。その場合、銀行の支払い先は、記名された会社または持参人となるので、完全な記名式とするためにはor bearerを線で抹消しておくことが必要となる。
もう一つ重要なことは線引小切手とそうでないものである。線引小切手とは小切手の左肩に斜めに2本の平行線を記入したもので、線の間に何も記入しないか、& CO とかPayee’s Account Only とか記入してある。線引きの場合は受取人の銀行口座へ入金され、そのまま現金で支払われることはないので、小切手を紛失した場合、悪意の受取人を探し易いということがある。従って、銀行から小切手帳を貰ったら、使う前に全部に線引きをしておくことも肝要である。こうしておけば小切手帳そのものを紛失した場合でも受取人の特定がし易いことになる。
 2本の平行線の間に特定の銀行名を記入したものは、前述のものを一般線引と称するのに対して特定線引と称され、支払いを要求された銀行は特定された銀行に限って支払いに応ずることになっている。受取人はその特定された銀行を通して自己の口座で受取ることになる。本欄の内容は日本もタイも同様である。
 

小切手の呈示期間

 小切手は一定期間内に銀行(支払人)に対して支払いを要求すること(呈示)が求められている。日本の場合は、日本国内で振出されたものであれば、振出日から10 日以内となっている。ただし、10 日を超えると不渡りになった場合に遡及権(振出人または裏書人に対する請求権)がなくなるというだけで、振出人から支払委託の取消しを受けない限り銀行は支払いをすることができる。
 タイの場合は、呈示期間は、民商法典990条により、振出地と支払地が同一県の場合は振出日から1ヶ月以内、異なる県の場合は3ヶ月以内となっており日本より随分と期間が長い。現在のように銀行のネットワークが整備されていなかった時代の名残であろう。この期間を超えると日本と同様、遡及権がなくなるが、銀行は支払うに充分な預金があり、振出日から6ヶ月を経過していない、小切手の紛失、盗難届がない限り支払いに応じなければならない(民商法典991条)。つまり振出日から6ヶ月を経過すると銀行は支払いに応じないことができるのである。また、支払委託の取消しがあった場合、振出人の死亡を知った場合、裁判所が資産の仮処分、破産宣告または同様の宣告を行ったことを知った場合、銀行の支払義務は終了することになっている(民商法典992 条)。日本ではタイと異なり振出人の死亡、能力喪失については、小切手法33条において、振出し後にこのような事態になっても小切手の効力に影響がないと定められている。ここはタイと日本では異なるので、振出人の死亡、破産などについては特に注意を払う必要がある。要は小切手を受取ったら即座に呈示、現金化することが大事ということである。それから、重要なこととして先日付小切手の問題がある。先日付とは、振出日を1ヶ月先とか将来の日付にすることである。日本の場合は、小切手は「一覧払い」という小切手の原則から小切手法28条において、一覧払に反する記載はできないことと、振出日として記載された日の前に呈示された小切手も銀行に支払い義務があることが定められている。
  タイの場合は日本と異なり、民商法典に明確な規定はないが、慣習的に日付前には支払わないことになっており、最高裁の判例もそれを支持している(例えば最高裁判決2765/2522)。従って、約束手形のような役割を持たせることができるのである。

不渡小切手

 小切手を銀行に呈示しても支払いに十分な預金がなければ不渡りとなる。タイ語ではチェック・デーングと呼ばれている。日本では手形も小切手も6ヶ月以内に2度不渡りを出した振出人または引受人(最終支払い義務者)は手形交換所規則により2年間銀行取引停止という処分が行われることになっている。
これは法律ではなく交換所の規則によるもので参加銀行を拘束するだけであるが、銀行からの資金に大きく頼っている日本の場合、取引停止となれば事実上倒産ということになる厳しい制裁である。また、それにより手形、小切手が安全な決済手段として広く使用されているのである。
  一方、タイには日本のような取引停止処分という規則はないが、別に「1991 年小切手の使用違反に関する法律(1954 年法を改訂したもの)」という法律があり、その4条において不渡りを出した者は6万バーツ以下の罰金もしくは1年以下の懲役、または両方が科されると規定されている。ただし、5条において和解することが可能となっているので、いわば親告罪である。また、身柄を警察等に拘束された場合、不渡り金額の3分の1を超えない額の保釈金を積めば保釈される規定となっている(6条)。いずれにしても刑事罰を科されるのであるから、小切手の振出には当座預金の金額、つまり資金繰りをよく確かめて振出すことが重要となってくる。

金額の記入方法

金額は改ざんを防ぐために通常文字で金額を記入し、更に下の方に数字で金額を記入するようになっているが、これはよく間違いを起こすので、署名者は文字と数字が一致しているかよく確かめなければならない。日本の場合は小切手法9条において、一致しない場合は文字による金額を正しいものとする規定となっている。タイの場合も民商法典総則12条で一般的に文字の方が正しいとすることが規定されており、小切手の実務においてもそのように解されているので、注意したい。