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労働者委員会とは何か、その目的と使用者の注意事項


執筆 元田時男


 

労働者委員会の目的

 タイの「1975年労働関係法」は主として労使紛争の解決ルールと労働組合(サハパープ・レンガーン)に関する規定であるが、そのほかに一般には見過ごされているが労働者委員会(カナガマガーン・ルークジャーング)というものがある。労働関係法の第45条から第53条までにその規定がある。労働組合がある企業は多いが、この労働者委員会がある企業はまだ少ないと思われる。これが結成されると労働組合の目的とオーバーラップするところもあり、かつ労働組合とは別の扱いをしなければならないので、注意が必要である。また、日本にはない制度であるので、今回は、労働者委員会について説明することとする。
 その目的については第50 条で、使用者側と以下のことについて協議することになっている。また、同じ第50 条で、使用者は最低3ヶ月に1 回労働者委員会を開催しなければならず、また、以下の目的で労働者委員会委員の過半数または労働組合から要求があれば開催しなければならないと、使用者の義務を課しているのである。
(1)労働者の福利厚生
(2)労使双方にとって有益となる服務規程を定めること
(3)労働者の苦情の検討
(4)事業所における協調、紛争の解決
 また、同じ第50 条の第2 項において、使用者の行為が不公正または労働者に対して過酷なものであると労働者委員会が判断した場合、労働者委員会、労働者、労働組合は労働裁判所に対して裁定を求めて提訴する権利があると定めている。
 以上の目的をみると、同じ労働関係法の第98 条にある労働組合の目的とかなり重なっている。また、労働者保護法の第97 条にある事業所内の福祉委員会の目的とも重なる部分があるのである。
 ただし、労働組合が基本的には使用者側と敵対関係にあり、その要求を貫徹するのにストライキという強行手段があるというのに比べて、労働者委員会は労使が協調して労働条件について協議するという違いがあるということができよう。また、労働者委員会はドイツのWorks Council の制度を取り入れたという指摘がある(岡本邦宏著、1995年ジェトロ発行「タイの労働問題」207頁)。似たような制度はヨーロッパにはかなり普及している。ヨーロッパの労働運動は産業革命の発祥の地でもあり、歴史が古い(Works Councilはドイツでは第1次世界大戦中に最初の法制化が行われている)。また、ヨーロッパには労使協調のほかにも労働者の経営参加という制度も歴史は古い(ドイツの「1976 年共同決定法」は労働者代表の監査役会への参加を定めているが、そのルーツは1951 年に遡るといわれている)。そこの制度を工業化も労働運動の歴史も浅いタイへ移植しても、その運用が本来の意図に従って行えるかどうかは疑問もある。しかし、タイの企業において結成されれば使用者も、労使協調という、この法の理念はよく理解して法に基づき対応して行くことが求められているのである。


 


労働者委員会の結成と組織

労働関係法の第45条では、50人以上の労働者が働く事業所において結成することができると定められている。
 同じ第45条の2項によれば事業所の全労働者数の5分の1を超えた労働者が労働組合員である場合は、労働者委員会の委員は非組合員からなる委員より労働組合が任命した委員の方が1 名以上多くなければならない。さらに、全労働者数の2 分の1を超える労働者が労働組合員である場合は、労働組合が労働者委員会の全ての委員を任命することができると定められている。
 委員の人数は第46 条により事業所内の労働者の人数に基づき以下のように定められている。
50 人以上、100 人以下の事業所では5 人
100 人を超え、200 人以下は7 人
200 人を超え、400 人以下は9 人
400 人を超え、800 人以下は11 人
800 人を超え、1,500 人以下は13 人
1,500 人を超え、2,500 人以下は15 人
2,500 人を超える場合は17 人から20 人
 委員の選出法は1975 年5 月16 日付内務省労働局長の通達で定められている(労働関係法は1975 年の法律で、1994 年までは労働行政は内務省労働局で行われていた)が、事業所内の労働者が委員の選挙を希望するときは、労働者10名以上が署名して所管の労働調停官に選挙日の15日以前に通知しなければならない。選挙委員会は選挙の日時、場所、立候補受付期間を定めて、使用者または労働調停官へ通知しなければならない。使用者が通知を受けたときは、選挙の内容を選挙の10 日以前に事業所で公示しなければならない。
 労働者委員会は労働組合と異なり、登録をして法人格を有するという規定はない。
 委員の任期は3 年で、再選は可能となっている(第47 条)。
 委員は以下の場合に退任となる(第48 条)。
(1)死亡
(2)辞職
(3)禁治産者、準禁治産者となったとき
(4)最終判決により懲役刑に処せられたとき
(5)事業所の全労働者の2 分の1を超える労働者から解任決議を受けたとき
(6)労働裁判所の命令により解任されたとき
(7)委員全員が選出されたとき


 


使用者、委員の義務、禁止事項

(1)使用者は前述の通り3ヶ月に1 回、委員会を開催し、前述の目的に関する事項を協議しなければならない。これを順守しない使用者は第143 条により1ヶ月以下の懲役か、1 千バーツ以下の罰金、または両方に処せられる規定となっているので注意を要する。
(2)使用者は、労働裁判所の許可がない限り、委員を解雇、減給、懲戒を行ったり、委員活動を妨害してはならない(第52 条)。これに違反した使用者は上記(1)と同じ罰則がある。
 労働組合については、組合活動の妨害、組合員であることを理由に解雇することは不当労働行為として禁じられているのである(第121 条)が、労働者委員会の委員は、いかなる場合も労働裁判所の許可なくしては解雇できないということには充分注意すべきである。
(3)労働者委員会、委員が国民の安寧秩序に反する行為を行い、また正当な理由がなく使用者の業務秘密を漏洩した場合、使用者は労働裁判所に対して当該委員の解任、労働者委員会の解散を求めて提訴することができる(第51 条)。
 国民の安寧秩序に反する行為とは具体的にどういう行為であるか条文だけでは判然としないが、業務秘密の漏洩とは、労使が緊密に強調して話し合うので、委員は業務秘密も知りえる立場にあるということからの配慮であろう。このことについては目的は異なるが、タイにも日本の「不正競争防止法」の改正と同じようにWTOの協定により「営業秘密法」が2002 年に制定されており、企業が秘密にしていることにより営業価値があるノウハウなどの秘密を漏洩した場合、民事上の損害賠償責任と刑事責任を問われることになっているので、委員は2 重に秘密を守る義務が課されているということができよう。
(4)使用者は委員に対して、労働の対価以外の金銭、財貨を与えることは禁止されている(第53 条)。
これは労働組合に対するものと同様の配慮に基づくものであり(128条)、これに違反すれば、上記(1)と同様の罰則となっている。