≪丘の天辺の黒豹≫

僕は丘のてっぺんに住んでいるから、僕のとりあえずの寝床からは船が行き交う港や、どれもすごく細長いキラキラ光るビルたちや、その間に唐突に存在する不自然な大きな森が一望できる。僕はその唐突で不自然な大きな森の天辺にいて、毎日その行き交う船やキラキラ光るビルや縞模様の空を眺めてのんびりくらしている。

僕の散歩コースはいつだって決まっている上にとても短いから、一日に何度も何度もおんなじコースをぐるぐるぐるぐる回るんだ。小さな池には石の囲いがあってさ、その囲いの上を上手に歩いて、小さなソテツの木まで歩く。そしてそこでおしっこをする。まぁ、その小さなソテツはさ、僕にとっちゃトイレなんだ。ソテツはソテツでけっこう僕のことを気に入ってると思うなぁ。なんとなくだけれど、そう思う。

ソテツの前を過ぎると小さな小さな洞窟があって、僕はその洞窟を通り抜ける。その小さな小さな洞窟の上が僕の寝床なんだけど、1周しただけじゃ物足りないよね?それで僕は一日に何度もぐるぐるぐるぐる回るんだ。

その日もね、僕はぐるぐるぐるぐるしましま模様の空の下をたいくつしながら歩いてたらね、とても背の高い女性がじっと僕を見つめてるんだ。その人はとても深い秋の紅葉みたいな赤の服を着ていて、ものすごくじっと僕を見るんだ。僕だって恥ずかしいさ、ましてやソテツは彼女からとても近いところにあったんだもの。

その日から、彼女は毎日やってきて、ソテツのそばのベンチに座って、僕や空や地面の石なんかを見つめてた。僕は不思議に思ったよ。そりゃ、僕は黒豹だし、彼女が黒豹を見るのが好きってのはおかしなことじゃないけどね。


その日は朝から憂鬱な雨が降っててさ、港を行き交う船もぼんやりとしか見えなかったし、縞々の空もなんだか落ちてきそうな感じのする色だった。いつもとおんなじ時間に彼女はやってきた。その日の彼女の服は、とても濃い紺のベロアのワンピースだったんだけど、その重苦しい空からわずかに染み出ている太陽の光に反射して、生地にプリントされたカシミール地方の模様が見え隠れしていた。一見、ただの濃紺のワンピースなんだけどね。

その日、彼女はベンチには腰掛けなかった。そりゃそうさ、ベンチは雨でびしょぬれだもの。彼女は傘さえ持ってなかったんだ。 その日、彼女は僕に話し掛けてきたんだ。
「ねぇ、あなたは縞々じゃない空を知ってるの?」ってね。
僕はめんどくさそうに首をもたげて見せた。
「ねぇ、何もすべきことがないって寂しいよね。でもね、期待されてすべきことが見つからないっていうのは、もっとハードなのよ。」

なんだか訳がわからなかったけど、僕はなんとなしに縞々の格子ぎりぎりまで近寄ってみたんだ。そしたら彼女はこう言った。


「ねぇ、あんたってちゃんと模様があるのね。黒ひょうって真っ黒だと思ってたわ。見えないけどちゃんとあるのね、ひょうの模様。」

「ねぇ、きっとあたしにもあるのよね。...模様。...しましまじゃないアタシの模様...。」

彼女はその日を最後にここへはこなかったよ。

その日からね、僕はたまに不安になるんだ。僕の模様が縞々になっちゃう気がしてさ。


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