≪香港野良猫 ≫


僕がこの騒がしい食堂の油まみれの裏路地で生まれてから、2年が経つ。ろくなものを出していない食堂のくせにとても賑わっているのは、質より量に重点を置いたメニューのせいだと僕は思う。そんなわけで毎日の大量な食べ残しで僕は食べ物に困らない。ちょっと油っぽいものが多いんだけどね。

 毎日、いろんな脚が僕の前を忙しそうに通り過ぎる。この暑いのに長ズボンをはいて、重たそうな鞄を引きずるように歩いている人や、つるつるの細い脚にとてもセンスのいいミュールをはいてる女の子の脚や、杖を突いたおばあちゃんの頼りない脚や、ソックスにローファーをはいた学生の脚や、脚を怪我していて働けないから洗面器にお金を入れてくれるように頼んでるおじさんの一本しかない脚や、でっかいショッピングバックをぶら下げたジーンズ姿の観光客やなんかだけど。暑さにやられてよだれをだらだらたらしながら歩く僕の大嫌いな野良犬の憎たらしい足や、最近太りすぎて悩んでる僕の友達の野良猫の足もね。

 そういえば、僕らは法律ってのに守られてるらしいんだな。僕らって、あの大嫌いな野良犬とぼくら野良猫のことだけど。そんなことしなくたって僕らはかってに生きてるのにね。その法律ってやつについて、いくつかの脚が僕の前に立ち止まってこういうんだ。

「香港には"犬と猫は食べてはならない"という法律があって、ここではこの子達は守られてるのよ。」

 僕の周りをいつもうろちょろしてるねずみやなんかは、法律なんかに守られなくたってだれも食べやしないのにさ。 あ、でも、この間、僕が前から狙ってた鳩が食べられちゃったって話を聞いたなぁ。

 ある日、食堂のおやじが店にいたねずみを見て、こう言うんだ。「食わしてやってるんだから、ねずみぐらい捕まえて、ちっとは役に立てや!」 ってね。

 人間ってのはね、「何かをしてやってる」って思いたい動物なんだね。食べさせてやってるとか、遊んでやってるとか、つきあってやってるとか、守ってやってるとかさ。 僕にはさっぱりわからないんだ。法律ってのはいいさ。ルールがないと僕らの世界だって混乱するからね。

 ただね、僕はただ生きてるのさ。僕の意思で、僕の身体でさ。生かされてるなんて思いたくないね。寂しい気がするじゃないか。ねぇ、わかるかい?僕は生きようとしてるんだよ。

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