≪ 平凡な九官鳥の話 ≫

いとこの家で飼われていた九官鳥は名前が「キューちゃん」だった。なんの工夫もない、 まったく平凡な名前だった。でも、キューちゃん自体だってその名前が平凡すぎるだなん て、大きな口をたたくほどのこともない平凡な九官鳥だった。 平凡なキューちゃんが一番始めに覚えたのは、これまた平凡な「キューちゃん!」という 呼びかけの声だった。「こんにちは」「おはよう」、そして、「ごめんくださ〜〜い」、 キューちゃんはごく平凡なペースでごく平凡な単語を覚えていった。 「キューちゃん、おはようじゃない、夜はこんばんわ!」といとこのかおちゃんが教える と、キューちゃんは、「おはようじゃない」か「夜はこんばんわ」と言った。間違っては ない。すごく遠回りないい方だけど…… それからキューちゃんはなぜか同じことを二度繰り返して言った。「夜はこんばんわ…夜 はこんばんわ」…ずっと聞いていると、人間がキューちゃんに教えてるのか、キューちゃ んが人間に教えてるのか分からなくなるようなことさえあった。「夜はこんばんわ、夜は こんばんわ…違うよ…違うよ…夜はこんばんわ、夜はこんばんわ」 「バーカ、バーカ」キューちゃんは悪気もなくそんな事を言う。でも「ママ〜〜!ママ〜 〜!」って大きな声で言うとママが来てくれることは知っている。だけど残念なことに、 「タマ〜、タマ〜〜、こっちおいで!」をいうと天敵のとらネコのタマがやってきてしま うことは知らない。タマはわがままで気位の高いネコだから、呼ばれてからすぐに出向い たりはしないのだ。「タマ〜、タマ〜〜、こっちおいで! こっちおいで!」とキューちゃ んがしゃべり、さらに「夜はこんばんわ、夜はこんばんわ」「ママ〜〜!ママ〜!」「おは よう!おはよう!」「か〜お〜ちゃ〜ん、あ〜そ〜ぼ〜!」っていうHAMIの声を真似 たあたりで、やっとタマがやってくる。だからキューちゃんは、いつになっても大嫌いな タマを呼び続けることになってしまうのだ。そしてキューちゃんは言う。「バーカ、バー カ…」「タマご飯だよ!タマご飯だよ!」「バーカ、バーカ」…… キューちゃんは、ある日突然、もらわれていってしまった。あんなに良くしゃべる九官鳥 を誰がもらっていったんだろう。日本中にはタマがいっぱいいるから、出来ればタマ密度 の少ない地域で元気にしててくれればいいなぁ…っと思う。 「夜はこんばんわ、夜はこんばんわ」…「タマご飯だよ!タマご飯だよ!」…「キューち ゃんはいいねぇ、キューちゃんはいいねぇ…」

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