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だびでとごりあて【ダビデとゴリアテ】

ダビデがゴリアテを倒したことは やたら有名だけど
現実世界のゴリアテがダビデにやられちまうことなんか
万にひとつもないよなあ・・・

米国が「テロ国家」と断定した勢力に攻撃をかけるところとか
イスラエル軍に蹴ちらされるバレスティナ人などなどを
TVの報道映像で見慣れてしまうと
ため息まじりにそんなことを考えてしまう

「ダビデとゴリアテ」ということばはほんとに知名度が高いが
具体的にダビデがゴリアテになにをしたのかを知っているひとは
(個人的な調査によると)案外少ないようだ

ダビデが古代イスラエル王国の王だったことぐらいは知ってますね?

じつは「ダビデとゴリアテ」のくだりというのは
ダビデの「デビュー戦」にまつわる物語なんである
旧約聖書『サムエル記上』17章からストーリーがはじまる


西暦紀元前1010年ごろ
イスラエルは
初代王サウルをいただいて部族共和制から王制に移行する

その当時
イスラエル王国の南西地域にはペリシテと呼ばれる異民族がいて
軍事都市国家を形成していた

ペリシテは規模的には小さな国だったのだが
進んだ鉄器を背景にした強力な軍備を誇り
イスラエルへの国境侵犯行為をたびたび繰り返しては
慢性的な政治不安定を抱えていたイスラエルにとって
最大の頭痛のタネになっていた

あるとき
イスラエル領内のユダにまたまたペリシテが侵入してきて
サウル率いる討伐部隊がこれを迎撃しに出陣する
(ちなみにこのころのイスラエル軍というのは
 正規軍ではなくて民兵の寄せ集めだった)

ペリシテの侵攻部隊とイスラエルの討伐部隊
両者が谷をはさんでにらみ合うという展開になる

侵入先で現地軍に遭遇して
一歩も引かずににらみ合いモードに入るってことは
ペリシテ軍は現地側兵力をかなりバカにしているようだ

案の定というべきだろう
イスラエル軍がペリシテ軍に突撃をかけようとしたまさにそのとき
ペリシテ陣営からひとりの巨漢戦士が谷底に下りてきて
イスラエル軍に対して一騎打ちを呼びかけたのである

こいつがペリシテ軍随一の猛者『ガテのゴリアテ』
(ペリシテ語ではゴリアテは“Alwat”だった・・・らしいぞ)

身長が3m近くて
40kgもの青銅の鎧を苦もなく着こなしてるってんだから
人間というよりモンスターだね
持ってる剣は後進国イスラエルでは想像するのも難しいほどの
つくりが立派ででっかい逸品だし・・・

民兵ばかりのイスラエル軍に
こんな化物の挑戦に応じられるやつなんているわきゃない
すっかり士気をくじかれてしまったイスラエル兵たちは
将校たちに どう叱咤激励されても
ペリシテ陣営に突撃をかける胆力が湧いてこなくなってしまった

・・・相手が戦争のどしろ〜とばかりだと見てとって
心理戦だけで圧倒できると考えたペリシテ側の策略が
まんまと当たった図式だね

ペリシテ軍の背後には占領下にあるイスラエル国民がいるわけで
略奪行為を受けつづけているはずなのだが
・・・戦線は完全に膠着
この状態で なんと40日間もにらみ合ったままになるのである

その40日のあいだ
朝な夕なにゴリアテが谷底にあらわれては
イスラエル軍をあざ笑う挑戦をしつづけていた

さ〜て ここで主役の登場

ユダのベツレヘム近郊に住む羊飼いエッサイの子ダビデは
サウルの召集に応じてペリシテ討伐軍に加わっている兄たちに代わり
ひとりで羊たちの面倒をみていた

戦線が膠着して出征が長引いているので
兄たちの糧食がつきかけているのではないかと心配した老エッサイは
ダビデに前線への食料の差し入れを命じる
(イスラエル軍てば みんな民兵だから手弁当なんである)

パンやら子ヤギやらワインやらの差し入れをかついだダビデが
前線の兄たちのもとに到着したちょうどそのとき
イスラエル軍がペリシテ軍に突撃をかけようとしては
ゴリアテの挑戦に足止めされるという「いつものあれ」に遭遇した

「神軍たるイスラエルにああいうふざけた挑戦をするやつを
 なぜ だれもたたき伏せてやらないんです?」

田舎者で純朴なダビデくん遠慮なく大声でそんなこというてしまう

それを聞きつけた兄たちが
「おまえ こどものくせに大人の話に口出すんじゃねっ!」
そう言って叱りつけるが ダビデくんも引きません

兄弟げんかがどんどんヒートアップ
まわりの兵まで巻き込んだ大論争になって
とうとうサウル王の耳にまで
「おかしな小僧がおかしなことを言ってます」
なんてうわさが達いて
ダビデは「不穏分子」としてサウルの前に突き出されてしまう

サウルはただの羊飼いのガキでしかないダビデを見て
「いやぁ 君もそのうちわかるとは思うけど・・・」
などと言ってなだめようとしてくれるんだが
なんとダビデくん・・・まだ引かない

「だれもあのバカを懲らしめに行かないなら
 おいらが いっちょひっぱたいてきてやります
 おいらは弱小のユダ族出身だけど 心底イスラエルです
 神が真のイスラエルを負けさせることなんてないですからね」

眼がらんらんと輝いている

「おいおい 君はただのこどもでしかない
 相手は一目見てわかるほどの巨人ってだけじゃないんだ
 ただのこどものころから戦士だったやつなんだ
 自殺したいなら他にも方法はあるぞ」

サウルはさらにいさめるがダビデの決意は揺るがない
なにがなんでもゴリアテの一騎打ち要求に応じると主張して
(あろうことか)王を突っぱねる

サウルも預言者に油注がれた者
ここで「なにか」を感じ取ったらしい

「よし そこまで言うなら もう止めない
 だが せめて武装ぐらいはしないといかんぞ」

貧弱なイスラエル軍では
完全装備の甲冑を身に着けているのはサウル自身だけだった
自らの鎧かぶとを脱いでダビデに着せて
後進国家イスラエルが持っている最高水準の剣を腰につけてやる

ところがダビデ
甲冑と剣の重さに耐えかねてふらついてしまっている

「ありがとうございます王様
 だけど おいらにはそういうのは無理みたいです」

甲冑も剣もはずして
到着したときの羊飼いの装束のまま
愛用の牧羊杖を手に
すたすたとゴリアテの待つ谷底に降りていった

ペリシテ陣営から湧き上がる大笑いとブーイング
ダビデ 表情も変えずにゴリアテと適当な距離を保って対峙

ゴリアテが
「ほほぉ その杖で野犬でも追っ払おうってのか?
 オレが犬に見えるようじゃあ おまえはかなり目が悪いぞ
 おまえ自身を犬のエサにしてやろうじゃねえかっ!!」
いかにも敵役らしい捨てゼリフとともに突進してくる

クライマックスは『口語訳聖書』による原文でどうぞ・・・

 ダビデは手を袋に入れて、その中から一つの石を取り、
 石投げで投げて、ペリシテびとの額を撃ったので、
 石はその額に突き入り、うつむきに地に倒れた。

 こうしてダビデは石投げと石をもってペリシテびとに勝ち、
 ペリシテびとを撃って、これを殺した。

 ダビデの手につるぎがなかったので、
 ダビデは走りよってペリシテびとの上に乗り、
 そのつるぎを取って、さやから抜きはなし、
 それをもって彼を殺し、その首をはねた。

 ペリシテの人々は、その勇士が死んだのを見て逃げた。

 イスラエルとユダの人々は立ちあがり、
 ときをあげて、ペリシテびとを追撃し、
 ガテおよびエクロンの門にまで及んだ。

3000年後まで名前がとどろいているだけあって
ダビデくん さすがに堂々たるデビューを飾ってる

この大戦果を皮きりに
ダビデはつぎつぎと戦功を重ねていくことになる
やがて戦場に散ってしまうサウルの跡目を継いで
とうとう第三代イスラエル王の座にまで登りつめる


 《図版》 ⇒ 

さてさて
ダビデがその治世中に旧約聖書本文に加筆させたらしいことは
聖書学では常識になっている

羊飼いの少年ダビデが
いきなり戦場でサウルに目通りするというバージョン以外に
ノイローゼ気味だったサウルの「癒し手」として
竪琴弾きとして宮廷に雇われていたという記述も
『サムエル記上』にべつに存在するのである

おそらくそちらのほうが歴史上の事実なのだろう
いくらなんでもドラマチックすぎるよね・・・このデビュー話

ダビデの強権に屈して聖書本文に加筆した編纂者も
(これはたぶん いのちがけだったと推測されるが)
もともとの文章を削除することは断固として拒否したようだ

こういう政治がらみの加筆・改竄なんてものが
『聖書』というものの全篇に満ち満ちているために
重複や平行して互いに矛盾するというストーリーがいろいろある

これが『聖書』というものを
難解でとっつきにくくさせている最大の悪因なのではあるが
同時に 読むものの推理意欲や無責任な想像を掻きたてて
読む楽しみの源にもなっている

なにしろゴリアテってば
旧約聖書中「二度」も殺されているのである

 ここにまたゴブで、ペリシテびととの戦いがあったが、
 そこではベツレヘムびとヤレオレギムの子エルハナンは、
 ガテびとゴリアテを殺した。
 そのやりの柄は機の巻棒のようであった。

サムエル記下 / 21章 19節

ゴリアテがふたりいたんだろうか?

ベツレヘム出身のエルハナンという名前の兵士は
『サムエル記下』から『歴代誌上』にかけて 都合4回出てくる

どうやらほんもののイスラエル軍の勇者だったようだ

ダビデが「同郷の英雄」の手柄を
ちゃっかり自分のものにしちゃったというのが真相らしいぞ

・・・しかも これだけじゃないんである

 ここにまたペリシテびとと戦いがあったが、
 ヤイルの子エルハナンはガテびとゴリアテの兄弟ラミを殺した。
 そのやりの柄は機の巻棒のようであった。

歴代志上 / 20章 5節

なんだろか? この唐突に出てくるゴリアテの兄弟ってのは・・・

どれがほんとに実在した『ガテのゴリアテ』なんだろうって?

そりゃ あなた
いちばん人間ばなれしていないのが本物に決まってますがな