ホワイトハウスで職質を。

巷には
かわいい子には旅をさせろ。
なんていう、10代のすねかじりバックパッカーには
しごく都合の良い言葉がある。

ある意味では真実であり、
ある意味では大きな間違いだ。

”かわいい子”は、その若さがゆえに、時に自らを途方もなく無茶な行動に駆り立てるからだ。

5年前の夏。
少年はホワイトハウスの前に立っていた。
よく、ニュースステーションなんかで
久米さんが”ワシントンの高木さん”とか呼ぶと
”はい、こちらワシントンです。”
とかゆって、
めがねのおっちゃんが、背後にホワイトハウスの姿を映し込みながら中継をしている、
あの場所だ。

鉄格子の柵の向こうに見えるビル・クリントンの住居。
そして周囲には白い歯を見せながら行儀よく記念写真に収まっている人の群れ。

”そんな写真撮っても、すごくねーじゃん”
いったい何がすごくて、なにがすごくないのかという話は置いといて、
とにかく、若さとはそういうものである。
そう感じてしまうのが10代というものなのだ。(たぶん)

”ホワイトハウスをバックにして記念写真を撮るのはすごくない。”
じゃあ、なにをしたらすごいのか。
答えは少年にとってあまりにも明確だった。

少年の手はためらうこともなく、ビル・クリントンの住居の鉄柵に伸びた。
そしてその身体的作業の次の過程として、少年の足は鉄柵の支柱を登り始める。
体が鉄柵を乗り越えかけた時、彼は友人に叫んだ。
”今やで今!! 撮れ撮れ!!”


”っぴーーーー!!!!!”
彼の声を無惨にかき消したホイッスルの音。
そして、彼は周囲から血相を変えて走ってくるポリスマン達の姿を見た。

その後の事を、彼はあまりよく覚えていない。
覚えているのは
自分の足が、自分の足でないようにガタガタと震えていた事と、
”逮捕歴はあるのか?”と聞かれた事と、
パスポートの提示を求められ、
なぜか、見せたら面倒な事になるとかたくなに信じ込み
車の中に置いてきたと言ったら、
じゃあ、お前の車まで連れていけと言われどうしようもなくなり、
実はここにあるんです。うへへ。とばつの悪そうな笑みを見せながら
パスポートをかばんの中から引っ張り出した時の
ポリスマンが見せた凄まじい形相の事くらいだ。


最後に”ホワイトハウスから去れ!!”
と言われた少年は、あれ以来、ホワイトハウスには行っていない。

しかし、思っている。
次にホワイトハウスに行ったらまた、写真を撮ろうと。
今度は白い歯を見せ、行儀良く。

でもやっぱり、背後にあの白い建物を映し込みながら。


p.s.写真はそのうちアップ。



01.01.31


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