トラブル

窓の外を見てみても、やはり駅なんぞそこにはなく、
スリランカ・ジャングルのど真ん中だった。

「どうしたんやろな。」

カノジョに笑いかけようとした瞬間、

目の前が白煙に包まれた。


プシュー。


ゴハンが炊き上がるような音とともに、
白いケムリが窓の外から攻め込んでくる。


ん? なにこれ。 どしたらええの?


目の前の家族連れのおっちゃんが血相を変えて自分の荷物と娘を抱え上げている。


退避? これ退避なの?


とりあえず、慌てて僕もバックパックを担ぎ上げた。

列車のドアから身を乗り出した瞬間、
とんでもない風景が僕の前に広がっていた。







だっせん。

脱線事故、だ。

僕らの乗る車両の2両後ろ。
最後尾の車両が、思いっきり不自然に、左へひしゃげている。

こういう予想もつかないことが起きた時の人間心理ってのは、
いやまあほんとに、実に不思議なもので、

僕とラシクは傾いた車両を指差して、
肩を組みながら爆笑していた。

なんなんじゃこりゃ。ありえねーよまじで。

そんな想いと、
いつしか4時間の旅程のハズがとうに3時間ほど過ぎちまっている疲労と、
延々と車窓から降り注ぐ灼熱の太陽とが合わさり絡み合って、
僕らはただ、顔を見合わせてはただ爆笑していた。

焦燥しきったカノジョを尻目に、
ラシクと二人、事故車両へと向かった。

奇跡的なことに、死者どころか負傷者もゼロ。

ただただ、そこに居た皆が笑っていた。
お互いの顔を見合わせては、皆ニヤニヤ笑いあう。

「ヘーイ ジャパニーズ、 ハウ アー ユウ?」
「アイム ファイン サンキュー アンドユー?」

予想もつかないこと。
これからどうしたらよいのかわからないこと。
灼熱の太陽がこの身に降り注ぐこと。

ただもう、笑うしかなかった。



どうしましょ。これ。



05.11.04


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