景色に感動して泣くということ

景色に感動して泣いちゃったりすること。

そんなことは、けっこうあるようで、実はめったにない。
でも、せっかく”旅”に出てきているからには、そんなことしてみたいがな〜
と、全ての旅行者は感じている。(はずである。)

で、9月の北海道は雨だった。
苫小牧に上陸したらいきなり雨。
憧れの富良野、美瑛に行っても雨。
天塩で2日間雨の中に閉じ込められても、翌日はやっぱり雨。
稚内ははやくも、冬になっているみたいで、やっぱり雨。
オホーツク海には流氷こそないけれど、いまにも見えてきそうな寒さでやっぱり雨。
旅のハイライトの一つであるはずの知床横断道路は知床半島どころか前の車も見えない霧雨。


知床岬。てゆうか、これじゃぁなんにも見えませんがな。

ちょっとへこんでいた。
毎日の雨はドラッグスターの車色を黒から茶色に変貌させていた。
主人の僕はといえば、Tシャツ2枚がさねの上に稚内の商店街で寒さに耐え兼ねて買った1000円のスウェット、
そして上下カッパという、
バイカーというのもおこがましい、土木工事のおっちゃんみたいなかっこが日常のスタイルとなりつつあった。

知床半島を南下し、僕はその日のテント場に決めていた
開陽台へと向かった。
”バイカーの聖地” ”330°の地平線”
そんな言葉で語り継がれるそのキャンプ場に泊まることが、僕の北海道での最高のハイライトになる、はずだった。

実際は雨の中のキャンプほど、へこまされるものはない。
食事も満足に作れず、ずぶぬれになりながらの設営、撤収作業。
そしてテントの屋根をたたきつづける雨の音。
まだはじまってもいない、それらの作業は、僕の頭の中で完璧に描き出され、
僕は暗い気持ちのままでバイクを走らせていた。

国後島を横目で見ながら雨の中、バイクをひたすら走らせつづけた。
そして、開陽台へとむかう、国道244号にはいった時、
状況は一変した。



雨がふっとやんだ。
夕闇の澄みきった空気の中、まっすぐ、ただまっすぐ続いている道を走りつづけ、ふと横を見たとき、
僕は思わず叫びともつかない声をあげそうになった。
いつしか、目指す開陽台の空は割れ、幾筋もの太陽の光が厚い雲を抜け、その大地を照らし出していた。
夕闇に隠されていた道を、牧場を、山を、鮮やかに浮かび上がらせる太陽のスポットライト。
不思議な、神々しさをも感じられるような風景が、そこに広がっていた。



景色に感動して、泣いちゃったりすること。
そんなことは、けっこうあるようで、実はめったにない。
僕がそれを体験したのは、後にも先にもあれっきりである。


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