タイタニックとカンボジアの雨 その2 
−アンコールワットへの道−

シソポン。
名も知らない村の名前は、後でそう判明した。

シソポンの食堂は、突然現れたバックパッカーの団体でごった返し
店の主人はのべつまくなしにオーダーされる料理にほくほく顔だった。

カリフラワーの入ったチャーハンとフランスパンにかぶりついた後、
僕らは村のホテルの中で唯一空きがあったホテル、いわゆるラブホテルに泊まった。

ピンクの装飾に彩られた部屋で、泥にまみれた男3人が雑魚寝。
電気がつかないトイレで、マグライトの灯りで用を足しながら、
”カンボジアってすげえなぁ”と、
再び思った。

翌日、雲一つない快晴の下、トラックは走り、
見えてきた橋は黒山の人だかりだった。


道の先には黒山の人だかり。

橋の下に急遽作られたもう一つの橋。
橋と言うより、木材のつなぎあわせと言った方が正確か。
そこを、大きな荷物を抱えた老人が、年端もいかない女の子が、そして日本人が通り、
人々は西を、そして東を目指していく。
”カンボジアってすげえなぁ”
もう一度思った。


左に鉄橋。右に丸太橋。

当然車は通れないので
橋の向こうの、別のピックアップトラックに乗りこむ。

雨は止んだものの、今度は道がものすごい。
昨日の雨の影響もあるのか、
道というより・・・
なんと呼んだら良いのだろうか?

スキー場の上級コースのこぶがありまくるところの傾斜をなくしたようなところ。
それが、目の前のこの”道”?を一番的確に表している。

ラリーでもしてるんじゃないかという勢いで
猛然と目の前のこぶにアタックするトラック。
振り落とされまいと必死に荷台のへりをつかむ。
みるみるうちに、あちこちに擦り傷ができる。
尻が死ぬほど痛く、座っていられない。
座らないと振り落とされそうになる。
その繰り返し。

そして、極めつけは砂埃。
数メートル先が見えない。
黄色の世界。

後で現像した写真をみると、
いまでもおもわず笑ってしまう。
つかれきった僕らの顔、体、服は、白、白、白、白・・・
どんな高価な美白乳液よりも効果があるこの砂埃。

そして、急に道は平坦になり、僕らはシェムリアップに着いた。
12時間の予定はいつしか32時間へと変わっていた。

結局、シェムリアップには3日間滞在した。
連夜繰り広げられる饗宴の合間に、
アンコールワットの地平線に沈んでゆく太陽を2回見た。
夜の饗宴とは打って変わって、
僕も、S君も、そしてまわりのみんなも、
この時ばかりは、誰一人として喋らず、思い思いの場所で
おなじ夕日を眺めた。



3日目の朝、S君ら大部分の日本人はバンコクへの帰途に着き、
そして僕はカンボジアの首都プノンペンへと、
それぞれ出発していった。

”さよなら。いままでありがとうございました。”
照れくさげに、S君はそう言い、
たった四日間、旅を共にしただけなのに、
二人とも、相手の顔をまともに見ることができなかった。
僕の頭の中には”世界ウルルン滞在記”のテーマソングが大音響で鳴り響いているようだった。



00.12.10


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