独身男性もしくは女性に捧げる情景 その2

そして壁に掛かった時計の短針と長針は、きっかりと頂点を指し示した。

12時だ。深夜、12時。

僕はキーボードを叩く手をふと休め、
パソコンの横に鎮座ましますN−502iを横目で眺める。

そしてため息、あるいは舌打ち。

彼女からのメールは、まだ来ない。


ゆっくりと大きな伸びをした後、
右手でN−502iを手繰り寄せる。

もう、何度と無く繰り返された確認。


送信時間 19:43
送信先 N子
送信内容 「今何してんの?」



間違いない。
間違い無く、僕のメールは、
19:43に、N子に対して
最後にクエスチョンマークが付加された内容、すなわち相手の返答をはっきりと求めるカタチで
送付されたのだ。

念のため、もう一度メール問い合わせボタンをクリックし、
そのまま苦笑交じりにアタマを机に突っ伏す。

わかっている。僕はわかっているのだ。
バイブにしている僕の右手のN−502iが、僕の問い合わせに対し、
コトリともその体を動かしてはくれないことを。



ブルブルブル・・・・・・・・・・・・・



がばっ。


思わず椅子から跳ね上がる。


問い合わせ結果:1件。

やれやれ、ほんまに返事遅いって。待ってたんだぜこっちは。焦るじゃんよ。

ひとりごちながらも顔は思わずにやけ、
はやる気持ちでボタンをクリックする。






受信時間 00:03
送信元 Y男
受信内容 「明日例のコと新宿に飲みに行くんだけどさー、潮見良い店知らない?」







・・・・・・北の家族でも行っとけや(涙)



しばらく呆然とした後、
ゆっくりと席を立つ。
先ほどからコポコポとこ気味良い音を立てているコーヒーメーカーに近づき、
茶色の液体をカップに注ぎ込む。

やれやれ、どうも今日は(←つよがり@)彼女からの返信はなさそうだ。
ていうか、別にたいして狙っていたわけでもないし。(←つよがりA)
ていうか、替わりはいくらでもいるんだし。(←つよがりB)

そうして、極めて短時間の内に3つのつよがりを相次いで繰り出した僕の背後で



ブルブルブル・・・・・・・・・・・・・



振り向きざまにNー502iを机から取り上げる。
多分、往年のワイアット・アープを軽々と凌駕したであろう、その早業。


新着メールあり。

やれやれ、どうせ遅くまで友達と飲んでたーてへっ。とか、そんなところやろ。
ええよええよ。こうしてメールくれたんやから、俺はもうなにも文句は言わないよ。






受信時間 00:08
送信元 T男
受信内容 「今連れと飲んでて、すげえアツイ議論になっちゃってんだけどさー、
 カナダの首都ってトロントじゃんなぁ?」






オタワだろ。(滝涙)




・・・・・・・そうして東京の夜はふけていく。




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