今ソコにある自由

旅に疲れていた。
だけど、東京には帰りたくなかった。
日常には戻りたくなかった。

彼女の居ない日常。
夏休み明けのゼミが、怖い教授が迫りくる日常。
夕方モソモソと起きだして、
暮れ行く夕日を眺めながら、ため息交じりに漫然と煙草を吹かす日常。
日々の目的も、先行きに対するなんら確実な夢も持ち得ぬ日常。

だから僕は電話をかけた。
相手はマリン・エキスプレス。
「宮崎」発「川崎」行きのフェリー券を2日間延ばして欲しい旨を告げ、
僕はパチンと携帯をたたむ。

そもそも、彼女の誕生日に間に合う様に帰るつもりだった。
そのために組んだ強行軍だった。
彼女と別れちまった今、
日程の延期を妨げる障害なんて何にも無いのだった。わはは。

しかし電話を切った後の、
この気持ちの静まり様といったらいったいまぁなんとしたことだろう。
旅の日程が2日も延びたというのに、
これで熊本城も、桜島もゆっくり観光できるというのに、
なんの高揚感も感じられぬ僕がいる。

すでに夕暮れ。
日本縦断最後の地、九州へと向かう九四フェリーをぼんやりと待ちながら、
「結局はさ、旅の終わりの延命措置だわな。」
なんてひとりごちてみる。

我ながらうまいことを言ったと思う。
そう。旅の終わりの延命措置だ。

死にかけの、終着点が見えたその命(旅)を、
必死にあがき、延ばし、
延命チューブを体中に刺し、
だけどその残りの生(旅)には、なんの充実感も意味も感じ取れない。

終わりを終わりとしてしっかりと受けとめられず、
ただあがくだけの旅なんて、なんて儚くむなしいコトか。。。

まだ死にたくない。
まだオトナになりたくない。
まだ働きたくない。
まだ日常に戻りたくない。

同じだ。その延命措置の儚さは。

なんて四本目の煙草をアスファルトと靴の間でもみ消した僕の耳に

「お待たせ致しました。本日最終のフェリーがまもなく発車致します。」

フェリーの乗降口に慌ててかけだした。


縦断最後の島へ

ついた九州は既に闇の中。
臼杵から別府へとバイクを走らせながら、
やはり考えるコトは同じだった。

日常。日常。この後に来る日常。
夏休みの間、遅々として全く進んでいない研究。(進むわけが無かった)
家に着いて、部屋を開けると見えるであろう彼女の置いていった化粧品やクッション。
果てしなく続くであろう変わり映えのしない毎日。

いつしか僕の頭は完全に日常に支配されているようだった。
別府ユースの2段ベッドの下、
まわりの旅人の寝息をバックコーラスに、
僕はやはり日常を想って眠れずにいた。
常にアタマの隅にびっちりと隙間無くこびりついている日常。
どうにもやりきれなかった。


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