コンバース・オールスター

先週末。
親父の還暦祝いで殊勝に実家に帰ってみる。
あくまで殊勝に、彼の好きな日本酒(桐箱入り)を携えて。

1泊2日のミニ旅行。
身内以外誰に会うわけでも無し、
服装に気兼ねは要らない。

ドゥニームのジーパンに適当なシャツをひっかけて、
玄関に出て、
靴箱の一番下にふと目が行く。

学生時代、税込3800円で買ったコンバース・オールスター。

そういや最近めっきり履いてないな。。

ひとりごちてみて、しばし考えて、
僕はそいつをひょいと摘み上げた。


第一歩目から感じるこの感覚。
それをさも大げさに表すならば、すなわちこうだ。

「大地を己の足が踏みしめているまごうこと無き感覚。」

湯だったアスファルトを踏みしめ、足がその暑さに火照る感覚。
公園を通り過ぎれば石っころが足をちくちくシゲキする感覚。
階段を駆け下りれば段差のその鋭角が足に食いこむ感覚。

そう。そうだった。
税込3800円のコンバースオールスターはいつもこんな感じだった。

それは決してニューバランスとは違い、
足を上品に包み込みもしない。
大地の衝撃を幾分か和らげることもしない。
雨で湿った道路面に摩擦をかけることもない。

ただその靴は、
衝撃を真っ向から受けとめ、
雨で湿った道路面ではキュッキュッと元気な鳴き声を出し、
ペタンペタンと大地を踏みしめていた。

そう。大学生だった僕がこよなく愛した
税込3800円のコンバースオールスターはいつもこんな感じだった。

東京駅の中の長い長いコンコースを
キュッキュキュッキュ。
リズミカルな音を出しながら歩いた。

歩きながらあの頃の感覚を痛切に思い返していた。

貧乏だった自分。
女のコとのデートでも笑笑や白木屋以外行けなかった自分。
オトコ友達との飲みではさくら水産が定番コースだった自分。
銀座に足を踏み入れた事が無かった、あるいは踏み入れようと考えもしなかった自分。

貧乏だった自分がこよなく愛していたこの靴。
ザンパチのコンバースオールスター。

例えばこのザンパチのオールスターを履き潰した後にやってくる、
雨の日に足の裏からじわあっと水が染み込んでくるあのいやあな感覚ってのは
今後のわが人生において多分味わう事の無い感覚なんだろうな。

そう思うとなぜかちょいとブルーな気分になったりして、
僕は普段革靴で闊歩している東京駅のコンコースをペタンコペタンコ歩いていたのだった。



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