そんなSのお話。

Sはもんのすごく、ルーズだ。

ホワイトハウスで職務質問を。に登場してもらった、我が親友の、Sのことである。
(実は他にもいろいろ登場してるけど)

いや、ルーズさにかけては、僕とていっぱしの自信は、有る。
んが、そんな僕のルーズさを軽々と凌駕する唯一無二のオトコ。
それが、我が親友Sなのであった。


そんなSのお話。


金曜の夜の独身寮の一室。

僕はそこでいそいそと身支度をしていた。
ラッシュガードとスプリングをバック・パックに放り込み、
履きさらしのジーパンに片足を突っ込み、
鏡を見ながらコンタクトをはめる。

片目だけはまったそのコンタクトで携帯の液晶を眺め、そしてそっと舌打ち。

Sからの電話が、まだ来ない。

終電に飛び乗って、大船に有る(らしい)Sの友達、H君の家に到着。
翌日の朝日と共にサーフィング。

そんな予定なのに、
Sからの電話がまだ来ない。
しかも、僕はH君に会った事すら無いというのに。


両目にコンタクトをはめ終えた後、
もう一度舌打ちした僕は、Sの自宅の番号を押した。


「こちらの電話は、お客様のご都合により、ただいま通話ができなくなっております。」


3回目の舌打ち。そして苦笑。
またこれだよ。

はっきりいってSの自宅の電話は、繋がっている時より、
「お客様のご都合により通話ができなく」なっている時の方が明らかに多い。

そんなことは今更、百も承知なのだけれど、
それでもこんな慌てている時に「通話ができなく」なっていると、
そりゃぁ舌打ちの2回も3回もしたくなるものなのだ。

なーんて思っていると、
携帯に着信。
液晶画面を覗き込む。

Sの携帯からだ。

受話器の向こうから聞こえてくるSのがなり声。
ひどく慌てている。


「おー。わりぃわりぃ。連絡遅れちまった。
 終電で行くんだよな?
 んで、どーするよ? 俺は(始発の)東京駅から乗ってくけど。
 お前はどっから乗ってくんの? 東海道線の。
 つーか、俺の携帯、もうすぐ電池切れそうなんだけど。」


慌てて駅の名前を告げる。

「品川。 品川から乗ってくから。 一番前の車両に乗るから。」


「品川? 品川だな。 品川で一番前の車両に乗ってくるんだな。 じゃぁそうゆうことでよろ






ブツッ。 プーッ プッー プッー。




そしてSの携帯の電池は静かにその寿命を迎えた。



・・・・・・・・さて、品川だ。

僕はサーフボードを背負い、駅まで走り出した。



んで、後編に続く。



    




んで、後編なのだ。




終電の品川はひどい混雑っぷりだった。

スーツ姿のサラリーマンの群れ。
その中にTシャツジーパンのサーフボードを小脇に抱えた青年が一人。

うーん。実にシュールな映像だ。

なーんて、ぼんやり考えている僕の目の前に、
スルスルと終電は到着し、
そして僕は車両の中でひしめき合いぶつかり合うスーツの波の中に果敢に飛び込んでいったのだった。



列車は神奈川県に入ると少しすいてきた。

辺りを見渡す余裕ができた僕は、我が親友の姿をキョロキョロと捜し求める。






いや、いねーから。




明らかにいなかった。
小田原行き最終電車の一両目の、どこをどう探しても、
サーフボードを小脇に抱えたシュールな青年なんてのは、僕以外に誰一人として存在していなかった。



あいつ、またやりやがった。



乗り遅れたんだ。



そんな考えが僕の頭の中を支配し征服する。

つかどーすんだよ。
大船着いてもSが居なかったら俺、H君の家にたどりつけねーじゃんよ。
H君のTEL番だってしるわけねーし。


ぐるぐると不安がアタマをかけめぐる、僕の胸ポケットで、
携帯電話が振動を開始する。
液晶画面を覗き込む。

公衆電話だ。


受話器の向こうから聞こえてくるSのがなり声。
ひどく怒っている。


「おぅ。潮見? お前今どこいんだよ?」



「どこって・・・、いや、電車の中だろが。」


そう言い返す僕の口調にも、思わず怒気が混在する。


「はぁ? つーかお前なんで電車乗ってるわけ? わけわかんねーよ。
 俺、お前が乗ってこなかったから電車降りちまったっつーの。
 つか、ぜってーお前一番前の車両に乗らなかっただろが。
 お前が終電に間に合わなかったと思ったから俺は電車降りたのに
 なんでお前が電車乗ってんだよ。」


「はぁ? 一番前に乗ったっつーねん。
 なに言ってんだよ。
 大体今だって一番前の車両に乗ってるし、間違いねーっつーの。」


「いや、ぜってーお前乗ってこなかったもん。 
 新橋で俺はドアから身を乗り出してお前が乗ってこないか探し






「品川だろが。(怒)」




「うぉっ まじ






ブツッ。 プーッ プッー プッー。




怒りと呆れで呆然とした僕は、しばらく液晶の画面を見つめ続け、呆然と立ちつくしていた。



10分後。


僕の胸ポケットで、再び携帯電話が振動を開始する。
液晶画面を覗き込む。

公衆電話だ。


受話器の向こうから聞こえてくるSのがなり声。
ひどく凹んでいる。


「おぅ。潮見? わーりぃーなー。
 俺すっげー勘違いしてたよ。」


思わず僕の口調も和らぐ。


「いや、えーねんて。
 まぁしゃぁないしゃぁない。
 んで、俺は、H君っつったっけか?
 どうやってそのH君の家まで行けば良いんかな?」


「そう。それがさ、
 実は俺、今もう金が全然ねーのよ。
 電車賃もお前に借りようと思ってたし。
 だから、この電話ももうすぐ切れるから、
 とりあえず、お前大船に着いたら俺の自宅の電話に電話してくれよ。
 そしたら詳しく説明できるから。
 携帯はもう電池ねーからさ。」



・・・・・・・・・・・・。



「いや、つーかさ、
 お前の自宅の電話、今「通話ができません」になってんだけど。」




「うぉっ まじ






ブツッ。 プーッ プッー プッー。




思わず、電車の中で大声で笑ってしまいました。

大船で野宿してみました。



そんなSのお話。




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