ビオレメイク落とし

化粧落とさなきゃ。

そう言って、彼女は屈託なく、あるいは恥ずかしげに笑い、ベッドの脇に落ちた下着を身につけ始め、

しょうがねぇなぁ。

そう言って、僕はめんどくさげに、あるいは優しげな雰囲気を装い、くたびれたTシャツを身に纏う。

そして僕らは6畳半のアパートを出る。

僕らは手を繋いで歩く。
夏のムシ暑い、あるいは冬の凍える夜に。
その道の先にはいつも、こうこうと明かりをともすコンビニエンス・ストア。

セブン・イレブンで、僕はスピリッツや、ヤンマガなんかをパラパラとめくり、
そして彼女はしゃがんで化粧品コーナーをきょろきょろと見まわしている。

有ったよ。

そういった彼女の手に握り締められた、ビオレメイク落とし。
うさんくさげに僕らを見る店員のバーコード・リーダーで読み取られる、ビオレメイク落とし。
彼女が僕んちのせまい洗面器で使用するのであろう、ビオレメイク落とし。

そして翌朝彼女はアパートを去り、
1回しか使われることのないまま、僕の戸棚の奥に置き去りにされる、ビオレメイク落とし。


きっと、世の独身男性の戸棚の奥には、たくさんのビオレメイク落としが今も眠り続けているんだ。
この地球上には、1回しか使われなかったビオレメイク落としが、いったい幾つ存在しているんだろうか。


そんなくだらない僕の妄想をよそに、
ビオレメイク落としは今日も眠る。

ピンクの歯ブラシといっしょに。




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