仮説その1:学科名は判断材料になるか?

K. Shida
8/Jan/2003

1. 工業化社会のための工学部

では,立地条件に差がないときに工学部のランクの差を端的に 表す指標が何かあるだろうか? 第一候補として,学部にどんな学科があるかを調べてみよう. まず,首都圏で偏差値 50 未満四大学を見てみる. 偏差値の出典は,前の記事 と同じ代々木ゼミナールである. 表にみえる大学間の学科の対応は,志田が判断したものであり厳密ではない.

表1:首都圏で偏差値 50 未満の工学部の学科構成(括弧内は偏差値)
関東学院工 (42)国士舘工 (42)桐蔭横浜工 (43) 神奈川大学工 (49)
機械工学科機械情報工学科知能機械工学科機械工学科
電気電子工学科電気電子工学科電子情報工学科 電気電子情報工学科
建築学科建築デザイン工学科建築学科
建築設備工学科
土木工学科都市システム工学科
工業化学科機能化学工学応用化学
経営工学
医用工学

機械系,電気系,建築系,土木系,応用化学系と, 二十世紀後半の「工業化社会」の要請に答えるための学科が ならんでいる. その中で,桐蔭横浜大学には医用工学という目新しい学科があるが, 1988 年開学と新しいためであろう. なるほど.これをみて,これらの大学は,工業化社会から 脱工業化・情報化社会へというトレンドの変化に対応した 学科再編ができないでいるのだ,という仮説を立ててみる. これを検証するため,首都圏で偏差値60以上の理工系大学の 学科構成と比べてみる.

2. 上位の大学の学科構成

表2:首都圏で偏差値60以上の理工系大学の学科構成
東京理科大については, 黒字:工学部, 青字:理工学部緑字:理学部
慶應義塾理工 (65)早稲田理工 (63)上智理工 (61) 同志社工 (61)東京理科大工 (60〜58)
機械工学科機械工学科機械工学科機械システム工学科 機械工学科,機械工学科
エネルギー機械工学科
電気電子情報工学科電気・電子工学科電気工学科 電気工学科,電気電子情報工学科
電子工学科電子・情報通信学科電子工学科
情報工学科情報学科知識工学科 情報科学科
応用化学科応用化学科物質化学工学科 応用化学科
物質開発工学科機能分子工学科 工業化学科,工業化学科
物理情報工学科
管理工学科経営システム工学科 経営工学科,経営工学科
数理科学科数理科学科数学科 数学科, 数学科,数理情報科学科
物理学科物理学科物理学科 物理学科, 物理学科
応用物理学科 応用物理学科
化学科化学科化学科 化学科
システムデザイン工学科建築学科 建築学科,建築学科
土木工学科 土木工学科
環境資源工学科
生命情報学科 応用生物科学科
天文学教室

意外にも,オーソドックスな学科名がならんでいて, 機械系,電気系,建築系,土木系,応用化学系という五本柱は 厳然と存在している. 特徴としては,「理工学部」では,物理,数理,化学という 理学部系の学科があったり,経営工学系や生物系の学科があることを 指摘できる.

しかし,理学や経営系の学科があるからこれらの大学は人気があるのだ, とはいいにくい. 理学部系の学科は,伝統のある大学でしかなりたたない性質のものだし, 経営工学のブームははるか昔に過ぎ去ってどちらかといえばお荷物に なっている場合が多い. だから,これらの学科は人気に寄与しているというより, 人気のある大学だから存続できているというふうに考えることができる.

一ついえるのは,偏差値の高い大学では, 上智を除き独立した情報系の学科をもっていることである. 同じ「情報」という言葉を冠してはいても, 単独の「情報工学科」と「電子情報工学科」ではだいぶ ニュアンスが違う. 前者は情報工学のカリキュラムを一通り体系的に揃えていることが 期待されるが,後者は「電子工学」の学問体系に情報系の科目を いくつか入れただけのことが多い. 1990 年代には「情報」というキーワードで学生が呼べたので, それが目的で学科名に「情報」を入れたようなところも散見される. まして「情報」を冠さない「電気電子工学科」のようなところが 学科案内で「情報技術も学べます」と唱っていたとしても, 過度な期待はしない方がよい.

1970 年代以降に立ち上がった情報工学は, はじめは,電子工学,経営工学,数理工学などの学科の一部の教員が 担っていたが,'90 年代までの情報工学の盛り上がりの中で, 学科として独立できるほどの勢力になった,という点では, これらの工学部が時代に適応する姿勢をみせた証拠といえるだろう. もちろん,学科名で判断できるのはここまでで, もっと具体的に内容をみてみないと評価は下せない. 21 世紀に入って,情報系の魅力を発散する部分は ハード/ソフトウエア工学からコンテンツ系に移っている. 理工系学部は,今後これにどう答えるのだろうか.

3. 共通の弱点?

というわけで,大学の偏差値と学科構成の相関は あまり強くなく,仮説は成立しがたいことが分かった. 下位の大学では「既存の学問体系,専門分野を守ろうとする力が 働いて改革ができない」, 上位の大学では「実績が上がっているので大幅な改革は必要ない」 というように,あるいは理由は異なるのかも知れないが, どちらもわりあいオーソドックスな学科名が多い.

学部を学科に細分化することがセクショナリズムを育て, 意志決定を鈍らせるという指摘があることにふれておきたい. たとえば,慶應の環境情報学部 (65) には理工学部から情報系の教員が 大挙して移っているが,一学部一学科である. またこのごろ躍進著しい東京工科大学 (45) も,新設のメディア学部 (51) が一学部一学科で成功したため,既存の工学部も再編成して, 電子工学科,情報工学科,機械制御工学科, 情報通信工学科の一学部四学科体制を, 2003 年からバイオニクス学部とコンピュータサイエンス学部の 二学部二学科にする. 次に機会があれば,中堅大学が連発するユニーク学部・学科について 調べてみたい.