intel x86 と互換 CPU

20/Aug/2003 (追加)K5-133
13/Feb/2003 (追加)Pentium3-866
09/Jan/2003 (追加)Celeron 400/733, K6-233
26/Dec/2001 (追加)Mobile Pentium-133, Celeron 300A
Oct/2001 (追加)Pentium2/3, K6-2, Thuderbird Duron, 486DLC
28/Dec/2000 (公開)
K. Shida


1. intel x86 プロセサ

○ 左から NEC V30-10, Intel 80286-12 (1982), 80386DX-16 (1985)

V30, 80286, 80386 top view V30, 80286, 80386 bottom view

V30(写真左)

V30 は日本電気 (NEC) が製造した Intel 8086 ピン互換 CPU である. 8086 は,パーソナルコンピュータの主流となった x86 アーキテクチャの 源流となる 16bit CPU である. パッケージは,40pin のセラミック DIP (Dual Inline Package) であり, 20bit のアドレスと 16bit のデータが, ピンを共有してを時分割でやりとりするため,命令を実行するのにかかる クロック数が増えている. アドレス空間は 64kBytes のセグメントが 16 枚の合計 1MBytes である. 写真の V30 のクロック周波数は 10MHz である. 処理能力は同じ周波数の 8086 より二割速いといわれる. FPU は持たず,浮動小数点演算はソフトウエアか, 8087 というコプロセサを使って行なう.

8088 は 8086 の外部バスを 8 ビットにしたモデルである. IBM が PC/XT に 8088 を,PC/AT に 8086 を採用したことが, Intel x86 CPU と Microsoft DOS が圧倒的勢力を持つに至る 原因となった. 日本では,8086/V30 が NEC の PC-9801/9801F/9801VM シリーズに 搭載されて, 1980 年代の PC 市場をリードした. '86 年頃の大学生は, 一太郎 Ver. 3 ワードプロセサで卒論を書くために,争って PC9801 を購入したのである.

80286

80186 は 8086 の組み込み機器用モデルで, パーソナルコンピュータには使われなかった. PC 用の第二世代 x86 CPU は 80286 である. 1982 年に発表されたが,実際に PC の搭載されて普及したのは '87 年頃からである. 日本では,PC9801VX/9801RX が代表的である. アドレス空間が 16MBytes (24bit) に増え, アドレスピンとデータピンも分けたため, ピン数が増え,ピンをチップの四辺に並べている (QFP). 80287 という浮動小数点コプロセサが提供されたが, 値段が高く,その後 Cyrix や IIT から互換 FPU が登場した.

80386DX

1985 年に発表された 80386 は, 命令セットが拡張されて 32bit 命令をもち, アドレスも 32 ビットに拡張されて, 本格的な OS を載せられるようになった. 内部は同じで,外部データバスが 16bit の 80386SX と 32bit の 80386DX があり,DX の方が性能が高い. 386SX は 80286 の置き換えという位置づけであり, パッケージ/ピン数も同じになっている. 386DX は,さらにピン数が多いため,現在と同じ PGA (Pin Grid Array) パッケージを採用した. 80286 までの地味なマーキングから一転した派手なロゴデザインは, この頃から Intel が一般消費者向けのマーケティングを意識しはじめた ことを示している.

○ Intel 486SX2-50, 486DX2-66 (1994-1995)

Intel 486SX2-50, 486DX2-66写真 3.5.1

1989 年に発表された第四世代 x86 CPU である 80486 シリーズは, 当初の 16MHz から 25/33MHz と順調に高速化してきたが, 50MHz 版に至って,問題が生じた. これまで CPU とマザーボードは同じ周波数で動作してきたが, 寸法の大きいマザーボードの周波数を上げるのが難しかったのである. そこで 80486 ではじめて 8KBytes 搭載された一次キャッシュを バッファとして使い,CPU だけマザーボードの二倍の周波数で 動かすことを考えた. この「クロック逓倍技術」によって, CPU のクロックを上げながら マザーボードの周波数を最大 33MHz に押えることができた. Intel はこれを「OverDrive Processor」と名付けて, 大々的に売り出すことにした.

486 では 386 までと違い,浮動小数点演算性能向上のため, FPU はコプロセサとしてではなく,CPU に内蔵されるようになった. この完全な CPU を 80486DX と呼ぶ. しかし,値段を下げるため,買ったときにマザーボードに半田づけされている のは FPU 回路をカットした i486SX と呼ばれる CPU であることが多かった. 空のコプロセサソケットに挿すために売られている i487SX は, 486DX とまったく同じ完全な CPU であり,i487SX を挿すと i486SX は 働かなくなる仕組みになっていた. インテルはこのコプロセサソケットの名前を「オーバードライブソケット」 に変え,一台の PC で CPU を二つ売る完璧な仕組みを作り上げた のである.

i487SX Processor Intel OverDrive Processor NEC PC9801FA 写真 3.5.2, 3.5.3, 3.5.4.

写真 3.5.2 は i487SX である. 写真 3.5.3 は 1992 年頃の NEC PC9801FA (写真 3.5.4)に装備された 二つの CPU である.右は標準の 486SX で 16MHz で動作する. 左が ZIF (Zero Insertion Force) ソケットに挿されたオーバー ドライブプロセサで,定格 40MHz ながらベースクロックの 関係で 16x2=32MHz の動作となる.

しばらくすると,標準装備の CPU もソケットに挿しておいて, それをオーバードライブプロセサと交換すれば良い, という方式に変わった. 写真 3.5.1 左の 486SX2-50 は,廉価版の PC に標準装備されている 25x2=50MHz の「FPU なしの安いオーバードライブプロセサ」であり, 右の 486DX2-66 は 33x2=66MHz の 「完全なオーバードライブプロセサ」である. マザーボードは,ジャンパの切替で 25MHz にも 33MHz にも なったから,50MHz の CPU も,66MHz で動くかどうか試すことは簡単で, しかも大抵の場合動いてしまった. これが今に続く「オーバークロッキング」行動が一般化するもとである.

486 シリーズの最後の CPU は,三倍クロックの DX4-75/-100 であり, それぞれ 25MHz, 33MHz の三倍である. DX4 は一次キャッシュもそれまでの 486 に比べて二倍の 16KBytes を 搭載している. 次世代の Pentium より消費電力が少なかったので,DX4 はデスクトップ 用としてもそうだが,ノートブックコンピュータ用として広く使われた.

○ Intel Pentium 60 Processor (1992)

Intel Pentium 60 Processor top view Intel Pentium 60 Processor bottom view

Pentium Processor は,第五世代 x86 CPU として 586 という番号ではなく, 初めて名前を与えられたモデルである. Pentagon (アメリカ国防総省の五角形の建物), Penta Prism (一眼レフカメラが内蔵している五面体プリズム) などというように,"Pent-" という接頭辞には「五つの」という意味がある. ところが,Pentium という名前が大変有名になったため, 第六世代 CPU にも Hexium ではなく Pentium II の名前を冠せざるを 得なくなり,ついに第七世代 CPU も Pentium 4 と呼ばれることに なってしまった.

写真の Pentium Processor は 1992 年に発表された 60MHz 版である. 486 プロセサに比べて,売りは三つある.

  1. 実行ユニットを二つもち,条件が整えば二命令同時に実行できる 「スーパースカラー」機構を採用したこと.
  2. メモリを 64bit 単位でアクセスするようにしたこと. ただし命令体系が 64bit に拡張されたわけではない.
  3. 一次キャッシュを 16KBytes に倍増したこと.
このことによって,60MHz の Pentium Processor は, 100 MHz の 486DX4 とほぼ同じ性能を発揮した.

この 60/66MHz 版は,その後の Pentium 75 以上と異なり, 寸法がひとまわり大きく,ソケットも違い. 5V の単一電源で動作し,消費電力が大きい. 価格が高く,短い期間しか売られず,またその多くが, 浮動小数点除算が誤った答を出す,いわゆる「バグペン」であったため, 回収/交換されるなど,パイロット版としての役割は果たしたものの, ビジネスとしては失敗であった.

○ intel MobilePentium 133 Processor (1996)

intel Mobile Pentium 133 Processor

SOTEC のノート PC に搭載されていた CPU モジュールである. CPU は Pentium-133 で,その下に二次キャッシュのチップが 二つのっており,左側には 430MX チップセットが見える. 放熱は裏側からやるようになっている. 基盤には Copyright 1996 SOTEC の文字が印刷されており, SOTEC 自製であることがわかる. モジュール化することによって,主基板を変更することなく, CPU を変えてシリーズ化できる.

第二世代の Pentium CPU であり,3.3V で動作するようになって 消費電力が下がり,使いやすくなった. バスクロック 50/60/66MHz,逓倍率 1.5/2/2.5/3 の組合せにより, 75/90/100/120/133/150/166/200MHz のバリエーションがあり, デスクトップでは Socket5 に適合する. 性能的には 66x2=133MHz あたりが一番バランスがとれており, 166MHz 以上では周波数の割に性能が上がらない.

1997 年には MMX 拡張命令を実装し一次キャッシュを 32kBytes に 倍増した MMX Pentium Processor にモデルチェンジした. MMX 命令を使わない場合にも処理能力は一割前後向上し, 消費電力をさらに下げるため I/O 3.3V,コア 2.8V の二重電圧 を初めて取り入れた. また,倍率を 5.5 倍まであげられるようになっており, 物理的には Socket5 と同じであるが, 電気的に対応したソケットを特に Socket7 という. MMX Pentium は,133MHz からデスクトップでは 233MHz までで PentiumII に移行したが,ノート PC では遅くまで使われ, 1999 年に短期間作られた 300MHz 版まである. キャッシュが増えたため,200MHz くらいまでは周波数なりの 性能を発揮できる.

Intel Pentium Pro Processor 180MHz(1995-1997)

Intel Pentium Pro Processor top view Intel Pentium Pro Processor bottom view

第六世代の x86 プロセサ (P6) として, 最初に現れたのが Pentium Pro Processor である. その後の PentiumII と Pentium!!! プロセサは,この拡張版である. この中には,シリコンダイが一つではなく,二つ並んで入っていて, 一つは CPU と 16kBytes の一次キャッシュ, もう一つは 256kBytes の二次キャッシュである. 左側の PC カードと比べてその大きさが分かる. 台座にはソケット8を使用.0.35μm の配線を用い, 3.3V の単一電源で消費電力は約 40W だった.

CPU は,モデルにより 150MHz から 200MHz で動作したが, P6 の最大の特徴は,x86 命令を直接実行するのでなく, ハードウエアが直接実行するのは,より単純な RISC 命令であり, その上に x86 --> RISC 命令の変換機構をかぶせてあることである. このような仕組みを採ったのは,複雑な CISC である x86 命令を ハードウエアで実行するのは,回路が複雑になり高速動作が限界に 達したためである. RISC 命令は同時に複数実行できる「スーパースカラー」構成をとり, リソースの輻輳を避けるために命令を入れ換えて実行する, 「命令リオーダリング」も大幅に採用している. これ以降の x86 互換 CPU は Intel,AMD ともこの手法を採っている.

Pentium Pro はいくつかの理由で,前世代の Pentium にとって 代わるには至らなかった.

  1. Pentium Pro は 80386 以降に拡張された 32 ビット命令を重視して 高速化する方針をとったため,8086 以来の 16 ビット命令は, 同じクロックの Pentium Processor よりむしろ遅く, 16 ビット命令を多用する Windows95 ではメリットがなかった.
  2. マルチダイ構成だが,良いダイをえり分けてから CPU として 組み立てることができず,完成してからでないと不良が検出できないため, 不良品率が上がりコストが高くついた.

○ intel Pentium II/III Processor Series on Slot-1 (1997-2001)

Dual Katmai intel CuMine Slot-1 CuMine back 写真 3.2.1, 3.2.2, 3.2.3

Pentium Pro の代わりにメインストリームになったのが, 1997 年に発表されたカートリッジ型のプロセサである. Slot-1 (SC242) と呼ばれる一直線のコネクタにさすもので, intel は十年間 Slot-1 で行く,との触れ込みで発表したが, はやくも 2000 年に旧式になってしまった. 最初の Pentium II では,カートリッジの中の基盤上にパッケージ された CPU と 512kBytes の二次キャッシュチップがのっている. このようにすることで,カートリッジを組み立てる前にチップ ごとに検査でき,Pentium Pro よりコストが下げられる. また二次キャッシュは CPU の半分の周波数で動くので, 安い汎用の SRAM が使える. CPU とキャッシュチップは,サーマルプレートと呼ばれるカートリッジの 表面をなす金属板に接触していて,サーマルプレートにはヒートシンク/ ファンが取り付けられる.

CPU アーキテクチャは Pentium Pro と同じで, それの内蔵一次キャッシュを倍の 32kBytes にするとともに, MMX (Multi Media eXtension) 拡張命令セットを追加したものである.

初めは FSB66MHz の Klamath (クラマス)と呼ばれるシリーズで, 233-333MHz の周波数があった.0.35μm 配線を使用し 2.8V で動作した. キャッシュが遅くなったのでクロックあたりの性能は Pentium Pro に劣る. 発熱が多く MMX Pentium との性能差も決定的ではなかったので, あまり魅力的ではなかった. 次に現れたのが,0.25μm 配線を採用し電圧を 2.0V に落すとともに FSB100MHz 化を計った Deschutes (デシューツ)シリーズで, これより Slot-1 が intel CPU の主流になった. 350MHz から 450MHz まで. PentiumII に SSE (Streaming SIMD Extension) 拡張命令セットを 追加したのが Katmai (カトマイ)シリーズの Pentium!!! である. SSE 命令を使わない限り,同クロックのデシューツと同性能である. 450MHz から 600MHz まで. FSB133MHz のバージョン 533, 600B もできた. 写真 3.3.1 は Pentium!!!-500 (Katmai) CPU をデュアルで使っている.

Pentium!!! としての第二世代である Coppermine (カッパーマイン: CuMine とも書く)は,0.18μm プロセスになり,さらに消費電力が 下がっただけでなく,256KBytes の二次キャッシュが CPU に統合された. キャッシュ容量は減ったものの,外づけよりアクセス速度が速いため, 性能は向上した. これによって,カートリッジ型の Slot-1 の必然性はなくなった. 同時に Socket-370 型のカッパーマイン も発表され,主流はそっちに移ってしまった. 3.3.2/3.3.3 は 667MHz の Slot-1 カッパーマインである. 片面にはホログラムのシールが張られて,高級感を演出している.

○ intel Celeron 300A Processor on Slot-1 (1998)

Celeron 300A

Celeron シリーズは,Socket7 から Slot-1 への完全移行のため, 廉価版 Slot-1 CPU として出たものである. 初代の Celeron は二次キャッシュなしの 266/300MHz 版だったが, 性能が MMX Pentium と同程度で人気がなく,短命に終った. ただし,運が良ければ FSB 100MHz でも動作するオーバークロック 耐性の高さが一部で注目された. 次に出た Celeron は 128KBytes の二次キャッシュをオンチップで 内蔵した.二次キャッシュは CPU と同じ速度で動き,データ アクセスの遅れ時間が短いため,高価な PentiumII にほぼ 匹敵する性能を発揮し,初代から受け継いだオーバークロック 耐性の高さもあいまって人気が爆発した. それが 300A と 333 である.

この後 intel は Celeron と Pentium II/III の差別化に苦労する ことになる. 性能を Pentium ブランドより低く押えながら, AMD とのクロック競争に勝たなければならないのである. その方法は,FSB 周波数を 66MHz に押えたまま, どんどん高クロック版をリリースすることであった. 実に逓倍率 11.5 倍,766MHz 版まで,Celeron は FSB が 66MHz のままであった. 800MHz からはさすがに 100MHz に上がったものの, Celeron 1.2GHz ではそれすら越える 12 倍になっている. 命令実行性能とメモリアクセス性能のバランスを考えると, 300A/333 あたりでは逓倍率が 4.5/5 倍と低いため良かったが, これ以降の Celeron はバランスの悪い CPU になっている.

写真で分かるように,二次キャッシュを内蔵してしまえば, スロットの必然性はない. ソケット型への回帰は,Cuppermine CPU に先駆けて Celeron から 始まるのである. <

○ intel Celeron 400/733 Processor on Socket370 (2000)

Celeron 400 Celeron 733

左がソケット型になった Celeron で PPGA パッケージの 400MHz 版である. このソケットにはピンが 370 本あるので Socket370 と呼んだ. シリコンダイは 300A と同じ 0.25μm プロセスでつくられている。 一見スロット型のように見えるが,これは Socket370 CPU を Slot-1 の マザーボードで使うためのアダプター(Slocket)を付けているからである. スロケットは intel のものではなく,マザーボードメーカーなどが 独自に発売したもので,Slot-1 から Socket370 への移行の混乱を 緩和させる役割を果たした.

右は 733MHz 版で,ソケットは同じだがパッケージが FCPGA (Flip Chip Pin Grid Array) に変更になっている. PPGA CPU まではパッケージの裏面(ピンのある側)に シリコンダイが張り付けられていて,それに表の金属製放熱板が 接続されている形だったが,FCPGA では表面にシリコンダイが 直接見えている. またプロセスが 0.18μm に進化したことに伴い, PPGA Celeron の 2.0V から FCPGA では 1.7V に駆動電圧が下がった. そのため同じ Socket370 でもマザーボードの互換性に問題が生じた. マザーボードの外観ではまったく区別できないので注意が必要である.

○ intel PentiumIII 866 Processor on Socket370 (2000)

CuMine 866

Celeron に引続きソケットに回帰した(Socket370) Pentium!!! である. 二次キャッシュ外付の Katmai Pentium!!! は,同クロックの K7 Athlon に 比べて性能がやや劣っていたが,二次キャッシュ内蔵の CuMine によって その差を埋めることができた. 内蔵化によってレイテンシが減ることも大きいが, もう一つ見逃せないのは一次二次キャッシュ間が 256bit 幅で転送される ようになったことである.これによってキャッシュの一ライン 32Bytes を 一クロックで転送でき,スループットが大きく向上した. intel はこの機能を Advanced Transfer Cache と呼んでいる.

Athlon との競争では防御側に回り,intel は Pentium4 への 移行を急ぐことになったが,今から考えれば, 発熱や電源に悩まされる P4/Athlon に比べて, 使いやすい CPU だといえる. 写真は 133MHz×6.5=866MHz 版である. 下に見えるのは intel i815EP チップセットのノースブリッジ, マザーボードは MSI 815EP Pro である.


2. x86 互換プロセサ

○ Cyrix Cx486DLC-33GP (1992 頃)

Cyrix 486DLC Inner view of NEC PC-9801RX EMS Memory Board

80486 が出回る頃になると,Cyrix 社は, 80386 マシンのアップグレード 用として, 386SX のソケットにさせる 486SLC,386DX のソケットにさせる 486DLC を発表した.これは同じクロックでもより能力の高い処理回路と, 1KBytes のキャッシュメモリを内蔵していた. Intel の次世代 80486 CPU は,ソケット互換ではなく本体を 買い替えなければならなかったから,価格の安い Cyrix CPU は 短期間ながら爆発的な人気を博した. 386 のソケット互換 CPU なのに 486 を称したのは, 高い処理能力をアピールするためである.

NEC PC9801 シリーズでいうと,1988 年以降登場の 80386SX が PC9801RS/FS,80386DX が PC9801RA シリーズになる. この頃になると, メルコ社アイオーデータ社が PC9801 向けの,純正品より価格の安い増設メモリボードや Cyrix CPU を 搭載した CPU アクセラレータの製造発売元として,成長してきた.

左写真はメルコ社の HDL-08W-D という CPU アクセラレータに 搭載された CX486DLC である.80286 12MHz 搭載の NEC PC-9801RX 用 として売られたもの. 左側のサブボードがそれで,下の大きいボードは本来の CPU ソケットが ついている純正ボードである. 二倍速の 24MHz で動作する. 上の空いているソケットには Cx83D87 という FPU が刺せる. これと拡張メモリボードを搭載すると,本来 Windows3.1 非対応の 80286 マシンで,なんとか Windows を動作させることができた. 中央写真はアクセラレータを搭載した様子. 底面のマザーボード,垂直に立った CPU ボード,その上に乗った アクセラレータの三階建てになっていることが分かる.

右写真は,同じメルコ社の 2MB メモリボードである. これは PC-9801 の拡張スロットにさすタイプで, 転送速度は ISA バスと同程度でしかない. 80286 当時は Windows3.1 もまだなく,メモリ空間が 16MB に 拡張されたものの,1MB 以上の領域(プロテクトメモリ)を OS やアプリケーションからどう使うかという管理規約がなかった. そこでこのボードは,EMS という規格にしたがってプロテクトメモリを 640KB から 1MB までのシステム領域の一部にマップして使うことができる. EMS 領域は合計 4KB×4 ページの狭い窓であり,アクセスしたい領域を 次々と切替えて使うという,今から考えれば悪夢のようなメモリモデルを 大真面目に使っていたのである.

○ IBM Bluelightning (1994 頃)

IBM Bluelightning Cyrix 87DLC

IBM も一時期 Intel x86 互換 CPU を開発製造したことがあった. 16 bit バスの 486SLC (Cyrix の同名 CPU とは別もの)が同社の モニタ一体型モデルに積まれたりしたが, その最後のモデルが「青い稲妻」Bluelightning CPU である. 80386 とバス信号に高い互換性があり(物理的にはピン互換ではない), 16kBytes の一次キャッシュを内蔵し内部三倍クロックで働く, ある点では 80486 をしのぐ 80386 クラス最強の CPU だった. ただし FPU は内蔵していない.

IBM はこの CPU を載せた PC やマザーボードを販売したが, すでに時代は 80486 に移行していて,あまり人気は出なかった. メルコ社やアイオーデータ社は,386 を使った PC9801 向け アクセラレータの最終進化型として,Bluelightning 搭載モデルを発売した. PC9801 シリーズは,IBM PC 互換機と違ってマザーボード交換が 不可能だったため,CPU だけの交換によるアップグレードの需要が 高かったからである. 写真右はアイオーデータ社の PK-A486BL60 を PC9801DA に 搭載したところである.CPU ソケットにサブ基盤がささり, 銀色のヒートシンクの下に CPU がある. 左の FPU スロットが空いているが,FPU はサブ基盤の裏側に Cyrix の Cx87DLC がついている(写真右). Cx87DLC は PGA の Cx83D87 を表面実装向きにしたもので, CPU と同じ基盤に載せることで, CPU との通信を高速化している(そうだ).

3.3 Cyrix MII-300GP (1995-2000)

Cyrix MII-300GP

Cyrix 社が開発した MMX Pentium 互換 CPU. はじめ 686MX という名前だったが,上位クロック版を MII に変更した. 特徴は,

  1. 命令とデータが分離されていない 64KBytes の一次キャッシュ. Intel Pentium シリーズ,AMD K6 シリーズは,いずれも 命令キャッシュとデータキャッシュを分離している.
  2. Pentium より優れたスーパスカラのデュアルパイプライン制御.
  3. K6-2 と異なり,x86 命令をネイティブ実行する.
整数演算命令やメモリアクセスに関しては,クロックあたりの性能が Pentium 互換プロセサの中でもっとも高いといわれる. そのため,実クロックの他に Processor Ratings と呼ばれる 「何メガヘルツの Pentium 相当か」という表示を行なっていた. 例えば,Pentium 300 MHz 相当と主張する写真の MII-300 の実クロックは, 66x3.5=233MHz あるいは,75x3=225MHz であり, 最後の MII-433 は 100x3=300MHz でしかなかった.
  1. 3D ゲームやマルチメディアアプリケーションの普及で, 科学技術用途以外でも浮動小数点演算が大切になってきたが, MII は FPU が遅かった.
  2. 高クロック版がなかなか出ず,最高でも 300MHz では, 400MHz 以上の品を出してきた AMD K6-2 に実効性能でも 差を付けられた.
ために売上が伸びず,MII シリーズを最後に Cyrix は VIA Technology 社に 吸収され,開発チームは解散した. 次に発売された Intel Celeron CPU 互換の Cyrix III は, 技術的には MII との関係はない.

○ Advanced Micro Devices K5-133 (1996)

AMD K5-133

AMD 社が開発した Pentium ピン互換 CPU. 次節の K6 と異なり AMD 社が自社開発したが, 1993 年に発表されながら出荷が 1996 年と開発に時間が かかり過ぎたうらみがある. 66MHz×1.5=100MHz で Pentium133 並の性能を発揮する ことから PR133 (Processor Rating 133MHz) という 性能表記がなされている. 内部では ROPs という RISC コードに変換して実行, 4コード同時実行という進歩した設計だが, 実クロックがなかなか上げられなかった. コア電圧も 3.52V と高め. この K5 があまり成功しなかったので, 次の K6 はまったくく別系統の設計となる.

○ Advanced Micro Devices K6-233 (1997)

AMD K6-233

AMD 社が開発した MMX Pentium ピン互換 CPU. もともとは NexGen 社が開発に取り組んでいたものを AMD 社が会社ごと買収して商品化した. ハードウエアは RISC86 と呼ばれるコードを実行し, それに x86 命令から RISC86 への変換装置をかぶせてある. これは Pentium Pro と似た方式である. 初めに出たのが K6 CPU であるが, バグがあったり,発熱が大きかったりして, あまり評判が良くなかった, 3.3V のコア電圧で 66MHz× 3.5=233MHz 駆動で動作する.

○ Advanced Micro Devices K6-2/400 (1998-2000)

AMD K6-2/400

K6-2 は,不具合を直すとともに,

  1. Socket-7 のままで FSB を 66MHz から 100MHz に上げて 主記憶アクセスを強化.これを Super-7 と称した.
  2. K6 の MMX 拡張命令セットに加え, AMD 独自の 3D Now! 命令セットを追加.
  3. 0.25μm 配線化するとともに電圧を下げ,消費電力を減らした.
などの改良により intel が高価な Pentium II に移行したあと, 安価な Socket-7 用 CPU の決定版となり,大人気を博した. 300MHz から 500 MHz まで. 写真で左側に写っているのは,ALi の Aladdin V という 100MHz 対応の Super 7 用チップセットである.

K6-2 の性能は,PentiumII/!!! よりやや劣っていたが, それは二次キャッシュが CPU 側になかったためである. K6-2 に 256KBytes の二次キャッシュを統合した K6-III CPU は, Katmai PentiumIII に勝るとも劣らない性能を発揮したが, 短期間売られただけ Athlon CPU にとって代わられた.

Advanced Micro Devices Athlon Processor K7-550MHz (1999)

AMD K7-550 AMD K7-550

AMD 社の Intel 互換プロセサとして,はじめて同時期の Intel 社製品 (Pentium!!!) の性能を追い抜いたのが Athlon である. 形状はカートリッジ型で,SC242 という一直線のコネクタに挿す. カートリッジの中には,基盤が入っており,その基盤上には パッケージされた CPU と 512kBytes の二次キャッシュチップがのっている. このようにすることで,カートリッジを組み立てる前にチップごとに 検査でき,Pentium Pro よりコストが下げられる.

CPU とキャッシュチップは,サーマルプレートと呼ばれるカートリッジの 表面をなす金属板に接触していて,サーマルプレートにはヒートシンク/ ファンが取り付けられる.

最初に発売されたコードネーム K7 と呼ばれる Athlon は, CPU の動作周波数が 500MHz から 700MHz まであり, 二次キャッシュはその半分の周波数で動作した. 0.25μm の配線ルールで製造され,消費電力は 42W から 54 W と高い. 数カ月後には 0.18μm の配線ルールで製造された K75 550MHz-1GHz に置き換えられ,消費電力が下がったが,それでも 1GHz 版は 60W 以上 消費して,放熱や電源部に負担を掛けた. 二次キャッシュの動作周波数があまり上げられないため, 750-850MHz では CPU の 2/5 倍,900-1GHz では 1/3 倍で動作した. その後二次キャッシュを CPU ダイに統合したソケット型 Athlon が 発売されて,スロット型 Athlon が売られていた期間は, 二シリーズ併せても一年に満たない.

○ Advanced Micro Devices Athlon (Thunderbird) 700, Duron (Spitfire) 700 (2000)

AMD Thunderbird

前項の Slot-A Athlon の改良型. 256kB 二次キャッシュを CPU ダイに統合し, 462 ピンのソケット Socket-A にさすようにしたもの(写真左). 2000 年 6 月発売.0.18μm プロセスで製造. 二次キャッシュと一次キャッシュはデータが重複しないようになっており, オンチップキャッシュは実質 384kB になる. K7 に対する性能向上幅は実質一割程度である.

写真右上に L1 と書かれた四組の端子が見える. この CPU では短絡した状態になっており, マザーボードのジャンパ設定で倍率が正規の 100MHz×7 から変更できる. Thunderbird は 650MHz から 1.4GHz まで作られた.

二次キャッシュ容量を 64kB にしたものは Duron と呼ばれる(写真右). その分ダイの幅が少なくなっている. 写真は 700MHz 版である. 演算回路そのものは変わらない. こちらは L1 が開放されており,倍率が変えられない. このコアの Duron は 600MHz から 1.0GHz まで.


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