ちょっとは気にして欲しい白熱灯のだいたい

明りは文明の根幹である。 火を手に入れたときが、人類にとって決定的な瞬間であった ことは確かだし、トーマス・エディソンも実用電球を発明 しなければ偉人にはならなかったであろう。

その割に、現代人は照明技術にほとんど関心を持たない。 学校で習った記憶もない。 照明器具はもはや完成品と見なされているのかも知れないが、 それは正しくない。 白熱灯の電光変換効率は数パーセントと極めて悪く、 その改善は今日においてこそ急務といえる。

実用化の見込みのない熱核融合研究など札束を燃料に するようなもので、さっさと止めてその金を照明の研究に使うがよい。 核融合は、ミューオンでも反陽子でも常温でもいいが、 原理的にさらりと簡単にいく方法が見つかるまで 何十年でも凍結するが良かろう。

日立が 10% 節電の電球を売り出しました。 これが本当に効率アップしているのか、 情報を持っているひといませんか?(1998/9/16)

1997年5月17日
1998年1月5日修正


白熱灯の原理

白熱灯の原理は、有限温度の全ての物体が発している電磁輻射である。 あらゆる物体は、温度が低ければエネルギの低い長い波長、 温度を高くすればエネルギの高い短い波長の電磁波を発する。 ある温度の物体の発する電磁波の波長と強さの関係(スペクトル)は、 一波長だけでなく広く分布していて、黒体輻射スペクトルに概ね従う。 宇宙の観測もその多くはこの輻射に依存しており、 冷たい星間ガスは電波を、恒星は可視光線を、 恒星より熱い中性子星はX線を主に発する。 物体の温度は、その放射する電磁波のスペクトルより測ることができ、 これを色温度と称する。

太陽の表面温度 5600K とは色温度にほぼ等しい。 太陽の下で進化した人間の目は、太陽スペクトルに適合した 感度分布を持っている。 白熱灯は、フィラメントコイルに電流を通して発熱させて光らせるが、 太陽と同じ 5600K まで熱することができれば最も効率が良く、 色も太陽と同じになる。

しかし、5600K では全ての物質は融けてしまうから、 それは不可能である。 最も融点の高い( 3370K )物質であるタングステンを 使っても 3000K 程度が限度のため、大部分の電磁放射エネルギは 目に見えない赤外線(熱)として放出されてしまう。 また、熱伝導や対流で失われる熱も多い。 電球は照明器具であるというより、 光も出す電熱器といった方がふさわしい。 白熱灯の効率改善の指針は以下の二点である。

  1. できるだけ高い温度で使う。
  2. 熱が逃げないようにする。
この指針に沿って、どんな工夫がされているか以下に述べる。

1. 温度を上げる工夫

1.1 寿命と効率のトレードオフの設定

なるべく融点ぎりぎりまで温度を上げれば効率が良くなるが、 タングステンの蒸発が早くなるため寿命が短くなる。 このように同じ技術を使う限り、効率と寿命には相反する関係がある。 例えば、日本では家庭用の普通の白熱灯の公称寿命は1000hに 設定してあるが、アメリカでは750hの設計とし、 60Wで865lmを出すので14.4[lm/W]となり多少効率が良くなっている (後の表と比較せよ)。 逆に長持ちさせたいときには、110Vの電球を100Vで使うと寿命は 数倍になる。寿命は印加電圧の13.6乗に比例するといわれるので、 切れない電球を作るのはいとたやすい。しかし、エネルギ的には 無駄である。「切れない電球が偉いのではない」。 まして、商売のためわざと切れるようにしてあるわけではない。

1.2 ハロゲンランプ

ランプにハロゲン族ガスを封入し、ガラス表面の温度がちょうど 良くなるように形状を工夫すると、蒸発したタングステンが ガラス内面に蓄積せず、再びフィラメントに戻るような 「ハロゲンサイクル」が成立する。 これを利用して、実用的な寿命を保ったままで、 普通の白熱灯の色温度 2860K を 3200K 前後まで上げたものが、 ハロゲンランプである。 価格が高く、頻繁な点滅に向かないが、小型で強力なため前照灯、 映写機、商品のディスプレイ、一部オフィス照明などに用いられる。 効率は、普通の白熱灯よりはいいといってもせいぜい20[lm/W]を 越える程度で、蛍光灯や水銀灯などの放電灯とは比較にならない。

2. 保温を良くする工夫

電球で消費される電力は、電磁波に変わって放射される分と、 伝導や対流によって周囲に逃げていく分がある。 保温を良くして周囲に逃げていく分を減らすことによって、 効率を上げられる。

2.1 ランプを小さくする

狭い領域にフィラメントをまとめた方が熱が逃げにくい。 そのために二重コイルを用いる。

また、同じ電力なら、電圧が低い方が効率が良い。 フィラメントの電気抵抗を低くするため、 長さが短くコンパクトにまとまるからである。 また、スポットランプで光束を狭い角度に集中したい場合にも、 フィラメントが小さい方が都合が良い。 フィラメントを反射鏡の焦点に置いた場合、大きいと 像(ここでは発する光)が広がってしまうからだ。

ランプのガラス容器外形を小さくすると、 封入ガスの温度が上がり、コイルの保温が良くなる。 同じ電力なら、大きめのボール球は効率が悪い。

2.2 ワット数の大きい電球を用いる

同じ理由で、同じ電力でも、大きいワット数の電球の方が、 小さい電球を数多く使うより効率が良い。 家庭用の一番普通に使われる100V白熱灯省電力タイプの表は以下の通り。 公称寿命は全て 1000 時間。

電力[W]明るさ[lm]効率[lm/W]
95151015.9
57 81014.2
38 48512.8

2.3 封入ガスを替える

普通の白熱灯の中には、アルゴン(原子番号18) という不活性ガスが封入されている。 気体分子運動論の教えるところでは、熱伝導率は分子の重さの 平方根に比例し、直径の二乗に反比例する。 そこでガスををクリプトン(同36)というより大きい原子に変えると、 重くもなるが正味では、熱伝導率が下がって保温が良くなる。 これを「クリプトンランプ」と称する。 日本では松下が100V一般用クリプトン球を商品化しているが、 これは性能向上の大半を寿命に振り向けた設計になっている。 公称寿命は全て 2000 時間。

電力[W]明るさ[lm]効率[lm/W]
90140015.6
54 78014.4
36 46012.8

2.4 赤外線反射膜を使う

ガラス容器に赤外線反射膜をコーティングして、 赤外線として逃げていく分を減らすもので、 今の製品では約2割の効率向上が得られる。 これは日本では東芝が実用化したものだが、 反射防止膜のコストが掛かることから、外形が小さく、 価格も高いハロゲンランプに適用される。

反射膜には別の使い方もある。 逆に可視光を反射し、赤外線を通すような反射膜を 鏡として使うことにより、照らす物体の加熱を抑える ようなレフランプがそれである。


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