最後のアナログFMチューナ
1983年の空気バリコン (Variable Condenser: 可変蓄電器)
の生産終了により、翌'84年までに
アナログFMチューナがカタログから消えた。
'83年は、前年に出たCDプレーヤの低価格化競争が
本格化した年でもあり、
アナログからデジタルへの転換点となった、
記憶すべき年である。
しかし、それは'70年代後半から隆盛を極めた
オーディオブームがピークを迎え、
ビデオ、パーソナルコンピュータに押されてカジュアル化、
市場縮小する転換点ともなった年でもあった。
デジタル音源が行き渡った今日では、
15kHzまでしか出ないFMはHi-Fi音源とは見なされなくなり、
SONYなど一部のメーカを除いては、
かつてのような丁寧な作りのFMチューナは作らなくなった。
イージリスニングや車の中で聞くため、
DJによるリクエスト番組が多くなった。
しかしかつてはアナログレコードとFMの音質の差は
決定的ではなく、またレコードも気安く買えなかったので、
FM番組を録音する「エアチェック」が広く行なわれていた。
そのため新譜をまるまる一枚掛けるような番組も
多かったのである。
多連バリコンを使わないPLLシンセサイズドFMチューナは、
1976年にオーレックス(東芝のオーディオブランド)
が初めて発売した。
しかし1983年の段階では、技術者の間では知らず、
オーディオファンの間では、デジタル化に伴う
雑音やチューニングの問題が完全に解決されていないとして、
アナログチューナの生産中止は時期尚早であると惜しまれたのである。
この年アナログFMチューナは完成の域に達し、
そして消えていった。
アナログFMチューナはバリコンの数でランク付けされる。
バリコンが多いほど、選択度や妨害排除能力に優れるとされた
からである。
FMラジオでは3連まで、
オーディオチューナと名乗る以上は5連が普通、
高級機種では7連, 9連もあった。
選局ダイヤルにはフライホイールが付き、
糸をとり回して周波数指針とバリコンを動かす。
美しく照明された周波数メモリと
ダイヤルを回した時の感触は、
中級機種でも今日では考えられないほど
重厚さがあった。
TRIOのアナログチューナ
TRIOは今のKENWOODである。
KENWOODは現在ではもはやHi-Fi機器メーカというより、
カジュアルオーディオメーカであり、
廉価版FMチューナしか出していないが、
当時は通信機で培った信用により、
もっともブランドイメージの高いアンプ、FMチューナを作っていた。
'76年のパルスカウント検波の開発により別格の地位を得、
それはデジタル化されても'90年代に入るまで続いた。
- KT-9700
1976年発表、定価150,000円
初めてパルスカウント検波を搭載したFM専用チューナ。
音の良さとともに、これまで民生用に発売された
どんなチューナよりも高かったので、皆びっくりした。
パルスカウント検波回路がディスクリートで組まれて
いたため高価になったと聞いている。
唯一の欠点は同調がずれた時に雑音が多いことであった。
- KT-9900
1978年発表、定価200,000円
KT-9700の改良版。
外観はほとんど同じアルミシルバーパネルである。
- L-01T
1980年発表、定価200,000円
高級な位置づけのLシリーズの一員として発売されたKT-9900の
後継機。
艶のあるブラックボディ。
- L-02T
1982年発表、定価300,000円
今日でも中古市場で高価に取り引きされる、
FMチューナの最高峰。
これ以下の機種は、アナログチューナの終焉まで続いた。
艶消しのブラックボディ、端正で作りの良いデザイン。
- L-03T
1982年発表、定価120,000円
L-02Tの弟という位置づけのFM専用チューナ。
匡体はKT-1100/2200と同じで、ただ色がブラックになっている。
- KT-990
1981年発売。定価49,800円
検波回路が集積されて、パルスカウント検波が低価格機種に
採用されるようになった。KT-990はその中でも最廉価機種だが、
ちょっと歪みっぽくてあまり良くなかった。
バリコンが4連で、マルチプレックスまわりが簡素化されて
いたのが良くなかったのだろうか。
薄型匡体。
この頃になると、シグナルメータがLEDになるなど、
アナログチューナにもデジタル技術が少しだけ入ってきた。
- KT-1100
定価74,800円
デジタルチューナのKT-1100Dとは別物のFM専用チューナ。
KT-1100DはTRIOが真面目に作った最後のデジタルFMチューナで、
これもいい製品だ。
- KT-2200
定価99,800円。FM/AMチューナ。
ONKYOのアナログチューナ
オンキョーのアナログ最終世代には、
Integra T-429RとT-427Rの二機種があった。
定価はそれぞれ69,800円と49,800円。
それまでの427/429の改良型である。
パルスカウント検波のような目玉はないが、
ラインナップ中にアナログ、デジタルが混在する中、
通常型アナログFMチューナの集大成として
「スーパーアナログ」と銘打って発売された。
T-429Rは所有しているが、音は悪くない。
別のところで書いた通り、基盤のパターンがTRIOに比べ乱雑。
発熱多く、最上段に置かないと発熱で顕著な周波数ドリフトを起こす。
YAMAHAのアナログチューナ
ヤマハは不思議なメーカである。
品のあるデザインでかなり高級な製品も出しているのだが、
作りを見ると正直いってその割に底深い技術力があるとは思えない。
しかし、音は割合まとまっている。
ほとんど企画センスで喰っているのではないか。
T-2という99,800円のFMチューナがあった。
これは、アナログなのに5局プリセットが可能、
つまり、モータが付いていて、プリセットボタンを押すと
「バン!」とびっくりするような音を出して、
選局ダイヤルが回り出すのである。
SONYのアナログチューナ
今日の様に高額海外ブランドがもてはやされる今日では、
SONYは、カジュアルオーディオの量産ブランドと
見なされがちである。
しかし、SONYは初めてオールトランジスタのHi-Fiアンプ
TA-3120Fを完成させて以来、
値段と内容の双方に納得できる丁寧なオーディオ製品を
作り続けている。
1970年代にはFシリーズとセットのFMチューナ
ST-5000FはFMチューナの基準的存在だった。
しかし、アナログチューナへの拘りは薄く、
1980年台の初めからさっさとデジタル化してしまった。
現行製品のST-SA5ESは今では珍しい真面目に作られた
FMチューナ(デジタル)である。
値段は55,000円と高くないが、
IC化が進んだ今日では、これが最高級機種なのである。
おすすめ。