パソコン元気化計画

 

2005年2月(武蔵工業大学教育年報第15号より再録)

 

工学部コンピュータ・メディア工学科 志田晃一郎

 

1.はじめに

 

 メーカー製のパーソナルコンピュータはいじれないから,古くなったら買い換えるしかないとお考えですか.かならずしもそうではありません.ハードウェア,ソフトウェアの元気化(チューンナップ)によって2年くらいの延命はじゅうぶんできます.

 2005年はPC元気化の好機です.そのわけは,まずIntel社と AMD社のはげしい競争により単一CPUの性能がほぼ限界に達したことです [1].2004年一年間で処理性能はわずか二割の向上に留まり,2005年の伸び率はほぼ0の見込みです.新型が速くならないので旧式PCも見劣りするまでより長く使えるようになっています.次に,半導体の進歩よりも性能競争のペースが速かったため発熱が増えてしまったことです.Intel Pentium 4やAMD Athlon64といった最新CPUでは,わずか約一センチ四方のシリコンチップから100W以上発熱するようになり,過熱しやすく安定稼働が脅かされるほどです[2,3].旧世代のPentium 3プロセサならせいぜい30Wくらいで,使いやすい上に省エネルギーです.性能は最新型にかないませんが,事務仕事なら2006年いっぱいはPentium 3で充分使えるはずです.このあとの節では,まず実例を二つあげて元気化の手順を説明し,その後一般論を述べます.

 

2.NEC MATE MA40H/Cの例

 

 工業デザインの仕事をしている友人が,古くなった会社の備品PCを自宅に引き取ってきました.それを元気にするのを志田が手伝うことになりました.まず技術資料を手に入れましょう.メーカーと正確な型番を調べてもらうとNECのMATE MA40H/Cだそうなので「NECパーソナル商品総合情報サイト」である121ware.comにアクセスして,「サポート」メニューの中の「過去の商品情報」を選びます.すると商品情報検索のページに行くので,型番を入力して検索するとこのPCの情報が得られます.発表は1999年5月13日だそうです.このとき2003年8月でしたので約4年経っていたことになります.さらにリンクを探すとスペック表もでてきました.

標準状態ではIntel Celeronプロセサの400メガヘルツ版がSocket 370というソケットに装着されていること,メモリは標準32メガバイトで最大256メガバイトまで搭載できること(メモリカードは2枚まで),チップセット(後述)はIntel 440ZX-66,ハードディスクドライブ(HDD)は6.4ギガバイトであることなどが分かります.また「ダウンロード」メニューから検索すると製造終了後の2000年9月22日にWindows Me対応のためのソフトウェア・モジュールがいくつかリリースされています.より速いCPUに交換できるよう,マザーボードBIOS(後述)だけは新版を入れたいと思います.次に同時期の他のモデルをチェックします.同じマザーボードを使ってCPUやHDDなどを変えてシリーズ化することがあるからです.シリーズ化されていればその中の最高機種と同等まではいけるという目安がえられます.しかしながらPentium 3 550メガヘルツという速いCPUを使っている上位機種のMA55J/Cは,マザーボード上のチップセットがIntel 440BXであって共通性がないことが分かります.次に前後の世代の同じ筐体の機種も調べます.前の世代では1999年1月に発表されたMA36H/Cという機種が見つかりましたが,これは同じCeleronプロセサでもSlot 1というカード型のもので互換性がありません.次の世代は1999年10月に発表されたMA46H/Cです.プロセサはSocket 370のCeleron 466メガヘルツですが,チップセットがIntel 810となっておりこれまた別物ということになります.つまりこのNA40H/Cは仲間のいないこれっきりの機種なのです.共通性のある機種が少ないと元気化の選択肢が限られてしまうのは避けられません.

さて,情報が揃ったのでいよいよ元気化計画を立てます.あとで述べるPC性能の三要素,プロセサ,メモリ容量,HDD容量のうち,HDDは友人の希望によりそのまま使うことにしました.メモリ容量は最大の256メガバイトまで増やしましょう.168ピンのPC66 SDRAMという規格なので,友人がそれまで使っていたマッキントッシュの128メガバイトメモリ2本が移植できそうです.CPUについては注意が必要で,Socket 370用のCPUには三種類あります.一つはこのパソコンに元からついているのと同じPPGAパッケージのCeleronプロセサで,最高533メガヘルツまでです.二つ目は533メガヘルツから1ギガヘルツまでのCeleronとPentium 3が採用しているFCPGAパッケージで,シリコンチップが表面に見えています.三つ目は1ギガヘルツ以上のCeleronとPentium 3が採用しているFCPGA2パッケージで,ピン配列の一部が異なっているため以前の機種には付きません.Pentium 3を使いたいところですがNA40H/CはPPGAパッケージのCeleron専用のようです.「じゃんぱら」という中古部品を扱っているショップのウェブ(www.janpara.co.jp)にアクセスして在庫を調べてみると,ちょうど新宿店にCeleron 500メガヘルツがあるようなので,友達の家に行く前に買ってきましょう.

友達の家に着いたら,まずNECのパソコンを起動して先に調べたマザーボードBIOSをダウンロードし,手順書どおりにBIOSを新版に書き換えます.終わったら電源を切り電源プラグも抜きます.つぎにマッキントッシュの電源プラグを抜き,箱を開けてメモリを取り出します.NECの箱を開けて,いままでついていたメモリを外してマックから抜いたものに交換します.つぎにCPUに装着されている電動ファン付きヒートシンクを外し,元のCPUをソケットから外して買ってきたCPUに取り替え,ヒートシンクを付け直します.これでCeleron 500メガヘルツ,メモリ容量256メガバイトのマシンに変身しました.ウェブブラウザや電子メールには十分な速さになり,MS Officeもそこそこ使えるようになりました.その後友人から聞いた話では,会社に残っているPCを同じように元気化してまた使おうかと検討しているそうです.人件費を計算すると手間をかけるより新しいのを買ったほうが安いという議論があって,大企業では社員がPCに手間を取られるのを喜ばないことが多いそうですが,中小企業ではまた事情が違うようです.その後一年半たった今も快調に使えています.しかも古いマックに引き取り手が現れたそうです.費用は中古CPU代1,260円なり.

 

3.富士通 FMV-6667ML6cの例

 

 二番目は情報メディア学科の吉田研究室にしばらく放置されていたものです.HDDのCドライブがいっぱいになって動作がとても遅くなってしまったのです.富士通のサポートサイトwww.fmworld.netでFMV-6667ML6cを調べてみますと,法人ユーザ向け機種のサポート&サービスページに2000年冬モデルとして記載されていました.2000年10月発売で,元気化の時期は2005年1月なので例1と同じく4年経っています.また2001年上期モデルFMV-6766ML7cと2001年下期モデルFMV-6900ML8cは同シリーズのようです.当時のカタログから,発売時のスペックはCPUがFCPGAパッケージのCeleron 667,メモリが標準64メガバイトで最大512メガバイト(メモリは2枚まで),チップセットはIntel 810E,HDDは容量20.4ギガバイトと分かります.現物に当たってみるとメモリ128メガバイト,HDD40ギガバイトにカスタムメイドされていました.BIOSも2003年7月24日公開のR1.10になっています.動作が遅い理由は,40GBのHDDのうち4GBしかCドライブに割り当てられておらず残り容量が20%を切っているためと考えられます.それなのに34ギガバイトあるDドライブはほほ空のままです.そこでメモリはフル実装に,CPUはフロントサイドバス100メガヘルツ以上のものに,HDDはNorton PartitionMagicというソフトウェアを使ってC,Dドライブを併合してしまう,という計画を立てました.

 秋葉原に行って何件か中古パーツショップをまわり,256メガバイトのPC133メモリが二本で6,360円,CPUはFMV-6900ML8cと同じCeleron 900を1,500円で手に入れることができました [4].PartitionMagicが一番高くて8,980円でした.翌日研究室に行ってCPUとメモリを交換し,40ギガバイトHDDのすべてをCドライブに変換しました.ここまではうまくいって動きがすっかり軽くなりましたが,一つ問題が出ました.新しいと思っていたBIOSが実は2000年10月時点のものでCeleron 900に対応していないのです.立ち上げ時に警告メッセージが出たらF1キーを押すと問題なく立ち上がるのですが画龍点晴を欠いています.しまった,別の店にあった3,980円のPentium 3 933の方がよかったか…と冷や汗をかきながらSandra2005というユーティリティソフトでシステム情報を表示させてみると,マザーボードの型番がFujitsu-Siemens D1170とでています.しめた,マザーボードの型番が分かれば情報が得られるかも…と今度はYahooで検索しますと,この型はシーメンスでも売られていたらしくドイツのサイトに2001年8月6日付けのBIOS R.1.17が掲載されています.さっそくダウンロードしてBIOSを更新すると,普通に立ち上がるようになりほっとしました.これで2001年型から2002年型へ一歳若返ったことになります.費用はソフト込みで16,850円でした.

 

4.元気化の考え方

 

 PCの性能は,三本柱で決まります.それは,

(1)      よいCPU,

(2)      十分なメモリ容量,

(3)      余裕あるハードディスク,

です.三本柱はそれぞれ改良されていきますが,進歩の速さが違うため時期によってシステム構成のバランスが変わってきます.今から5年前2000年春のメーカー製PCはCPUのクロック周波数500メガヘルツ,標準メモリ容量64メガバイト,HDD容量10ギガバイトくらいが普通でした.2005年春にはCPU性能は5, 6倍になっただけですが,メモリは8倍の512メガバイト,HDDは20倍以上の250ギガバイトくらいが普通です.よって元気化の優先順位は,現在のバランスに近づくようHDD,メモリ,CPUの順と考えるのがよいでしょう.

実際にはメモリを増やすのが一番簡単です.ほとんどのPCでユーザがメモリ増設できるようになっており,説明書にやり方や最大メモリ容量などが書いてあるはずですからから,ぜひチャレンジしてください.望ましいメモリの容量はWindows 98/Meで128メガバイト以上512メガバイトまで,Windows2000/XPでは256メガバイト以上です.これより少ないとHDDのアクセス頻度が増え,目に見えて動作が遅くなります.メモリにはいくつか規格がありますが,とくに純正メモリでなくてよく,ショップでPCのメーカーと型番を告げれば対応するものを出してくれます.新品の値段は256メガバイトで三千円台です(2005年2月現在,以下同じ).発売時にメモリを増設すると数万円かかったものが,今ではけた違いに安くなっています.中古品の流通も増えており,古めのPCの場合にはむしろ中古メモリのほうが合うこともあります.そのときは自分で対応するメモリの規格を把握してから店に行くことになります.

 次にハードディスクドライブ(HDD)です.WindowsではCドライブの空きが20%以下になると急激に動作が遅くなってきます.メモリ増設で多少よくなることもありますが,根本的にはCドライブの空きを増やすことです.その方法はメーカーのQ&Aにもよく取上げられているとおりで,(1)「ディスクのクリーンアップ」を実行する,(2)使わないソフトウェアはアンインストールする,(3)Dドライブがあればデータをそちらに移す,などです.それでも十分でないときは例2のようにPartitionMagicなどのソフトウェアを使ってCドライブとDドライブを合併するか,HDDを大容量のものに取り替えてしまう手があります.自分で交換するとメーカー保証がなくなると心配ですか?でも保証期限はとっくに過ぎていますし,どっちみち元気にならなければ使えないのです.

先ほどでてきたマザーボードBIOS(Basic Input/Output System)というのは,電源を入れると最初に実行されるプログラム(ファームウェア)で,ハードウェアを初期設定し,HDDからオペレーティングシステムを読み込んで制御を引き継ぐまで働きます.マザーボード上のフラッシュメモリ(デジタルカメラで使うのと同種)に格納されていて,電源を入れてすぐDeleteやESCキーなど(説明書参照)を押すとBIOSの設定画面が現れます.新しいCPUやHDDを付けられるかどうかは,BIOSで決まるといってよいほど大事な要素です.BIOSはマザーボードごとに専用ですが,不具合を直したり新しいデバイスに対応したりするため,PCの発売後しばらく経ってメーカーのサポートページに新版が掲載されることがあります.チップセットとは,CPUとメモリやUSBポートなど入出力デバイスとの仲立ちをするための周辺回路をまとめたチップで,これもマザーボード上にあります.チップセットによって使えるCPUの組み合わせが決まります.

HDDはすごい勢いで大容量化したので,古いPCでは大きいHDDに対応できないことがあります.「33.8GBの壁」とか「137GBの壁」と呼ばれるものですが,詳しくはこのキーワードでインターネットを検索してください.33.8GBの壁にぶつかるPCでは,(1)大容量HDDに対応した新しいBIOSに更新する,(2)それ以上の容量のHDDをジャンパピンの設定で32ギガバイトモードにして使う,という方法があります. 2005年の元気化では120ギガバイトのHDD(八千円前後)をお勧めします.テレビ録画でもしない限り120ギガバイトでも持て余します.中古HDDもありますが,高速回転するものですから新品のほうが安心です.HDDを取り替えたら新規インストールして新しく環境を整えるのもいいですが,Norton Ghostのようなソフトウェアを使って前のHDDの内容をそっくり新しいドライブに複製することもできます.

 

5.CPU交換について

 

メモリやHDDの足かせが取れてもまだ遅く感じるならCPU交換を検討しましょう.2005年の時点では,おおむねPentium 3 500メガヘルツ以上に相当するCPUならば事務処理にはまずまず使えると思います.Celeronは同じメガヘルツでも性能が劣ります.取り替えてもこのレベルに達しないPCは買い替えをお勧めします.CPU交換でどれくらい速くなるかというと,例1ではCPUクロック周波数が25%上がりましたが,周辺回路がそのままですので実質二割以下,性能アップを感じられるぎりぎりの線でしょう [5].例2ではCPUクロックとフロントサイドバスの両方が上がっていますので実質三割向上し,最新型との性能比は4:1から3:1にまで縮まりました.かなりうまくいったのはPentium II 350をPentium 3 600に取り替えた例です.Intel社はあまり大幅に元気化できないよう(?)頻繁にCPUやチップセットの規格をかえています.

 PCにより高速なCPUが取り付けられるかどうかには,五つの条件があります.(1)ソケットが適合すること.Pentium 3にはSlot 1とSocket370という二種類のソケットが,Pentium 4にはSocket423,Socket478,LGA775の三種類があり,形状が違えば付きません.(2)チップセットが適合すること,たとえば440ZXチップセットは100メガヘルツまでの周波数でPentium 3/Celeronとデータをやり取りしますから133メガヘルツでやり取りするPentium 3は定格どおりの周波数では動きません.(3)BIOSが適合すること.原則としてBIOSの日付よりあとに発売されたCPUは使えないと考えてください.ときには別のCPUと誤認識するが動作はする場合や,まったく問題なく動作する場合もあります.(4)CPUへの供給電圧が適合すること.Pentium 3には2.0ボルトから1.45ボルトまで種類がありますが,古いマザーボードが新しいCPUの電圧にあわせられないことがあります.(5)筐体が開けられてCPUにアクセスできること.モニタ一体型など内部が密につまっているPCでは,ケースを開けることが難しかったり,冷却方式が独自なため市販のCPUが取り付けられなかったりすることがあります.

 

6.おわりに

 

 最後になりましたが,今回素材を提供してくださり,秋葉原まで買い物に付き合ってくださった情報メディア学科の吉田国子助教授に感謝します.元気化では,とにかくメーカーのサポートサイトを最大限利用してPCのスペックをよく把握することが鍵になります.古いPCに頭と手間ヒマを投入して,ただの大量生産品から一点モノの技術工芸品に昇華させましょう.グッドラック!

 

[参考]

1.      W. W. ギブス,マルチコアチップ―インテルの新戦略は成功するか,日経サイエンス, 32(2005), No. 2, pp. 98-102.

2.      http://www.intel.co.jp/.インテル社のCPU,チップセットの情報はこちら.

3.      http://www.amd.com/ja-jp/.アドバンスト・マイクロ・デバイス社のCPU,チップセットの情報はこちら.

4.      http://pc.watch.impress.co.jp/.新製品情報が速い.海外のサイトに引用されることも多い.

5.      http://www.tomshardware.com/.PCの自作や改造に関する情報がもっとも豊富な英語サイト.