Intel Pentium4/Celeronプロセサ換装ガイド

19/Aug/2006初稿

志田晃一郎

 

1. はじめに

 2006年7月Intel Core 2 Duoプロセサが発売されてNetBurstアーキテクチャのPentium 4/Celeronプロセサは五年間続いた主役の座を明け渡した.これまでに発売されたNetBurst系CPUは資料からわかるものだけで270種類以上あるが,これらについてまとめる時期が来たといえよう.この文章では,NetBurst系CPUを搭載したPCの延命を目的としてCPU換装の計画と実行について論じる.NetBurstプロセサの交換を試みる理由は大きくいって二つある.

 

l         上級のP4と普及価格のCeleronの二種類があるが,CeleronはP4とほぼ同じ回路を使いながらわざと性能が出ないように細工したものである.同じクロック周波数ではCeleronのほうが三割方遅いのに消費電力はほとんど変わらず,効率が悪い.最新型だった頃にはCeleronとP4には3倍以上の価格差があったが,今日ではP4もうんと安くなっているので,P4に取り替えれば処理性能がアップして長く使える.

l         NetBurstアークテクチャは発熱の多いCPUとして知られている.ケース内が高温になると,保護回路が働いて性能ががっくり落ちることがあり,また電子部品が劣化してPCの寿命が短くなる.これを避けるためにより消費電力の少ないCPUに取り替えれば安心である.

 

 

2. 準備1:不満な点をはっきりさせ,ボトルネックを特定する

 

 まず,対象PCの何が不満なのかをはっきりさせる.

 

l         ウェブやOfficeアプリケーションなどのGUIアプリケーションのレスポンスが不満,

l         動画や3Dグラフィックスなど時間のかかるプログラムを,短時間でできるようにしたい,

l         時間のかかるプログラムを実行中にシステムが不安定になるのを何とかしたい.

1,2番目に該当するなら速度向上,3番目なら消費電力を減らすのが目的となる.

 つぎにCPU以外の要素がボトルネックになっていないか調べる.

 

l         無駄なプログラムやサービスが動いていないか.Windows XPとウイルスソフトのファイアウォール機能が重複して起動してあったら片方を止める,視覚効果をオフにするなど.

l         主記憶容量は十分か.Windows XPで512MB未満なら増設が先である.

l         ハードディスクがフラグメント化していればデフラグをかける.また容量の2割以上の空きがあるか.一般にハードディスクは新型ほどアクセス速度も速くなる.

l         ネットアクセスは十分高速か.音声モデムやISDNの人はブロードバンドに変えるのが先である.

 

以上に該当しなければ,CPUの換装を検討しよう.

 

3. 準備2:今のPCについて調べよう

 

3.1 CPUが適合する条件

 

あるPCに適合する別のCPUを探すのは,条件が五つもあるためむずかしいが,その条件と手順を順番に説明する.五条件は以下のとおりである.

 

I.              CPUとマザーボードのソケットが適合するかどうか,という物理的条件NetBurst CPUにはソケット423,ソケット478,LGA775 という三種類のソケット形状があり,合わなければ取り付けられない.

II.           電源部がCPUの消費電力をまかなえるか,という電気的条件.電源ユニットに表示された定格出力や電圧ごとのアンペア数から適合CPUを求めることはむずかしい.また電力はマザーボード経由でCPUに供給されるが,耐えられる電力によってマザーボードがランク付けされている.これをFMBスペックというがメーカ製PCなら表示されていることはあったとしてもまれだろう.同じシリーズに上位機種がラインナップされていれば,それと同じCPUはOKだろうという期待はできる.上位機種がなければ,現在並かそれ以下が条件となる.

III.       CPUの消費電力はすべて熱になるが,その熱をPCが排出して箱の中の温度を限度以下に保てるか,という熱的条件

IV.           CPUが必要とするフロントサイドバス(FSB)周波数をマザーボードが正しく供給できるか,という電子回路的な条件.これはマザーボード上のチップセットと呼ばれるLSIによって決まる.

V.              CPUの種類をマザーボードが正しく認識できるか,という論理的条件NetBurst CPUはCPUIDという固有の番号をもつ.CPUIDが同じならクロック周波数やキャッシュ容量など他のスペックが違っても同種のCPUと見なされる.逆にまったく同じ仕様でもCPUIDが違っていれば別のCPUと見なされる.あるCPUが認識できるかどうかは,マザーボードがもっているBIOSプログラムにそのCPUIDに関する情報があるかどうかで決まる.新しいCPUIDをもつCPUが後から発売されても,BIOSがそのことを知らなければ使えないのである.ときどき,メーカのサポートページに在来機種用の新版BIOSが掲載されることがある.これのリリースノートを読んで,新しいCPUに対応していることがわかればしめたものである.今までのCPUを使って,これをダウンロードしマザーボードに書き込んでやれば,新しいCPUが使えるようになる.

 

3.2 今使っているPCの詳しい情報を知ろう

 CrystalCPUIDとSiSoft社のSandra 2007 Lite SP1という二つのフリーのユーティリティソフトウェアを使うと,PCのケースを開けなくても必要な情報を表示させられる.CrystalCPUIDのダウンロードは http://crystalmark.info/ から,SiSoft社のSandra.2007.Liteは http://www.sisoftware.co.uk/ からできる.ただしバージョンは2006年8月時点であり,読者がアクセスしたときにはバージョンが変わっているかもしれない.まずはCrystalCPUIDを入手して起動してみよう.

 

図1.CrystalCPUID 4.8.2.310の起動画面.

 

 図1がCrystalCPUIDの起動画面である.CPU Name欄より装着されているCPUがHyper Threading対応Pentium 4であること.Code NameよりコアのコードネームがNorthwoodであること,クロック周波数が2.6GHzで,Family 欄よりCPUIDがF29hであること,主メモリが1GB積まれていることがわかる.つぎにBIOSの情報を得るためプルダウンメニューのFunctionからBIOS Informationを選んでみよう(図2).

 

図2.BIOS Information画面

 

これをみるとマザーボードがCPUと同じインテル製のD865GBFであること,BIOSは2004年4月21日に作成されたものであることがわかる.これらの情報は後で新BIOSを捜索するときの助けになる.さらに物理形状がSocket478かLGA775かの区別,FSB周波数,チップセットの情報を得るため,Sandra 2007 Liteを起動してみよう.

図3はSandra 2007の起動画面で,「ハードウェア」タブを選んである.「処理装置」アイコンをダブルクリックすると図4のような新しいウインドウが開くが,下段の青い矢印2本が描かれたボタンを押すと,情報が取得されて表示される.機材の都合で図3に示したのはPentium Mという別のCPUの表示例だが,「パッケージ」の行をみると,物理的条件であるソケット形状がわかる.ここでFCμPGA479Mと表示されているのはフリップチップパッケージのソケット479M の意味である.NetBurstなら,それぞれFCPGA423, FCPGA478, LGA775のように表示される.

その次の「RatedSpeed/FSB」欄からはこのCPUのクロック周波数が1.7GHzであることと並んで,電子回路的条件である現在のFSB周波数が4x100MHzで公称400MHzであることがわかる.これで三つの条件の現状を得た.つぎにチップセットを知るため「メインボード」画面をみてみよう.

 

図3.SiSoftware Sandra 2007 Liteの起動画面.

 

図4.SiSoft Sandra 2007 Liteの「処理装置」の画面.

 

図5は「メインボード」の画面である.「チップセット1」の下の「モデル」欄をみると IBM82855PM Host-Hub Interface Bridgeとあり,このPCのチップセットが通称「i855PM」と呼ばれるタイプであることがわかる.さらに最大FSB周波数が4x100MHzとなっているから,FSB400MHzのCPUしか使えないことがわかる.またメモリは最速2x166MHzすなわちDDR333とかPC2700よばれるメモリモジュールが使えることがわかる.先ほど調べたD865GBFというマザーボードではチップセットはi865で,FSBは400から最大800MHzに対応していることが表示される.チップセットの種類は,PCのカタログの仕様表にも記載されている.

 

図5.メインボード画面からチップセットについての情報を読み取る.

 

3.3 対応できるCPUを求めよう

 

 つぎにチップセットが対応しているCPUIDを調べよう.今の例ではマザーボードの型番がわかっているので,インテルのトップページ http://www/intel.co.jp からD865GBFで検索をかけると図6のような結果が表示される.読者が検索するときには結果が異なるだろうから,適当に推理してほしい.

 図6の4件目「搭載可能なプロセッサ」を開くと,図7のようにCPUのリストが現れる.これをみると周波数にAEがついているPrescottコアのP4や画面外になるがCeleron Dも条件を満たせば搭載できることがわかる.その条件は,

 

図6.マザーボード製品概要に記載された対応CPU表.

 

l         対応BIOSのバージョンがPrescott P4ならP13,Celeron DならP18以上.

l         マザーボードのリビジョン・ナンバがC2***-405以降であること.リビジョン・ナンバは,ケースのふたを開けて,マザーボード上面に貼り付けられているバーコード・ラベルに書いてある.

さて,現在のBIOSバージョンを知るには,図3に戻ってSM BIOS欄をみる.BF86510A.86A.0061.P17.0404211558とあるのでバージョンP17だとわかる.

 

3.4       チップセットの仕様の見つけかた

 

チップセットの型番から,どうやってその仕様を確かめたらいいだろうか.マザーボードのマニュアルがなければ,直接チップセットの資料に当たる必要がある.Intelチップセット製品なら http://www.intel.co.jp/jp/products/chipsets/index.htm から入手できる(図8).

メーカ製PCでよく使われるSillicon Integrated System社のチップセットなら,

 http://www.sis.com/products/product_000001.htm から入手できる.

 

図7.D865GBFに対応するCPUの表

 

 

4. BIOSをアップデートしよう

 

4.1       インテル製マザーボード D865GBFのBIOSアップデート

 

新しく付けたいCPUが今のバージョンのBIOSでサポートされていることがわかれば,BIOSのアップデートはしなくてもよい.ここでは説明のため最新のBIOSに上げてみよう.図7の検索結果に戻って上から3番目のTop Technical Issueを開いてみる.すると図9のように「最新BIOSのダウンロード」メニューが見つかる.

 

図8.Intel チップセットのウェブページ

 

図9.インテルデスクトップ・ボードD865GBFのページ中ほど

 

ここを開くと図10のようなダウンロード画面になる.三種類あるが普通はWindowsからインストールできる三番目を使う.おっと,その前に「リリースノート」をダウンロードしてから現在のバージョンP17から最新BIOS P25 からの New Fixes/Features欄の変更点を追っておこう.この例はマザーボード単体の製品なので説明書が充実しているが,メーカ製PCでは搭載可能CPUリストなど存在しないのでここで調べるしかない.納得がいったら,あとは図10の画面からExpress BIOS P25をダウンロードし,図9にリンクのある「Express BIOS アップデート・ファイルでの作業手順」に従って作業する.

 

10.最新BIOSのダウンロード画面.

 

4.2       メーカ製PCでのBIOSアップデート:Lenovoの例

 

 メーカ製PCは買ったときの状態で使うことを前提としているので,BIOSはまったく更新されないか,バグ解消のために一、二度行なわれるだけのことが多い.その中でLenovo (旧IBM PC)は積極的に新BIOSをリリースするメーカである.たとえば、NetVista A30p 8311-95Jという機種についてダウンロード・ファイルを検索すると、BIOSアップデートユーティリティ Ver. 24KT55Aが見つかる(図12).このPCはFSB533MHzのNorthwoodプロセッサ(CPUIDはF27h)を搭載している.チップセットはi845GでFSBは400/533MHzに対応している.

 

図11.BIOSのリリースノート.以前のリリースからの差分が説明されている.

 

導入手順書24jt551.txtをみると次のような記述がある.バージョンが上がる順に抜粋すると:

24JT17A - Initial Production Release

24JT24A - Add processor patch for 0F27 to ROM; Remove patch for 0F21

24JT42A - Update Processor patch for 0F29 to file released 04/14/2003

24JT54A - Add an Intel errata patch for the microprocessor firmware to adress

The IDs of the affected microprocessor are 0F29.

などの記述が目に付く.これらからわかることは,IDがF21hのCPUを使いたいときは24JT24Aより前のBIOSを使わなければならないこと、F29hのCPUを使う場合は24JT54A以降を使わなくてはならないことである.

 

図12. IBM (Nenovo) NetVista A30pのBIOSダウンロードページ.

 

実験してみると、最新の24JT55A BIOSでは、F24hのPentium 4 1.6A GHzは起動せず、F29hの2.26GHzは起動した.後で調べるSpecification UpdateによるとF21hというCPUIDの製品は存在せず,F24h, F27h, F29hの三種類である.ここから先は推測だが,出荷前のサンプル版CPUにはF21hというリビジョンがあったが製品版としては出なかったのではないかということと,F29hのパッチを導入したときにF24hのパッチも削除されたかもしれない,ということである.Lenovo (IBM)が更新BIOSの提供に前向きなのは,同じマザーボードを使ってCPUやメモリなどを新しくした製品を2,3世代に渡って作りつづけるためだと思われる.A30p 8311というPCは2003年3月発売で,はじめはP4 2.4AGHzを搭載していたが後に2.53GHzが追加され,カタログには載っていないが2.66GHzのモデルも出荷されている.アップグレード性という視点からはプラットフォームを不必要に変えない方針は好感がもてる.

 

4.3       SOTEC PC Station PV2270Cの例

 

 三番目の例として,SOTEC PCStation PV2270Cという機種を取上げよう.これはCeleron 2.7GHzを搭載したスリムフォームファクターのモデルである.ソーテックのウェブページからダウンロードページにいきPV2270Cを検索すると,図13のページに新BIOSが載っている.ところがこれには2004年7月15日という日づけとバグ修正のみでCPUのことは何も書いていない.こういうときには,筆者が用意した Pentium 4 CPUの一覧表 http://home.att.ne.jp/wave/shida/computer/completeP4.htm (図14)でCPUの発売日を確かめるとよい.というのは,新しいBIOSは記載がなくても新CPUに自動的に対応していることがあるからだ.Socket 478でFSB533MHzのCPUに注目すると,ステッピングF29hのPentium 4は2003年5月頃発売になっており対応しているのは確実である.そのつぎのPrescott F33hは2004年2月発売になっているからBIOSの日づけからは使えそうである.だがもう少し注意深くソーテックPCのラインナップをみてみると,後継機種と思われるPV2325ARはPrescottのCeleron Dを搭載しているが,チップセットはVIA PM800というまったく別のものに変わっていることがわかる.SiS651チップセットでのPrescott対応の可能性は低いであろう.

 

. 計画をたてる

 

 必要な情報が揃ったら先ほども紹介した図14のPentium 4 CPU 一覧表をみて,欲しいCPUを決める.新BIOSがなくCPUIDを変えたくない場合は同表の「同じCPUID間での交換」を参考にしてほしい.BIOSのアップデートができた場合は「ソケット別交換表」にて,使えそうなCPUIDの中から候補を決める.ただし電気的条件のところで述べたように,熱出力95W以上のCPUは適合するマザーボードのFMBスペックが違ってくるので,よくわからない場合は避けたほうがよい.

 

図13.ソーテックPV2270Cのドライバ/BIOSダウンロードページ

 

6.      CPUを手に入れる

 

CPUはわりあいモデルの入れ替わりがあり,1年くらいで消えてしまうモデルが多い.そのため候補を挙げても新品で買えるとは限らず,中古で探すことになる場合が多い.中古パーツを扱うお店は増えており,秋葉原で中古CPUをあつかっている大手はじゃんぱら http://www.janpara.co.jp/ ,九十九電機 http://shop.tsukumo.co.jp/ ,ソフマップ http://www.sofmap.com/ などがあり,オンラインショップでも在庫状況がわかるし通信販売で買える.裏通りの中小ショップでもガラスケースに置いてあるところが多い.Yahoo!オークションにも多数出品されている.ところでCPUの種類やクロック周波数はともかくステッピングを表面のマーキングからどう判定したらいいだろうか(図15).そのためには再びIntelのウェブページへいき図16に示すSpecification Updatesという資料を入手する.CPUの表面にはSで始まる5文字の記号(S Spec)が記されている.これを資料の一覧表(図17)と照らし合わせることにより,そのCPUの素性がわかるのである.店頭では Specification Updatesに記載されていないCPUを発見するかもしれない.PCメーカの別注品であろうか.

 

図14.筆者が用意したPentium 4 一覧表

 

CPUが売られる形態にはリテールパッケージとバルク品の二種類がある.リテールパッケージは箱入りでヒートシンクと送風ファンがセットになっているが,バルク品はCPUのみで安い.メーカ製PCでは,もともとPCに装着されているヒートシンクとファンを流用できるからたいていはバルク品でよいだろう.

 

図15.Pentium 4 CPUの外観.上から4行目にSL77SとあるのがS. Spec.

 

図16.Pentium 4の技術資料ページ.

 

17.Intel Pentium 4 Specification Updateより

 

[本文中に挙げた以外の参考資料]

 

1.              インプレスPC Watch http://pc.watch.impress.co.jp/,AKIBA PC Hotline! http://www.watch.impress.co.jp/akiba/.姉妹サイト.PC Watchは日刊で早耳情報が多い.AKIBA PC Hotline! は週刊で新製品情報,価格情報が役に立つ.

2.              Toms Hardware Guide http://www.tomshardware.com/. ハードウェアのベンチマーク記事がもっとも豊富.似たサイトは多いが,ここは1996年開設なので旧製品に関する情報が豊富.