カメラのカタログスペックのナゾ --- 露出編 ---

1998 年 9 月 20 日

付記 (1999/3/10)

Canon から Autoboy Super が S XL として復活した. 1993 年発売され 1996 年に交替した SII の前身である. 6 年前の製品が再発売されるのは珍しい. ズームレンズが 38-115mm F3.6-8.5 で,フラッシュが固定式 (SII は電源 ON でポップアップ)というところが SII と違う. 135mm から 115mm へ非実用的な焦点距離領域を削って厚みを 5mm 薄くし, フラッシュは固定式になり、横幅が 3mm, 重さが 25g 減っている.これは「改良」である. フラッシュをポップアップする意味は,レンズと離すことで 赤目現象を減らすことにあるが,どうせ Flash-OFF にするから関係ない。 最近のペンタックスエスピオシリーズに比べて、幾つかの モードボタンが小さく操作し辛いというところに設計年時の古さが 現れているが、ESPIO115G の 38-115mm F3.9-10.5 に比べて 平均半絞り明るいし、露出計やシャッターも良いものを使っている. 同じ Canon Luna105 に比べるとずっとコストが掛かっている. これは買いだ.

1. EV は電気自動車のみにあらず

僕が、ブリッジカメラ=十分な明るさのズームレンズを一体化した レンズシャッター機に銀塩カメラの未来を見ていることは別のところに書いた。 1990 年頃のブリッジカメラである Olympus ISM330 と、 1998 年現在の望遠コンパクトカメラでもっとも真面目に 作ってあると思われる Canon Autoboy SuperII のスペックを比べていて、 不思議なことに気がついた。 それは、露出自動調節範囲の二通りの表示についてである。 絞りと露出時間から EV 値に変換するには、
(EV値) = 2log2(F値) + log2(秒),
とすれば良い。 これにより変換したものと、カタログスペックの抜粋を以下に記す。

ISM330Autoboy SII
焦点距離38mm〜105mm38mm〜135mm
F値4.5〜63.6〜8.9
広角での露出計連動範囲 F4.5 2秒〜F16 1/500秒 F3.6 4秒〜F15 1/1200秒
同 EV 値(上から計算)3.3〜17.01.7〜18.0
同 EV 値(カタログ値)3.4〜171.7〜18
望遠での露出計連動範囲 F6 2秒〜F18 1/400秒 F8.9 4秒〜F36 1/1200秒
同 EV 値(上から計算)4.2〜17.04.3〜20.6
同 EV 値(カタログ値)4.4〜174.2〜21
レンズ構成11群12枚9群10枚
ファインダ倍率0.35〜1.05倍0.46〜1.44倍
本体重量620g345g
発表1990年1996年
定価(当時)62,000円62,000円

不思議なこととは、ISM330 の低照度側連動範囲は、 F 値と露出時間から計算した EV 値 (Exposure Value: 露出指数) が、 表示 EV 値より 0.1〜0.2 小さいことだ。 この謎を解く鍵は、カタログ表示値に許された公差 5% にあった。 焦点距離や解放 F 値の表示には、 5% の誤差が許される、 という歴史的な暗黙のルールがある。 単焦点レンズならなんてことはないこの誤差が、 ズームレンズでは、ちょっとしたトリックのたねになる。 つまり、40〜100mmの2.5倍ズームを 38〜105mm の 3 倍級ズームと 表示できるのである。

一方、素人には EV 値は解釈できないから、サバを読む必然性はなく、 オリンパスが 1/400 秒と 1/500 秒を区別していることから考えて、 2 秒という長時間限界も大体信用できるとすると EV4.4 になる F 値は F6.3 であり、ちょうど長焦点側で開放 F 値を 5 % サバ読んでいると考えるとぴったり合う。 キヤノンの方は、有効数字 2 桁の範囲内でカタログ表示は一貫している。 オリンパスの頭隠して尻隠さずぶりは、メーカのぎりぎりの良心か、 それともキヤノンとの力の差か、どちらに解釈するのもあなたの 自由である。 もちろん、これだけではキヤノンがサバを読んでいないとは断定できない。 実測によるしかないが、残念ながら SII は手元にない。

2. ズームレンズに御用心

昔買った Tamron の 70〜150mm F3.5 ズームレンズは、 何回測っても前玉の直径が 40mm 弱しかない。 F3.5 なら 150/3.5 = 42.8mm 必要な筈で、 40mm 弱なら F3.8 に相当し 5% を越えているが、 焦点距離が 5% 短く、F 値が 5% 暗ければ、前玉径は 10% 節約できるわけで、 これはいわば常套手段なのである。 「カメラ朝日」誌のテスト記事の測定結果などを見れば良く分かる。 一方 テレエルマー M90mm F2.8 の前玉径は 32mm で、公称値とぴったり合う。

さらに話がずれるが、 ズームレンズのもう一つの落し穴は、透過率である。 単焦点 50mm レンズなら 6 群 7 枚で 90% 近くにできる透過率も、 ズームレンズでは 70% 以下しかないものもある。 70% といえば半絞り分のロスであり無視できない。 28-200mm などの高倍率ズームや、F2.8 などの大口径ズームは 15 群 16 枚などというものも普通であるが、一絞り大口径の 高いレンズを買っても実質半絞りしか明るくならないのでは、 投資効果が低い。 カタログには記載がないため、雑誌の測定結果が参照できなければ、 口径や倍率で無理をしていない、なるべく構成枚数の少ないレンズを 選ぶくらいしか自衛手段がない。 枚数が増えるのは、広い範囲の焦点距離や絞り値で解像力を確保 するためだが、フレアが出やすく逆光に弱くなったり、 製造時のばらつきが大きくなったりと、悪影響も大きい。 写真雑誌は、作例が掲載されるためオーディオ雑誌ほど 嘘がつけないのだが、ズームレンズに関しては派手なスペックを 持てはやす傾向があるから惑わされてはならない。

非球面レンズの発展により、ここ数年でズームレンズは急速に進歩した。 35〜80mm などの暗い標準ズームでは 7 枚のもの、 コンパクトカメラのニコンメタルズームではたった 4 枚などと、 暗いながら単焦点レンズと変わらない枚数のものが出てきた。 一方、進歩をズーム比や明るさに振り向けると、 枚数が多くて巨大なレンズができてしまう。 この辺は企画次第だが、商業的に中庸は受けないので、 いろいろあるように見えて実は選びようがないということが起こる。

3. ISM330 vs. Autoboy SII

ISM330 は、ズーミングしても開放 F 値の変動が 1 絞り分と 少なく一眼レフのレンズに近いのに対して、 Autoboy SII は 2.7 絞り分にもなり、望遠側で F8.9 と暗いことから、 実用性よりも望遠倍数を強調する典型的ズームコンパクトであるように、 一見思われる。 このことを、もう少し検討してみよう。

ISM330 は広角側で絞り兼用シャッターが全開にならないようにして、 開放 F 値を押えている。また、シャッターは二枚羽根で 開口が不等四辺形であるため、特に広角側でボケ味が悪い。 この二点は、最近の μ シリーズズーム機などにも共通している。 広角側で絞り開放にならないのは、収差や周辺光量に配慮していると 思われるが、オリンパスはズームの設計が下手なのではないか、 という疑念を招く元でもある。 もっともキヤノンも Luna では 50mm 以下で絞っている。

キヤノンは、望遠側の焦点距離を長く取ったため F 値では不利だが、 レンズの有効径では 16mm 対 15mm と僅差に留まるので、 中焦点では伍格であり、広角域では絞らない分むしろ有利。 非球面レンズの採用で構成枚数も減っているので、 透過率や逆光で多少有利か。 さらに、AE のみで露出設定が分からない欠点はあるが、 リアルタイムレリーズやファインダー倍率がコンパクト機では 比較的大きいことなど、ある程度のこだわりを感じさせる。

国内の雑誌ではほとんど無視されているが、海外の雑誌では、 写真を趣味としない一般の人にとってとても良く写る道具として、 オリンパスの IS-20 (L-20の海外版) とともに、 レビュー記事では必ず推奨機種に挙げられるのも、 こうして検討してみるとうなずけるところである。 一方 SII の気に入らないところは、勝手にポップアップする うざったいフラッシュと、キヤノンは Jet や IXY など カメラの新しいフォルムを創造する力があるくせに、 このモデルでは、コンベンショナルな横型のデザインに拘って、 不細工に伸び縮みする二段沈胴になっていることである。

もちろん、設計年次が違うので直接比較はオリンパスに不利である。 ISM330 と同年代のキヤノン Autoboy JET は 35〜115mm のレンズ付きで、 フラッシュの光量が大きいという利点はあったが、 レリーズのタイムラグは ISM330 より大きかった。 このあたり、オリンパスは現行機種でもあまり改善されていないのに対し、 キヤノンがリアルタイムレリーズに熱心なのはご存知の通り。 オリンパスにおける ISM330 の後継機種は L-20 だと思われる。 重さや大きさはほとんど同じで、一眼レフになり、 ズームが 28〜110mm F4.5〜5.6になっている。

最近一眼レフの標準ズームは、広角側を 28mm あるいは 24mm にまで 拡大するのがはやっているが、広角レンズは望遠レンズよりずっと 使い方が難しく、よほどフットワーク良く被写体に肉薄しないと テーマの分からない退屈で散慢な画面になってしまう。 一方、歪みや周辺光量の減少などから作るのは加速度的に難しくなるので、 大きさやコストを考えて 35mm 程度に押えるのが大人の選択といえよう。 ズームコンパクトで広角側 38mm という焦点距離が多いのは、 問題が大きく出ない限界なのであろうと想像される。 ファインダーを覗くと多少狭く感じられるが、これはファインダーの 視野率が小さいためもあるのであって、ネガには十分な範囲が写っている。 開放 F 値は、ISO400 フィルムを前提として標準レンズで F2.8 あれば、 標準レンズ手持ちで日常の生活空間のものはフラッシュなしで 不自由なく撮れる。 フジの ISO800 ネガカラーは 400 並の画質があるから、 F4 でもいいかも知れない。 そこで、35mm〜105mm F2.8〜4、 妥協しても 35〜90mm F3.5〜4.5 というズームレンズをつけて欲しい。 非球面を生かして構成枚数は 10 枚以下、 できれば 6, 7 枚に押えて欲しい。 重量は電池込みで 500g。 露出情報が分かり、プログラムシフトや露出補正が簡単にできること、 レリーズタイムラグなし、極静音、 勝手にストロボが発光しない、 ズームレンズを握るような前後に長いフォルム、 このようなズームコンパクトが僕の描くプランである。


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