診療レポート
この留学の目的
 ヨーロッパは今一つになろうとしています。EU内の医師の移動はフレキシブルに行われ、アメリカに対抗して、世界をリードしようとして一致団結してきています。乳癌の治療法はこの数年ものすごいスピードで変化しています。そんな中、日本で医師となり、自分の知識や行動(医療行為)が世界に通用するのか、世界に誇れるものなのかを確認するため、また、足りないものがあればそれを補うために、世界の最前線に出ようと思い立ちました。近い将来日本の乳がん治療をリードしたいと大それたことを考えています。また、このホームページなどが日本の医療に対して良い刺激になれば面白いなと考えています。



1:形成外科のスタッフ
 乳腺外科のように数え切れないほど人がいる医局を違って、形成外科は小さいです。以下のスタッフです。医師にとって大変厳しい環境のイタリアなので、正式なスタッフ(助手以上)になるのは大変です。給料もかなり安く抑えられています。また、奨学金付きのフェローも同じく一応採用は厳しいそうです。自分では良く分かりませんでしたが。今度写真を載せたいと思います。
名前は通称です。とても長い人がいるので、、、。()は出身国と出身地です。

教授(フランス、パリ)           プティ
助教授 (ブラジル、サンパウロ州)   マリオ
助教授(イタリア、ベローナ)       ガルーシ
シニア助手(イタリア、ミラノ)       ウンベルト
助手 (イタリア、ベネチア)       アンドレア
助手 (イタリア、ルッカ城壁が有名なToscanaの小都市)   フランチェスカ
フェロー (イタリア、カンポバッソ知ってる?Molise州の州都)アンジェラ
フェロー (日本、水戸)          山口
フェロー(ブラジル、?)          バーバラ
研修医 (イタリア、ミラノ)        シルビア



2:一週間のスケジュール
以下が一週間の僕のスケジュールです。

月曜 手術
火曜 手術
水曜 グランドラウンド(全科の近況報告会)、腫瘍内科のミーティングに参加、手術
木曜 形成外科のミーティング、手術、腫瘍内科・乳腺外科・病理の合同ミーティング(補助療法    検討会)に参加
金曜 手術

土曜 休み
日曜 休み

 実は病棟に常時15人くらいの患者さんがいて包帯交換などをする当番と、外来があるのですが、言葉がまだ不自由なために僕は外されています。ちょっと悪い気がしますが、手術に多く入れるのは逆にいいことだと内心思っています。 (4月24日記)



3:再建手術レポート1(概要)
 一期的再建の場合は患者さんの選択にもよりますが、人工物によるものが多く、その際の選択肢は2つあります。

 エキスパンダー:大胸筋下に挿入し、徐々に膨らまして皮膚に余裕を持たせつつ、良好なカプセル(僕は日本ではポケットと呼んでいた)を形成して、6ヶ月後くらいにインプラントに入れ替える。
 インプラント:はじめから円形、またはアナトミカルタイプと呼んでいる乳房の形に似たシリコンインプラント(コヒーシブタイプという破損時にもむやみに体内に広がらないものを使うことが多い)を大胸筋下に挿入する。

 があります。適応や各々の人工物の特徴などは別のところでまた述べますが、基本的に日本での考え方と大きくは変わりません。ただ、こちらの手術はほとんど原則的に両側の手術です。癌がどちらか一側にあっても反対側も手術します。つまり、乳房縮小や乳房吊り上げを同時に行います。保険的にカバーされているからできる芸当ですが、理想的です。(すべての患者に同じ事を日本で行うのは必要な経費的にも、マンパワー的にも現在は困難だと思います)美容面だけを強調しているわけではなく、反対側を形成外科的に手術をすると、Petitがパリ時代に研究したところによると、4.5%の患者さんに癌が見つかったというデータがあり、そういうデータも反対側手術を後押ししているのかも知れません。また、傷に対する患者さんの考えも違うかもしれません。最終的な形がよければ傷の大きさは不問な印象があります。もちろん小さいにこしたことはありませんが、、、。医師の間では常識ですが、白人の皮膚はきれいに治るので、そういったものも影響しているかもしれません。
 また、一番に驚かされるのは乳輪の色が非常に薄いということです。これは紛れもない事実で、乳輪はないに等しいような患者さんもまま見られます。ですから、医師が自分たちで乳輪を決めてメスを握るというような場面がよく見られます。これは医師側からすると非常に楽です。制限がひとつ減るわけですから。
 ちょっとまとまりがなくなったので今度まとめます。
 



4:乳房手術(再建を中心に)のEIOでの保険事情
 本当の詳細は良く分かりませんが、(ローマの中田医師のホームページに詳しい、リンク参照)EIOにおける現状は大体分かってきました。乳癌患者の乳房手術に話を絞りますと、なんと、全て保険でカバーされています。どういうことかというと、癌の切除手術は当然保険適用。再建術に関しては一期的でも、二期的でも、自己組織でも、インプラントでも、はたまた健康な反対側に対する乳房縮小術や吊り上げ術、乳頭、乳輪再建に至るまであらゆる手術がすべて保険適用ということです。これは非常にうらやましい状況です。ちなみに日本では事実上、患側の自己組織での一期的乳房再建と何故か乳頭再建術のみが保険ででき、それ以外はすべて自費になります。どうしてこんなに違うでしょうか?僕なりに考えてみた理由は4つです。

 1:イタリア人の胸は大きく、片側だけ全摘した後などは、左右差が著しく、精神的肉体的苦痛が大きくなってしまうから。(日本人でも時々大きい人はいますが、、、)
 2:患者数が基本的に多く、歴史的に早期から治療の質の向上に国民が熱心だった。
 3:反対側手術時に癌が見つかることがある(教授のパリ時代のデータでは4.5%)
 4:乳癌治療に関わる医師が政治力があった。(Veronesiなど)

そんなところではないでしょうか。ただ、みんながみんなたくさんの手術を受けられるとはいっても湯水のように人と金がわいてくるわけではないですから、実際の懐事情は大変だと思います。ですから、例えば自己組織の再建術(TRAMや広背筋皮弁など)のように時間と労力がかかる再建術と、インプラント挿入のような比較的簡単な人工物による再建術の値段があまりかわりがないために、特に私立病院ではインプラントによる再建を励行するような事態になっています。近い将来に、通常の乳房切除術後の自己組織による再建術はほとんどすたれてしまうと思います。
 ちなみに、こちらで保険でカバーされるということは無料ということです。一切の負担はなし。



5:乳房手術(再建を中心に)のEIOでの保険事情2
 EIOにおいては、国民保険(Systema Sanitario Nationale, SSN)が適用になった無料の患者さんは7割くらいで、3割は自分の加入している保険を利用した、事実上の自費患者さんです。(一旦は全額負担の後、保険会社が最終的には全額支払いますが、保険料は毎年収めているわけですから)どういうことかというと、イタリアでは全国民が保健で無料で医療を受けられます。ただし、専門医受診は地域の保険医の紹介が必要だったり、自分の住んでいる地域内でなければいけないなど、自由な選択(医師、病院、時期)が利きません。ですから、癌治療など緊急性がないものは、自らが加入している保険を利用して、有名な医師の治療を求めたり、自分の好きな時期に手術を受けたりするわけです。
 無料の患者さんは2人部屋で、自費の患者さんは個室です。その2タイプしかありません。入院から退院まで完全にパックされています。ちなみに食事は、皿などの食器が大きく、それだけで立派に見えます。味のほうは分かりません。入院期間は、多くの自費の乳癌切除やインプラント再建(反対側縮小などを含む)の患者さんの入院期間は4日程度で、無料の患者さんは5日程度です(金銭の負担の大小が関係していると思います)。居住地が近い患者さんに多いのですが、時に、ドレーンをつけたままで退院してもらい、数日後に抜去のために来院してもらうという場合もあります。そういう場合は退院後の処置代は入院代に含まれています。
 日本と比べると、保険で治療を受ける場合は無料という点が大きく違うと思いますが、その分税金はたくさん払っているので(消費税は20%)どちらがいいのでしょうか?乳癌治療に関しては、前にも述べたようにはじめから終わりまで全ての治療に保険が利くという土壌があるのでイタリアもなかなかいいと思います。ただ、病院の選択などは日本は自由で、問題は多々ありますがいい面もあると思います。現時点で個人的にはイタリアは窮屈な印象で、お金のある人にはいいでしょうが、一般の人には日本のほうがいいと思います。観察を続けます。



6:乳房手術(再建を中心に)のEIOでの保険事情3
 保険の続きですが、大まかに保険がきく手技を保険請求用の本から主なものを抜粋しました。驚かされるのはやはり、再建がらみの内容が非常にたくさんあるところです。対して日本では乳房切除と診断的手技のところぐらいしか保険請求できません。

Interventi sulla mammella 乳房の手術
Procedure diagnostiche sulla mammella 診断的手技
  Biopsia (percutanea)(agobiopsia) della mammella 針生検
  Biopsia a cielo aperto della mammella 麻酔下生検
  Quadrantectomia della mammella 乳房4分円切除
  Asportazione del capezzolo 乳頭切除
Mammoplastica riduttiva e mammectomia sottocutanea 乳房縮小と皮下乳腺全摘
  Mammoplastica riduttiva monolaterale 片側乳房縮小
  Mammoplastica riduttiva bilaterale 両側乳房縮小
  Mammectomia sottocutanea monolaterale con contemporaneo impianto di protesi 
  片側皮下乳腺全摘および一次的なインプラント挿入
  Mammectomia sottocutanea bilaterale con contemporaneo impianto di proesi
 両側皮下乳腺全摘および一次的なインプラント挿入
Mastectomia 乳房切除
  Mastectomia semplice monolaterale      片側単純乳房切除
  Mastectomia semplice bilaterale         両側単純乳房切除
  Mastectomia semplice allargata monolaterale 片側乳房切除、腋窩リンパ郭清
  Mastectomia semplice allargata bilaterale   両側乳房切除、腋窩リンパ郭清
  Mastectomia radicale monolaterale       片側乳房切除、筋切除、拡大リンパ郭清
  Mastectomia radicale bilaterale         両側拡大乳房切除、筋切除、拡大リンパ郭清
  Mastectomia radicale monolaterale allargata  片側拡大乳房切除、更に内側リンパ郭清も含む
  Mastectomia radicale bilaterale allargata    両側拡大乳房切除、更に内側リンパ郭清も含む
Mammoplastica di ingrandimento 豊胸術(あくまで患側にバランスをとるため)
  Iniezione mammoplastica di ingrandimento monolaterale 片側の乳房形成のための異物注入
  Iniezione mammoplastica di ingrandimento bilaterale 両側の乳房形成のための異物注入
  Impianto di protesi monolaterale 片側プロテーゼ挿入
  Impianto di protesi bilaterale 両側プロテーゼ挿入
Mastopessi 乳房吊り上げ
Ricostruzione totale della mammella 全乳房再建(筋皮弁、筋弁、プロテーゼ、マイクロサージェリーなどのいわゆる乳房再建術がこれにあたる)
Altri interventi sulla mammella そのほかの乳房手術
  Innesto a spessore parziale nella mammella  乳房における分層皮膚移植
  Innesto a tutto spessore nella mammella   乳房における全層皮膚移植
  Ricostruzione con lembo muscolare o muscolocutaneo della mammella、筋弁、筋皮弁による乳房の部分再建
  Trasposizione del capezzolo 乳頭皮弁
  Aspirazione della mammella 脂肪吸引
  Revisione di protesi della mammella プロテーゼ入れ替え
  Rimozione di protesi della mammella プロテーゼ抜去
 Inserzione di espansore tessutale nella mammella エキスパンダー挿入
 Rimozione di espansore tessutale dalla mammella エキスパンダー抜去
 



7:EIOの看護士事情
 イタリアは看護士不足が著しく、医師の過剰に比べると対称的です。ですから、外国人特にEU内の旧東側の国の出身の看護士が結構います。それでも、例えば手術室では、EIOによる激務のためか、もっといい条件を求めてなのか、人間関係のせいかは分かりませんが(頑固な名物婦長がいる)、年間に30%の看護士が辞めるそうです。外科系の立場からすると、慣れた看護士の存在は必要不可欠であり、EIOでも問題になっているようです。ですから、引止めのためか給料はかなりいいようです。



8:労働時間
 欧米の病院の手術は大概早い時間から始まります。一昨年見学に行ったニューヨークの病院でも、執刀が8時前からという脅威的な早さでした。その分、医師は仕事が全て終わると午後2時でも帰ってしまっていました。こちらも予定の執刀時間は朝8時からです。ちょっと遅れて8時15分くらいになりますが。それにしても今まで僕が日本で経験した病院よりは早いです。それから延々とたくさんの手術をこなし、最後の手術が終わるのは夜8時くらいでしょうか。だいたい12時間手術室は動いているわけです。手術が終わってもスタッフは後片付けなどがあり、すぐには帰れないようです。ですから、相当な時間働いていることになります。EIOのような癌センターではそんなものなのでしょうか。こういった専門病院は僕も初めてなので良く分かりません。手術が始まる時間だけは間違いなく日本より早いです。そして、こちらも医師に関しては、仕事が終わると早い時間でもさっさと帰ってしまいます。もっともポジションが上の先生ほど患者さんとの面会など仕事は多く、結構遅くまでいるようです。



9:手術件数
 EIOの乳腺外科は、全身麻酔の手術を年間3000件します(2001年)。ひとつの病院の件数としてはかなりの数だと思います。日本の某癌専門病院は800件くらいですから、その多さが分かると思います。形成外科は1000件です。この中に外科から依頼された同時再建を含むのかどうかは分かりません。僕の観察するところでは含まないような気がします。毎日たくさんの手術をしているので。1000件以上になる計算なのです。
 一日に2,3件くらいは外科からの依頼で同時再建術があります。外科が切除術を終わってから形成外科が再建をするというコンビネーションです。急に依頼が来ることもままあります。ですから、形成外科は常に待機しているようなものです。これほど患者さんに困らない病院を僕も見たことがありません。乳癌について技術や知識を深めたい医療従事者にとっては本当に恵まれた環境だと思います。



10:手術の順番
 EIOでは毎日たくさんの手術が行われていますが、乳線外科が圧倒的に数が多く、次いで形成外科、その次にその他の科が同じくらいずつあるといったところでしょうか。ですから手術室も手術の順番などの管理に追われているのですが、どうしても腑に落ちないことがあります。手術の順番は乳腺外科が優先されるということです。とにかく乳腺外科が一日の全ての手術を終えるのが大事なのです。日本であれば、時間のかかる手術は早く始まり、時間の読める手術は後になり、全体としてはほどほどの時間に全手術が終了するように管理しますが、ここでは、どんなに時間のかかる手術でもそれが理由で先に始まることはなく、あくまで、乳腺外科が優先です。ですから、夜の7時から両側の乳房の形成手術が始まったり、あまりに夜遅くになりすぎて、形成の手術が次の日に延期になったりすることがあります。特に、手術の延期は何回か経験しました。待たされた挙句に延期というのは疲れるものです。患者さんの側も大変だと思います。飲まず食わずで待たされた挙句に延期ですから。また、乳腺外科が突然の形成外科依頼をすることもままあり、形成外科は乳腺外科の下働きのような、常に待機した状態であることを強いられます。この病院でいかに乳腺外科が力を持っているか分かっていただけると思います。乳線外科は日本の普通の総合病院であればむしろマイナーな分野と言っても過言ではありませんが、ここではまさに主役なのです。



11:病院の食事
 EIOの患者さんの病院食はかなりデラックスです。専用の給仕係の人がいて、レストランのように、ビチッと黒と紫色のスーツで決めて食事を配っているのです。皿やグラスなどもほとんどレストラン状態です。もっともこれはプライベートの患者さんだけのようです。他の患者さんは病院のself serviceの人(要するに食堂のおばさん)が配っています。日本では看護婦さんが配るところでしょうが、ここでは看護婦さんの仕事ではありません。ミラノの大学出身の研修医の先生に聞いたところ、このような病院は他にはないそうです。self serviceの味も他の病院とは比べものにならないくらい良いそうです。はじめからそうだとは思っていましたが、どうやらEIOは「イタリアの病院」というより、かなり特殊で特別な病院であるようです。



13:乳房縮小術と乳房吊り上げ術
 乳房縮小術は、大きな乳房を小さくする術式です。形成外科では時々行われています。乳房専門の美容外科ナグモクリニックでは週に1件くらいはありましたが、他の形成外科では大学病院でもそんな頻度ではないと思います。日本人は乳房が小さいので、必要がないというのも一理あると思いますが、わざわざ傷をつけてまで乳房を小さくしたいという患者さんがあまりいないというのも理由の一つだと思います。僕が大学で経験したのは、本当に胸が大きくて、肩凝りがひどいために何とかしたくて手術に望む患者さんがほとんどでした。
 また、乳房吊り上げ術とは、トータルのボリュームは変えず、垂れ下がった乳房を吊り上げてバストアップさせる手術です。こちらも日本ではなかなか行われていないと思います。むしろ、垂れの程度が小さければ、乳房隆起術(インプラントを入れる)で十分治ったりしますので、適応はかぎられてくると思います。しかし、ここEIOでは、乳癌の手術後の左右のバランスを取る為に反対側に縮小術や吊り上げ術を行うので、これらは本当に日常茶飯の手術です。この点が日本と一番違うのです。方法は主に2種類で、superior pedicleとinferior pedicleと呼ばれる一般的な方法です。特別すごい手術というわけではありませんが、この手術は乳房温存手術に応用できるので、(詳細は後で述べます)テクニカルに慣れているというのはoncoplastic surgeonには非常にメリットがあります。こちらにきておかげさまで、この手術の腕のほうは相当磨かれているのではないかと思います。



14:外来の料金
 EIOでは3割がプライベートで、7割がSSNの患者さんであると触れたと思いますが(その割合は主観的なものです)、SSNはいかなるときでも無料です。ただし、自由に病院にかかることは出来ませんし、医師も選べません。それに対してプライベートは、診察や手術の時期や、医師を指定するわけですからそれに対してチャージがかかります。良し悪しは別として、このような差別化はいかにもヨーロッパらしいなと思います。
 外来だけに話を絞ると、SSN外来とプライベート外来がふたつ存在していて、SSNは助手クラスが対応し、無料。プライベート外来は、一回診察を受けるのに教授の場合は総額で約2万円、助教授は約1万5千円、助手は1万2千円かかります。(正確な額は公にしないほうがいいような気がするので書きません)これは病院が決めたものです。医師のほうはたくさん患者さんを診れば診る程収入も増える仕組みです。あたかも病院内にプライベートクリニックが組み込まれているようなシステムですが、医師サイドから見るとやる気もわくでしょうし、いろいろな要望に親身に答えていこうという気にもさせてくれると思います。



15:腫瘍内科の会議
 通称「ゴールドヒルシュ」と呼ばれている週一回の会議が木曜の午後にあります。腫瘍内科、乳腺外科、病理科、時に形成外科(僕)が出席して行うもので、一週間で手術をした患者さん(病理結果が出た患者さん)の補助療法を決める会議です。腫瘍内科のゴールドヒルシュ教授を中心に、各科の医師が意見を出し合い進めていきます。とはいっても、大量の患者さんに関して話し合わなくてはいけないので、事実上ゴールドヒルシュ教授が決めています。こちらでは標準治療が徹底しているので、一人の意見はほぼ他の医師の意見と同じで、食い違うことはほとんどありません。ですから、共同の確認作業といったところでしょうか。会議を経ると、推薦治療法に腫瘍内科、乳腺外科、病理科の教授のサインが入り、次のステップへ進めるのです。僕はこの会議に提出する形成外科の患者さんのデータを入力する担当です。
 ここで気付いたことは、病理科の結果が非常に早いということです。術後3日〜4日で出てきます。患者さんにとっては精神的な面も含めて非常にメリットがあると思います。



16:現在の仕事内容(9月下旬)
半年が過ぎ、仕事内容も増えてきました。ここでまとめてみます。

 1:手術(助手、術者)
 2:形成外科の全患者さんのデータベース管理
 3:教授の患者さんの保険請求
 4:週一回の腫瘍内科の会議(前述)に出す患者さんのデータの入力担当
  注:EIOではこの会議を経ないと補助療法が施行できないようになっています。コンピューターの入力期限を厳守し、データを提出しなくてはいけません。
 5:自分の研究

 以上です。けっこう大変で、週末にひびくこともでてきました。なんとか月〜金でまとめて、週末は社会勉強(?)を兼ねた旅行をしたいのですが、、、。



17:Dobbio (両側手術)
 EIOでは先にも述べている通り、両側の手術が盛んに行われます。そんな時、一側には癌があり、もう一側は正常というような状況が普通です。そこで問題となるのが手術時の道具のやりとりです。科学的にはまったく証明されていることではありませんが、癌のあるほうに使った道具をそのまま反対側に使うと、癌細胞を正常組織に撒布させる恐れ(?)があるので、反対側にはそれらの道具を使わないとこちらでは考えています。ですから、電気メスをはじめ全ての道具は2セット用意され、狭い術野で使い分けています。僕個人としてはそうすることにかなり疑問を持っていますが、とにかくここではそうしています。大変なのは機械出しの看護士で、2つの術野の道具を拭き取るガーゼまでも別々にして対応しています。看護士に言わせると、通称dobbioと呼んでいる両側同時手術は負担が2倍になるので大変だそうです。日本ではあまりないシチュエーションですが、将来日本でも同様な事態になることがあるかもしれません。



18:両側手術の実態(経済的見地から)
 先に、僕はイタリアでは両側手術が保険でカバーされていることが日本と大きな違いであると述べていますが、最近、その実態に気付きました。実は保険でカバーされているといっても手術の術式名が存在するというだけで、手術料金に違いはないということが分かったのです。どういうことかというと、例えば乳腺外科の患者さんで、乳癌の摘出手術後に一期的再建術を行うとします。再建方法がどんなものであっても、インプラントを使っても使わなくても、両側でも片側でも、料金は乳癌手術のものだけで一律です。いってみれば形成手術はタダです。一方形成外科の患者さんで、何かの手術をした時も、その種類に関係なく、両側、片側関係なくほぼ一律の値段です。ちなみに乳癌手術のほうも全摘でも部分切除でも同じです。僕は驚きを隠せません。これほど不合理なことはないのではないでしょうか?手術の種類によってかかる時間も、経費も違うはずなのに、、、。こちらの患者さんは一切お金を払わないので、この辺の実感はないと思いますが、病院にとってはきっと頭の痛い問題だと思います。両側手術がこちらで根付いているのは、保険がカバーしているからだとてっきり思い込んでいましたが、実際には違うようです。
 忘れてはいけませんが、EIOの患者さんで3割ほどを占めるプライベートの患者さんは手術の種類によって大きく値段は違うようです。上に述べていることはSSNという保険でカバーされている患者さんだけの話です。



19:皮膚縫いのテクニック
 こちらに来て驚かされたのは、なんといっても乳房縮小の手術が多いことです。詳しくは他のところで書いているので省きます。この手術における関門は何箇所かあって、最後の皮膚縫いの難しさというのも見逃せません。乳輪の周辺を縫うのが意外と難しいのです。どういうことかというと、元の大きさの乳輪よりひと周りもふた周りも、時にはもっと大きな円周を持つ皮膚と乳輪を縫い合わせるのです。専門的なので説明が難しいのですが、要するに大きさの違う円を上手に縫い合わせなくてはいけないのです。日本にいた頃は一つ一つの縫合をたくさん行っていたのでさほど難しくなかったのですが、こちらでは皮膚内の連続縫合が一般的なのです。連続縫合というのは1本の糸で乳輪を一周するのです。連続ですから、一度縫った所は引き返せません。また、こちらでは皮膚がおうおうにして薄い(これは本当です!)ために難しさに拍車をかけます。今ではどんな難しそうな症例でも問題ありませんが、完全にうまく出来るようになるために少なくとも1,2ヶ月はかかったと思います。手先が器用だと言われる日本人代表として、いわゆる小手先のテクニックでこちらの医師には負けたくなかったので必死でマスターしました。この縫合方法は、慣れると技術による差が以外に出にくい普遍的なテクニックだということにも気付きました。



20:病理検査
  この病院で驚かされたことのうちのひとつに病理検査結果の早さがあります。手術後4、5日で結果が出るのです。日本では2、3週間はかかっていたので大変な違いです。毎日大変な数の手術がおこなわれているので、きっと病理部は大変だとは思います。患者さんにとってはむやみに気をもむ時間が短くて済むというメリットがあると思います。
 術中標本検査もすぐに結果が出ます。病理医にとってみればこれはイレギュラーな仕事です。外科医が標本について即座に調べたいと思った時にその都度病理医が対応しなくてはいけないからです。前もって外科医側が知らせておけばより負担は小さくなるでしょうが、なかなかそうもいかないのです。ですから予告なしということもままあるわけです。これほどの体制を整えている病院はそれほどはないと思います。



21:新しいインプラント
 最近新しいインプラントが入荷してきました。一つは以前からあるメーカーですが、柔らかさが格段にアップしたもの。もう一つは左右別々の形をしたもの(右用と左用に分かれている)です。後者にいたっては世界初ではないでしょうか。メーカー名は伏せますが、日々前進している産業であることを実感させてくれます。使い慣れることも大事なので、むやみにいろいろなメーカーに手を出すことはあまりいい事ではないと思いますが、選択肢が増えることはとにかくいいことだと思います。



22:僕の身分
 1年目がほぼ終わり、滞在許可証を更新しました。それに伴い僕の身分を紹介したいと思います。ビザは学生ビザで、本来は学生扱いです。病院内では病院長の責任において臨床活動が出来ます。万が一の医療事故に対しては病院側が保険に加入しています。研究活動および臨床活動はイタリア大統領令において、労働とみなされています。ですから、所得税も払っています。まとめると、学生と労働者の間のような結構あいまいな立場です。いかにもイタリアらしいです。細かな身分のことより、日々の仕事が自分のためになっていると確信しているので満足しています。





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