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N. Y.行きNH10便にて |
N. Y.行きNH10便にて
最初にそれが起きたのは、N.Y.行きの飛行機の中だった。 某社の仕切りで03年の年明け早々にN.Y.出張が入っていた。年末進行からオフィスの引っ越しまで、とにかく忙しかったところにもってきてのこの取材。正直行きたくはなかったのだが、編集長に話してみたら「行って来い。俺が行きたいぐらいだ」と嫌も応もなく決まってしまった。出発日は03年1月6日の月曜日。引っ越しの荷解きもできないうちの出発となった。
朝早く起きて成田に集合し、N.Y.行きNH10便に乗り込む。定刻通りのフライト。ちなみに機体はポケモンジェットだった。 強烈な吐き気。と言うよりも、もう既に吐いてしまっているリアルな幻覚。擬音をつけるなら「エロエロエロエロ〜!(失礼)」という勢いで、滝のように口から噴出していく。実はこの感覚自体は初めてではない。昨年の12月に入ったあたりから2度ほど体験していた。朝、吐いてしまっている感覚で目が覚めるのだ。その時は多忙だったせいもあり、胃腸が弱っているのだろう、ぐらいに軽く考えて、念のため寝る前に洗面器を布団脇においておく、という程度で対処していた。 そして今回だ。最初に思ったのは、周りの人に対して「あぁ、やって(吐いて)しまった…」ということ。そして、それきり分からなくなった。 気が付くとまず、目の前には客室乗務員、いわゆるスチュワーデスの太股があった。右腕には点滴を受けている。気分は凄まじく悪い。ここがどこかもよく分からない。そして大阪弁のイントネーションで呼びかける声。 「おーい、大丈夫か?」 ここから先は、今回の出張のアテンドにあたっていた某社の某嬢から聞いた話で再構成するが、どうやら5分間ほど続くけいれん発作を起こし、意識を失っていたらしい。偶然乗り合わせていた医師が対処してくれたそうだ。正に『ただ今当機に急病人が発生しました。お客様の中でお医者様がいらっしゃいましたら…』というドラマの1シーンを地で行く話だ。 呼びかけていた声は、この乗り合わせていた医師のもの。自分の体は機内の真ん中にある配膳スペースに横たえられていた。ちょうど北極海の上空、行程のド真ん中で緊急着陸できるような空港も手近になく、意識も戻ったので、フライトは続行していた。 その後しばらくはそこに寝かされ、やがて配膳が始まると後部座席の4列続きを空けてもらってそこに横たわり、ただひたすらに到着を待った。そんな状態でも「あのスッチー、美人だなぁ」などと思っていたのだから大した余裕だ。 空港に着くと、お迎えの態勢はすっかり整っていた。 これは後から聞かされたのだが、機内で急病人が出た場合、まず伝染病の疑いがないかどうかを確認するまで、他の乗客は一切降りられないそうだ。裏を返せば、真っ先に降りることができるのが自分ということになる。これはなかなか気持ちいい。 車椅子に乗せられ、VIP待遇で降りる自分。入国審査でも、ずらり並んだ他の乗客をしり目に、自分だけ職員用の一番端の通路をガーッと走り入国する。申し訳ない気すらしてくる。 入国すると、救急隊が待っていた。なにやら英語で(ここは米国なのでもちろんなのだが)やり取りをしている。幸いにも、ANAの地上職員に日本人がいたので(まぁこれも当然といえば当然だが)翻訳してもらう。要は医師の診断書がないと帰りの便は乗せられません、ということと、救急車を呼んだが乗っていくかどうか、ということ。 後者は微妙な選択だったが、JFK空港近くの救急病院に日本語も通じない状態で運び込まれるよりは、N.Y.市内に日本人の医師がいるというので、そちらを選ぶことにした。 すると救急隊員は、1枚の紙を差し出し「サインしろ」と言う。彼にとってはこの患者(つまり私)を無事送り届けるまでが仕事。それを放棄されたのではたまらない。そこで、患者自らの意志で放棄する、という誓約書だった。 「さすがは契約の国アメリカだ。」 これが私の、米国上陸第一歩の感想である。 |