<予告のお話、第12話>


港の灯りが、今日は、やけに明るい。

綾波を送る途中で、聞いてみた。

「綾波さん、楽しかった?今日のパーティー?」


「うん、今日の葛城先生の所での食事は、とても楽しかったわ。

 こんなに、楽しいって思えたのは、初めてよ。碇君、ありがとう。」

そう言って、綾波は、微笑んだ。

「い、いや、ありがとうって言われるほどの事じゃないよ。

 ぼ、僕の料理は、どうだった?」

「碇君の料理は、とってもおいしかったわ。」

僕は、うれしかった。綾波が、素直に誉めてくれたことが、とてもうれしかった。

「ホント!綾波さんに そう言われると腕を奮った甲斐があったよ!とっても、うれしいよ。」

僕は、綾波を見て微笑んだ。

綾波も僕を見て微笑んでる。

うれしいな。


そんな会話をしながら、僕らは、歩いてる。

僕の横を綾波が歩いてる。

綾波の白く透き通った肌が、なんか、輝いているようにも見える。

本当に、綺麗だ。

この世の物とも思えないほど、綺麗だ。


「あ、雪だ、」僕は、言った。

「ほんとだー、私、雪見るの初めて。今日は、いっぱい良いことがあったな。」



バス停に着いた。

「ねぇ、碇君、私、歩いて帰りたいな、」

「え、だめだよ、危ないよ、夜の女の子の一人歩きは、」

「だ、だから、そ、そのー」綾波が、下を向いてもじもじしている。

あ!僕は、言うべき言葉がわかった。

「危ないから、僕が綾波の家まで送って良いかな?」

綾波が、ぱっと、顔を上げた、そして、満面の笑みで、

何度も、何度もうなずいた。



いつしか、僕たちは、手をつないで歩いていた。

いくつものバス停を通り過ぎる。

二人とも、顔を赤くして、黙々と歩いている。

”綾波の手、柔らかくて、あたたかいな”

”碇君の手、暖かくて、安心するな”

黙々と二人は、歩いてた。




綾波の部屋の前、廊下は、真っ暗で、どこの部屋も明かりは、付いていない。

さっきまでの楽しい感情が、あっという間に冷めていく。


”後で、ミサト先生にこの事も相談しよう。”




「じゃあ、綾波さんおやすみ、また明日学校でね。」

綾波は、ジーって僕を見たまま、部屋に入ろうともせず、何も言わない。



「じゃあ、帰るね。また明日、お休み、綾波さん」

そう言って、僕は、帰った。

階段を降りはじめたとき、部屋のドアの閉まる音が聞こえた。



階段を降りていき、1階に着いた、その時、

”ばん”って上の方、イヤ、綾波の部屋のドアの音がして、急いで近づいてくる足音が聞こえる。

僕も、すぐにとって返した。

階段の途中で、綾波に会う。

綾波の顔は、泣き顔で、ぐちゃぐちゃになっていた。

「碇君、碇君、・・・」

綾波は、泣きながら僕の胸に飛び込んできた。

「ど、どうしたの、綾波さん」

綾波は、泣きながら何も答えない。

「と、とりあえず、綾波さんの部屋に行こう、ね、」

綾波は、こくんとうなずいた。



綾波の部屋に入る。

入って、びっくりした、なんて言うか、その部屋は、とても質素だった。(貧乏とも言う)

テレビもステレオもない部屋、ベットと、小さいタンスと、机だけの部屋。

華やいだものなんて、何もない。

ミサト先生の言葉が蘇る

”彼女は、両親を亡くしてから、親戚にたらい回しにされたのよ。”

”あの、容姿でしょ、それに、彼女も無口な方だから、どこでも邪険にされて”

”綾波夫妻と、とても仲の良かった冬月教授が、見るに見かねて、引き取ったらしいのよ。”

”でも、もう、その時は、レイちゃん、ちょっと対人恐怖症になってて、一人で暮らすって言ったみたいなの。”

冬月さんの言葉が蘇る。

”彼女は、いい子なんだよ、シンジ君、一人で、本当に慎ましく生きている。”

”同じ、両親のいない君ならきっと、レイも心を開くのでは、と思ってね。”

”あの事故があってから、一度だけ、彼女の笑顔を見たことがある。”

”誕生日に、ケーキをもって、彼女の部屋に行ったことがある。”

”ケーキは、大好きなんだそうだ。”

”私が、もっと、はやく彼女を引き取っていたら。”


「あ、綾波さん、体冷えてるよ、お茶沸かそう。」

「うん、」そう言って、綾波は、台所に行った。

やかんに火を付けながら、綾波は、泣き笑いの顔で、言った。

「ごめんね、碇君、びっくりしたでしょ。」

「全然気にしてないよ、」そう言って、

僕は、立ち上がり、続けて言う。

「ちょっと、待ってて、すぐに戻ってくるから、」

「い、碇君、」


僕は、ダッシュで下のコンビニに行き、

ケーキを買って戻ってきた。

「い、碇君どこに行ってたの?」

また、泣きそうな顔で、綾波が聞いた。

「あ、綾波さん、はい、ケーキ買ってきたよ!

 好物なんだって?冬月さんから聞いたよ。一緒に食べよう。」

「い、碇君・・・」

私は、うれしかった、碇君が、私をとても気遣ってるのがとてもうれしかった。

もう、悲しくて泣くことなんて無いと思ってたのに、

うれしくても、泣けるなんて、知らなかったわ。

「あ、綾波さん、泣かないで、」

私は、碇君の胸に顔を埋め、泣いていた。



やかんの沸騰を知らせる”ぴー”と言う音だけが、部屋にこだました。



二人で、ケーキを食べた後、少しして、僕は、腰を上げた。



「もう、帰らないとね、」

そう言って、僕は、立ち上がる。綾波の顔が、少しゆがむ。

綾波も、立ち上がる。

玄関に行き、今日二度目のさよならを言う。

綾波は、ずーと下を向いている。

玄関の扉を開けたとき、シャツの背中を捕まれた。

「あ、綾波さん。」

綾波は、下を向いたまま、僕をつかんでいる。何も言わない。

綾波が顔を上げた、涙が、ぽろぽろ、流れている。

「お願い、もう、一人にしないで、」

僕のなかに、たまらない程の悲しい感情が駆けめぐって、

気が付いたら、綾波をきつく抱きしめていた。

そして、綾波と目が合うと、綾波は、顔を僕の方に向け、そっと、目を閉じた。

そして、僕は、綾波との二度目のキスをした。









「あ・・・、あ、・・・、」

私は、声にならない声を上げている。

碇君が、私を求めている。

ううん、碇君だけじゃない、私も碇君を求めている。

最初は、怖いと言う感情と、恥ずかしいと言う感情がごっちゃになってたけど、

碇君の私に触れる手とかが、震えてるのがわかったときは、

碇君も、ドキドキしてるのがわかり、なんかとっても、心が、落ち着いた、うれしかった。

こころが、優しくなれた。

そして、今は、もう、頭が、回らない、頭の中は、碇君だけ。

碇君、碇君、碇君、碇君、大好き、大好き、大好き、

「い、いい?」

うん、と私はうなずく。

碇君が、私の上から、離れる、あ、違う、そこじゃない、

私は、とってもはずかしかったけど、ちょっと、腰を動かし碇君の手助けをする。

「い、行くよ、」碇君が、言う。

碇君が、さっきから、どもってるのが、かわいい。

もう、私の心臓は、これ以上ないって言うほどの早さで、ドキドキしている。

顔も、きっと、真っ赤だろう、

碇君が、また、私の上にきたとき、私と碇君は、一つになった。

夢のような一夜が過ぎる。









朝、自分の席に座って、トウジとケンスケとたわいのないおしゃべりをしている。

でも、今日は、どんなことを話しているのか、1秒後には、忘れている。

頭の中は、綾波のことだけ。

”綾波、綾波、綾波、愛してる、愛してる、愛してる、”



今日は、洞木さんと佐藤さんも話に加わっている。

「今日のセンセ、なんかへんやで?」トウジが言った。

「そ、そうね、」ヒカリが、怪訝そうに答えた。


”ガラ”教室の扉が開き、また一人、教室に入ってきた。

綾波が入ってきた。

一瞬、教室が静かになる。なんで?

そうだよな、ちょっと、特異な存在だもんな、綾波は、

何となく、納得してしまった。

そんなことを考えているが、僕は、顔が真っ赤になってるのわかり、

なんとか、平常心に戻るよう必死に、葛藤していた。

あれ、こっちに来る。

もしかして、もしかして、僕の隣の席?

綾波も、僕の事気づいたみたいだ。

その瞬間、綾波が、”ぼっ”て真っ赤になった。

それを見て、僕も、また、一段と赤くなるのがわかった。

綾波の視線が、ずっと、僕を見てる。

あ、綾波、手と、足が一緒に出てるよ。




まずは、深呼吸して、

私は、教室の扉の前で、2,3回深呼吸してから、クラスの扉を開いた。

いつもと同じように、クラスが、一瞬静まる。

いつもなら、落ち込むが、今日は、落ち込む余裕さえない。

”碇君は、碇君は、碇君は、?”

ぱっと、視線だけでクラスを見回しながら、自分の席に向かう。

まだ、来てないのか、なんか、緊張して損しちゃった。

自分の席を見たら、私の隣の席に碇君がいる。

瞬間、自分の顔が真っ赤になったのがわかる。耳たぶが、熱い。

い、碇君も、真っ赤になってる。




「お、お、おはよう、あ、あ、綾波さん、と、隣の席なんだ、よ、よろしくね。」

「お、おはよう、い、碇君。」

「か、体、大丈夫?あ、あ、あんまり無理、・・無理、しないようにね。」

「も、も、問題ないわ。」

そう言って、綾波は、鞄から、ぎくしゃくとした動きで、文庫本を取り出して、読み出した。

ただし、文庫本は、逆さまだ。




僕は、こき、こき、こき、と言う擬音が似合うような動きで、後ろを振り返った。

トウジとケンスケは、二人とも、イヤーンなカッコで固まってる。

「あ、あれ、ど、どうしたの、ふ、二人とも?」

よく見ると、洞木さんも、佐藤さんも固まってる。

なんか、教室中固まってるみたいだ。




時計の針の音とグランドの喧噪が、むなしく教室を通り抜ける。




「うそ、うそ、うそーーー!」佐藤さんが、絶叫して外に飛び出した。

それが引き金となって、教室が騒然となった。

「シンジ君が、シンジ君が、」

「うそ、うそ、うそ、」

「まさか、まさか、まさか、」

「綾波さんが、綾波さんが、」

「悪夢よ、悪夢よ、」

ある者は、頭をかかえ、ぶつぶつと独り言をいい、

ある者は、半狂乱になって、意味不明の言葉を口走り、

ある者は、ただ、闇雲に走り回っていた。

教室が、ゲシュタルト崩壊を起こした。



「シ、シンジ!」トウジが、僕に声をかけた。

その瞬間、また、教室は、水を打ったように静まりかえった。

「は、はいー」ぼくは、声が裏返って、答えていた。

教室中の人間が、トウジの次の言葉を待つ。



「シンジ、綾波と、知り合いだったんだ、しらんかったわ。」トウジがさらりと言った。

僕も、綾波も、教室中の人間も、ずっこけた。



”鈍感・・・はぁー”ある女の子は、心の中でため息をついた。

 


 

”たろ”です。
明日エヴァ予告シリーズ第一弾(て、第二弾やるんかいな!)
予告第12話お届けします。
いやー、やはり、ラブラブLRSも書きたくなったもんで、
お約束の教室パニック編とセットものです。
元ネタは、川原泉原作”森には、真理が落ちている”です。←題は、確かこんなんだったと思う。
では、by たろ


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NACのコメント:
例の、「明日を信じて」本編予告の実践です(^^;
こっちの世界では、学園レイなのね。

投稿される皆さん、これが、当サイトで規定に掲げるところの「18禁」に踏み込まない限界表現だと思って下さいね〜(^^;
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