止まない雨はないんだよ?

晴れた日がずっと続かないのと同じように…

雨もいつしか、あがるんだよ?

それでね…雨の後には必ず、晴れ間が顔を覗かせるんだ。
















fte the ai

作 睦月








僕は碇シンジ
年齢15、性別男…別段変わったところもない極々平凡を絵に描いたような人間だった。
今も、昔も…

しかし、外見に似合わず、僕は普通ではない人生をおくってきた。
たった1年の出来事で僕の人生は『普通でない』と形容されるものとなってしまったのだ。

そのことが悪いことかと言うと、そうでもない。
そして、そうであると、言えないこともない。


僕は1年前まで外界を避けて生きてきた。

普通と言えるものは全ての事象が平均化されたものの事を指すと思う。
その平均値をとることは決して珍しいことではないが、全ての事柄において普通であると言うことは確率論から言えばかなり不自然である。
1年以上前の僕はその不自然を不器用ながらにひた走っていた。

人の視界の片隅に掛かる位の距離を保ち、一歩下がって様子を窺い見てるだけで決して触れようとしなかった。
求めても得られないものがあることを知っていた…
当たり前が、当たり前でないことを知っていた…
諦めることを当然とし、諦めることになれていた。

何をするにも不都合はなかった……

なぜなら………

僕は……


何もしなかったから………

















西暦2015年
何もしなかった僕に転機が訪れる。

父からの手紙
亡き母の命日に姿を見せるだけ…10年、10年音沙汰なかった父・ゲンドウからの召喚
10年経っても未だ馴染めぬ先生の住まい、これ幸いに追い立てられ、父の住まう第三東京市へ

好意的な文面ではなかった…

しかし、希望を持たざるなかった。
戻ることはできない…そこは僕が選択せざる得ない選択肢とも呼べぬ選択肢であったから…
父に希望を見ていたから…
此処に来ざるえないから…


そこに希望はあった。
そこに絶望があった。

今の僕を作る全てが、全ての出逢いが其処にあった…

仮初めで本物の温もりを知った…
温もりを知り、その温もりを手放したくなかった…今を望んだ、僕の憶えている限り、初めての希望だった。

自分でない自分しか求められない失望があった。
逃げることを許さず、僕の意志の介入を認めないシナリオがあった。それは僕の父によるものだった…

僕が壊れ行くことを願った人たちが居た。
彼らは人と言う種に閉塞感を感じ、進化の夢に捕らわれていた。
彼らの希望は僕が絶望することに等しいも同然だった。

物事に触れる前に諦めていた僕は本当の絶望を知らなかった…




僕はかわったと人は言う。
僕は何処が変わったかなんて全くわからない。

外見など、早々変わるものなどではないから…

…と、僕自身は思っているが、それでも周りは変わったって言う。
毎日顔を付き合わせている自分のことだから気付かないのかな…?

でも、僕がどれほどのことをしただろう?

その1年の間にでも僕は戦うことを覚えたわけではない。
僕はその中でも、逃げて、逃げ切れなくて、戦わされて、戦って、また逃げて……

『僕が最後の最後に逃げなかったから、今がある。』

あの頃の僕を知る人はそう言う。
あのときのことは覚えていない。覚えていないと言うことは覚えていない方が良かったのだろう。
それほど気にはならない…今、大切なものを忘れてしまっていたわけではなかったから、サードインパクトの記憶がぼくの大切なモノではないから…

僕の大切な物、大切な人…









あたしはアスカ、惣流・アスカ・ラングレー!!!
NERVドイツ支部が誇る天才パイロット…だった。
あたしは、誰にも負けない、負けるわけにいかない!!!

…そう言われてきた、言い聞かせて来た…期待されていた、期待に応えていた。
でも、負けた…シンジに、ファーストに…、負けてはならないはずの使徒に負け、あのやらしい白いEVAに負けた。

乗れない…

もう、乗れない、あたしの弐号機は…あたしを裏切った、いいえ…裏切ってはなかった。
ママ…見ていてくれた…でも、それでも勝てなかった…あたしは、

EVAには乗れない、ただの人…
あのとき、あのときから…


あの白い病室があたしの世界になった。
白い色はいつもあたしを責め続け、あのEVAを思い出させる。
あの白い女を思い出させる。
あたしは嫌いだった…あの女が!!!
何も言わずに、何も言わずとも彼奴の興味を引くあの女が!!!
いつも、いつも、いつも、いつも…!!!!
目を離したら、あの女は彼奴の隣にいる。
まるでそこが自分の場所だと言わんばかりに…、嫌、嫌よ!!!
人形…人形のくせに…ママを、ママを返して!!!
あたしの、あたしの、ママを取ったくせに!!!

これ以上、あたしから何も取らないで!!!!







あはは…

EVAに乗れなくなったあたしに、何か用?

優等生のファーストさんに、自他共に認めるエース、無敵無敵のシンジ様が、このあたしに…今更!?

あぁ♪
無様なあたしをお笑いになり来られたんですね?

気分はどうかしら?さぞかし清々したでしょうよ、うるさい奴が居なくなったってさ!!!

何よ、そんな顔しなくたっていいじゃない!!!
あんた達がわるいのよ。
あんた達があたしの、あたしの場所…取ったくせに!!!!














ねぇ…アスカ、使徒はもう来ないんだよ?
EVAに乗る必要はないんだよ。
乗らなくてもいいんだよ。

もう…殺さなくて、いいんだよ。

EVAは終わったんだよ。
でも、みんなEVAに乗って欲しいって言うんだ。
嫌なのに、嫌なのに…なんで、なんで、なんで!?


帰ってきて…帰ってきてよ、アスカ…















弐号機パイロット…赤い人、赤い弐号機…
強い人、剛い人…でも、脆い人、壊れてしまった人
全てを認めない人…

心を閉ざした人
閉ざして守ろうとしている人
閉ざしたことに喘いでいる人
差し伸べられた手を払いのける人

いろいろな心を持つ人、いろいろな表情を持つ人

碇君の話題によく上る人
私が羨ましく想う人

私が手を伸ばしても届かない存在であるのに…
あなたは人なのに…

私は…あなたが…

















何よ二人して、来なくたってさぁ!!!
あんた達はあたしが見えないところでよろしくやってんでしょうが!!!

なんであたしにまで見せびらかしに来るのよ!?

ファースト…あんた、幸せ?
幸せだから見せびらかせに来たの?

知ってんだから、あんたが来てなくてシンジが一人の時なんて言ってるとおもう?
このバカが巧みな話術なんてあるわけ無いじゃない。
話すことって言ったら、一馬鹿、二馬鹿のこと、ミサトのこと…ペンペンのこと……




そしてあんたの事よ!!!!!

途中何が入ろうが、結局は綾波はね…綾波がね…綾波、綾波、綾波、綾波!!!!!!!!!

あの馬鹿、あんたのことばかり聞かせんのよ!!! あたしに!!!!!

あぁ〜ごちそうさま!!!!!!

何よ、その目は?

私に碇君をそんな目で見ないでくださいませってか?
なんであたしがそんな目で見られなきゃならないのよ!!!

なんであたしはこの白い部屋に閉じこめられてんのよ!!!!

なんでっ、なんでっ、なんでっ!!!!
ここは嫌なのよっ!!!
一人は嫌なのよっ!!!

誰か、誰かあたしを、見てよっ!!!
大切にしなさいよっ、あたしを!!!

シンジ…あんたは此処に残りなさい、ファーストと一緒になんか認めないわ。

なに!?
面会時間?そんなのあたしがいいって、言ってんだからそんなの関係ないわよ!!!

シンジ、あんたのせいなんだから、あんたはあたしの言うこと聞く必要があんのよっ、いい!?



えっ!?

どうして、どうして…ファーストの言うこと聞くのよぉ…

あんた、あたしの言うこと聞きなさいよぉ…
あんた、シンジでしょう?
どうして、どうして!!!!

そんなに、あの女がいいの?



認めない…認めてやらないわ…
まってなさい…シンジ











今日も碇君は弐号機パイロットのお見舞いに行く。
碇君も、葛城三佐も弐号機パイロットの帰りを待っている。
私は待っている?
私は…待っていない、いないかも知れない。

私は、一人になった。
私は人形じゃない。
私は碇司令の定めた道を自分の意志で離れた。
それは碇君のおかげ…
心をくれたのは碇君

 『綾波は自分の心を隠されていたんだよ、僕がじゃない…ただ、綾波が気付いたんだ。』

それでも碇君のおかげだと私は判断する。
一人では無理なことだから…

私は解放された…
私の前に広い世界が現れた。
何処にでも行ける。
私は、何処にでも行ける。

 『なら、何処に行くの?』

私は一人になった。

私の目の前は急に開けすぎて、何処へ行けばいいのか、わからない。
この世界の何処がなになのか、知らない。
右を見ても、左を見ても知らない世界…

そばに碇君が居た。
そこだけが知ってる世界…いいえ、まだ、知らない世界。
私が知りたい世界、唯一、色のある世界

私の意志は必要ない碇司令はもう、居ない…
碇司令は自分の望みを自分勝手に叶えていった。
私が特に何をするわけでもなく…
私が気になるのではなく私の行動の結果だけが必要だった…
私が碇君のためにしたこと…碇司令は自分勝手に消えていった。

まるで、かつての私の望み通りのように…
碇君が居なければ、私はあのような事をしたのだろうか?

きっと…することだろう。あの頃の私のままならば…

今は知っている…
残る人がいる。残される人がいると言うことを…。

今は知っている。

サードインパクトの世界に残された人…たくさん居る。
戻らない人…それは自分のせいだと思う。
残された人…それは彼らが悪い?戻らない人と絆を結びきれなかった彼らが悪いの?

待っている人…知っている。よく、知っている
今見ている…私が、今見ている人…碇君
碇君は待っている、弐号機パイロット…
帰る気がなさげな人、心配させる人、心配されたい人…それでもまだ足りないと言う人

それでも待ってるのは碇君…
いつも心配してる。
私のことも気にかけてくれる。

私はそれに答えたいと思う。

弐号機パイロットはわからない…わからなくてもいい
私は弐号機パイロットを待ってはいない。

弐号機パイロット…
そこに居たければ、そこに居ればいいわ。
私は違う。
私は出たもの…
そこから、その暗い底から碇君に誘われて抜け出たの
あなたはそこに居ればいいわ。

ここは暖かい…私は此処にいる。
















サードインパクト後、NERVはまだある。
その技術力は危険だ、中身ごと処理すべきだって言うのが世界の意志
要するに怖いのだ。
世論をつけて、社会からの抹殺…そのゴタゴタを利用してあわよくば…

これはミサトさんの小話から聞いた話題
そのNERVの救世主はEVAでなくリツコさんだったらしい。

リツコさんがどうやってNERVを守ったと思う?
旧世紀の遺産を利用したんだ。
世界が保有する核…使えもしないのに力を持ちたがってホイホイ生産された負の遺産
捨てるに捨てきれず、さりとて使えず…隠し持っていた所なんかなおさら…

MAGIで全てを支配下に置いてしまった…廃れた元先進国なんてMAGIの敵じゃないのよ?って嬉しそうに…
NERV劣勢の最中…至る所でカウントダウン
そして、送信…『私、死ぬ前にでっかい花火が見たいわね。』

世界はリツコさんにごめんなさいをした。


サードインパクト後、居るってことは当然、リツコさんはサードインパクトから帰ってきた人の一人だ。
…機密に近い人ほど帰ってこない傾向から見るとリツコさんが戻ってきたのは少し意外だった。

『所詮、私も逃げていたのよ…現実からね?私が逃げちゃ駄目よ、なんて笑っちゃうわね、人のこと言えないわ。
 現実から逃げて、母さんから逃げて、碇司令に逃げて、ユイさんから逃げて…逃げて逃げて…現実に戻って来ちゃったわよ…』

リツコさんも寂しかった人だったんだ。

でも、リツコさんはサードインパクトで壊れてしまった。

今は、リツコさんはミサトさんの親友やってる…
おかしいと思っていたんだ、前々から…なんで、リツコさんがミサトさんの親友なんだろう?…って

リツコさんも、類友なんだよ…ミサトさんの!!!!

リツコさん、今は趣味に生きている。
今となってはNERV保安部に連行されるより、技術部に引き渡されることの方が畏れられてる。
いわば、NERVの拷問技術は世界一ぃぃぃ!!!!!…ってこと

NERVはリツコさんで持っていると言ってもいい。
NERVがリツコさんの研究に必要な限り、NERVは安泰だ。

そして、NERVが謎に包まれた存在で術数権謀の権力者達の興味を引く存在であればあるほど…
リツコさんは喜ぶ…検体が増えるから…






でも、

そのおかげで僕は非日常から離れられない日常を手に入れた。


















サードインパクトから程なく…私は葛城三佐に引き取られた。
碇司令の管理下に無い私なら、葛城三佐の権限で少々くらい無理できる。
赤木博士も私への興味を失ったらしい。

葛城三佐の『まとめて面倒見ちゃうわよ♪』とは書類を総務へ廻すことを言うみたい。
ともあれ、私の居場所はあの部屋ではなくなった。

葛城三佐の家の隣…

『この広さに一人は寂しいわね…』

いいえ、全然違います。葛城三佐…
あの部屋は何もないです。
その隣も、さらに隣も…何も、何もないです。

ないんです。

ここは、暖かいです。
隣が暖かいから、此処も暖かく思えます。

この壁の向こうに、碇君がいる…

私は壁の隅で丸くなって眠るようになりました。

















最近、趣味が出来た。
料理だ。楽しくて仕方ない。

前から料理はしてたけど、此処では料理せずに食事が出てくることはないから必要に迫られてのことで
別段楽しくはなかった。

まあ、喜んで貰えればそれはそれで嬉しかったけど…

でも、なんか…それって
<飼育係の喜び>って気がするのは気のせいでは無いと思う。

綾波は肉が嫌いと言った。
僕は肉が主食な人ではないからそれほど気にならないと思っていたが、やはり肉がないと味気ない物になってしまう。
肉が主菜でなくても味付けに深みを出すと言う役割もある肉がないとやはり僕も不満だった。
何物も…ないと欲しくなってしまう。

僕の食の追求はそこから始まった。
肉なしで、何処まで行けるか?

かなりのレパートリーが増えた。
人間やれば出来るもんだね…

でも、所詮僕…
王道に近道なしと言う通りに極めるには遙かに遠い…
七分、学ぶのは優しくても、そこからさらに進むのは難しい。

アスカなら完璧を目差すかも知れない。
でも、そこに安易な逃げ道が転がってるのに気づいてしまった。

僕がこんなに苦労してるんだ。
僕の苦労を分担して貰ってもいいよね?


食事にわかりにくいように、それとなく肉を混ぜた。

そして、食べ終わったあとにネタばらし

綾波、それ…お肉だったんだよ。




『…どうして、そういうこと…するの?』

くはっ!!!
可愛いっ!!!

気づかなかったことに、拗ねてるみたいで可愛いっ!!!!




僕の料理は如何に綾波を騙して、肉を食べさせるかに変わった。

僕は綾波にあらかじめ『肉は残してもいいから』と言っておく。
綾波は警戒しまくりで箸を進めるが、肉の存在を僕は気づかせない。

違う物を残そうとすると「ごめん綾波…作り直すよ…」って言うと綾波はすまなそうに食べ始める。
綾波が肉を探し当てると僕はまた、料理への向上心に火がつく。
警戒してる綾波は僕の料理をよく味わって食べる。

ミサトさんとは違う…綾波は違いがわかる人だ。

僕は料理人としての喜びを手に入れた。























葛城三佐の隣に移って以来、私はよく葛城三佐の家に呼ばれるようになり、

そして、私はお隣に呼ばれるのを心待ちするようになった。

いつしか、それが…あたかも当然な、習慣のようになった。


ある時、私は葛城家に誘われなかった日があった。

碇君や葛城三佐にとって、それは私を誘わなかったわけでも、私のことを忘れているわけでもない。
それが当然であり、葛城三佐の言う『家族』に私も入っていると判断されていると言うことだ。

それは嬉しいこと
とても、とても、暖かいこと

でも、私は、葛城三佐の家には行かなかった…。

『どうしてこなかったの?』

「……呼ばれなかったから」

呼んで欲しいの…
いつも、いつもでも、私は必要だと、必要とされていると確認したい。

『レイも、堅いんだからぁ〜♪そんなの気にしなくても全然OKよん♪』

「…問題ありません。」

堅い…違う…
私は怖いだけ…

当然がであることが怖い…

碇君…私は此処にいてもいい?
いつまで…居ていいの?

心配になる…
碇君の心が私に何を思うのか…

怖くなる…
私の心が、この温もりを手放したくなくて止まらなくなることを…

心配させて、ごめんなさい…
気にかけて貰って、ありがとう。

私はいつも、いつでも、待っています。
あなたに、声をかけられることを…
あなたに、誘われることを…

あなたがくれた…
私にくれた、私の名前の意味、私が私であると言うこと…


『綾波ぃ…』

あなたに、私の名前を呼ばれる時を…



『今日も夕食、一緒に食べよ?』

私はいつも、待っています。





















『アスカちゃん…元気になって良かったですね♪』

ほっとけっ…つうの!!!
あんた達にどうこう言われる筋合いないわ…

『ほらっ、アスカ…逃げないんだし、誰も取らないから…そんなに貪り食わなくても…』

うるさいわね…ほっとけっていってるでしょ!!!

逃げない?
逃げるのよっ、逃げてばっかりな奴なんだから!!

誰も取らない?
居るのよ!!!取る奴が!!!
何も言わずに、手に入れようとする奴が!!!
何も興味なさそうにして、興味あるものは決して手離さない奴がっ!!!

力が要る…
力が要るのよ!!!

ちちくり合うのも、今の内…

今の内………も、やっぱり許さない、許してやらない、許してなるもんですかっ!!!!

I shall return!!!!
Remember me, Shinji?

『ほら、葛城さん!!! アスカちゃんが笑ってますよ♪』
『マヤちゃん…視力いくつ?』

ほっとけ…って、言ってるでしょう!!!!























ペンペン…温泉ペンギン
人が生みだしたモノ…実験動物
彼は破棄されそうになったところを葛城三佐に拾われたらしい。
拾われたと言ってもかなり無茶を通したらしいけど、ペンペンは黙して語らず。
詳しい経緯は葛城三佐と赤木博士しか知らない。

彼と私は似ている?
私は、実験動物だった?
違う?
………でも、似たようなモノだった。

私は碇君に心を貰い…碇君も求めることを機に、つたない力で其処から抜け出ようとした。
そこを碇君が引き上げてくれた。
私は碇君に拾い上げられたおかげで此処にいる。
まだ、心細い
私の心は未熟で怖がり、それでも幸せを感じている。

あなたは幸せ?
私は幸せ…




ペンペン…
実験動物は何処まで行っても実験動物に過ぎないの?
葛城三佐はペンペンで実験するために彼を引き取ったの?

ペンペンはアルコールを飲むように出来ているとは思えない。
葛城三佐はモノは試しと、ペンペンに呑ませる…葛城三佐が言う、『命の水』を…

ああ…ペンペンがどんどん鳥類では無くなっていく。
あなたは鳥でなくても幸せ?

私は厳密にヒトでは無いかも知れない…
どんなに言葉をつくしても拭い切れぬ不安そして現実…

あなたは鳥でなくても幸せ…ですか?
私は、ヒトでない私は、幸せになれるでしょうか?



最近、碇君が意地悪…

私、肉は駄目だって言ってたのに…どうしてそう言うことするの?
碇君も私で実験する気なの?

私が肉を食べれないから、葛城家の食卓から肉が消えた…。
そのことは申し訳なく思っていた。
私だけ別でも良いと言っていたけど、それは断られた。

『一緒に、食事すると言うこと…一人だけ別物だなんて寂しいよ。』

特別は嬉しい、特別は寂しい…

碇君は私に特別心を砕いてくれた…嬉しかった。
碇君は私を特別扱いしなかった…嬉しかった。

みんな一緒…
碇君と一緒…

碇君の作る物に不満あるはず無い…

でも、あのときは何か違和感があった。
私は、碇君や葛城三佐に囲まれ、場の流れで残さず食べきった。

『綾波、それ…お肉だったんだよ。』

!!!!

どうして、そう言うことするの?
………すこし、悲しくなってしまった。

そのときはよくわからなかった…
あれほど、嫌だった肉が、違和感を感じるだけで済んだことを…

『綾波…無理しなくてもいいから、お肉は残してもいいよ』

やはり、碇君は私のことを考えてくれている。
すこし、気を悪くしたことを申し訳なく思ってしまった。

…が、どれが肉なのかわからない。
でも、また肉が入っていると言う……どうしてそう言うことするの?

これが肉っぽい…

『ごめん、綾波…作り直すよ…』

えっ!?
違うの?

どれが…当たりなの?

結局わからなかった…

『今回のお肉はこちらでしたぁ〜♪』

ああ…
碇君が嬉しそうにしてる。


『今日も夕食、一緒に食べよ?』

「…はい。」




また、碇君と一緒に食事をとる。

こう言う私を、なんと言うのだろうか?

碇君が嬉しそうにするから…私、




















くくく…、ファースト…あんたの時代は終わったわ
シンジ、あんたはあたしが直々に管理してやるわ!!! 覚悟なさい…

退院するわよ!!!!

何?
手続き?
あんた、あたしを誰だと思ってんのよ!?

離しなさい!!!
あんたが気安く触れられるほど安くはないのよ!!! このあたしは!!!

ここから帰るのよ、あたしは…

あん?

ごはんあげるから…って








あんたら、あたしをなんだと思ってるのよっ!!!!!!
殺すわよっ!!!!

離せっ、離せぇぇっ!!!!!

おとなしくしろ!?
こんな侮辱受けておとなしくできるもんですかぁ!!!!

うっ?

薬?



ちくしょう

まける…もんです…かぁ…















買い物で家を開ける僅かの間になにがあったんだろう?
家に戻ると、綾波が居た。

なんでそんなところにつっ立ってんの?

えっ?  えぇ!?

壁に穴が…綾波の家と繋がってる?
綾波を見る。綾波が見る。
壁を見る。
やはり、変わらない。

『あはははは…やっぱね、私が引き取るっていったのにお隣さんじゃ様になんないでしょう?』

そう言うもんなのか?

『碇君…お帰りなさい…』

あっ…
ただいま…って、そんなんでいいの?綾波!?












ある晴れた日の午後だった…
私は、身支度を整え、碇君に呼ばれるまで碇君の家と私を隔てる壁を背に本を読む。
その時が来るまでの時間つぶしだ。

ゴツッ!!!

???


いったぁ〜!!!!

痛いでしょうがぁ!!! 
この馬鹿壁がぁ!!!
無機物の分際で人間様に喧嘩売ってんじゃないわよっ!!!!!

ゴンガンガンガン、ガスゥ!!!!

あっ…!?



振動があったと思えば、葛城三佐の罵声…また、振動


そして、

足が生えた





葛城三佐、凄い…
仮にも此処はNERV御用達…安普請の正反対を地でいっているとこは間違いない…
ましてや防音やら防弾やらは少なからずあると思うのに、葛城三佐は壁に喧嘩売って…勝ってしまったのね。

はっ、いけないっ!!!

私は服を弛めながら、洗面所に向かう。
入ったばかりだけど、もう一度シャワーで軽く体を濡らす。

ぴんぽ〜ん♪

はい…どちら様?

『やっほ〜、レイいるぅ〜♪』

なんでしょう?
シャワーを浴びていたのでよく聞こえなかったかも知れません。
待たせてしまいましたか? 葛城三佐。

『今、シャワーを浴びていたのね?』

…はい

『そう、ならちょうどいいわ。
 綾波レイは私の所轄になりました。ならびに私はあなたの保護者でもあります。
 あなたは未成年なのに保護者たる私とは別の住居であることは問題があります。
 よって、葛城家、綾波家をまたぐ障壁を撤去することにしました。
 これは命令です、これに反論は許されません。』

…了解

そう…了解してるの
葛城三佐は誤魔化せる物は誤魔化してしまおうとする人
その誤魔化しは何らかの行動を伴うことが多いこと…私、知ってる。

そう、葛城三佐はあの穴を正当化させに来たのね…
普通じゃなくても誤魔化されないのに…
でも、問題ないわ

私が望むことだから…



『あはははは…やっぱね、私が引き取るっていったのにお隣さんじゃ様になんないでしょう?』


そう、それでいいの…
もっと欲しくなるのが人だから…

























じゃ、またね。……お帰りなさい。
変だ…変すぎる。
でも、これが此処の日常…

別々の戸をくぐり、同じ部屋で顔を合わせる。

そう、綾波の家と此処は繋がっているのだ。

『綾波レイは未成年につき、私が保護者を引き受けましたが、今までは部屋数が無いという理由で別居となっていました。 しかし、被保護者への待遇に差を付けるとことは好ましくありません。今までは諸処の問題からその点には目を瞑って来ましたが、その問題を一挙に解決すべく綾波家との壁の撤去に取りかかることになりました!!! よろし?』


嘘だ…
なんで初めから穴が開いてるんだよ。

『さあ、シンジ君…両家を阻む憎き壁に一撃、その障壁に崩壊を!!!』

僕もやれって!?
無理だよ、出来ないよ、そんなこと!!!!
どうして、どうやったら、穴があけれるんだよ、ミサトさん!!!

僕にはわかりません。



本当は壁を丸ごと撤去したかったらしいけど、壁を取り払うことは柱を取り払うことに等しい。
いかなNERV御用達の居住区とて、無意味な安全係数をかけているわけでもなし、あるものを無くしてもOKなんて事はない。
結局は『ミサトさんが開けた』穴を拡大して、人が通れるサイズにし、扉をつけるに落ち着いた。

いや、落ち着くってのも変だけど、事実落ち着いているから仕方がない。
綾波の家をつなぐ、扉に『綾波』と表札があるのはギャグなんだろうか?

聞くところ、この扉の綾波側には『葛城』と表札があるらしい。




















一応、手続きってのをやってやったわよ…
これでおしまい。

ここから、帰れる。
あたしの白くない部屋に…帰れるの…
もう、夢は見ない、見たくない…あたしにはやることがあるのよ!!!!

やることがね…

のほほんとしてるのも、今の内よ? シンジ…
呆け面かましたあんたがあたしのとなりに居られることを感謝なさい。

…で、こいつはいつまでついて来んのよ?

ストーカー?
相変わらず、喋んない女っ!!!

あ〜、やだやだ。

えっ!? やだ、こいつが隣なの?

『じゃ、またね。綾波』

はん、あたしが居るからにはあんたにはこの敷居を一歩もまたがせたりはしないわよ?
残念だったわね?
ここはあたし達の家なんだから…ふふん♪

逃げ去るように走って自分の家に戻るファースト…
…なんだ、分相応ってのをわかってるじゃない?

…で、シンジ!!!
今日はあたしがめでたく退院した日、あたしが主賓なんだから、サービスなさいよ?

『碇君、お帰りなさい…』

んなっ!?

なんで、ファーストが、ここに!?
こいつ、とうとう人間やめたの?

ちょっと、シンジ!!!
これ、説明しなさいよっ!!!…って、なになんでもないように先進んでんのよ!!!

事と次第によっちゃぁ、ただじゃ置かないからね…

「シンジ!!!… 『おかえり♪…アスカ』

うっ…

あとでちゃんと聞くからね…






『おっかえりぃ〜、あすかぁ〜♪』

うわっ、酒臭っ…
あたしの帰還を泣いて喜ぶのは勝手だけど、勝手に出来上がってんじゃない!!!

『あすか、あすかぁ〜♪』

今日は…

今日だけは、
特別なだけなんだから…

でも、一言くらい言わせて貰うからね?

『へっ!?ぜ〜んぜん平気、まだまだ、しらふよぉ〜出来上がったりなんかしてないわよぉ〜ん♪
 出来てるのはシンちゃんとレイ…なんちて、にゃはははは♪』

なっ!?

…シンジ!?

赤くなっている…って、こいつじゃどっちかわかんないわよ!!!

ファースト!!!!
………って、こいつの方がもっとわかんないか…

ミサト…
…ミサトの親父ギャグってやつよね?

そうに、決まってるわ…













いいえ、わたしは出来ていないわ…
そのような事実はないから…ありえない。

碇君と…出来る…

心惹かれる響き…

<…できちゃったの>

いつか、言ってみたい言葉…

















日常…

アスカが帰ってきた。
一気に家が明るくなった。
賑やかになった。

ちょっと、うるさくなってしまった。

物理的に痛いことがよくあるようになった。


でも、痛みになれることは寂しい事だと思う。
痛みを感じなくなるとこは悲しい事だと思う。

こんな日常で、嬉しいんだ…と思う。
こんな日常が、嬉しいんだと思う!!!

はっきり言って、アスカが来て…綾波はどうなっちゃうんだろうって心配だった。

でも、心配無用な結果だった。

お願いがあるんだ。
…綾波、僕にもその方法…教えて欲しい…

駄目?

あうっ、アスカ…
どうしてそう言うことするの?


こんな日常が嬉しいんだと…思う?







ミサトさんは相変わらず『えびちゅ』で
リツコさんはマッド…

日向さんは『葛城さぁ〜ん!!!!』って、叫んでて…
青葉さんはギター片手に黄昏てる…

トウジはジャージだし、ケンスケは眼鏡が光ってて、
今年もいいんちょは委員長だ。



アスカは無意味に元気で
綾波は…最近、ちょっと挙動不審…。

久しく弾いてなかったチェロを弾いていたら、綾波がそれは何?って聞いてきて…
流れで、綾波一人をお客さんに一人コンサートをやってたら…

綾波、幸せそうに寝入っちゃって…
そんな綾波の髪を撫で梳かしてたら…
それをアスカに見られて…夢に出るような折檻フルコース

あっ…母さん?

なんて、どっかの川を渡りかけちゃったりする僕だったりするけど




これで…ううん、これが幸せの形なんだ。



ん…出来た♪

今朝は納豆をアスカに食べさせよう♪




『不許可で入ったら、殺すわよ♪』

うっ…

あれからアスカの部屋のプレートはいつの間にか語尾が『♪』に変わっていた。
どっちにせよ、やられることは変わらなかったりする。

アスカぁ〜、起きてぇ〜、起きてくださいまし〜。

ううっ…駄目か…
また、殺されなくちゃ、駄目なの?

………でも、アスカの部屋なんて久しぶりだな。











ふふふ…今日の作戦は
<眠り姫でGETでGO!!!!>よ♪

何処に行くのかって?
やぁ〜ねぇ…そんなこと聞くもんじゃないわよ?


シンジは前科もあることだし、今回でいただきよっ!!!!!

ふふふ…悪いけど、勝ったわ…完璧よ♪









私も碇君に起こされたい…

でも、駄目…

私、我慢が効かないから…
碇君に呼ばれる前にどうしても…来てしまうの…

夜、光に吸い寄せられる虫みたいね…私
せめて、哺乳類にして欲しいわ…

そう、私が寝てる内に私の部屋に来てもらえばいい…
そうすれば、私が碇君に起こされる前にフラフラと碇君に引き寄せられるようなことが起こらない

…今度、碇君にお願いしてみよう。

『私が寝入っている内に私の部屋に来て欲しい』と…


碇君はまた、弐号機パイロット改め、アスカを起こしに行くのね…

私は碇君に迷惑をかけてまで構って貰うなんて出来ない…
だから…私、あなたの神経がすこし羨ましいわ…


私は碇君を見ていたい、碇君に見て欲しい。
どうして、扉越しの触れ合いに意味があるのだろう?
弐号機…以下略…改め、アスカの頭がわからない。

ごめんなさい…、せめて考えと言うべき?

え!?
碇君、アスカの部屋に入る!?

駄目、碇君が逝ってしまう!!!!

駄目!!! そこに入っては駄目!!!

私のATフィールドが保てなくなってしまう!!!(?)

碇君が弐号機パイロット(改)に…危険よ!!!!

碇君が危険…碇君は私が守る…

そう、それが愛、私の…愛なのねっ?










覚悟を決めてアスカの部屋の戸に手をかけようとしたときに後ろから

抱きしめられる。
首も締まる。…と言うか首を絞められる。

ああ…
この感じは綾波だ…




「あの綾波さん…何かな?」

「…私の愛が碇君にこうしろって言うの。」


「綾波…締まってるんですけど…、首…」

「私の愛…碇君を強く強く抱きしめなさいって言うの…」

言うの…って、シめてんのは首…締まってるのも首さぁ!?

「碇君…好き…」


綾波…キまったね?

僕の…動脈が!?
助けてくれると、ありがとう!?






遅いっ!!!!
なにやってんのよ、シンジは!!!!

ん?
何ゴタゴタしてんの?

!!!!!!!
ファーストもとい、馬鹿レイがまた不許可でシンジに何やってんのよ、あいつはぁ!!!!






「あ〜!!!!!!
 なにしてんのよっ!!! 馬鹿レイがっ!!!」

「……『愛』してるの」


「なにが愛してるのよっ!!! 発情してるだけじゃない!!!」

「…あなたは威嚇してるのね?」


「密着するんじゃない!!!! 離れなさいよ!!!」

「嫌」
「離れなさいぃ〜!!!!」
「嫌」

「シンジが嫌がってるでしょうがっ!!!」
「…碇君は何も言わないわ」

言えません…ってば♪

「言えなくしてんのはあんたでしょうかぁ!!!」

「そう、良かったわね?」
「良くない!!!」

「あなた、碇君に何をする気だったの?」
「…うっ」

「碇君は私が守る。」
「くっ…って、加害者はあんたでしょうがっ!!!」








ぐぐぐ…

カクッ…

あっ!? おちた♪

「シ…シンジぃ〜!!!…泡、泡吹いてるっ!?」








「見て、碇君…雨があがって、虹が出てるわ…」


今日もいい天気になりそうね。


〜 The End 〜


〜あとがき〜
「今日はアスカちゃん!?」で感想を頂きました。
とても嬉しかったです。
そこでこんなのを作ってみました。そう…あなたの感想の力が此処に込められていますよ♪

ちょっとした小話のつもりが予想以上に力作に…!?
…と言うことで、こんな話はどうでしょう?

睦月   10/23,2000

NACのコメント:
本編後の三人を綴った作品です。

感情の動きが秀逸。レイが可愛いです。
何だか、淡々とした展開でありながら、非常に柔らかな読後感を持つことの出来る作品ですね。
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