君が途方にくれた時、自らを卑小に感じた時

そして君の目に涙があふれる時

僕が君の心を癒し、微笑みを取り戻してあげる

僕は君を守る者、運命が君を見放し、語り合う友もいなくなった時、

洪水にも負けない橋のように、僕が君を支えてあげよう

きっと、いつでも、いつまでも.......






第4話 見知らぬ、少年 前編





  「赤木博士、『例のモノ』を持ってきました」

  「あら、相田君。早かったわね」

  「ええ、僕も早く見せたかったし」

  そういうとケンスケは背負ってきた袋を肩から下ろす。

  「?なんでそんなに厳重に縛ってるの??

   そんな危ないモノじゃないはずよ?」

  「ま、そうなんですけどね(苦笑)

   こうしとかないとうるさいのがいるんですよ」


  ケンスケは袋の口を開き、中から30センチほどの楕円形の物体を取り出した。

  「こ、この匂いは!」

  と叫んだのは伊吹マヤ。

  「そう、そのとおり!

   いくら舐めようがかじろうが、決して鰹節の味と匂いが消えない!

   相田ケンスケ作、N2(ネコちゃん、ニャンてうれしい!)兵器第4弾・『なめたいニャン!』です!!!!」


  その語尾につく感嘆符の多さが、彼のこの発明に対する自信を表しているだろう。

  拳を握り、夕日を見つめ語る彼の横では、某うら若き女性科学者が鰹節をしゃぶっていた。

  (余談だが、その鰹節はあるロンゲの青年が山のような大金を積んでケンスケから買い取ったそうだ)


  「それはすごいわ!

   どうやって味と匂いを染み込ませて、かつ消えないようにしたの?


   ・・・・・じゃなくて、違うでしょう!!

   これはこれですごい発明だけど、『例のモノ』を早く!」


  「ハイハイ、分かりましたよ。

   これでしょう?」

  ケンスケは袋からまた何かを取り出す。


  表れ出たのは、1つの煮干。

  「は?」

  目が点になるリツコ。

  「これぞ、N2兵器第5弾・『なめたいニャン!煮干バージョン』!」

  「違うでしょーが!!!」

  ドゴ!!!!!!

  誇らしげに発明品を披露するケンスケに、リツコ・幻の右が炸裂!

  哀れ、星となったケンスケであった。


  「あ、しまった・・・・・・・・

   あんなノリにはミサトで慣れてるはずなのに.......

   彼を吹き飛ばしちゃったら、『例のモノ』の完成具合が分からないじゃない!」


  ケンスケの体は全く心配していない。

  やはり、この連中が(今のところ)ギャグキャラだからであろうか?


  「ぐふふ、ぐふふふふ、おいしいわ〜この鰹節♪

   あら煮干もあるじゃない、ぐふふふふふふ♪」

  マヤの怪しい呟きを聞きながら、リツコは部屋を出ていった。






  「それじゃあな、気をつけて行くんだぞ。
   あ、それからシンジ君、押しが肝心だぞ、押しが」


  「シンジ君、レイ君、無事にセリダーに着けるよう祈っているよ」


  「シンちゃ〜ん、2人っきりだからってレイちゃん襲っちゃダメよ(ハート)」


  「さっさと行け....」


  旅に出るシンジとレイを見送りに来た4人。

  どのセリフが誰のものか、言わずとも分かってもらえるだろう。


  「ありがとうございます、何から何まで用意して頂いて」

  頭を下げるのはレイ。

  昨日出立を勝手に決めてから、大人たちは地図、食料、路銀など、旅に必要なものを瞬く間に集めてしまったのだ。


  「皆さん、見送りありがとうございました。

   父さんのセリフは気に食わないけど」

  (加持さんのとミサトさんのもよく分かりませんよ)と言いかけてやめたのはシンジ。

  シンジは旅の道具のほかに、一振りの剣を持っている。


  「それじゃ、行ってきます」


  「さようなら」

  2人はそう言うと、歩き始めた。

  まず目指すは南、ノストヘルムの玄関口・タラス。


  そこから西へ向かい、情勢を見ながら道を選んでセリダーに行く、というのがミサトと加持がたてた旅程だった。



 ☆  ☆  ☆  ☆


  「さて、あの2人も行ってしまったことだし」


  シンジとレイの姿がアークの南に広がる森に消えてから、加持は城門にとって返した。

  再び戻ってきた彼の手には、二揃いの旅仕度。


  「ほらよ、葛城」

  そう言って1つをミサトへ渡し、もう1つを自分で背負う。


  「では、俺たちも行ってきます」

  「うむ、また君たちに苦労を掛けることになるが.....」


  少し沈んだ面持ちで話す冬月に、加持は笑いながら、

  「なに、宰相様と碇さんに助けられた命、別にかまいませんよ。な、葛城?」

  「ええ、それに、あの2人のことも気になるし」


  「そうか、そう言ってくれると助かるが」


  「宰相様は気にし過ぎですよ。

   では、全てが終わってからまた帰って来ます」


  「日向君によろしく言っておいて下さい」

  「ああ、分かった」



  そして、歩み去ろうとした2人の背に、重々しい声が投げかけられる。

  「シンジとレイ君に何かあったら、その時は・・・・・・・・・・・・・・・・分かってるだろうな」


  思わず2人が振返ると、中指で眼鏡を直しながらこちらをにらむヒゲが1人。

  「えっ、ええ、任せておいてください」
  「(コクコクコク)」


  答えた加持は(その時は、なんなんですかぁぁ!)とちょっと恐怖を感じ、

  うなずいただけのミサトは(碇さんって、もしかして・・・・・・親バカの上にロリ??)と怪しいことを考えていた。



  そして、この2人もまた去っていった。



  後に残された老人とヒゲ。

  「どうなるんだろうな、碇」

  「さあな・・・・・」

  「老人方の動きも活発になってきている。

   ひょっとしたらあの子たちまで巻き込んでしまうかもしれない」

  「ウム.....」

  「それでいいのか?」

  「・・・ユイはあの状況で自らの身を楯にした。

   シンジはそのユイの血を受けている。

   我々が何もせずとも必ず人を守ろうとするだろう」


  「ユイ君の血、か。

   碇、いや六分儀ゲンドウの血も、だろう?」


  「・・・・・・・・・・」



  2人はしばらく南を見つめていたが、やがて城門をくぐり、碇家へと向かった。





  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★


  「ここがタラス・・・・・」


  「は〜、ようけ人がおるのぅ」


  タラスの町の柵のところで立ち止まっている少年と少女−言うまでもなくトウジとヒカリだが−は、
  初めて見る宿場町の喧騒にしばし唖然としていた。


  タラスはノストヘルムの最南端にある宿場町。
  東西南北の四方に開けており、ノストヘルムが異国人の入国を自由としていることもあり、
  商人・旅人・仕事を求める者など多くの人間がこの町に入り、また出ていくという町だった。



  「そろそろ日も暮れるし、今日はこの町で泊まりましょ。

   2日ぶりにお風呂も入りたいし」


  「おぉっ、宿に泊まるんか!?

   タラスの宿の飯はうまかったと昨日道端で旅の人が言っとったからの。

   ん〜、楽しみや!」


  たちまち目の色が変わるトウジに苦笑しつつヒカリは思う。


  (私の作るご飯は、おいしくないのかな...)と。


  その思いが通じる日は、遠いのか近いのか・・・・・・・・・・



  
 <後書き>

  『旅』 第4話・前編をお送りします。

  前回の投稿から早1ヶ月と少し、夏も本番といった様子になってまいりました。
  ・・・・ではなく、更新遅れまして本当にすみません!

  もともと読んで下さっている方がいるかどうかも分からないこの小説、
  更新もしなかったら忘れ去られていくだけだろうなぁ、などと思いつつも
  テストやら部活の試合やらであれよあれよと過ぎていく日々・・・・
  やっと7月31日から夏休みに入ったと思えばまた親の用事に付き合わされ・・・・などなど
  書き並べたのは全て言い訳です。
  これからは初心に戻り、鋭意執筆(というほどのものではないですが)に励み、
  『連載は最後まで』という規定を守る気でいます。

  付け足しですが、トウジの関西弁のことについて一言。
  僕の身近にいる人が使っている言葉を参考にしているんですが、
  その人たちはほとんど神戸以西の人たちなので、
  大阪弁でなく播州弁ぽい関西弁(播州とは兵庫県の西に位置する赤穂のあたりを指します)となっています。
  ということで、大阪の方、もしくは大阪弁を愛する方には許せないことかもしれませんが、
  トウジの言葉は以後も今回のような感じで書いていきます。

  さらにもう1つ、冒頭の詩(のようなもの)を今回から変えました。
  ある洋楽の歌詞の一部を自分なりに訳したものですが、元の歌が分かるでしょうか?
  70年ごろのけっこう有名な(と僕は思っている)曲なんですが。
  みごと言い当てた方にはちょっとしたSSを送らせていただくかもしれません。

  では、第4話・中編をお楽しみに!

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NACのコメント:
本編第四話(^^)
ケンスケの作る「例のモノ」ってなんでしょう? まぁ、怪しいものには間違いないかも知れませんが(^^;
 しかし、ミサトと加持が後についていくということは、レイとシンジがラブラブしたら。丸分かりですね(^^;目に浮かぶようです(^^)
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