光と闇

相反しつつ、ともにある2つの力

闇なくして光なく、その逆もまた然り

光の中に潜む闇

其が暗く深まる時、混沌は産声をあげる

闇の中で瞬く光

其が明るく輝く時、混沌は断末魔の叫びをあげる

闇をもたらすもの 光を放つもの

知らぬ間にたぐり寄せられ、互いに反発するもの

それらの行く先を知るのは、運命の糸を握る1人の小人・・・







第3話 出立・前編






  「ふっふっふっふ、とうとうできたわ!

   これで我が『くろねこ』も大発展間違い無しよ!!!」


  暗い部屋に、女が1人。

  先ほどまで机に向かって何やら怪しげな物体をいじくっていたのだが、
  突然立ち上がると大きな声で叫び始めてしまった。

  机の上に置いてあるのははたきのような物で、
  はたきのたたく部分に当たるところがやけにふわふわした感じになっている。

  柄の部分も木などの固い物で作られていなく、
  くにゃくにゃとよく曲がる素材でできているようだ。


  「Zzzzz・・・?せんぱい?

   大声上げて、どうしたんですか?

   ってまさか!?」


  未だ女は叫んでいたのだが、そのせいで周りの机に突っ伏して
  眠っている者のうちの1人が起きてしまったようだ。

  作者の都合上、叫んでいた女をA、それに起こされた女をBと呼称する。


  「ええそうよ!

   長年の悲願だったアレが、ついに完成したのよ!!」


  「やったじゃないですか!

   それで、一体どういうものなんですか?

   先輩、いっつも『秘密よ』って言って教えてくれなかったんですから。

   完成したからには教えてもらいますよ」


  朝っぱらから異常なほどのハイテンションでしゃべるA。

  ちょっと頬を膨らませて話すB。


  「ええ、教えてあげるわ。

   これはね・・・(持ち持ち)

   ああっ、なんて偉大な発明なのっ!

   名付けて“猫ちゃんいらっしゃ〜い”よ!」


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  沈黙


  「はっ?」


  自分の耳が信じられず、思わず問い返すB。


  「詳しく説明してあげるわ。

   このふわふわした毛の部分は、猫じゃらしの役目を果たすの。

   そして、人間の鼻では識別できないけど猫の鼻なら識別できるように

   濃縮したマタタビのにおいを染み込ませてあるの!

   これぞ究極の猫捕獲用具!!

   ああ、待っててね、私の猫ちゃんたち.....」


  怪しい道具に関する怪しい解説をした上に、トリップしてしまったAの前で、
  Bはこうつぶやいた。


  「せんぱい、確かにすばらしい発明です・・・

   だけど、だけど・・・・こんなにマタタビの匂いがしてて、飛びつかずにはいられないじゃないですかぁ!!」


  叫ぶと同時にAが持っていた“猫ちゃんいらっしゃ〜い”に飛びつく。

  人間の鼻では識別できないはずなのに、なぜBはマタタビのにおいを察知できたのだろうか?

  それは作者にも分からない。



  暗い部屋に、トリップしている女と棒にじゃれている女、
  2つの生物が存在していた......








  結局、綾波さんの旅には僕がついていくことになってしまった。

  ゆうべの綾波さんの顔は反則だよ。

  あんな顔されて断れるわけないじゃないか。



  なんだか不機嫌そうなモノローグだけど、顔は嬉しそうだよ、シンジ君。(作者)



  でも、綾波さんが僕の従妹で、セリダーの王女だったなんて・・・

  父さん、僕に従妹がいるなんて、全然そんなこと話してくれなかった。

  父さんと言えば、なんであんなにしっかりしてたんだろう??

  いっつも「問題ない・・・」とか「シナリオどおりだ・・・」とか怪しいことばかり言って、
  まともにしゃべることすら少ないってのに。

  と、そうじゃなくて、母さんの姪にあたるんだよね。

  本当に、今までどうして隠してたんだろう?

  でも、綾波さんも「初めて聞いた」って言ってたしね。


  それに王女、でも・・・アスカがやってた女王様ごっこの女王なんかとずいぶん違う。

  とっても穏やかで、優しそうで....

  それにあの微笑み、天使、かな?


  ・・・・・・おっと、危ない、変な方向に頭が行っちゃった。

  そんなことはともかく、セリダーまで、か。

  たしか、アドラスの最西端に近いんじゃないかな?

  地理は日向さんに少し教えてもらっただけだし、あんまり覚えてないんだよな。

  まあいいや。またミサトさんか加持さんにでも聞こうっと。



  ろうそくを消し、ベッドに入る。

  目を閉じて、母に祈る。


  少年、碇シンジにとっていろいろと衝撃を与えられた1日が、やっと終わりを告げようとしていた。






  「あ、お、おはよう」

  「・・・・おはよう」


  次の日の朝、シンジが6人分の朝食を作っていると、レイが居間に入ってきた。

  とりあえず起きてはいるようだが、完全に目が覚めてはいないらしく、その口ぶりははっきりしていない。


  「とりあえず、座っててよ。

   もうちょっとでできるからさ」


  シンジの言葉に、返事も返さずに椅子に座る。

  いかにも眠たそうな目をしており、今にも舟をこぎそうな様子である。



  綾波さん・・・・・かわいい・・・・


  第3話にして、一体何回出てきたのだろうか?

  ともかくシンジはまたもやレイに目を奪われていた。

  料理する手も止めて、レイを見つめることしばし.......




  ああ・・・眠い......

  昨日晩は、なかなか眠れなかったから・・・・・

  どうしてだろう・・・

  やっぱり、アレ、かしら....

  碇君と一緒に旅が出来ることになって、うれしいのかしら?

  そう、やっぱりうれしいのね........


  もう、しっかり起きないと。



  首を振り、目を覚まそうとする。

  顔を真正面に戻すと、自分を見つめていたシンジと目が合ってしまった。




  あら?もしかして、ずっと見られてたのかしら?

  ・・・・・・・・・恥ずかしい


  頬が熱くなる。

  鼓動が、早くなる。

  でも、それはとても気持ちいいコト。




  俯いていた顔をあげ、もう一度シンジを見る。

  シンジはずっとレイを見つめていたことに気付き、
  既に料理に戻ってしまっていた。


  自分を見てくれていなかったことに、胸に痛みが走る。


  痛い・・・・・碇君が私を見ていないだけなのに・・・・・

  こんな気持ちは初めて....

  旅の途中に、お母様を思って寂しくなった時だって、こんなに痛くは無かったのに.....

  どうして?・・・・・・・・・・・・・・・




  一方、料理を再開していたシンジは・・・・・



  ああ〜、びっくりした。

  突然目を開けるんだもん。

  見つめてたこと、分かっちゃったよね?

  でも、あんな綾波さんも新鮮だったな・・・・・・・・・・・・


  これから先一緒に旅をするんだから、もっといろんな顔が見られるかな...

  ??でも、なんでこんなこと思うんだろう?

  綾波さんが従妹だったから?

  それとも、あんなに、か、かわいいから?



  いや、違う。

  なんとなく、そう、なんとなくなんだけど、

  綾波さんは、母さんみたいなんだ.........





  自分の心に戸惑うレイ。

  自分の心の中の闇に触れようとするシンジ。


  2人の旅の行く末は、いかに。








  「なあ、葛城」

  「なあに、加持君」

  「俺たち、何やってるんだ、こんなところで」

  「あら、分からないの?

   覗きよ、の・ぞ・き!!

   シンちゃんとレイが朝の台所に一緒にいるのよ。

   そう、きっと・・・・

   『レイ、おはよう』『おはよう、シンジさん』

   とか言っちゃって、そんでもっておはようのキスとかしちゃったりして・・・

   もう、そんな現場を見逃すのは野暮ってものよ!」


  「朝っぱらから野次馬根性見せるなよ・・・

   それに、覗くほうが野暮じゃないのか?

   さらに言えば、シンジ君とレイちゃんとでそんなことになるはずないと思うぞ」


  「うるさいわね、そんなこと分かってるわよ。

   でも、昨日夕食の前に見せてくれたくらいのシーンは期待してもいいじゃない?

   そして、それをネタにシンちゃんをからかうの。

   これこそ最高のビールのつまみ!」


  居間に入るドアの後ろで、デバガメをやっているのはミサトと加持。

  おいしいビールに思いをはせていたミサトに、きらめく白刃が襲いかかる!!

  ・・・わけはないが、代わりに低い声でミサトの目論見を掣肘する言葉が。

  「葛城一尉、ビールを好むことには干渉しないが、

   人をからかうことをつまみにするのは、やめたほうがいい・・・・」


  またまた人に気付かれずに後ろに立っていたゲンドウが、
  どこからか持ってきた机に座り、例のポーズをとってそう呟いたのだった。

  その後ろには呆れた顔の冬月が。


  「はっ、ハイ、すみません!」(でも、「一尉」って何??)

  「おはようございます、碇さん。それに宰相様も」
   (しかし、俺にも気付かれずに後ろを取るとは・・・
    さすがは“沈黙の魔術師”だな)


  ミサトはゲンドウにとりあえず謝った。

  加持は、無難に挨拶するにとどめたようだ。


  「問題無い・・・」

  「ああ、おはよう。加持君に葛城君」


  ゲンドウは例によって意味不明な言葉を、冬月は普通に挨拶を。


  そしておもむろに椅子から立ったゲンドウは一言、

  「では冬月、後を頼む」

  と言い残し、書斎に戻っていった。

  後に残されたのは物置から持ってきた机と椅子。


  「(ハァ)全く碇の奴め、面倒なことはいつも私に押しつけおって」


  ため息をつく冬月の目に映ったのは、ゲンドウがいなくなったことをいいことに覗きを続ける2人。


  「よし、葛城君。

   この机と椅子を物置に片付けてくれたまえ。

   なんなら加持君にも手伝わせればよい。

   では、頼んだぞ」


  冬月もまた、そう言うとゲンドウの書斎へと歩いていってしまった。


  「残念だな、葛城。覗きが続けられなくて」


  「あら、宰相はあなたにも手伝わせればいい、って言ってたじゃない。

   というわけで加持君、お願いね」


  「いや、俺はあくまで『手伝う』わけだから、せめて椅子くらいは持て」


  「分かったわよ。ほら、さっさと終わらせないと、いい場面見逃すかもしれないじゃない」


  そして2人で物置に向かう姿は、とても幸せそうなものだった。



  だが、皮肉なこと(?)だろう。


  ミサトにとって幸せだったその時間の間に、『いい場面』が起こっていたのだから。






 <後書き>

  「旅」第3話・前編をお送りします。
  この第3話で、やっと旅が始まります。
  今まで出てきた2つのパーティ、そして今回出てきた怪しい2人の女性ともからんでくるでしょう。
  ちなみに、A,B2人ともちょっとやばそうな感じを受けるかもしれませんが、
  別に壊れてはいませんのであの2人がお好きな方、怒らないで下さい。
  今回はキャラの紹介のようなものなんで。
  後、3バカトリオの後1人も次回登場する予定です。
  彼だけは女の子とは縁が無い登場になるかな?
  もし、『彼にも幸せを!』とお思いの方がいらっしゃったら、そう言って下さい。
  僕の出来る範囲で善処はいたします。
  でも、彼に運命付けられた「名脇役」という名の足かせによって、
  その目論見が崩れるコトとなるかもしれませんが。

  では、第3話・中編でまたお会いしましょう。
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NACのコメント:
本編第三話・前編です(^^)
いきなり出てきた二人組は、名前が明かされていないので書きませんけど誰がどう見てもあの人とあの人でしょうね。しかしまぁ……あの登場の仕方は、物語にどうやって絡んでくるのか、さっぱりわけがわかりません(^^;期待しましょう。
レイとシンジも、いい雰囲気ですね。
この「旅」に出てくるゲンドウは、僕的にはすごく好きなんです(^^)「葛城一尉」とか、どうでもいいギャグがいちいちツボです(^^;
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