静寂が支配する月と星の世界。 昼間活動していた命あるものたちが休息につき、代わって闇の世界を好むものたちが動き始める時。 だが、「光」というものを作り出した人間だけが、太陽の世界にいる時と同じように活動する時。 心地よい一時は、空に浮かぶ女神からの贈り物か・・・
第2話 依頼・中編

 「あ、いらっしゃい、みなさん。   もうちょっとでできるんで、座ってて下さい」  空もだいぶ暗くなり、月の光が映えてくる頃に一行はシンジの家に着いた。  彼らを迎えたのはシンジの声と食欲をそそる料理のにおい。  テーブルの上には既にかなりの量の料理が並べられていた。  「これは・・・すごいな」  「確かに、こんなに豪勢なのは久しぶりなんじゃないか?」  「そうね、私が小隊長に、アンタが騎士団長になった時のお祝い以来じゃないかしら」  一同それを前にして、それだけ口にしたきりポカン、とつったっている。  レイにいたってはこんな食事を目にしたのが久しぶりだというのと、  シンジがこんな料理を作ったということ、二重の驚きで声も出ていない。  しかも、よく見ると肉を使った料理もあるが、特に手のこんだ料理は野菜や魚をメインに作ってある。  碇君・・・私がお肉が食べられないから・・・・・  レイはシンジの優しさを感じ、不思議な気持ちに包まれていた。  それは、シンジに城まで送ってもらった後や、  女中頭にからかわれた後に感じた気持ちと同じように思われた。  「あれ?なんだか今日の料理、ちょっと偏ってる感じしない?」  同じ所にミサトも気がついたようだ。  普段それほど注意力が深い方では無いはずなのに・・・  やはり食べ物を前にすると違うのだろうか。  「そういえばそうだな。   いつもシンジ君は肉好きのお前に合わせて肉料理の割合を多くするのに   それで次の日秤(はかり)の前で固まるんだよな」  「だ〜れが、固まる、ですって〜!   だいいち、私は野菜も好きですよ!」  少し無駄なことも言ってしまった加持リョウジ30歳、怒れる乙女?葛城ミサトに首をしめられていた。  「こ、ら・・・まじで、しまってる・・・・・・」  「あんたが変なこと言うからいけないんでしょーが!」  加持の降参の合図を受けても手を緩めないミサト。  そんな彼女に向かって加持はまた1つ、余計なことを言ってしまった。  「そう、か・・・・やっぱり、太って、たんだな・・・」  「!!な〜に言ってんのよ〜。   この私が太るわけないじゃな〜い。   そんなこと言う口はこの口かなぁ、アハハ」  葛城さん、目が笑ってないです・・・  1人場の状況を見ていたレイは、小さくそうつぶやいた。  そう、ミサトと加持のやり取りを見ていたのはレイだけであった。  後の1人はと言えば・・・  そうか、シンジ君、私が来ることを知って  「冬月さんでも負担がかからないようなのにしよう!」と思って  こんな料理にしてくれたんだな・・・・・・  うう、ユイ君、君の息子は立派に育っているぞ!  .......飛んでしまっていた......       ◆  ◆  ◆  ◆  加持が完全に落ちてしまっているのに気付いたミサトが大慌てしているところに、  シンジが最後の料理を持ってやってきた。  「お待たせしました。   ?ミサトさん、なにやってるんですか?   早く座って下さい。ほら、冬月さんも」  冬月は「ああ、ユイ君・・・」などと未だトリップしていたが、シンジの言葉にやっと我に帰った。  「あ、ああ、シンジ君、突然お邪魔して悪いね」  どもっている冬月に「?」と思いながらも微笑んで「かまいませんよ」という意志表示をしたシンジは、  桜色に頬を染め、俯き加減に立っている少女に気付き、こちらも頬を染めた。  「や、やあ、いらっしゃい」  「こんばんは・・・・・あの、碇君、この料理・・・・」  「ああ、綾波さんがお肉が食べられないって言ってたから、野菜とかを中心に作ったんだ。   ....食べられそうに、ない?」  レイが俯いているのを勘違いし、少し沈んだような感じでシンジが尋ねる。  それを聞き、レイはぱっと顔をあげ、シンジに答えた。  「ううん、そんなことない!   碇君が私のこと考えて作ってくれたのが、   ・・・・うれしいの.....」  シンジは、レイの言葉をうれしく思ったが、それ以上に恥ずかしかった。  顔がさらに赤くなるのが分かったが、レイの顔から目を離すことはできなかった。  なぜなら、真剣に答えようとするレイの瞳に、魅せられていたから。  綾波さん・・・「綺麗だ.......」  ....ハッ!!まずい・・・  綾波さんが顔を真っ赤にしたのを見て、僕はまた思ったことを口に出していたのに気がついた。  こうやって顔を赤くして俯いてるのが可愛いんだよなぁ・・・じゃなくて!  2人っきりならまだしも(それはそれで緊張してやばいかもしれないけど)  人が、ましてやミサトさんがいる所でこんなことするなんて・・・・・・・  「シ〜ンちゃ〜ん、なに2人で盛り上がってるのかな〜」  ....観念しよう。  ミサトさんだけじゃなくて、いつのまにか復活してる加持さんもからんできそう(泣)  「レイちゃん、おれの時はそんな顔してくれなかったのに。   俺じゃ役不足かい?」  「・・・・・・・・」  ・・・・・・訂正。綾波さんにからんでる。  当然のごとくミサトさんに引っぺがされたけど。  そして加持さんの襟をつかんだまま、ミサトさんは僕に顔を向けた。  「それでシンちゃん、や・け・にレイちゃんと仲良さげじゃない。   どうしたのかなぁ。   夕方にも何にも言わなかったし。   今度こそ吐いてもらうわよ〜(ニヤリ)」  「え、べ、別になにもありませんよ」  あぁ〜、どもっちゃってるし、多分顔も赤くなっちゃってるし。  これじゃダメだよ〜(T T)  「シンちゃんの顔はそうは言ってないわ〜。   シンちゃんの顔とシンちゃんの口、私はどっちを信用したらいいのっかなぁ?」  なに言ってるんですかミサトさん、そんなくさいセリフ、加持さんでも言いませんよ。  「ほらほら、言っちゃいなさいよ〜。   大丈夫、悪いようにはしないからさ」  信用できない.....  誰か助けてよー、誰か僕に優しくしてよぉ。  ・・・・そのくらいの災難は受けてしかるべきだと思うぞ、シンジ君。(by作者)  「いい加減吐きなさいよ。   お料理冷めちゃうじゃない」  ああ、冬月さん、助けて下さい...  そう思い冬月を見やるシンジ。  シンジは「困ったものだ」と考えている冬月の顔を想像していたのだが、  意外にもそこにあったのは何かまじめな雰囲気を纏っている顔であった。  ― シンジ君には可哀想だが、ここは1つ吐いてもらおうか。    少し懸念もあることだし、な ―  そんなことを冬月が考えているとはつゆ知らず、  シンジは冬月について怪しい想像をしていた。  ― まさか冬月さん、ロリコンなんじゃぁ.....    それで綾波さんを狙ってて、だから僕をにらんでるんじゃないだろうか?    ・・・いやいや、父さんじゃあるまいし、冬月さんは大丈夫だよね、うん ―  そんな中にもミサトの追及は続く。  「いいわねぇ、さっきの愛の語らいなんかは。   『うれしいの....』『綺麗だ....』   くぅぅ、青春ねぇ」  わざわざ一人芝居までやってシンジをからかっている。  先ほどからレイの描写がまったくないことに気付いた読者もいるかもしれないが、  けっして作者の失敗ではないし、忘れていたわけでもない。(ほんとか?)  彼女はミサトから見てシンジの左斜め後ろでただ俯いていた。  当然顔は、熟れたさくらんぼ。  この状態のレイの口を開かせることができるのは、1人の少年だけであっただろう。  シンジはというと、「あ、え、いや・・・」などと意味不明のことばかりつぶやいている。  ニヤリ笑いのゲンドウ度をさらにアップさせたミサトがそんなシンジにさらに詰め寄ろうとした瞬間!  意外なところから救いの手がシンジにもたらされた。  「何をやっているのだ・・・葛城君」  いつの間にここに来ていたのか、ゲンドウがテーブルのいつもの位置に座り、  家の中なのに色眼鏡をかけ、白い手袋をはめ、  そしてお決まりのポーズを取った体勢からミサトに声をかけたのだ。  ゲンドウが奥からこっそりと出てきて、  人に気付かれないように椅子に座りポーズを取る様を見ていたある老人の心―  碇・・・・もしかして楽しいのか?  もしかして「こうやったらみんな驚くだろうな〜♪」などと考えていたのか!?  自分の想像に恐怖し、冬月は身を震わせた。  その後、ゲンドウがミサトから話を聞き、「問題ない・・・」とつぶやき、  やっとシンジはミサトから開放された。  そしてゲンドウはシンジの方に顔を向けたが、  そこに見えたものに驚愕し、動きを止めた。  「「「?」」」 「(ビクッ)」 「(やはり・・・)」  シンジは、なぜゲンドウが止まったのか理解できず、  ミサトは、『この人、まさかレイちゃんに・・・・・・ロリかしら』と思い、  加持は『司令、これもシナリオどおりってことですか?』と意味不明なことを考え、  レイは真正面からゲンドウの顔を見て、恐怖していた。(笑)  ただ1人、冬月だけがゲンドウの行動を理解しているようだった。  しばし固まっていたゲンドウだったが、なんとか気を持ち直し、  先ほどの動揺を隠すかのように威圧的な口調で言った。  「さあ、食べよう。   座ってくれたまえ」  そして、皆がテーブルにつく中、ゲンドウと冬月は目配せを交わしていた。    ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  一旦碇家から離れ、別の場所に焦点を持っていきたいと思う。  ノストヘルムの南東に位置する、ミノフォルスという国。  その首都であるカシュカルには、大規模な神殿が作られていた。  奉じている神は、「癒し手」エスティル。  神殿付の最上位の大巫女は、エスティルの子孫が治めると言われる  セリダーから呼び寄せられたものだった。  その神殿にも夜の闇が入りこみ、所々灯されているたいまつの光がゆらゆらと揺れている。  神殿の最深部、祭壇の間で、1人は祭壇を背に、もう1人はそれに対する形で  2人の巫女が立っていた。  「では、エスティル様の御加護の下に、セリダーに無事到着できますように」  祭壇側の巫女が言う。  「エスティル様の御加護が、このミノフォルスにくだりますように」  もう1人の巫女が、作法どおりに答える。  そして、互いに礼をし、歩み寄る。  口を開いたのは祭壇側にいた巫女だった。  「あぁ〜、これでヒカリともお別れね」  「何言ってるの、帰ってきたらまた会えるじゃない」  答えたのは洞木ヒカリ、14歳。  エスティルの巫女である。  と言ってもまだ見習を卒業して間もないのだが。  「そうは言ってもね、旅に出るのよ。   会えるにしても何年か先のことになるかもしれないわね」  もう1人の巫女は、  ・・・・・  洞木コダマ。  ヒカリの姉である。  ミノフォルスからセリダーに派遣される巫女にヒカリが選ばれ、  その旨を神殿付の大巫女のお付をやっているコダマが、ヒカリにそれを通達したのだ。  ミノフォルスからは4,5年に一度、セリダーに巫女を派遣し、  聖地でいろいろなことを学ばせるのが慣習となっていた。  巫女はセリダーの神殿でセリダーにしか伝わっていない祈りや秘法などを教えてもらい、  帰って来るとカシュカルの神殿の高い位につくのだった。  だが、セリダーから帰ってこない巫女もいる。  ミノフォルスもかなり富裕な国なのだが、セリダーにはかなわない。  そのきらびやかな生活にひかれ、セリダーに居着く巫女が後を絶たないのだ。  ヒカリが14歳という年齢にもかかわらず選ばれたのは、  大巫女がヒカリならまじめだからちゃんと帰ってくるだろうと考えたからに他ならない。  「それで、誰について行ってもらうの?ヒカリ」  「何のこと、お姉ちゃん??」  「何って、お供よ、お・と・も。   道中長いし、安全とも言いきれないから誰かお供を連れてかなきゃいけないのよ」  「えーー!そんなの聞いてないよ!?   誰かついて来てくれる人、いるかな?」  悩むヒカリ。  そんな妹を見るコダマの頭に、ある名案が浮かび上がった。  (ふっふっふ、姉に感謝しなさいよ)  「ヒカリ、あの子なんかどう?   トウジ君、だったっけ?   あの子ならお供もしてくれそうだし、腕っ節も強そうじゃん」  コダマのねらいどおりに、ヒカリの顔は瞬間沸騰する。  目も泳いでいて、怪しいことこの上ない。  「な、な、な、何言ってんのよ、お姉ちゃん!   そんな、一緒に旅するなんて、不潔.....」  「だ〜いじょうぶよ、あんたたちお似合いなんだから」  「ち、違うわよ!   私と鈴原は、そんなのじゃないんだから!」  「ほぉぉ〜、『そんなの』って、どんなの?」  「!だからぁ〜、・・・・・・・・・」  思うようにヒカリを手玉にとっている。  ・・・・ミサトとため張れるかもしれない・・・・・・・・・・    ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  場を碇家に戻そう。  「シンジ、なかなかおいしかったぞ」  「ふむ、久しぶりに食べたがとても腕が上がったようだな」  「シ〜ンちゃ〜ん、とーってもおいしかったわ〜。   ミサトおね―さんに毎日作ってくれな〜い?」  「さすがだな。   これなら食堂でもやっていけそうだ」  「・・・おいしかった・・・   ありがとう....」  皆夕食を食べ終わり、そのおいしさに惜しみなく感謝の言葉を送る。  (1人前後不覚のものがいたが)  「いえ、お粗末さまでした」  シンジは笑いながら答え、食器を片付けるために立ち上がった。  それを見て席を立つ者が1人。  やはりと言うか何と言うか、綾波レイ嬢であった。  「碇君・・・手伝う」  「いっ、いいよ、座ってて!」  シンジとしてはお客さんに片付けはさせられないといったところか、  それともレイと一緒に片付けるというのが恥ずかしかったのか。  それは誰にも分からない。  じいぃぃぃぃ。  「・・・いいって」  じいぃぃぃぃ。  「・・・・・・・・座っててってば」  レイの上目遣いに陥落されそうになるシンジ。  それが時間の問題なのは、返答までのタイムラグが如実に物語っていた。  2人の横ではゲンドウと冬月と加持が静かにお茶なぞをすすっている。  ミサトは加持の横で眠りについていた。  じいぃぃぃぃ。  「(ハァ)・・・分かったよ。じゃ、食器を運ぼう」  結局シンジが折れ、レイはとても楽しそうにシンジの言葉に従った。  レイは普段こういうことはしない。  というよりは幼い頃から「はしたない真似は慎むように!」という教育を受けてきた。  だが、今は自分の心の命ずるまま、シンジと一緒にいたい、という気持ちが勝ったのだ。  今まで異性に、と言うか異国の他人に興味を持ったこともない自分が、  なぜこれほどこの小年にヒかれるのかは分からなかったが。  食器を全て運んだレイが、布巾を持ってテーブルを拭く。  シンジは台所で洗い物をしている。  その時、いまだお茶を飲んでいたゲンドウが、ゆっくりと口を開いた。  「レイ君、だったな。少し聞きたいことがあるんだが、いいかね?」  「は、はい!あ、すみません、それで、なんでしょう?」  ゲンドウの最初の一瞥がトラウマにでもなっているのか、  レイはゲンドウに少なくない恐怖を感じているようだ。  「苗字は、何かな?」  それを聞いていたある30男の独白・・・  司令、犯罪ですよ・・・・  「綾波です。何か心当たりが?」  「!やはりそうか・・・」  レイの言葉に答えたのはゲンドウではなく冬月だった。  「宰相様?」  「副司令?」  冬月に投げかけられる疑問の言葉。  1人は多分酔っているんだろう。  「・・・君は、セリダー王家のもの、それも・・・・王女だね」  冬月の言葉に心底驚いた顔をするレイ。  「なぜ・・・王家の苗字は一部のものにしか明かされていないのに・・・」  突然ゲンドウが、口を開く。  「そうか・・・・・・ルナの子供か」
 <後書き>   「旅」を読んで下さっている皆様、本当に申し訳ありません!   前後編で終わるはずだったのになぜか中編が!   しかも前回に引き続き筆の調子が悪く、上手い具合に書けておりません。   できるだけこのようなことはないように注意するようにします。   ヒカリとコダマが出てきましたが、コダマは多分これ以上出ないでしょう。   ちょっと「明日を信じて」に影響受けてるかな―と自分でも思ってます。   たろさん、すみません!   では、来週こそ第2話・後編をお送りします。

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NACのコメント:
本編第二話・中編です(^^)
別に、中編になってしまっても、そんなに気になさることでもないと思いますが・・・。

冬月がこわい・・・(^^;
レイの秘密が少しずつ、ほのめかされてきましたね。ゲンドウと冬月の知る事実とは、一体なんでしょうか? 気になります。
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