ある日わたしは夢をみました。
そのわけを知りたかったから
わたしは訊いてみました。
「夢ってなに…?」
彼は答えました。
「夢?……そうだね」
「綾波は、何か叶えたい願いがある?」
Affection
by Area.2nd
わたしは答えませんでした。
願いはあったのだけれど。
「……夢っていうのはね?」
わたしが黙っていると、彼は少し寂しそうな顔をして云いました。
「望んだ願い、胸に想うきもちを、寝ている間に叶えることができるんだよ…」
「それが夢?」
「ううん、違うよ」
「?」
わたしがきょとんとしていると、彼は続けて云いました。…その間じゅう、わたしはずっと彼の瞳を見ていようとおもいました。そうしたら、彼の虹彩は口に合わせて言葉に合わせて違った色を載せてゆくけれども、たしかにそのパレットは悲しい色をしていたのです。パレットの上に載せられた言葉はたしかに違った色を作りだしているけれども、その背景には必ず悲しい色が見えたのです。
「これは僕の夢の話さ…」
心がどこにあるか分からないけれど、心が痛むのを知りました。
「僕の夢はもうかなわないから」
「殺してしまった友達に……謝ること。償うこと。」
「夜のとばりに紛れなければ、もうかなわないんだ」
だからわたしは言いました。
「碇君…
どうしてそんな悲しい瞳をしているの?」
彼はちょっとだけ、驚いた顔でわたしを見ました。またわたしはヘンなことを言ってしまったのと思うと、しかし彼の顔はすぐ何時もの優しくてとても悲しい顔にもどってわたしをきつく抱きしめました。きつく、きつく。わたしの息がすべて空気にまぎれそうなくらいに。
この瞬間が好きでした。
窒息するにははやすぎるのに、わたしの胸は昂まって、頭がまっしろになるのです。
でも、今のわたしは、
「綾波…ずっと僕のそばにいて…」
碇君の安らかな体温の中で、
「僕を一人にしないでね…?」
息が苦しくなれませんでした。
「今日も雪が降っているね」
「ええ…」
「寒い?」
「ううん…」
常夏の街は、毎日雪の降る街にかわりました。
地軸が変化したんだよ、と、碇君はわたしに教えてくれました。わたしにはでも良くわからなくて…こんなことなら、中学生だった頃、もっと勉強していればよかった。あの頃のわたしを後悔してももう遅いけれど。
いまはいろいろ世の中も大変なことになっていて、年は高校生になっていても高校には通っていません。どこも開いていないから。
「綾波…?」
「……あ、ごめんなさい。なに?」
「ううん、何か考え事してたみたいだったから…邪魔しちゃったかな?」
碇君はくすと微笑いました。
「ううん、思い出していたの」
「一度だけ、学校の帰り道、手をつないだこと」
窓の外の雪は夜空を点々と染めていたのです。
わたしはまぶしそうにそれを見上げていました。
「今だって、手を繋いでいるじゃない…」
その言葉にふと、わたしは右手をもっとつよく握りました。
そうしたら、碇君はわたしを優しく引き寄せてくれました。
「それ以上の事だってしてあげられる」
暖かい感覚が口唇に触れて、すぐに離れました。
雪をひとつぶ溶かすような、儚い優しさでした。
「だから…もう…昔のことは…忘れてよ…」
碇君は悲しそうな笑顔でわたしを抱きしめました。
常夏の街に雪が降る。
だからわたしは、碇君に抱かれていても、とてもとても寒かったのでしょう。
その夜わたしは夢を見ました。
悲しくなってなみだが止まりませんでした。
ベッドの上に丸くなって、おおきな声をあげて、泣きました。
一晩中、そばにいてくれました。
碇君はわたしの髪を手で梳きながら、一晩中、そばにいてくれました。
涙は止まりませんでした。
涙は止まりませんでした…。
やがて、雪の積もる音だけが聞こえてきました。
ゆっくり、ゆっくりと、わたしはまどろみの海へ流されてゆきました。
「いかりくん…」
囁くと、碇君はただ微笑んでくれました。
碇君………。
時間が掛かってもいい。
あなたの心が晴れ渡るまでずっと待っています。
いつか、わたしだけをみて?
夢もみずに、眠れるように……。
あとがき
はじめまして、NACさん、そして
こんな短篇ですが最後まで読んでくれた方、ありがとうございます(^^)
短編、と言うより散文のような気もしますが…
設定としては「The end of Evangelion」の
その後というかたちになります。
ハッピーエンド…
に至る道程というつもりで書きました。
だからきっとハッピーエンドなんです(^^;)。
それでは。