あ と が き
実は、後書きを書くのは、これが初めてではありません。
最初に後書きを書いたのは、2nd RINGを……だいたい70話くらい書いた頃だった、と思います。
今では考えられないことですが……当時は、2nd RINGを毎週ほぼ欠かさず更新していました。ですから、2nd RINGの前半分くらいは、一年ちょっとで書いた計算になります。しかし、今はごらんのように、更新頻度は著しく低い。
もちろん、それまで毎週更新していたものが、ある日を境にいきなり今のような更新頻度に陥ったというわけではなく……「緩やかな移行」というか……ぽつぽつと更新できない週が増え、そのうち隔週更新になり、それでも更新できない週が増え、そのうち月イチくらいの頻度になり……そして、現在に至るわけです。
「1回目の後書き」を書いたのは、そんな、更新頻度が隔週更新になったくらいの頃だった、と記憶しています。それまでほぼ欠かさずに続けてきた「毎週更新」を維持するのが難しくなり、長じて自分自身のモチベーションも下がり気味になっていた頃でした。
……これは2nd RINGという作品に愛想が尽きてきたという意味ではなく、単純に、日々の生活で疲れも溜まり、あくまで趣味であるはずの「執筆」というものに時間や気力を割くのが辛くなってきていた、ということだったかと思います。
ともかく、そうして隔週の更新が増えてきていて、「これは、まずいかも」という焦りがあったのは事実。
作品に対する愛着も意欲もあるのに、なんだか「億劫」という、もやもやしたものに包まれ始めている自分。
この状況を、打破しなければいけない。
そして、「じゃあ、2nd RINGが終わった時の事を想像して、後書きを書いちゃおう。そうしたら『いつかは終わるんだ』、という気分になって、モチベーションがまた高まるかも」と考えたのです。
そうして、全然終わっていない時期に、終わったことを想定して書いた「後書き」。
……いまは、その後書きは、ハードディスクのクラッシュとともに時空の狭間に巻き込まれて消えてしまいました。それまでは、ときどき思い出したように見返してはアップデートをしたりもしていたのですが、今となっては内容もほぼ全く思い出せません。
ですが、少なくとも言えることは……「最初に後書きを書いた時には、まさか10年以上もこの作品を書くことになるとは考えてもいなかった」、ということでしょう。
2nd RINGの歴史は、僕にとって、そのまま「僕とエヴァンゲリオンとの歴史」に重なります。
もともと、テレビでアニメをそれほど見る習慣のなかった僕は、エヴァのテレビ本放送当時は、その存在も知りませんでした。
本放送時から、オタク界隈では話題になっていた……と言われても、周りにアニメを観るのに熱心な友人もいませんでしたし、当時はインターネットで情報を収集する時代でもなかったし、アニメ誌なども普段、手に取って読むことはありません。
そうして、「エヴァ」という作品の存在に触れることなく、日々を過ごし。
僕の耳に、ようやく「エヴァンゲリオン」という単語が届いた時には、それが既にアニメオタクだけのものではなく、ごく一般の人の耳にも届く、いわゆる「社会現象」の兆しが見え始めた頃になっていました。
そうなると、なんだか乗り遅れた感じがあって、悔しさが募ります。
僕は、「乗り遅れた!」と思ったときに、慌てて追いかけるタイプではなく、どっちかというと変なプライドが邪魔をして「だったら最後まで見ない」とそっぽを向くタイプでした。
人に「面白いよ!」と勧められると、知りもしないのに「いやぁ、いまいち僕には合わなくてねぇ……」などと、訳知り顔で拒絶するタイプだったのです。
なんとなく、気にはなっていたものの、自分から積極的に見ることも無く。
おそらく、あのままずっとエヴァを見ない、という未来も、きっとあったと思います。
あの日、あの晩……なんとなくテレビのチャンネルをガチャガチャといじくっていた時に、夜の第三新東京市に立つ、初号機の姿を目にしなければ。
僥倖だったのは、あの再放送が、週に一話ずつ放映するものではなく、「四夜連続一挙放送」だったこと。
そして、偶然目に飛び込んできたときに、まだ第一話が始まったばかりのタイミングだったことでしょう。
あれが、第一話の放送が終わった後に、「次回は来週をお楽しみに!」というヒキだったら、もう翌週には忘れていたと思います。しかし、二時間ぶっ通しで第四話まで見せられて、「続きは明日の同じ時間に!」となれば、見ない手はありません。
そして、僕の心臓は、エヴァに持っていかれてしまったのです。
今にして思うと、あれは劇場版放映直前だったから、ああいう「四夜連続」みたいな宣伝ぽいことをやったんでしょうね。
テレビ版を見て、自分の中がまだ熱く興奮がまだ冷めやらぬうちに、すぐに劇場版がかかったのも運がよかった。
大学時代の友人を誘い、劇場版を見に行きました。
そして、また心臓を持っていかれてしまったのです。
それまで、自宅では、パソコンは持ってはいたものの、ネット環境は構築していませんでした。
しかし、偶然、ちょうど同じ頃にネットに繋いだことも、大きかった。
初めてのインターネット。最初はお約束の如くYahoo!に繋いで楽しんだりしていたのですが(今にして思うと、それのどこが楽しいんだって感じですが)、そのとき、検索結果にエヴァSSのサイトを見つけたのです。
僕はずっと漫画家になりたくて、オリジナルの漫画を描きためたりイラストを描いたりしていましたが、二次創作をやったことはありませんでした。今でこそ見るのも書くのも大好き二次創作ですが、当時は興味もあまり沸かなかった。だから、普段だったらそこはスルーする場面だったと思うのです。
ですが、なにしろまだ自分の中には、マグマのように「エヴァ熱」がたぎっている頃。
他の人が、エヴァをどう扱っているのか見たい! と思うのは自然の摂理。
そして、また心臓を(以下略)。
初めて二次創作というものに触れた僕は、見事なまでに、その世界に嵌ってしまいました。
仕事から帰ったらすぐネット、朝まで読みふけってそれから出社、帰ったらまたネットで新しい小説を探す……という生活に没入しました。
こんなに面白い世界があったのか! と、思ったものです。
そうして、あの時期、ものすごい数のエヴァ小説を読み漁ったと思います。
いやぁ、面白かった。
楽しかった。
幸せの絶頂でした。
……でも、少しずつ落ち着いてくると、別の思いが首をもたげてきたのです。
これは面白い! と手を打つような小説の多くは、早い段階で更新が止まり、続く気配がありません。
また、面白くて好きな小説も、どこかしら少し、自分が読みたいものと違う。
……これは誰が書いたって、そういう側面はあるでしょう。2nd RINGを面白いと言ってくださる読者の方々も、第一話から最終話まで、全ての描写において不満点がどこにもない人なんて絶対にいないはずです。
そうした不満を解消するには、どうするか。
待ってたって、まるで僕のために書いてくれたかのような、そんな都合のいい作品が出てくるわけがありません。
自分で書くしかないな、と思いました。
これが、2nd RINGでした。
始めた当初は、2〜30話くらいで終わればいいかな、と思っていました。
だいたいよその小説も、長くてもそんなものでしたし、自分でもあんまり長いのは読みたくなかったので。
どこで、なにを間違っちゃったんでしょうか。
まさか、132話もかかるとは。
まさか、10年以上もかかるとは。
2nd RINGという作品を書かなければ、僕の人生は、全く違ったものになっていたに違いありません。
なにより、奥さんと出会っていないので、結婚していません(奥さんとは、エヴァSS書きのオフ会で出会った)。……いや、オタクではない人と結婚していたかも知れませんがね。
この世で一番可愛いうちの息子も生まれてません。
見知らぬ人から、1000通を超えるメールを頂くことも無かったでしょう。
このメールの大半が時空の狭間に吸い込まれてしまったことは、今でも後悔・後悔です。
作品についても、触れておこうと思います。
先ほども書きましたが、最初にテレビ版を見た時、まだ第一話だったものの冒頭は見逃してしまい、初号機はすでに出撃していました。
最終話まで見たところで、すぐに貞本版のエヴァを読み、見損ねた「しょっぱなの部分」の展開を補完しました。
で、テレビ版の第一話を、改めてきちんと見返す前に、2nd RINGを書き始めました。
……だから、2nd RINGのしょっぱなでは、電話しているシンジが一瞬レイの姿を見る……という有名なシーンはありませんし、テレビでは病室にいるはずのレイが初号機で最初に出撃しているなんていう展開になっているのです。
まさか、マンガとテレビで最初の演出が違うとは思いもよらず、感想メールで「マンガ準拠なんですね!」と言われて、「え、えぇ、まぁ」と返信しつつ慌ててビデオをレンタルしてきてその違いに愕然としたりもしました。
伏線を張るだけ張って、すっかり忘れている部分もあります。
シンジとレイが写真を撮る写真館のマスターは、冬月の娘の写真を撮った人と同一人物です。
彼の口から冬月の過去を語らせようと思っているうちに、すっかり忘れてしまいました。
シャムシェルのコアを回収するドックで、ゲンドウがなぜかレイを連れてくる、という思わせ振りな描写がありますが、当時はきっと何か理由を考えていたと思うのですが、僕自身がすっかり「なんで連れてきたのか」を忘れてしまったので、何事もなかったかのように、二度とその事実には触れずに終わらせてしまいました。
……きっと、自分も逆行してきているゲンドウが、何か変化を期待して連れてきたんじゃないかしら(←てきとう)。
その他、連載を当初からリアルタイムで読んでいた方の中には、気が付いた方もいるんじゃないかと思いますが……シンジは最初、自分が逆行してきていることを、ヤシマ作戦直後に早々にレイに明かしてしまっています。
いくらなんでも早すぎるだろう、と思い直して、一週間くらいで「秘密を明かしてないこと」に直して再アップしました。
この時の「秘密を明かしちゃってるバージョン」を読んだ方は、その後の展開で、いつの間にか秘密をまだ明かしてないことになっているし、「あれ?」と思って過去の回を読み返すと、確かに記憶では秘密を明かしていたような気がした描写が無くなっちゃってたりして、自分の記憶違いか? でも確かに覚えているのになぁ……、と悩んだことでしょう(ひどい)。
僕はこのように、「先の展開をあまり考えずにとりあえず書く」というスタイルで執筆していました。
漠然としたストーリーは考えていても、キャラクタがそれに反する行動をとったら「そちらの方が自然なんだ」と思ってそちらを採用する、書きながら別の展開が思いついたらそっちを採用する、
そんな書き方をしていたら、こんなに長くなってしまいました。
シンジが、使徒戦の前に、一人で戦いをシミュレーションして悩むシーンがよく出てきます。
あのとき、僕も、同じように悩んでいます。
先に展開を考えてから、それに沿うようにシンジに悩ませているのではなくて、シンジと一緒に僕も悩んでいるのです。
シンジがA案を考えて、「いやいや、これだとダメだ」と思い直し、そのあとB案を思いついて、「あ、これもこういう展開になりうるからダメだ」と頭を抱える。
そういうシーンでは、僕もまずA案を思いつき、すぐにシンジがそれを思いついた描写をとりあえず書いて、それから反証に気がついて作中でダメだしをして、それからまた悩んでB案を考えて、それをまず書いてからまたダメだしをして……
……これぞ、究極のリアルタイム執筆です。
でも、これで何とかならないことは無いから、不思議です。
逆に、本当に悩んでも悩んでも何も思いつかない時には、「ダメだ、何も思いつかない」とシンジに語らせる。
それが、ある意味「リアル」に見えたのかも。
これを、まずプロットありきで書いていたら、こういうリアルな感じにはならなかったと思います。
まぁ、もっと早く、連載を終わらせられたかも知れませんけど……。
作品を書き始めた時に、最初から決めていたこと、そしてそれをちゃんと変えずに書けたことは、そんなに多くありません。
トウジの妹は助かったのに、それでもやっぱりトウジがフォースチルドレンになって事故に巻き込まれること。
カヲルを助けるのはシンジではなくアスカであること。
初号機の中のユイはコピーされたプログラムであり、本物のユイは最初の接触実験で死んでいること。
弐号機の中にいるキョウコだけが、本物の魂であること。
シンジの頭の中にいるスパークしてる人は、カヲルであること。
それくらいでしょうか。
あとは、当初考えていたことはいろいろあるものの、その通りにはなりませんでした。その場その場で、思いついた面白そうな展開を優先した結果です。
でも、当初考えていたストーリーよりは、こちらの方が絶対に面白くなったと思っています。
これでつまらなくなってたら、立つ瀬がありません。
執筆中に、「神が舞い降りる」瞬間があります。
直前まで、頭の中に欠片も無かった展開を、まさに書きながらどんどん思いついていくような感覚です。
それもいろいろありましたが、その最たるものは、カヲルの死をアスカが食い止める説得シーンでした。
あのシーンは、アスカがドグマに降りて、カヲルに最初の声をかけるカットを書いた時、「声をかけたはいいけど、どうやって説得するのか?」……何も考えていませんでした。
でも、アスカなら何とかしてくれるのでは、と思っていました。僕が考えてアスカに喋らせるのではなく、アスカが勝手に喋って、僕がそれを書きとめる、そういう風にできるという、なんだか不思議な確信がありました。
そして、アスカの言うがままに書いたのが、あの説得シーンです。
カヲルの困惑は、そのまんま僕の困惑です。
アスカのハチャメチャな理論に、一番感動していたのは、ほかならぬ僕自身でした。
他には、アスカがオーバーザレインボゥでやってくるときのシーンも「神が舞い降りた」シーンです。
シンジが、その時点では知らないはずのアスカのことをミサトの前で口走ってしまい、彼女の追及を逃れるために、口裏も合わせていない加持に対応を丸投げしてしまうエピソード。
あそこも、加持に対応を丸投げした時点で、加持にどうやって切り抜けさせるのか、何も考えていません。
実際にオーバーザレインボゥ上で、ミサトが加持の胸倉を掴んだ段階では、加持と同じく僕もなにも思いついておらず……しかし、やはりシンジがそう考えたのと同じように、「加持さんなら何とかしてくれるだろう」と思っていました。
そして事実、僕は加持が喋るがままにキーボードを叩き、加持は見事にミサトの追及を逃れました。
あの場面、書きながら、加持がどうやってミサトを言いくるめるのか、僕自身が興味津々だったのです。
結局、2nd RINGは、僕が書いた作品というよりは、シンジ、レイ、アスカを初めとする、登場人物たちに書かされた作品でした。
彼らが好きなように動き、悩み、喋ったことを、いわば口述記録のように僕が小説の形にしただけ、という感覚が、今もあります。
僕にとって、彼らは唯一無二な存在です。ガイナックスや庵野監督は、こんなシンジ達やストーリーを認めないでしょうし、こんなものをエヴァとは考えてくれないだろうと思いますが、これは僕にとってのエヴァンゲリオンなんだ、と思うようにしています。
10年。
それは、とてもとても長い時間です。
二十代半ばから三十代半ばまでの10年間を、この作品と共に歩めたことを、幸運に思います。
それが、みなさんにとっての幸運にも、少しはなってくれたら、嬉しいです。
10年間、頭の片隅には、常に2nd RINGのことがありました。
連載が中断している時にも、「次はどうしよう」という感覚は、必ずありました。
明日から、それが無い……というのは、なんだか不思議な気分です。
最後に、最終話に収めようとして、あまりにも長くなりすぎたので没にしたシーンのプロットを記載しておきます。
後日談に当たる部分です。
プロットのまんまの書き写しなので、非常にざっくりとした短い描写ですし、カットした部分なので設定を詰めておらず突っ込みどころもいろいろありますが、そのあたりは割り引いてご覧ください。
部分的な描写が最終話に吸収されているところもあるので、微妙に被っているところもありますが気にしないようにお願いします。
もしも気が向いたら、このあたりを読み切りで書くのも楽しいかもね、と、ちょっとだけ思っています。
少し、後日談を語ろう。
シンジ、レイ、アスカ、カヲル、トウジの5人は、NERVに残った。
当初、事務要員のような位置づけで働いていたが、アスカは持ち前の頭脳を生かしてやがて研究チームに出入りするようになり、わりと重責を担うようになっているようだ。
いつの間にか、諜報部にケンスケがいるのを見かけることがある。どうやって採用されたのだろう? 正規雇用ではなく、ハッキングによる改竄かも知れない。
5人は、警備付きで地上の家に住むようになった。シンジ達はみな、一年と置かずミサトのマンションは出た。シンジとレイは、同居するようになった。トウジは実家から通勤・通学している。
カヲルは近郊の高級マンションへ。なぜか、その直後にアスカも同じマンションに入居したようだが、こちらはどのような事情でそういう結論に至ったのか謎である。
5人は同じ高校に行き、やがて同じ大学へ行った。学校が同じなのは、警備上の理由が大きいのだが、だからと言ってフリーパスというわけでもないので、トウジは相当苦労したようだ。
小さな子どもの手を引くレイの姿をキャンパスで見かけることもあるという。
みなさん、長い間、2nd RINGを応援していただいて、本当にありがとうございました!