第九十一話 「攻防」
四百二十七



 「ぐっ……あッ……あ……あぁあああ……」
 
 
 
 トウジの皮膚の内側を、何億匹というミミズが這いずり登ってくるような、感覚。
 
 そのおぞましい感触に、トウジの口からは思わず苦悶の叫びが漏れた。
 
 「あ……がッ……」
 
 脂汗が滲む。
 
 視界が歪み、世界が回転するような錯覚。激しく脳細胞が揺さぶられて、吐き気が咽の奥にせり上がる。
 
 
 
 身体の先から痛みとおぞましさの波が襲い、それが通り抜けた後から、無感覚の状態になっていく。
 
 それは足首から腰、胸、首と進み、瞬く間に全身を覆った。
 
 
 
 (う……ああ……な……なんや、コレ!?)
 
 背をのけ反らせながら、トウジは歯を食いしばる。
 
 (コ……コ、コッ……コレが……起動……実験なんかいな!?)
 
 形容し難い。
 
 自分の身体が、自分でないような、感覚。
 
 
 
 ぎこちなく、薄目を開けると、自分の身体の様子が視界に飛び込んできた。
 
 先程までと同じく、インテリアのシートに腰を下ろしているが、その体中がはっきりと節くれ立っており……それは、さながらメロンの表面のようだ。
 
 (なッ……なんや、コレ!)
 
 トウジは、思わず驚愕で目を見開いた。
 
 
 
 トウジは以前……プラグの中で闘うシンジの姿を、間近で見たことがある。
 
 しかしそれは、こんな有り様ではなかった筈だ。
 
 さらに、よくよく目を凝らしてみれば……手の平はハンドルに、足の裏はフットペダルに縫い付けられたようになって、一体化している。
 
 しかも、節くれ立っているのは自分の身体だけではなく……ハンドルやエントリープラグの金属壁、シートやインテリア……その全てが、同じように奇怪な様相を呈しているのである。
 
 
 
 「……なッ……」
 
 トウジは思わず、自分を襲う不快な感覚すら忘れ、驚きに言葉を失った。
 
 異様な風景に、数秒の間、言葉を継ぐことも出来ない。
 
 
 
 ……これは……幾ら何でも、変だ。
 
 
 
 起動実験がどんなものなのか……実験が成功したらどうなるのか、トウジは何も知らないのだが……それにしても、これは様子がおかしい、とさすがに気がつく。
 
 (き……起動実験、失敗……なんか!?)
 
 ……自分が何か、マズいことをやってしまったのだろうか、という思いが脳裏をよぎる。
 
 ……自分は、エヴァを起動させることが出来なかったのだろうか。
 
 やはり、エヴァを起動し、それを操るということは……何か、特別に選ばれた人間だけに可能なことで、自分はその中には入っていなかったのではないか。
 
 現在の、この状態がどういうことなのかよく分からないが……これは、自分がエヴァに拒まれた結果ではないか……トウジは、そんな思いを巡らせ、茫然としていた。
 
 
 
 ……しかし、それも暫くして、おかしいということに気付く。
 
 
 
 (……何で、起動実験が失敗……いう、連絡が入らんのや)
 
 起動実験が開始されたとき以来、エントリープラグの中は、静寂に包まれていた。
 
 聞こえるのは、せいぜい……自分自身の呻き声くらいなものだ。
 
 
 
 ……気付けば、トウジの体中を襲っていた不快な感覚は、いつの間にか軽減されていた。
 
 おそらく、先程のおぞましい感覚は、節に覆われていくその瞬間に最も顕著に感じられるのだろう。それが安定してしまった今は、さほどでもない。
 
 ……とは言え、身体の自由が全く利かないさまは、およそ心地よいとは言えないのだが。
 
 (なんで、誰も何も言ってくれへんのや? ……ワシも、いい加減、外に出たいわ……)
 
 一刻も早く、この状態を脱したい。
 
 首から上しかろくに動かせない、という状態は、想像をはるかに超えて不快だった。
 
 (それに……このままおっても、退屈やし……なぁ……
 
 ……さっきまで、周りにいろいろ表示されとったけど、今はただの節ばっかしでツマランしな……)
 
 ……トウジがそう思った……その、瞬間。
 
 
 
 突然……シュアッ! と、音を立てて、エントリープラグの内壁に外の風景が映し出された。
 
 
 
 一見、プラグの内壁はびっしりと節で覆われているため、よく映像が見えないのだが……同時に、トウジには、つぶさに外の様子が見える。
 
 それは、全天のモニタを通して見ているというよりは……むしろ、トウジの視神経にエヴァの目が直接繋がっているような、そんな異常な感覚だった。
 
 
 
 「なッ……」
 
 
 
 周囲の風景を見て、トウジは、思わず息を飲んだ。
 
 
 
 自分が今乗っている、エヴァ参号機。
 
 実験を開始したとき……確かエヴァは、その肩が壁にぶつかるくらいの、狭い空間にいて、その首までを満々とたたえられた水の下に沈めていた。
 
 肩や首に、何か太い固定材のようなものがいくつも刺さっていたのも、記憶にある。
 
 ……目を幾ら凝らしたところで、見えるのは、暗い金属の壁ばかりの、筈だ。
 
 それなのに……
 
 
 
 今、参号機の眼前には、中央管制塔の外……あの、眠らない施設群の様子が……しかし、昨晩とは違った姿で広がっていた。
 
 そこかしこから、黒い煙が幾筋も上がっている。
 
 ところどころでは、激しい爆発も起こっているようだ。
 
 アスファルトの地面はえぐれ、まるで絨毯爆撃を受けた後のようにめちゃめちゃに破壊されていた。
 
 周りに軒を連ねていたはずの施設も、かなり原形をとどめていない。それは、何かの爆発に巻き込まれて、一瞬にして吹き飛ばされてしまったかのようだった。
 
 
 
 ……それどころか、自分がいた中央管制塔が、めちゃくちゃに破壊されていることに気付き、トウジは愕然とした。
 
 ……何か、事故でもあったのだろうか?
 
 トウジは、エヴァの中にいたから無事だったようだが……これでは、相当な死傷者が出ている筈だ。
 
 (……こ、こりゃ……起動実験どころやないな)
 
 冷や汗を垂らしながら、トウジは考える。
 
 とにかく……幸いにも、自分は助かった。
 
 今ごろ、周りでは負傷者の救出などで大変なことになっているだろう。すぐに外に出られないのは残念だったが、ここは、ジタバタせず、大人しくしていたほうがいい。
 
 (ピンピンしとる人間のことは、後回しや……もしかしたら、今日一日外に出られんかも知れんが……こりゃ、しゃあないな……)
 
 トウジは、目を瞑って溜め息をついた。
 
 
 
 ……しかし、自分の目を瞑っても、エヴァの視神経を通じて外の様子が見えているのだから、不思議なものだ。
 
 (慣れない感覚やな……シンジや惣流や綾波は、こんなんで、ようまぁ平気やな……慣れれば、かえって楽なんかなぁ?)
 
 ……とにかく……周りの様子は、気になった。
 
 特に、この松代ではただ一人の知り合いである、リツコはの安否が気遣われる。
 
 確か、参号機の立っていた空間の、すぐ後ろの部屋にいたはずだ。周りの惨状を見るに、確実に、爆発に巻き込まれているとは思うのだが……。
 
 (……ワシが、エヴァを操縦できるんなら、いいんやろうけどな……
 
 ……そうすれば、こんなバケモンみたいなロボットや。救助活動にもずいぶん役立つと思うんやが……)
 
 しかし、動かせないものは仕方がない。第一、どうやったら動かせるのか、全く聞いていない。
 
 ハンドルを握る手もびっしりとした節で縫い付けられており、まったく微動だにしないのだ。
 
 
 
 ……そう、トウジが諦めともつかぬ溜め息を漏らしたとき……
 
 ……参号機の瞳が、ゆっくりと赤色に光った。



四百二十八



 「……う……」
 
 リツコは、瓦礫の中でうめき声をあげた。
 
 
 
 何が起こったのか、訳が分からなかった。
 
 確か、直前までエヴァ参号機の起動実験をしていた。自分は中央管制塔の管制室で、実験の指示を出していたはずだ。そして、神経接続が確認され……次の瞬間、全てが光に包まれていた。
 
 すぐには夢と現の境界が分からなかったが、朧に、参号機の暴走を思い浮かべた。
 
 
 
 (う……)
 
 リツコはゆっくりと瞼を開く。
 
 頭上に、抜けるような青空が広がっていて、一筋の飛行機雲が視界を緩やかに横切っていた。
 
 (……空……)
 
 それが、リツコの思考に違和感を伝えるには、数秒の時間を要した。明晰なリツコらしからぬ反応の遅さは、やはり、目が覚めてすぐのことだったからかも知れない。
 
 しかし、見えるはずの無い空がリツコの脳細胞の末端で警鐘を鳴らすと、みるみる、彼女の頭脳からノイズを拭い去っていった。
 
 
 
 「……えッ」
 
 リツコは一瞬のタイムラグの後、驚いて身体を起こした。
 
 そして、眉をしかめる。
 
 「ぐッ……!」
 
 鋭利な痛みに、身体を歪めてうずくまった。
 
 体中が、ぎしぎしと痛む。特に、左腕の様子がひどい。
 
 薄目を開けて自分の腕を見ると、血で赤く染まっていた。
 
 
 
 (……痛みは……ある)
 
 ……失血や神経切断などで再起不能、という状態ではない、ということだ。
 
 リツコは自分にそう言い聞かせると、痛みで顔をしかめながら、もう一度あたりの様子を見回した。
 
 
 
 ……それは、信じ難い光景だった。
 
 松代第二実験場は、もはや本来の機能の遂行がおよそ不可能なほどに、完全に破壊されていた。
 
 この状態を言葉で表すのは難しい。陳腐ではあるが、無理に言葉にすれば、一番しっくりするのは「メチャクチャ」という表現かも、知れない。
 
 リツコは、自分の身体の痛みを忘れて、言葉を失っていた。
 
 即座に、思考が回転しない。茫然と、その情景を眺めていた。
 
 
 
 ……一番彼女を驚かせていたのは、目の前に立っていた、エヴァ参号機であった。
 
 エヴァ参号機……その黒い体躯が、自分に背を向けて立っている。
 
 参号機はこの爆発の中でも無傷で……しかしそれは、とりたてて驚くに値しない。
 
 ……リツコが驚いていたのは……その頚椎の付近、トウジを乗せたエントリープラグが埋まっている辺りが、粘菌のようなものに覆われていたことだった。
 
 
 
 リツコは、すぐに状況を把握することが出来た。
 
 原因や経緯は分からない。だが、あんなものが、参号機に搭載されているはずが無い。
 
 
 
 「……使徒」
 
 リツコは、茫然と、呟いた。
 
 
 
 ガシャンッ!
 
 
 
 急に、参号機が、一歩……足を踏みだした。
 
 リツコは、驚いてその黒い背中を見る。
 
 ガシャンッ……ガシャンッ……
 
 参号機は、一度歩き出すと……止まることなく、ゆっくりと、移動を開始した。
 
 「そッ……そんな……」
 
 リツコは、愕然と声を漏らす。
 
 「トウジくんが……動かしているの!?」
 
 ……しかし、それはあり得ない、とすぐに気が付く。
 
 幾ら何でも、操縦の仕方もわからない少年が、いきなりシンクロに成功するばかりか操縦までやって見せるとは思えない。
 
 実際には一人、それを披露して見せた少年がいたが、彼は特別すぎるほどに特別なのだ。
 
 ……少なくとも、シンジと同じ匂いを、トウジには感じない。トウジが、そんな非人間的な能力を秘めているとは思いがたかった。
 
 
 
 ……と、なれば、もはや参号機を動かしているのは、使徒以外の何者でもあり得なかった。
 
 今はまだゆっくりした動きだが、目指すのはジオフロントに相違ない。
 
 「……連絡しないと」
 
 冷や汗を垂らしながら、リツコは呟く。
 
 しかし、どうしていいのか分からない。
 
 自分は、半壊した中央管制塔の中におり……誰かの手を借りなければ、地表まで降りることも出来ないような状態なのだ。
 
 フ、と気付き、リツコは白衣のポケットを探る。
 
 しかし、出てきた携帯電話は、二つに折れてしまっていた。



四百二十九



 にわかに、ジオフロントの中はざわめきたった。
 
 低いサイレンの音が鳴り響き、職員達が通路を駆け抜けていく。
 
 
 
 控室からケイジに向かう通路を、レイとアスカは徒歩で移動している途中だった。
 
 アスカは振り返ると、怪訝そうな表情で、駆け抜けていく職員達の様子を眺めて首を傾げる。
 
 
 
 「……なんか、様子がヘンね」
 
 アスカが、呟くように言う。
 
 状況はまだよく分からないが……緊迫して張りつめた様子が、空気を伝播して、彼女の肌の毛穴をちりちりと焦がしていた。
 
 「使徒でも……出たのかしら。
 
 でも、それならアタシたちに招集がかかるわよね」
 
 ぶつぶつと呟く。
 
 
 
 「……松代で、事故が起こったんだわ」
 
 
 
 レイの呟きに、アスカは驚いて振り返った。
 
 ……レイは、じっと、通路の先を見つめている。
 
 その表情には、驚きも何もなく……ただ、眉をひそめて、まるで悔しさに耐えているようだ。
 
 「ちょっと、レイ……」
 
 「……早く、行かないと……」
 
 「……ちょっと、レイ! 待ちなさいよ、アンタ!」
 
 歩きかけたレイの肩を、アスカが強引に掴んで引き戻した。
 
 
 
 レイは、立ち止まってアスカの顔に振り返る。
 
 アスカはレイの肩を掴んだまま、そんな彼女の顔をじっと睨み付けていた。
 
 遠くで響くサイレンの音を耳に、二人は黙ったまま対峙する。
 
 
 
 「……松代で事故……って、ナニよ、レイ」
 
 「………」
 
 「レイ」
 
 「……参号機の起動実験が、失敗したんだわ」
 
 「……失敗?」
 
 「そう……」
 
 「……なんで、そんなコトが……アンタに分かんのよ?」
 
 
 
 アスカの問い掛けは、もっともな言葉だった。
 
 この場でレイの言葉を聞けば、誰だって同じ疑問を抱くだろう。
 
 レイには、松代の様子を知る術など無い。この状態で、たった今起こった松代の事故を知ることなど、出来るはずが無い。
 
 
 
 レイは、すぐにはアスカの問い掛けに答えなかった。
 
 じっとアスカの瞳を見つめる。
 
 アスカも、レイの瞳を見つめ続けている。
 
 
 
 レイはやがて、ふっ……と、横に視線を逸らせた。
 
 
 
 「……そう、思っただけ」
 
 
 
 「………」
 
 「………」
 
 「……ふざけんじゃないわよ」
 
 「………」
 
 「……信用しろって言うの? そんな、バカげたセリフを」
 
 「……思い付いただけ……」
 
 「アンタ、何か隠してるわ」
 
 「………」
 
 「……何で、アタシたちはケイジに向かってるワケ? 何で、シンジは事前に『エヴァの出撃がある』、って言ったの?」
 
 「………」
 
 「……レイ……アンタだって、シンジに『出撃がある』って言われたとき、『何故?』って、問い掛けたはずよ。シンジの言うことなら何でも信じるアンタでも、それくらいは言ったはず。シンジは、何て言ったの?」
 
 「………」
 
 「普通に考えたんなら、『エヴァの出撃がある』って言われれば、そりゃ、使徒が出るんだって思うわよ。それが普通でしょ? エヴァは、そのためにいるんだもの。
 
 ……思い付いただけ? そんなの、信用できないわね。アンタ、何で『松代で事故が起こった』なんて思うのよ。参号機の起動実験の失敗? そんなの、思い付くわけないじゃない。シンジに『出撃がある』って言われてんなら、使徒が出たんだ、って思うのが普通よ。そうじゃなきゃ、ヘンでしょ? 違う?
 
 ……アンタは、シンジから聞いてたんじゃないの?
 
 松代の事故……参号機の起動実験の失敗。それが事実なら……シンジは、知ってたんだ。それを、アンタは聞いてるんじゃないの?」
 
 
 
 レイは、口を噤んでいた。
 
 
 
 ……答えていいのかどうか、分からない。
 
 シンジの秘密を語る権利はシンジ自身にあり、レイには軽はずみなことは言えない。シンジがレイに、未来から戻ってきた秘密を話したとき、それは生半可な勇気ではなかったはずだ。
 
 レイの口から、アスカにそれを語るわけにはいかない。アスカに話すにしろ、話さないにしろ、それを決めるのはシンジだ。
 
 
 
 場は、膠着していた。
 
 レイもアスカも、言葉を発しなくなって数秒が経過していた。
 
 
 
 重い空気……
 
 
 
 ……を、アスカの溜め息が、そっと破った。
 
 
 
 「……話せない?」
 
 アスカが、小さな声で、呟いた。
 
 レイは、顔を上げてアスカを見る。
 
 アスカは、真面目な表情で、レイの瞳を見つめていて……その視線と、真正面からぶつかり合った。
 
 レイは、息を呑む……視線が捉まった。離せない。言葉が出ない。
 
 
 
 ……アスカはやがて、フ……と、苦笑して、瞼を閉じた。
 
 そして、肩を竦めて、再びレイを見た。
 
 「……話せない?」
 
 「………」
 
 「聞かないわ……それじゃ。シンジの言葉だもんね。レイ……アンタには、シンジの言葉は語れないのね」
 
 「……アスカ」
 
 「………」
 
 「………」
 
 「………」
 
 「……アスカ……あの」
 
 「シンジに聞く」
 
 レイの言葉を千切るように、アスカは鋭く言い放った。
 
 レイは、口を閉じてアスカを見る……アスカは、レイの視線を、もう一度、正面から捉まえる……それは、まるで赤い炎に、髪の毛が揺らめくように……
 
 「……シンジが帰ってきたら、直接聞く。逃がさないわ」
 
 アスカは、そう言うと、ポン、とレイの肩を叩いてレイの横をすり抜けた。
 
 「ホラ、行くわよ。出撃すんでしょ?」
 
 そう言って、スタスタと歩いていくアスカの後ろ姿を、レイは、茫然と見つめていた。



四百三十



 「かっ……勝手に動いとる……」
 
 トウジは、茫然と周りの様子を眺めていた。
 
 
 
 当たり前の話だが……トウジには、操縦している感覚も、そのつもりもない。
 
 明らかに、自分の意志とは無関係に、エヴァ参号機はその歩みを進めていた。
 
 ほとんど動かない首を回してトウジは周りの様子を見るが、黒煙をあげる松代の様子を尻目に、参号機は松代第二実験場の敷地から、あっさり外に出てしまっていた。
 
 「アホかい……救助したれよ、こんなデッカイんやから……」
 
 およそ緊迫感の篭らない口調で、トウジは呟く。
 
 
 
 ……現実感が無い。
 
 まるで、椅子に座って映画を見ているような感覚だ。
 
 何しろ、全く自分の意志が状況に介在していないのだから、当然である。
 
 
 
 「どこに向かっとるんや、ホンマ……ワシ、いつ、こっから出られんのかのォ……」
 
 トウジは、溜め息とともに、そう呟いた。
 
 
 
 「……松代、完全に通信が遮断されました。連絡が取れません」
 
 キーを叩きながら、マコトがそう報告した。
 
 ミサトは腕組みをした姿勢のまま、険しい表情で、その言葉を聞く。
 
 
 
 「おそらく、参号機の起動実験の失敗が原因だと思われます。事故の規模は正確には分かりませんが、衛星の情報から見て、かなりの死傷者が出ていると推測されます」
 
 「戦略自衛隊から救助隊が派遣されましたが、情報の漏洩の危険性を鑑み、現行法に照らして現場第二レベル距離で封鎖。現在は、NERVの救助隊のうち、松代近隣の第六〜十八部隊が現地に向かっています」
 
 「赤木技術部長の生死はまだ確認できません」
 
 次々に、オペレーターから報告が上ってくる。
 
 
 
 「……松代の救助は、最大最速でいきます」
 
 ミサトは、低い声で呟いた。
 
 「一人でも多くの職員を助けるよう努力して。
 
 ……リツコは、どっちにしろこんなコトじゃ死にゃしないわ……フォースチルドレンも、プラグの中なら安全でしょう。私たちには、他にやることがあります」
 
 ミサトはそう言って、カツッ、と足を踏みだした。
 
 目の前に座る、シゲルの前の、ホログラムウィンドウ。
 
 そこに、松代周辺の、解像度の荒い衛星映像が映っている。
 
 
 
 松代から、距離にして十数キロの地点……そこに、青い光点が表示されている。
 
 
 
 ミサトは、低い声で、呟いた。
 
 「……間違いない?」
 
 シゲルが、小さく頷く。
 
 「……パターン青、使徒です。映像はまだ届きませんが、ほぼ間違いないでしょう。
 
 発見したとき、松代の近辺にいましたから……もしかしたら、松代の事故は、こいつが原因かも知れませんね」
 
 「可能性は高いわね」
 
 ミサトは頷いた後、覗き込んでいた背筋を伸ばした。
 
 
 
 ……正直に言えば、今、使徒の出現はきつい。
 
 今までの使徒との闘いに、大きな影響力を持っていたシンジが、まだ見付かっていない。
 
 出来れば、初号機を中心とした布陣で、使徒と闘いたいのが素直な気持ちだ。
 
 
 
 ……だが、それまで使徒が待っていてくれるわけではないのだ。当たり前の話だが。
 
 「使徒は、低速でこちらに進行中ですね。間違いなく、ここを目指していますよ」
 
 シゲルの言葉が耳に届く。
 
 ミサトは頷くと、マヤに向かって声を掛けた。
 
 「レイとアスカは、今、控室? 非常招集発令して。すぐにプラグスーツに着替えて、まずはここに集まるように伝えてくれる?」
 
 
 
 『ンなコトしてるヒマがあったら、とっとと出撃させてよね』
 
 ……急に、アスカの声がスピーカーを通して管制塔に響いた。
 
 オペレーターの間にざわめきが走る。
 
 ミサトは、驚いて顔を上げた。
 
 
 
 「アスカ? ……あなた、どこにいるの!?」
 
 『ミサトとスピーカー越しに話ができるとこなんて、一箇所しかないでしょ』
 
 アスカの言葉に、ミサトは驚いてマヤの方に振り返った。
 
 マヤもミサトの視線に、慌ててキーボードを叩く。
 
 
 
 前方のモニタに、零号機、初号機、弐号機のエントリープラグ内の様子が浮かび上がった。
 
 真ん中のウィンドウ……初号機のプラグの中には、誰もいない……それは、シンジがまだ見付かっていないのだから、当たり前だ。
 
 だが、その両側のウィンドウに……零号機のシートにはレイが、弐号機のシートにはアスカが、それぞれプラグスーツを着込んで座っている様子が映し出されていた。
 
 
 
 ミサトは、唖然とした表情で二人の姿を見つめていた。
 
 我に返り、慌ててマイクの前に駆け寄る。
 
 
 
 「あッ……あなたたち、何やってるの!?」
 
 『出撃に控えてるのよ』
 
 アスカが、しれっとした表情で応える。
 
 『上を開けてください』
 
 レイが、冷静な口調で述べた。
 
 ミサトは、茫然とした表情で、二人の顔を見つめる。
 
 「な……なに、言ってるのよ。……まずは作戦会議でしょ」
 
 『スピーカー越しでもできるわよ』
 
 『現場に迅速に到達していた方が選択肢は広がります。実際に状況を把握したうえで、最善の作戦を立てたほうが効率はいいと思われます』
 
 「あ……あのね」
 
 『マヤ、上、開けて』
 
 『最速10分で現場に到着します』
 
 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、二人とも!」
 
 『なによ?』
 
 『なんですか?』
 
 
 
 二人に、同時に言葉をかけられて……ミサトは言葉を失ってしまった。
 
 
 
 ……そうして、裕に30秒は経過しただろうか。
 
 ……やがて、ミサトは、はぁあぁぁぁああぁぁぁ……と、溜め息をついた。
 
 
 
 肩を落として、マヤに声を掛ける。
 
 「……第18番ゲート、開いて」
 
 窺うような表情で、マヤが振り返る。
 
 「……いいんですか?」
 
 「……しょうがないじゃない、この際……」
 
 ミサトは、組んだ腕の先で、とんとん、ともう片方の二の腕を指で叩きながら、溜め息交じりに呟いた。
 
 
 
 ……実際のところ、ここで甘い顔をするのもどうかと思うが……確かに、二人が管制室に集まったとしても、たいして与えられるような作戦はないのだ。
 
 まだ、使徒が何者なのかもよく分かっていない。情報が少なすぎて、作戦の立てようが無い。
 
 ……もちろん、使徒の情報が集まるのを待って、それから作戦を練って、二人に与えてもいいかも知れない。
 
 だが、それによって失う初動の時間が、致命的でないとは、今のところ言えないのだ。
 
 二人が素直に管制室に現れればもちろん作戦会議にするつもりだったのだが……今のように、もはや出撃を待つばかりという状態なら、それはそれで出撃してしまうのも悪くはなかった。
 
 「零号機、弐号機とも準備完了しました」
 
 マヤの言葉に、ミサトは頷くと、前方に映る二機のエヴァの映像を睨みつけた。
 
 「いいわね、二人とも……そばまで行ったら一旦待機よ。勝手な行動は許さないからね」
 
 『オッケー』
 
 『了解』
 
 「……エヴァ零号機、弐号機、発進!」



四百三十一



 零号機と弐号機が最高速に移行したところで、管制塔に加持からの電話が入った。
 
 ……つまり、碇シンジ救出の報である。
 
 その事実はすぐにレイとアスカに伝えられた。二人とも胸を撫で下ろしたのだが、むしろ安堵の様子が少なかったのはレイの方だ。
 
 いや、言い方が悪い。もちろん、レイもこれ以上ないくらい安堵したのだが……何と表現したらいいのだろうか? レイにとって、シンジは生きているのが当然で、そのことに対する驚きは少なかったのだ。
 
 
 
 シンジは、初号機で出動するために、すぐにジオフロントに向かって移動を開始した。
 
 どんなに急いでも、零号機と弐号機が現場に到着してから、初号機が後に追いつくまで30分近くかかるだろう。
 
 
 
 ミサトとしては、エヴァが3体揃うのであれば、その状態まで待って、そこで闘いに移行したい。
 
 その方が闘いに勝つ確率は高いだろうし、そう考えるのは当然である。
 
 だが、全力で疾走する零号機からは、全く別の提案がなされていた。
 
 
 
 『碇君は休ませたほうがいいと思います』
 
 そう言うレイの言葉に、ミサトは溜め息をついた。
 
 ……何となく、レイがそう言うことを、予想しなかったわけではない。
 
 『私達だけでも十分です。一晩監禁されていた碇君の健康状態がいいかどうか、まずは病院で検査するべきです』
 
 「あなたたち二人で本当に十分なのかどうか、分からないでしょ。それに、加持の話では、特に体調に問題はなさそうよ」
 
 ミサトが応える。
 
 「シンジ君も、一刻も早く現場に行きたいと考えてるみたいだし」
 
 『しかし……』
 
 「レイ」
 
 ミサトは、静かにレイの言葉を切った。
 
 
 
 「レイ……もちろん、シンちゃんの体調のことは考えてる。
 
 でも、正直に言えば……今は、使徒殲滅の方が大事よ。シンちゃんが重症だというのなら話は違うけど、とりあえず問題がないのなら、まずは出撃。それは動かせないわ」
 
 
 
 『……ハイ』
 
 小さくレイの声が聞こえ、それから後は、言葉は続いてこなかった。
 
 
 
 『レイ』
 
 零号機のエントリープラグの中に、アスカの声が聞こえてきた。
 
 レイは、顔を上げる。
 
 「……なに?」
 
 『……シンジが心配?』
 
 「………」
 
 
 
 ……もちろん、心配だ。
 
 これ以上に無いほど。
 
 それは、当然だ。
 
 
 
 だが、何より、今回のことにシンジの手を煩らわせたくなかった。
 
 バルディエルと対峙するものは、つまり……必ずトウジと闘うことになる。
 
 シンジは、トウジと仲がいい。出来れば、シンジにやらせたくはなかった。
 
 
 
 ……空が朱に染まりだした頃。
 
 零号機と弐号機は、想定された使徒との遭遇予定地点で、臨戦態勢で待機していた。
 
 『もうすぐ使徒が姿を現すわ……ほぼ同時刻に無人戦闘機もそこに到着するから、まずはそっちに任せて様子を見て。
 
 敵の能力や特徴を掴んでから、適切な作戦をもって殲滅にあたること』
 
 ミサトの声が、スピーカー越しに二人の耳に届く。
 
 
 
 田圃道に膝を突いて銃を構えた姿勢のまま、零号機はじっと動かない。
 
 弐号機も、数百メートルほど離れた地点で、プログナイフを片手に構えたまま、腰を落として彫像と化している。
 
 すぐ背後の山合から、アンビリカルケーブルが伸びて二機の腰に繋がれていた。
 
 
 
 二つの影が、長く背後の山肌に伸びていた。
 
 カラスの鳴き声が聞こえる。
 
 風が、枯れた田圃の間を吹き抜けていく。松代で事故が起こった時点から、この付近はなべて封鎖されており、人の気配はない。
 
 電線が微かに揺れて、か細く高い音を立てていた。
 
 
 
 照準を覗き込んだまま、レイは、意識をゆっくりと集中させていた。
 
 ……思えば、参号機が使徒に乗っ取られることは事前に聞いていても、その使徒の能力がいかなるものか、彼女は何も知らなかった。
 
 もともとはエヴァンゲリオン参号機なわけだし、その能力を大きく越えるものではないだろうとは思うが、確証はない。
 
 トリガーにかけた指に、微かに力が篭る。
 
 まずは、ミサトの言う通り……無人戦闘機で攻撃を仕掛けて、その能力を測るべきだろう、とは思う。だが、だいたいにして……戦闘機の攻撃程度では、使徒が全く躱さなかったとしても、傷ひとつ付けられないだろう。
 
 ……参号機の手足をもいで、完全に動きを奪う。
 
 それは、同じエヴァンゲリオンである、自分たちにしか出来まい。
 
 
 
 ……横で、プログナイフを構えて立っている弐号機に、微かに視線を向ける。
 
 赤い巨人は、腰を落とし、いつでも闘いに移行できる姿勢で、じっと構えている。
 
 ……恐らく、アスカの心は、すでに来るべき戦闘に向けて集中しているに違いない。
 
 
 
 レイは、これからやって来る使徒が参号機である事実を……結局、アスカにもミサトにも話すことが出来なかった。
 
 ここ、この段階に至って、やはり話すべきだったのかも知れないという不安が頭をよぎる。
 
 少なくとも……現れた参号機を目の当たりにして、アスカは動揺するだろう。
 
 
 
 だが、レイがその事実をあらかじめ知っている……というのは、どう冷静に考えても、やはりおかしな話だ。
 
 戦闘中は気にならないかも知れないが、あとできっと、「何故レイは参号機が使徒に乗っ取られたことを知っていたのだろう」という疑問を覚えるに違いない。
 
 その疑問に返答できる、適切な言葉をレイは持たない……シンジが未来から来た話をレイの口から語るのは避けられるかも知れないが、最低、「シンジから聞いた」くらいのことは言わずには収まるまい。
 
 それはつまり、追及の矛先がシンジに向かうということで……それがシンジの意志であるならばともかく、そうでない以上それが適切な処置であるかはレイには判断できなかった。
 
 
 
 ……来るべき事実を、僅かとは言え知っているにも関わらず、思いのほか上手い手段がとれないことを、レイは肌で感じていた。
 
 単純に……未来のことが分かれば、何もかも上手くいきそうな予感があったのだが、それは大きな間違いだった。
 
 シンジは、今まで、ずっとこの不自由な中で闘ってきたのだ。それはある意味、事実を知っているレイだからこそ、ようやく……初めて分かったことなのである。
 
 
 
 レイは、静かに……ハンドルを握る拳に、力を篭めた。
 
 
 
 もう……一人では、ない。
 
 例え必ずしも、シンジが最善の方法が取れなかったとしても……自分は、シンジのことを、理解してあげることができる。
 
 ようやく、その位置まで、来たのだ……。



四百三十二



 ……ィィィ……ィィィイイイイインン……
 
 
 
 参号機の頭上を、戦闘機が一機飛来していったのに気付き、トウジは視線を上げた。
 
 参号機の背後から飛んでいった機体は、そのまま夕陽に煌めいて、前方に消えていく。
 
 
 
 「……いまの、ワシに気付いてくれたかなぁ……」
 
 トウジは、ぼーっとした口調で呟いた。
 
 松代で事故が起こってから、まだ30分は経過していない。思えば先程の事故以来、参号機の周囲に現れた、最初の、人の気配である。
 
 「エヴァって、燃料切れとかないんかな……いつまでこうしとったらええんやろ……」
 
 
 
 自分がエヴァの外に出る……それはつまり、参号機の歩みを止めるしかあるまい。
 
 それが、例えば遠隔操作のリモコンみたいなもので可能ならば、今ごろ、もうとっくに誰かが止めていることだろう。
 
 参号機を止めるには、力づくで無理矢理止めるしかないのだとしたら……それは、同じエヴァが出張ってくるしかないかも知れない。
 
 「……ちゅうと、シンジか綾波か、惣流あたりの力を借りるしかないわなぁ……」
 
 トウジは、そう思って溜め息をついた。
 
 どうにも、自分が彼らと同じチルドレンという立場だと考えれば、彼らの助けを借りなければエヴァを降りることも出来ない今の状態は、余り格好のいいものとも思えなかった。
 
 ……しかし、自分には……どうすればこのエヴァを止めることができるのか、皆目見当がつかないのである。
 
 
 
 ……そうして、ぶつぶつと呟いているところで、参号機が低い丘を一つ越えた。
 
 
 
 目の前には人気の無い田園風景が広がっている。
 
 赤い、血の色のような、夕焼けの……光の、中に。
 
 
 
 その、自分から一キロ程離れた地点に、零号機と弐号機の姿が見える。
 
 
 
 ……零号機は、自分に向けて銃身を構えて。
 
 ……弐号機は、自分に向けてナイフを構えて。
 
 
 
 「……あ?」
 
 トウジは、ぼけっ……と、気の抜けたような声を漏らした。
 
 
 
 「……あれが……使徒?」
 
 現れた参号機の姿を見て……アスカは、唖然とした表情で、それだけ呟いた。
 
 もともと……作戦ではまず待機ということだったが、アスカは内心、使徒に隙があるようならば先手を打って仕掛けてやろうと思っていた。
 
 だが……そんな思いは、咄嗟に吹き飛んでしまった。
 
 予想していなかった事態に、頭の中が空っぽになっている。
 
 
 
 レイは冷静に、照準を参号機の足にセットした。
 
 取りあえず、ミサトの作戦通り、まずは戦闘機での攻撃で敵の様子を窺った後……間髪を入れず、手足を撃ち抜く。
 
 敵を、その間合いに入らせない。その前に、一瞬で勝負をつける。
 
 
 
 「……斥候の戦闘機の映像通りです。エヴァ参号機から……パターン青が、検出されています」
 
 マコトが、声音を微かに強張らせながら報告した。
 
 眼前の、メインモニターに、対峙する零号機・弐号機・参号機の様子が映っている。
 
 ……ミサトは、それを睨み付けながら、親指の爪を噛んだ。
 
 
 
 予想外の、展開。
 
 まさか……エヴァが、使徒に乗っ取られるとは……。
 
 
 
 「……どうしますか? 作戦では先制攻撃の予定でしたが……」
 
 マヤが、おずおずとミサトに声を掛ける。
 
 ミサトも、咄嗟に返答しかねた。パターン青……と言っても、目の前にいるのはエヴァであるし、その中にはフォースチルドレンである鈴原トウジが乗っているはずだ。
 
 現在も、対峙しているだけで、使徒に敵意を見せられているわけではない。こちらから先に攻撃をしていいものかどうか、決めかねた。
 
 ……しかしもちろん、このままやり過ごすなど有り得ないし……かと言って無防備に近付くことも出来ない。
 
 どうすればいいのだろうか……?
 
 
 
 「……作戦に変更はない」
 
 
 
 ……頭上から掛けられた低い声に、ミサトとオペレータたちは驚いて振り返った。
 
 掛けられた言葉の先……そこに、ゲンドウが座っていた。
 
 
 
 衆目の視線を浴びて、しかし、ゲンドウの表情には何の変化もなかった。
 
 「……参号機の中には、フォースチルドレンが乗っていますが」
 
 ミサトが、言葉に微かな動揺と抗議の意を篭めて、ゲンドウに応える。
 
 しかし、ゲンドウは、動じる様子を見せない。
 
 「参号機ではない」
 
 「は……」
 
 「……あれは、使徒だ」
 
 
 
 (なんや……)
 
 トウジは、緊張感の無い表情で、前方で構えている二機を眺めていた。
 
 ピンと来ないが……どうも、臨戦態勢を取っているように、見える。
 
 
 
 (力ずくで止める……ちゅうことかいな?)
 
 しかし、銃にナイフとは、穏やかではない。まぁ、単なる意思表示かも知れないが……。
 
 それに、無理矢理参号機の歩みを抑えるにしろ、結局、ただ歩いているのを立ち止まらせるだけである。それにしては、エヴァが二機もお出ましとは思わなかった。
 
 (念には念を……ちゅうことかも知らんけどな。
 
 しかし……ちょっと怖いわ。あんまり乱暴なことせんといてくれや……)
 
 
 
 ……その時、そうして構える二機の背後から、先程飛来したものと同じ型の戦闘機が数機、ホバリングのようにこちらに機首を向けて上昇してきた。
 
 トウジは首を傾げる。
 
 ……エヴァの歩みを止めるのに、戦闘機……何の意味があるのだろう?
 
 そう……思った瞬間。
 
 
 
 チカチカッ、と、戦闘機の機首が煌めき……僅か一秒にも満たないタイムラグの後、参号機の目の前が、激しい爆音とともに七色に瞬いた。
 
 
 
 ドガガガガガッッ!!
 
 
 
 「……うぉわッ!?」
 
 トウジは、驚いて咄嗟に瞼を閉じた。
 
 しかし、瞼を閉じても、映像は直接自分の脳細胞に直結して展開されている。
 
 トウジは目を開けて、茫然と、目の前の風景を見つめていた。
 
 
 
 ……撃ってきた。
 
 ……自分に!?
 
 
 
 「A.T.フィールド……」
 
 ミサトが、険しい表情で呟いた。
 
 ……戦闘機が撃った弾は、参号機の直前で七色の壁に跳ね返されてしまっていた。
 
 考えてみるまでもなく、使徒がこういう反応を見せてくるのは当然だ。だがこれでは、大した参考にならない。
 
 
 
 『ちょっと!』
 
 スピーカーから、アスカの怒気を孕んだ声が飛び込んできた。
 
 『ナニ、撃ってんのよ……アレ、参号機じゃない! 中に鈴原が乗ってんじゃないの!?』
 
 「……そう……でしょうね」
 
 ミサトが、低い声で応える。
 
 『そうでしょうね、って……ちょっと! 鈴原殺す気!? 攻撃してきてるワケでもないのに……』
 
 「弐号機パイロット」
 
 ……だが、アスカの声は、ゲンドウの言葉に分断された。
 
 
 
 「弐号機パイロット……君の仕事は何だ」
 
 ゆっくりと……感情の篭らぬ声音で、ゲンドウが言葉を紡ぐ。
 
 場は、水を打ったように静まり返った。
 
 ……言葉一つに、これほどの重さと冷たさを併せ持つ者は……他に、リツコくらいなものであろう。
 
 
 
 数瞬の沈黙の後……アスカは、若干声のトーンを落として、ゲンドウの言葉に反応した。
 
 『……エヴァを……操縦することです』
 
 「違う」
 
 ピシッ、と、ゲンドウは短く言葉を切った。
 
 
 
 「パイロットの仕事は、使徒と闘い、これを殲滅することにある」
 
 『………』
 
 「あれは参号機ではない……使徒だ。搭乗者の生死は既に判断がつかぬ。君は、己が責務を果たせ」
 
 『……でも!』
 
 
 
 レイは、引き鉄を引いた。
 
 
 
 ズガガガガガッ! と、激しい土煙を上げて、レイの撃ったライフルの弾が地面に吸い込まれた。
 
 照準の中にぴたりと嵌っていたはずの参号機は、弾が届くよりも早くスコープの外に飛び出す。
 
 レイはすぐに眼窩からスコープを外すと、そのままブゥン、と振り回すように銃身を参号機に向かって構え直した。
 
 
 
 「レイ!?」
 
 アスカは驚きの表情で、再び引き鉄を引く零号機を見つめていた。
 
 まさか、トウジが乗っていることが分かっていながら、これほど躊躇無く攻撃を仕掛けるとは……。
 
 「ちょ……ちょっと、レイ! 待ちなさいよッ」
 
 ナイフを片手に持ったまま、弐号機が一歩、右足を踏みだす。
 
 
 
 その右足を薙ぐように、参号機の黒い腕が伸びた。
 
 明らかに、間合いの外からの攻撃。
 
 咄嗟に状況を判断するよりも早く、訓練された反射神経が地を蹴る。
 
 空を切る参号機の腕。その爪の先が弐号機のアンビリカルケーブルを切断する。
 
 砕ける畦道。空中を一回転した弐号機は、二百メートルほど離れた田圃の真ん中に着地した。
 
 
 
 「なッ……」
 
 慌てて上体を起こして構えを取りながら、アスカは目を見開いて言葉を漏らした。
 
 目測は誤っていなかったはずだ。闇雲に、こちらから攻撃する気が無かったとはいえ、迂闊に使徒の攻撃範囲に飛び込むような真似をするはずが無い。
 
 それなのに、危うく片足を払われるところだった。一瞬の攻防の結果は、運が良かったと言っても良い展開だったのだ。
 
 
 
 『アスカ、どいて』
 
 レイは短く言葉を発して、再び照準を参号機に合わせた。
 
 ライフルから激しく吐き出される光の粒が、しかし、空しく宙を舞う。
 
 ……決して、レイの反応速度は悪くない。参号機の動きが、若干それを上回っているのだ。
 
 レイは、唇を噛んだ。
 
 
 
 「お……わ……ぁああぁああッ!!」
 
 トウジは、血の気を失った顔で目を見開いていた。
 
 ……間違いなく……レイの乗る零号機は、躊躇無く自分に向かって引き鉄を絞っていた。
 
 すんでのところで躱しているが、地面を砕くその爆発が、それが決して偽物でないことを現していた。
 
 
 
 ……当たれば、死ぬ。死んでしまう。
 
 実際にはレイも、例えライフルの弾が参号機に命中してもエントリープラグを傷つけるような真似だけはしないように気を配っているのだが、そんなことはトウジに分かるわけが無かった。
 
 
 
 一秒前に自分が立っていた畦道が、激しい爆発とともに砕け散る。
 
 死んだ、と、そのたびに思って硬く目を閉じるのだが、映像は遮断されず、容赦なくトウジの視神経に情報を流し込む。
 
 参号機は、まるで現実とは思えない動きで、宙を舞う。その信じられないような速さは、トウジの経験した、およそどんなジェットコースターとも比べ物にならなかった。
 
 
 
 「うおォおおッッ!!」
 
 顔中に脂汗をびっしり浮かべながら、トウジは恐怖で表情を強張らせた。
 
 目を背けたい。
 
 この、非現実的な世界の全てを拒絶したい。
 
 だが、容赦なく襲いかかる縦横の激しい揺れと衝撃、飛び散る土煙がそれを許さない。
 
 
 
 これは、現実だ!
 
 
 
 ……おまえは……戦場にいるのだ……!
 
 
 
 「た……た、たッ……たす、たすけ……ッ」
 
 ドガッ、と参号機は地を蹴り、一瞬で数百メートルを飛び上がり、空中で回転する。
 
 その、信じがたい動きに、トウジの凡庸な感覚は既についていくこともままならなかった。
 
 
 
 「……た……ッ! たすけてくれぇェッ!!」
 
 振り絞るように、トウジは叫んだ。
 
 涙でエントリープラグの風景が歪んだ。だが、外の様子は、信じられないほど鮮明に現実を叩き込む。
 
 
 
 「……レイッ! あんた、鈴原を殺す気!?」
 
 アスカが、怒鳴るように、マイクに向かって叫びかけた。
 
 ……レイは、性急とも言える動きで、確実に参号機を狙って引き鉄を引いていた。
 
 確かに、使徒と認められる目の前の敵は、エヴァパイロットとして、殲滅しなければならない対象だ。それは、分かる。
 
 だが……余りにも……余りにも、躊躇が無さ過ぎるではないか。
 
 中のパイロットの身を案じている素振りを、露ほども感じられない。
 
 
 
 『……鈴原君は……絶対に、助ける』
 
 ……爆音の隙間から、スピーカーを通して、急にレイの言葉が漏れ聞こえた。
 
 アスカは顔を上げる。
 
 「レイ? アンタ……撃っといてナニを」
 
 『プラグは傷つけない。使徒の動きを完全に断って、プラグを引き抜くのが、鈴原君を助ける唯一の方法』
 
 「唯一って……」
 
 『使徒が、ただ参号機を奪って終わりの筈が無いわ。相手に主導権を与えるほうが、むしろ危険。一気にカタをつけなければ……』
 
 その、言葉尻が轟音に掻き消された。
 
 
 
 弾幕の隙間から、一条の黒い筋が、一直線に零号機を襲った。
 
 ……逃げ回るばかりの、しかも数百メートルは離れていたはずの参号機の爪が、目の前にある。
 
 その、突然の動きをレイは咄嗟に躱すことが出来ず、一瞬のうちに横薙ぎに払われた。
 
 激しい金属音とともに、零号機が一気に宙を舞う。
 
 
 
 ドガァッッ!!
 
 
 
 零号機は、横倒しに地を滑り、土を砕きながら山肌に激突した。
 
 腰の器具が弾け飛び、外れたアンビリカルケーブルがまるで生き物のように宙を舞った。
 
 「ぐぁッ……」
 
 レイの口から呻きが漏れる。
 
 
 
 零号機の構えていた銃の火筒が、真ん中からぐにゃりとへし折れてしまった。
 
 一瞬の空白。
 
 レイが顔を上げると、参号機の腕が、一気に零号機の脇腹を薙いだ。
 
 
 
 ……ズガガガッ!!
 
 「きゃぁッ!!」
 
 もんどり打つように、不自然に回転しながら零号機は吹き飛ばされた。
 
 二、三度に渡り、地面にその体躯を打ち付ける。
 
 一拍置いて体勢を整えようと起き上がった瞬間、再び激しく薙ぎ払われる。
 
 
 
 土煙をあげて転がる零号機。
 
 参号機が地を蹴り、黒い機体が空中で回転した。
 
 そして、そのまま、横転したままの零号機に追い討ちをかけるように、鋭く上に突っ込んできた。
 
 零号機は、咄嗟に起き上がることが出来ない。参号機の踵が、鋭い楔のように、零号機を狙う。
 
 
 
 その、瞬間。
 
 
 
 『……調子に乗ってんじゃないわよッ!!』
 
 ガンッ!!
 
 
 
 ……ドガァッ!!
 
 
 
 ……一気に落下してきた筈の参号機は、激しい衝撃とともに、一瞬にして反対側の山肌にめりこんだ。
 
 土くれが、激しく夕焼けの中に飛び散る。
 
 
 
 ……横転した零号機の前に、弐号機が仁王立ちに立ち塞がっていた。
 
 
 
 弐号機が、参号機の脇腹を蹴り飛ばしたのである。
 
 「ア……アスカ」
 
 レイが、擦れた声で呟いた。
 
 レイの目に映る、弐号機の背中……
 
 『……転がってんじゃないわよ、さっさと立ちなさい!』
 
 アスカの叱咤が、レイの耳朶を叩いた。
 
 
 
 ……しかし、今、最も恐怖に震えていたのは、間違いなくトウジであった。
 
 山肌にめり込んだまま、恐怖と驚きで目を見開いている。
 
 
 
 ……弐号機に蹴り飛ばされた瞬間……確かに、激しい痛みが自分の脇腹を襲った。
 
 それは、まるで本当に、自分自身が蹴り飛ばされたような感覚。
 
 そして、そのまま背中を山肌に叩きつけたときは、激痛で一瞬呼吸が止まった。
 
 
 
 (な……ッ……)
 
 ……汗でびっしょりのまま、トウジは、言葉を失っていた。
 
 
 
 ……まさか。
 
 ……まさか……
 
 
 
 ……エヴァとは……直接、受けたダメージを自分の体で受け止めてしまうのか!?
 
 
 
 「……や……ッ……」
 
 擦れた言葉が、咽の奥から漏れた。
 
 体中を流れる汗とは裏腹に、咽の奥はぺりぺりに乾いて貼り付く。
 
 「や……や……や、や……やめ……やめ、やめてくれ……ッ……」
 
 いやいやをするように、トウジは殆ど動かない首を左右に振る。
 
 今すぐ、全てをかなぐり捨てて、この場を逃げ出したかった。
 
 でなければ、せめて……身体を丸く縮めて、渾身の力で膝を抱えてしまいたかった。
 
 ……にも、関わらず……今の自分には、それすら許されないのである。
 
 
 
 たまらない。
 
 
 
 「や……やめ……やめ、やめ……やめ……ッ」
 
 ……しかし。
 
 ……そんな、トウジの言葉も空しく、参号機は、のそり……と身体を起こした。
 
 立ち上がると、そのまま、再び右足を踏み出す。
 
 「い……い、い、行くなッ。行かんでエエッ! 止まらんかいッ!」
 
 叫び声。
 
 パイロットであるはずの、自分……
 
 ……自分の操縦のもとに動くはずの、巨人。
 
 しかし、その意に反して、参号機は上体をぐぐっ……っと屈めると、溜め込んだ力を一気に吐き出すかのように、地を砕きながら飛び出していった。
 
 
 
 「……うぉおわぁああッ!!」
 
 
 
 一瞬にして眼前に迫った赤い巨人に、トウジは一瞬死を覚悟した。
 
 訓練を積んだアスカに、敵うはずが無い……
 
 
 
 ……しかし、空中を弾け飛んだのは、その、赤い体躯だった。
 
 
 
 激しい衝突音とともに、弐号機は地面を転がった。
 
 「ぐッ……!」
 
 オフロードのような振動の中で、アスカは眉をしかめて衝撃に耐える。
 
 
 
 まただ。
 
 確かに、参号機の速度も尋常ではなかったが……それよりも。
 
 間違いなく間合いの外にいたはずなのに、一瞬にして薙ぎ払われてしまった。
 
 
 
 (腕が……伸びてる……!)
 
 転がった勢いでそのまま起き上がりながら、アスカは神経を張りつめる。
 
 
 
 参号機が標的を弐号機に変えている間に、零号機はなんとか起き上がって、再び間合いを取っていた。
 
 それを目の端で確認して、アスカはとりあえず胸を撫で下ろす。
 
 しかし……
 
 ……腕を自在に伸ばしてくるとは、いかにもふざけた攻撃だ。戦闘の基本である「間合い」が無に帰してしまう。
 
 対するこちらには、攻撃を仕掛けるためにどうしても近付かなければいけない間合いがあるのだ。これは、二対一であることを考慮に入れても、不利感がある。
 
 とにかく、後手に回るわけにはいかない。
 
 
 
 弐号機は、腰を低くして、素早く行動に移れる姿勢で構えを取る。
 
 横目で、電源の残量カウンタを確認する……思いのほか時間がない。
 
 アスカは小さく舌打ちした。あと30秒で始末しなければ……しかし、迂闊に動くことが出来ない。
 
 
 
 参号機が、その俊敏な動きを武器にすぐにでも飛びかかってくると思っていたのだが、まるで獣のように四つん這いになり、首だけをこちらに向けていた。
 
 距離は500メートル近く離れている。しかし、この敵を相手に、それはまるで安全ではない。
 
 そう、あの、自在に伸びる腕があれば……
 
 
 
 (……ん?)
 
 
 
 ふと、違和感のある情景に、アスカは眉をひそめた。
 
 
 
 参号機の腕……
 
 ……それが、地面の中に埋まっている。
 
 
 
 ……ドガッッ!!
 
 
 
 「ぐあッ!!」
 
 アスカが、自分の首を押さえて呻き声をあげた。
 
 弐号機の足許から、土くれをあげて黒い二本の腕が伸び、その首を一気に締め上げていた。
 
 
 
 「ッぐ……あ……ぐあぁあッ……!」
 
 ……アスカはシートの上で身悶えながら呻く。
 
 ギリギリギリ……と、その首に、鋭い爪先が食い込んでいく。
 
 アスカの白い首が、まるで本当に締められているかのように、だんだんと赤黒く変色する。
 
 アスカは、必死に自分の首を押さえた。信じられない……まさか、地面の下から、腕だけ伸ばしてくるなんて!
 
 薄目を開けて、参号機を見る。
 
 ……参号機は、ここから数百メートル遠くでこちらを見ていた。蹴り飛ばしたくても、アスカの間合いからは、余りにも、遠い。
 
 
 
 こ……の……ォ……ッ!
 
 
 
 バガッ!!
 
 
 
 その瞬間、激しい音とともに、届かないはずの参号機の黒い体躯が、一瞬で薙ぎ払われた。
 
 地響きを上げて、転げる参号機。
 
 
 
 ……零号機が、参号機の懐に飛び込んで、思いきり蹴り飛ばしたのだ。
 
 解放された弐号機は、しかし、その衝撃で背後の山肌に叩きつけられる。
 
 同時に、弐号機の内部電源カウンタはゼロを刻んだ。
 
 
 
 「……アスカッ!」
 
 参号機を蹴り飛ばしたレイの意識は、一瞬、アスカの安否に飛んだ。
 
 
 
 その、一瞬の隙。
 
 黒い機体は蹴り倒された不自然な姿勢のまま、体勢も整えず、いきなり零号機の上に跳びかかった。
 
 
 
 ……ズドッ!
 
 
 
 零号機は、参号機にのし掛かられて、横転した。
 
 「あッ」
 
 慌てて起き上がろうとしたその両腕両足を、四つん這いになった参号機ががっしりと押さえ込む。
 
 動きを封じられて、レイは焦った。目の前で、参号機が、ゆっくりと暗いあぎとを開く……。
 
 
 
 その口腔から、溶けた粘液のようなものが滴り落ちた。
 
 それが零号機の右腕にかかり、同時にじわじわと節のようなものが広がっていく。
 
 ……使徒が、零号機に、侵食を始めたのだ。
 
 レイは自分の右腕を押さえ、苦悶の表情で叫び声をあげた。
 
 「……ぅ……あ……ぁああああッ!!」
 
 
 
 『……零号機の右腕を切断しろッ!!』
 
 
 
 スピーカーから飛び込んできたその声に、レイは、一瞬痛みを忘れて目を見開いた。
 
 瞬間、爆音をあげて、零号機の右腕が、根元から弾け飛ぶ。
 
 「……うぐぁああッ!!」
 
 レイは、肩を抱えて苦痛の叫びを上げた。
 
 まるで……じかに、自らの腕をもがれたような、痛み。
 
 しかし次の瞬間、内部電源カウンタがゼロを刻み、余韻を残してレイは痛みから解放された。
 
 
 
 荒い息をついてから、レイは、すぐさま思い出したように顔を上げた。
 
 内部電源が切れたようでも、まだ、最終生命維持プール電源が残っており、全天のモニタは映像を失っていない。
 
 レイの、見つめる、その先……
 
 倒れた零号機と、蹴り飛ばされた参号機。
 
 
 
 その間に、紫色の機体が、立っていた。