第六十七話 「ケーキ」
三百十一



 NERV・実験管制室。
 
 リツコの見守るメインモニタの向こう側に、水面から伸びる三本のテストプラグが見える。
 
 「ゲージ、もう30下げて」
 
 リツコの言葉に応えるように、マヤの指がキーボードの上を踊る。
 
 サブモニタに並んで映る三人の子供たちの姿が、ぐぐっ、と下がる。
 
 
 
 一番左側に映るレイの眉間に、皴が寄る。
 
 
 
 「ファーストチルドレン、グラフが乱れています」
 
 「ファースト、あと10下げて」
 
 「了解」
 
 カカッ、とマヤがキーを叩くと、レイだけが僅かに下がり、格段にレイの表情が辛そうになる。
 
 「限界です」
 
 「数値は?」
 
 「シンクロ率77%、ハーモニクス45%です」
 
 「まぁ、悪くはないわね……ファースト、10戻して維持。セカンド、サード、50下げて」
 
 「了解。50下げます」
 
 レイが少し上昇し、彼女の眉間に刻み込まれた皴が和らぐ。
 
 呼応するようにシンジとアスカが下降し、アスカの瞑った目頭に力が篭る。
 
 「セカンド、グラフに乱れを確認」
 
 「まだ余裕あるわね……二人とも、あと50下げて」
 
 「了解……セカンド、40で限界です」
 
 「数値は?」
 
 「シンクロ率95%、ハーモニクス68%です」
 
 「セカンド、10戻して維持。サード、50下げて」
 
 「了解。50下げます……問題なし」
 
 「……底なしね……どこまで下がるのかしらね」
 
 リツコが、溜め息混じりに呟く。
 
 
 
 レイもアスカも、ここ最近のシンクロテストの調子は良好だった。
 
 もちろん個人の素地の差はあり、例えばレイよりはアスカの方が成績は良いのだが……以前の本人たちのシンクロ率などと比較すれば、二人とも確実に数値が良くなっていることを感じ取ることができる。
 
 
 
 レイのシンクロ率は、起動に成功した頃から今に至るまでの間……上昇率に乱れはあるものの、平均するとゆるやかな右上りのラインを描いている。
 
 安定性に不安が残る、と言う意味では……実戦投入に一番問題があるのは彼女なのだが、それはそれとして、以前のように「調子が悪いときは起動すら覚束ない」という状態は脱したと言えよう。
 
 平均して60%〜70%程度のシンクロ率を維持し、大きく逸脱することは稀だ。
 
 これは、以前の人形のようなレイと違い、人間らしい感情を覚えてきたうえ……それを得て尚、その感情の制御を安定して行うことが出来るようになってきたからだ。
 
 もちろん、日頃の生活の中で一喜一憂はあるが、それにしても、その感情の動きが原因で情緒不安定に陥るような、そんな状況ではない。
 
 
 
 アスカのシンクロ率は、長く停滞していた「壁」を、完全にぶち抜いていた。
 
 思い返せば、それは、サハクィエルを契機としていることがわかる。
 
 サハクィエル戦で何があったのか、詳しいことは分からない……だが、あのとき、極限状態とは言え一気に130%までシンクロ率を引き上げた結果、彼女は自分自身の壁を越えたのだろう。
 
 
 
 シンジのシンクロ率は、もはや、測るだけ意味がなかった。
 
 
 
 以前も述べたことがあったが……シンジは、現在は「シンクロ率100%ちょうどを維持する」という訓練目的に、自主的に切替えてシンクロテストを行っている。
 
 当初は誰も気づいていなかったが、今や……その事実は、管制側の人間にとっては、周知の事実となっていた。
 
 
 
 何しろ、ほぼ100%から、プラスマイナス2%前後しか変動せず、それを、どのシンクロテストでも必ず叩きだすのである。
 
 レイやアスカのように「限界までシンクロ率を引きだす」ことを目的にしているのであれば、シンクロテストの度に同じ値を叩きだすことなど、出来はしない。
 
 余裕がある状態で……意図的にそのシンクロ率を維持しようとしているとしか、思えないのだ。
 
 
 
 リツコからすれば、これはこれで、実験のデータとしては面白いものが採取できた。
 
 少なくとも、レイやアスカにはとてもできない芸当だ。
 
 そのうえ、レイやアスカが限界を迎えてしまうゲージよりも、かなり深いところまでインテリアを沈めても、グラフは100%に吸い付いて離れない。
 
 彼にとって、この非常識的な抵抗が、抵抗ではないのだ。
 
 
 
 シンジが、本当はどこまでシンクロ率を高めることが出来るのか……限界はどこなのか。
 
 それは、もはや誰にも分からない。
 
 シンジに能動的にシンクロ率を上げて貰わなければ、計測することは出来ないし……それに、それは危険でもある。
 
 今の、まるで抵抗を感じさせないシンジの様子を見ていると……「初号機に取り込まれてしまうほどのシンクロ率まで、すんなり上がってしまうのではないか」と思わせるのだ。
 
 
 
 幾ら何でも、今、シンジを失っては大変だ。
 
 初号機に取り込まれそうな危険深度に近付いたら、そのときに抑制すればいい、とは言っても……おそらくそれでは、シンジの真の限界を知ることは出来ないだろう。
 
 シンジの本当の限界は、もう、誰にも知ることは出来ない。
 
 
 
 「……相変わらず、殆ど揺れがありませんね、シンジくん」
 
 マヤが、感嘆したように息をついた。
 
 「そうね……一体、どれくらい余裕があるのかしらね」
 
 リツコも、感慨深げに応える。
 
 
 
 実験管制室に詰める、オペレータ達。
 
 そのほぼ全員が、同じように……単純に、シンジの凄さに感嘆していた。
 
 
 
 だが、ここにいる女性は、違う。
 
 
 
 ミサトは、モニタから一番離れた、管制室の奥……技術部の面々の、邪魔にならないところに立って、シンクロテストを見守っていた。
 
 コーヒーの入った紙コップを手に、じっと、モニタに映るシンジを見つめる。
 
 
 
 ……いつもなら、「シンジの凄さ」を見せ付けられるような、ただ……それだけの感動を、胸に抱くに過ぎなかっただろう。
 
 だが……
 
 
 
 ……昨晩、あんな……現実感を失わせるようなものを目の当たりにして……
 
 ……なぜ、シンクロ率を維持できるのか?
 
 
 
 アダム。
 
 
 
 そんなものが、ターミナルドグマに眠っているという、予測の余地を越えた事実。
 
 
 
 そんなものを見て……正直、あの晩、ミサトはなかなか眠ることは出来なかったし、今朝も不快な目覚めだった。
 
 今でも、気を抜けば脳裏に去来するあの光景に、思わず瞼をギュッと閉じたくなる瞬間がある。
 
 
 
 それなのに……シンジは、なぜ……わずかな感情の揺れがグラフの乱れに直結するシンクロテストで、安定した数値を保つことが出来るのだろう。
 
 
 
 わからない……。
 
 
 
 碇シンジ。
 
 彼は……
 
 ……何を、見ているのだろう?



三百十二



 もはや、読者諸氏には周知の事実であるが……シンジが、ターミナルドグマのリリスを見たからと言って……それは、シンジには何の驚きももたらさない。
 
 シンジにとって、それは既に、知っている情報に過ぎないからだ。
 
 
 
 昨日の事件がシンジに影響を与えているとすれば、たとえば、カヲルのことを思い出してしまうことの方が、よっぽど大きいだろう。
 
 それは、もはや取り戻しようのない傷跡。
 
 ……だが、シンジはあの頃に比べれば、それでも精神的に余裕があり、また、打たれ強さもある程度、手に入れている。
 
 忘れられないし、忘れてはいけないと堅く思っているが、それが激しい情緒不安定には結びつかないのである。
 
 
 
 もちろん、時代を遡行している今、実際にはカヲルと出会うのはまだ先だ。
 
 彼を再び目の前にして、そのときに動揺しないとはちょっと思えない。
 
 だが、それはそれ、考えても仕方がないことである。
 
 現状で出来る、最善の手段……それを、選んでいくしか、シンジに出来る道は、ない。
 
 
 
 LCLをシャワーで洗い流したシンジは、ズボンだけを履いた状態で、なんとなく更衣室の長椅子に腰掛けていた。
 
 昨日のことに思いを馳せる。
 
 
 
 当然のことながら……ターミナルドグマでリリスを目の当たりにしたミサトは、動揺していた。
 
 それはそうだろう。まさかこんなところにいるとは思ってもみないアダム(実際にはリリスだが)を目前にして、冷静でいろと言う方が無理がある。
 
 無表情を装っていたが……足が震えているのを、シンジは……そして、恐らく加持も、見逃さなかった。
 
 
 
 加持は、あのあと、結局多くを語らなかった。
 
 なぜ、ターミナルドグマにアダムがいるのか?
 
 それを語らなかったことで、ミサトは混乱したかも知れない。
 
 だが、NERVが……ひいては、レベル6のカードを持つゲンドウ、冬月、リツコの3人が、アダムを隠匿している事実を……ミサトは、知ったはずだ。
 
 
 
 ミサトは、どう動くだろうか。
 
 
 
 あのあと二人は、加持に車で家まで送ってもらい、加持とは何も話すことなく別れた。
 
 家に着けば、当然レイとアスカがいるわけで……リリスのことを話題に出すわけにもいかない。
 
 ショックも大きかったのだろうが……ミサトは比較的早い時間に自分の部屋に引っ込んでしまい、結局、ミサトとシンジの間でそれに関する話題は一度も交わされることなく、今に至っている。
 
 
 
 シンジは、どうしたらよいだろうか?
 
 ミサトと昨日のことを話し合うにしても、シンジの方としては昨日見た事実以上に様々な事情を知ってしまっているわけだから、隠し事をするようで話しづらい。
 
 レイはリリスのことを当然知っているはずだが、それをシンジに知られることを恐れている可能性があるので、意味なく話題には出来ない。
 
 アスカは何も知らないので、これまた考え無しには話題に出来ない。
 
 
 
 「どうするって言っても……何も、変わらないのかな……」
 
 シンジは、呟くように言った。
 
 
 
 これが、前回の人生であれば……リリスを見たという事実はシンジにとって大事件だが……
 
 今回は、結局何も状況に変化はない。
 
 今迄通り、やっていくしかあるまい。
 
 
 
 シンジは、溜め息をつく。
 
 
 
 ウィン……
 
 
 
 急に自動ドアが開き、シンジは顔を上げた。
 
 
 
 更衣室の、入口。
 
 ……そこに立っていたのは、レイだ。
 
 既に制服に着替えている。
 
 
 
 「綾波?」
 
 シンジはレイに声を掛け……それから、自分がまだ、上半身裸であることを思い出す。
 
 (あ……しまった)
 
 しかしまぁ、自分は男だ。ズボンを履いているのであれば、さほど気に病む状況でもない。
 
 シンジは照れ臭く頭を掻くと、レイの方に視線を向けた。
 
 「どうしたの、綾波? ……こっちに来れば?」
 
 「……うん」
 
 レイは頷くと、シンジの方に歩き出す。
 
 自動ドアが、かすかな空気音を立てて閉じた。
 
 
 
 レイは、シンジの前まで来ると、その隣にスッと腰掛けた。
 
 ぴとっ、とおしりと肩をくっつけて、そのまま寄り掛かるように頭をシンジの肩に乗せた。
 
 思わず赤くなるシンジ(一体いつになったら慣れるのか)だが、レイの方は気にしていないようだ。
 
 
 
 「あ、あのさ……綾波、どうしたの? 何か用事?」
 
 シンジは、赤い顔で、鼻の頭を掻きながらレイに尋ねた。
 
 ……いつもなら、訓練の後にレイと出会うのは……ブリーフィングルームなり管制室なり、訓練の講評会をするときになる。
 
 直接、男子更衣室にやってくることは、あまりないことだ。
 
 
 
 「……会いたかったから」
 
 レイが、呟く。
 
 「そ、そう?」
 
 シンジは、赤くなりながら曖昧に返事を返した。
 
 
 
 ……そのまま、しばしの、沈黙。
 
 
 
 「………」
 
 「………」
 
 
 
 やがて、レイが、口を開く。
 
 
 
 「……気に……なって」
 
 「え? 何が?」
 
 「……昨日」
 
 「え?」
 
 「……碇君……何してたのかと思って」
 
 
 
 シンジは、即答できなかった。
 
 
 
 レイは、目を瞑ったまま、体重をシンジに預けている。
 
 その状態で……もう一度、呟く。
 
 「……碇君……NERVに来てたんでしょう?」
 
 「あ、ああ……うん」
 
 慌てて頷くシンジ。確かに、そう伝えた。隠すのも変だと思ったからだ。
 
 「訓練じゃなかったのに……なぜ?」
 
 「……気になる?」
 
 「………」
 
 「………」
 
 「……うん……」
 
 レイは、小さく呟いて、肩の上で僅かに頷いた。
 
 
 
 レイは、ずっと気になっていた。
 
 シンジが一人でどこかに行ってしまった……ここまでは、まぁ、いい。
 
 一緒にいられなかったのは、正直……残念だし哀しい気分にもなったが、それはシンジの事情もあるだろう。
 
 だが、学校で別れ際に「NERVに行く」と言っていたのは、気になる。
 
 
 
 訓練ではない。
 
 では、何のために?
 
 
 
 帰りが、ミサトと一緒だった。
 
 さすがに、ミサトとシンジがどうこうしたのではないかという、嫉妬に繋がる回路はレイにはない。
 
 だとすれば、何か事務的・職務的用件で、ミサトなり上層部の誰かなりに、シンジは呼びだされたのではないか……
 
 ……レイがそう考えるのは、さほど、不自然な流れではないだろう。
 
 
 
 レイは、シンジを責めているわけでは、勿論、ない。
 
 そんなつもりは毛頭無い。
 
 単に、シンジを心配しているのである。
 
 何を言われたのか? また、大変なことに巻き込まれているのでは? 無理をすることになっていないか?
 
 レイが懸念しているのは、そちらのほうだ。
 
 
 
 ……だが、シンジのほうは、そこまで察せない。
 
 
 
 シンジは、焦っていた。
 
 
 
 「レイを置いて、一人で出かけてしまったこと」を、レイが責めている……と勘違いしているのである。
 
 
 
 「……い、いや、その……」
 
 「………」
 
 「……ご、ごめん」
 
 「……?」
 
 レイが、軽く頭を持ち上げて、シンジを見る。
 
 シンジは、申し訳無さそうな表情で、レイを視線で見返した。
 
 レイは、小首を傾げる。
 
 「……何故、謝るの?」
 
 「……何故……って言うか……その、一人で、行っちゃったから……」
 
 
 
 とは言え、レイを連れて行くことが出来なかったのは、事実だ。
 
 実際、連れて行っていたとして……あの、ターミナルドグマでの場面にレイが居合わせるには、レイの心の準備が整っていないだろう。
 
 ……まぁ……レイを連れて行ったら、単に……食事して帰ることになっただけのことかも知れないが……。
 
 
 
 レイは、不思議そうな表情でシンジを見る。
 
 「……私が、行ってはいけなかったんでしょう」
 
 「……いや……その」
 
 「……じゃぁ、仕方がないもの」
 
 そう言って、レイは、もう一度……頭を柔らかくシンジの肩に乗せた。
 
 
 
 レイが、「自分が行ってはいけなかった用事だったのだ」と判断したのは、それが一番、自然だからだ。
 
 そうでなければ、わざわざ自分を家に帰らせて、シンジが一人でNERVに赴いたのはおかしい。
 
 シンジが自分をないがしろにするなどとは、さすがに思わない。
 
 シンジには、一人で行かなければいけない、理由があったに違いないのだ。
 
 
 
 ……だが、シンジには、もうそんなレイの心の動きはわからない。「レイが責めている」と思い込んでしまっているため……全てのセリフが、何だか自分への責めを孕んでいるように聞こえてしまうのである。
 
 
 
 シンジは、話題の転換を試みた。
 
 
 
 ターミナルドグマでリリスを見たという事実を、そのまま話すわけにはいかない。
 
 しかし、食事をした件だけを伝えれば、それはそれでレイを連れて行かなかった理由にならない。
 
 何とも言うことが出来ず……困った末に、全然違う話に持っていってしまおうとしたのである。
 
 
 
 ここにアスカがいたら、「うやむやにして誤魔化そうとしている」と、逆に怒られているところだろう。
 
 だが、シンジはそれに思い至るほど、余裕を持って思考を巡らせられる状態ではなかった。
 
 
 
 「あ……あのさ、綾波」
 
 シンジが、レイに話しかけた。
 
 レイが、肩に乗せていた頭を少し動かして、シンジを上目遣いに見る。
 
 
 
 「……今日、帰りに……デパートに寄っていかない?」
 
 
 
 「……デパート?」
 
 「そう……え〜と……最上階にさ、美味しいケーキ屋さんがあってね」
 
 努めて軽い、何気ない口調で喋っているが、内心は冷や汗ものである。
 
 何しろ、レイが尋ねたことと……全然違うことを喋っているのだ。
 
 だが、レイは、思いのほかシンジの話題に興味を惹かれたようだ。
 
 目をパチクリとさせたような表情で、シンジを見る。
 
 「……ケーキ屋さん?」
 
 「そうそう。できたばっかりなんだって。こないだ、トウジが洞木さんと行ってきたらしくてね」
 
 「ヒカリさん……」
 
 「うん、で、ね……トウジが、美味しかったって言うからさ。まぁ……トウジは何でも美味しいって言うタイプだけど、洞木さんのおススメなら、きっとホントに美味しいと思うんだよね」
 
 「………」
 
 「……で、でさ、え〜〜〜〜〜と……ついでに、まぁ、下の商店街でも見て廻ったりして……ね……」
 
 「………」
 
 「……どう……かな」
 
 「………」
 
 「………」
 
 「………」
 
 「……あの……綾波?」
 
 「………」
 
 「……あの〜……」
 
 
 
 レイは、シンジを見た。
 
 
 
 嬉しさを、瞳に、溢れさせて……
 
 
 
 突然、レイがバッと両腕で抱え込むようにシンジの頭を抱き込んだ。
 
 
 
 シンジが、誘ってくれたこと……
 
 それが、嬉しかった。
 
 
 
 勢いよく、二人で椅子の上に倒れ込む。
 
 そして、その勢いで、椅子の上でバウンドすると……その場に留まれずに、シンジを下にして椅子から転げ落ちた。
 
 
 
 (あっ)
 
 シンジは、そのまま床に落ちる寸前に、電撃とも言うべきシナプスの流れを脳の中に走らせる。
 
 瞬間的に、自分の頭を抱え込んだレイの腕を掴むと、バッと振りほどいた。
 
 
 
 ゴチン!!
 
 
 
 ……あ……だぁ〜っ……
 
 
 
 シンジは、視界に小さな光の玉が、パチパチッと飛び交ったような衝撃を覚えた。
 
 堅い床の上に、後頭部をしたたかに打ち付けてしまったのである。
 
 
 
 「碇君!」
 
 レイが、悲痛な声でシンジに呼びかけた。
 
 シンジが涙目で瞼を開けると、シンジの上に乗っかったレイが、同じく涙目でシンジを見ている。
 
 「……碇君! ……碇君……大丈夫……っ」
 
 レイの、ちょっと頭を打ったにしては大袈裟なほど悲壮な声音に、シンジは思わず笑ってしまった。
 
 すっと手を伸ばして、レイの頬を軽く撫でる。
 
 「大丈夫だよ……平気」
 
 微笑む。
 
 
 
 レイは、もう一度、寝ているシンジの頭にぎゅっとしがみついた。
 
 「……ご……めんなさい……」
 
 ぎゅぅぅぅぅぅっ、と力を篭めて、シンジの頭を抱き締める。
 
 
 
 シンジは、苦笑してレイの背中を抱き締めた。
 
 「……いや、そんなに心配しないでも……ちょっと頭を打っただけだよ、こんなの」
 
 優しく言う。
 
 
 
 咄嗟のことだったが、レイの腕を振りほどいたことを……シンジは、自分で自分をちょっと褒めてやりたかった。
 
 あのまま床に落ちたら、まず……自分の頭を抱えたレイの腕を、最初に床に打ち付けてしまうところだった。
 
 ……代わりに自分の頭はレイの腕がクッションになって打たずに済んだだろうが、そんなのは嬉しくも何ともない。
 
 
 
 そうして、更衣室の床にころがって、抱きあう二人……なのだが。
 
 
 
 ここで、カメラをもう少し離してみると……
 
 実は、いつの間にか、長椅子の隅に脚を組んで座っている人物が、いる。
 
 
 
 そう、もちろん、言わずと知れた惣流・アスカ・ラングレーである。
 
 再三申し上げたことがあるように、実験室でテストを行う際の、更衣室に繋がるクリーンルームとクリーンスペースには、よほどのことが無ければチルドレン以外は入ってこないため、アスカしかいるわけが無いのだ。
 
 
 
 はぁ〜……
 
 聞こえない程度に……呆れたように、アスカは溜め息をついて見せた。
 
 
 
 テストが終わって、制服に着替えた後……
 
 レイが先に女子更衣室を出ていき、アスカもすぐに追って外に出たのだが、出口に向かう廊下にレイの姿がない。
 
 ……となれば、反対側に行ったはずなのだが、そちらにもいない。
 
 と思ったところで、男子更衣室の自動ドアが閉まる空気音がアスカの耳に届いた。
 
 
 
 アスカは、レイの行動に気が付いて、溜め息をつく。
 
 
 
 どうせ中でいちゃいちゃしているに決まっているのだから(と決め付けている)、アスカがわざわざついていく必要は全くない。
 
 そう思い、一度は、先に管制室まで行ってしまおうと思ったのだが……
 
 よく考えたら、シンジやレイが来なくては、この後の講評会は始まらないのである。
 
 いちゃついてる(と決め付けている)二人を待って、管制室でボーッとしているのは、何だか馬鹿馬鹿しいことこのうえない。
 
 そう思って、半ば行きかけていた足取りを返し、男子更衣室に向かったのである。
 
 
 
 しかし、自動ドアの前で、躊躇した。
 
 やっぱり無粋な気がしたのだ。
 
 それで、どうしようかと逡巡していたのだが……中から「ゴチンッ」という音が聞こえてきたので、思わずロックに手を置いて、自動ドアを開けてしまったのである。
 
 
 
 そして、今に至る。
 
 
 
 床にねっころがって抱きあうシンジとレイのすぐ横で、アスカは足を組み……その片足に肘を付いて頬杖の姿勢を取りながら、呆れた表情で二人を見ていた。
 
 当然、シンジとレイは、アスカに全然気が付いていない。
 
 
 
 (バッカじゃないの)
 
 アスカは心の中で呟く。
 
 もう、毎度毎度のこととは言え、見ている第三者としては呆れるしかないというものだ。
 
 まぁそれでも、この二人が仲良くしている情景は決して不快ではないので、まだ救われる。
 
 ベタベタしていてもあまり湿度を感じさせないからだろうが……そうじゃなければはったおしているところだ、と、アスカは少し微笑んだ。
 
 
 
 さて、このままこうしていても仕方がない。
 
 ……今度は聞こえるように、大きく溜め息をついて見せた。
 
 「はぁ〜〜〜〜あぁあ〜〜………」
 
 
 
 ………
 
 
 
 「……えッ!?」
 
 一瞬の沈黙の後……シンジが、慌ててガバッと跳ね起きた。
 
 上に乗っかっていたレイは、勢いで横に倒れてしまう。
 
 「アッ……ア、ア、アス……」
 
 「ホォラ……愛しのレイちゃんが、跳ね飛ばされてるわよ」
 
 「えっ? ……あ……あ、綾波、ゴメン」
 
 横に転がったまま、キョトンとしてシンジとアスカを見ているレイに、慌ててシンジが手を伸ばす。
 
 レイは、不思議そうな表情で、上半身を起こした。
 
 
 
 アスカは、半目で二人を見ている。
 
 シンジは、慌てたような風情で、上擦りながら声を出した。
 
 「あ……あのさ、アスカ……い、いつからここに……」
 
 「アンタらが、愛の抱擁を交わしてる時からよ」
 
 「……あ……あ、あははは……は……」
 
 どうしていいかわからなくて、思わず真っ赤になりながら頭を掻くシンジ。
 
 
 
 レイは、小首を傾げてアスカを見た。
 
 「……弐号機パイロット」
 
 「……なによ、ファースト」
 
 「なんで……ここにいるの?」
 
 「悪い?」
 
 頬杖を突いたまま……ジロリ、とレイを睨む。
 
 それから、腕を伸ばすと……立ち上がってパンパンと制服のおしりをはたく。
 
 
 
 腰を伸ばしながら、アスカがぶつぶつと呟く。
 
 「アンタらねぇ……いちゃつくんなら、家に帰ってからいちゃつきなさいよ、もう……誰も止めやしないからさぁ」
 
 「い……いや、あの……いちゃついてたってわけじゃぁ……」
 
 「今、いちゃついてたじゃないのよっ」
 
 「あ……ああ……その……ええと」
 
 歯切れ悪く応えるシンジ。
 
 アスカが、ズイッとシンジの方に顔を出す。
 
 「大体ねぇ……今は、アンタらが来ないと始まらない講評会が控えてるのよ。わかってる?」
 
 「あ……あ、ああ、その、……ゴメン」
 
 「ま……いいけどさ」
 
 言いながら、フイッと出口の方に向かうアスカ。
 
 そうして、振り返らずに、ボソッと呟く。
 
 「シンジ……そのカッコで出てくるんじゃないわよ」
 
 
 
 「え? ……あ」
 
 アスカに言われて、シンジは改めて自分が上半身裸であることを思い出す。
 
 アスカが自動ドアのところでロックに手を置くと、ドアが、ウィン……と開いた。
 
 出口から体を半分ほど外に出して、アスカが振り返る。
 
 「そんなカッコで抱きあうのは、ベッドの中にしときなさいよね」
 
 「い、いや、ちが……」
 
 「早く来なさいよ」
 
 
 
 ブシュッ。
 
 
 
 ……聞く耳持たず、アスカは出ていってしまった。
 
 
 
 閉まるドアを見つめて、シンジは赤くなって頭を掻くしかなかった。
 
 ちなみにレイは、全然アスカの言う意味がわからなかったようである。



三百十三



 講評会を終えた後……シンジとレイは、さきほどの約束通りに、デパートに向かった。
 
 
 
 現在、午後6時と、時刻的にはあまり早い時間とは言えないが……レストラン街が目的なのだから、それはさほど気にすることもないだろう。
 
 アスカは、「アンタらのラブラブ状態に首突っ込む気なんて無いわよ」と、さっさと帰ってしまった。
 
 しかしそのまま帰っても「料理できない組」の二人が葛城邸に残る形になるため、ミサトがアスカを誘ってどこかへ食事に行ったようだった。
 
 
 
 帰りのバス路線の途中にある、いつもの繁華街の停留所で、シンジとレイは降りた。
 
 
 
 そのまま真っすぐ、ヒカリとトウジに聞いていた店に向かう。
 
 この時間になると夕食も兼ねてしまうような気がするため、「ケーキ屋さん」に行くことには懸念もないわけではなかったが……よく考えたら、レイにそういった「ケーキ」の類いのものを食べさせた記憶がない。
 
 普通の食事であれば、まぁそれなりのものを日頃用意しているので(……と言うか、それなりどころか大したものなのだが、それは本人には良く分かっていない)、たまにはケーキもいいだろう、と思ったのだ。
 
 栄養については、ここでの食事を軽くしておいて、帰ってから軽食のようなものを食べればいいだろう、と思う。
 
 
 
 デパートのエレベータから降りると、その店は、すぐ目の前にあった。
 
 
 
 店内は比較的空いていた。
 
 全体的にパステルカラーを基調としたさほど狭くも広くもない店内で、カップルを見越しているのか圧倒的に二人席が多い。
 
 奥の壁一面が窓になっており、夜のとばりが落ちかけている第三新東京市の市街地が一望できた。
 
 
 
 シンジとレイは、その窓際の空いている席に、向かい合わせで腰を下ろした。
 
 
 
 「何が食べたい?」
 
 シンジが、メニューをレイの方に手渡しながら聞いた。
 
 レイはメニューを受け取りはしたが、その上に視線を走らせて首を傾げる。
 
 「……よくわからないわ」
 
 「そう?」
 
 「名前を見ても、どんなケーキかわからないから……」
 
 シンジは微笑むと、レイの持っているメニューに手を伸ばし、畳んである紙を開いた。
 
 「内側には、写真が載ってるよ。見た目で、美味しそうなものを選んでみたら?」
 
 
 
 レイは、そう言うシンジを見て……それから、じっと並んでいる写真を見つめた。
 
 一つずつ、順番に、視線を移す。
 
 そういうレイを、シンジはじっと見ている。
 
 
 
 視線を数巡させてから……レイは、机の上にメニューを広げて、そのうちの一つに指を伸ばした。
 
 「……これがいい」
 
 
 
 レイが指差したのは、「ストロベリーショートケーキ」だった。
 
 三層のスポンジケーキの間に洋梨とバナナを挟み込み、周りと上に生クリームをぬり、小さなイチゴを二つ、真ん中に並べて飾ってある。
 
 
 
 「これがいい?」
 
 シンジが、ストロベリーショートケーキの写真を指差して、聞く。
 
 レイは、コクンと頷いた。
 
 「イチゴ……好きだから」
 
 
 
 シンジは、微笑んで頷いた。
 
 
 
 そう……
 
 シンジが、レイに写真を提示して選んでもらったのは、「今は、料理に対する好みが出来ている筈だ」と、思ったからだ。
 
 
 
 昔なら……レイには、どれが自分の好みに合ったケーキなのか、食べてみなければ分からなかっただろう。
 
 だが今、シンジたち三人の弁当を毎日用意しているのは、レイだ。
 
 自主的に料理本を見たりネットでレシピを検索したりして、日夜新しい料理に挑戦している。
 
 シンジの知らない新しい料理を開拓し、シンジに喜んでもらいたいという一心だが……
 
 そのおかげで、肉系以外のかなりの食材を開拓し、料理し、実際に味見して美味しさを求めており……「どんな料理がおいしいか」、「どんな料理が自分の好みか」、もう、写真を見れば判断できるのである。
 
 
 
 レイの嗜好の一つが確実に確立されつつあることを実感して、シンジは嬉しかった。
 
 
 
 シンジはレアチーズケーキを選び、ウェイトレスに注文した。
 
 
 
 シンジは、窓の外に広がる街の灯を眺める。
 
 店内に入ったときはまだ空は青みがかっていたが、今は完全に夜の街だ。
 
 レイは、そんなシンジの横顔を見ている。
 
 「……何を、見ているの?」
 
 「ん……いや、街の光をね……」
 
 レイの言葉に、シンジは視線をレイに向けて応えた。
 
 
 
 レイも、視線を動かして窓の外を見る。
 
 
 
 窓の外の夜景は、レイには、美しいかどうかの判断はつかなかった。
 
 前にも述べたことがあるが、例えば、レイは夜空の星明かりを特に美しいとは思わない。
 
 それは感受性の問題ではなく、好みの問題であり、夜景に特に感慨を抱かないのも、彼女が成長途上であることとは特に関係がなかった。
 
 
 
 レイには、夜景よりも……むしろ、窓ガラスに映る自分の顔が、目に入っていた。
 
 墨を流したような闇を背景に、ガラスの中のレイが、自分を見つめている。
 
 
 
 この紅い瞳……これがシンジと同じ焦げ茶色だったら、と思うことが、たまにある。
 
 シンジは、この目の色が綺麗だと言ってくれる。だから、決して自分の紅い瞳が嫌いなわけではない。
 
 だが……レイは、まだ、自分と同じ瞳の色をした人に、会ったことがない。
 
 この第三新東京市では当然茶色から黒が多く、そういう意味ではアスカの蒼い瞳も珍しいのだが……それでも、彼女の瞳が海外ではさほど珍しくないことを、レイは知識で知っている。
 
 
 
 自分の紅い瞳……それは色素が足りない体質によるものが大きいが、単純にそれだけが理由ではないことを理解している。
 
 使徒。
 
 その遺伝子を受け継ぐ自分だからこそ、この瞳なのだ。
 
 
 
 シンジは、この瞳を好いている。
 
 それを知っているから、まだ構わない。
 
 だが、シンジに違和感を抱かれるのは怖かった。「なぜ、レイの瞳は紅いのだろう?」そう思われているのでは、と、不安だった。
 
 
 
 窓ガラスの向こう側で自分を見つめる紅い瞳から、レイは視線を逸らせた。



三百十四



 程なくして、二人のケーキが運ばれてきた。
 
 「結構、大きいね」
 
 シンジが、笑いながら言う。
 
 女の子向けの店……しかもどちらかと言えば味を重視した店にしては、スケールが予想していたよりも二回りほど大きかった。
 
 しかし、まぁ、大きすぎるというほどでもない。大きさで言えば、NERVの食堂にある「ウルトラスーパーローリングサンデー」の方が、よっぽどでかいだろう。
 
 
 
 レイは、スプーンを手に取ると……並んでいるイチゴの一つを掬った。
 
 シンジがそれを見て、ふと、声をかける。
 
 「あ、綾波って……好きなものを先に食べちゃうタイプ?」
 
 「え?」
 
 レイも、シンジを見る。
 
 「……タイプ? ……よくわからないわ」
 
 「ああ、いや……綾波、イチゴが好きだって言ってたでしょ?」
 
 「ええ」
 
 「真っ先に食べるんだなぁ、と思って……いや、別にどっちでもいいんだけどね」
 
 「……好きだから」
 
 「うん、いや、いいよ別に」
 
 「……碇君は、違うの?」
 
 「え?」
 
 「……碇君は、イチゴが嫌い?」
 
 「……ええ!? あ、ああ、いや……そういう意味じゃなくて、好きなものを最後にとっておくか先に食べちゃうかっていうことだよ」
 
 「………」
 
 「別に先に食べるのが悪いとか言ってるんじゃないよ、綾波。その……人によって、最後の楽しみに取っておく人とかもいるからさ」
 
 「……考えたこと、なかった」
 
 「……あ……そうかぁ」
 
 「……最後に食べると、楽しい?」
 
 「えぇ? ……う〜ん……それは、人それぞれだと思うけど……例えば、最後に食べた物の味が、何となく口の中に残るでしょ。だから、最後に好きなものを食べるって言う人もいるね」
 
 ちなみに、それはシンジのことだ。
 
 「……それが、普通?」
 
 「いや、それはどっちでもないよ。アスカは確か、先に好きなものを食べちゃうね。ミサトさんも……トウジもそうだよ。え〜と……ケンスケは、取っておくタイプだな。それから、本人に確認したわけじゃないけど、確か洞木さんは取っておく方だったと思う」
 
 「……どっちがいいの」
 
 「いや、だから、どっちがいいって訳じゃ無いよ。どっちでも、好きなほうにすればいいんだよ」
 
 「碇君は?」
 
 「え? 僕は、取っておくほうだけど……」
 
 「……じゃあ、私もそうする」
 
 「あ、そ、そう?」
 
 「うん」
 
 レイは、イチゴを戻して、スポンジケーキにスプーンを入れた。
 
 
 
 その後、二人はお喋りをしながらケーキを食べていった。
 
 レイは生クリームをあまり食べたことが無かったようだが、彼女の好みには合ったようだ。
 
 間に挟まった洋梨やバナナも気に入ったらしく、全体的に今回のチョイスは成功だった。
 
 シンジの食べるレアチーズケーキも濃厚で、シンジの好みに合った。
 
 
 
 結局、二つのイチゴは最後まで残して、レイは土台のケーキ部分を食べ尽くした。
 
 
 
 「美味しい?」
 
 シンジが、微笑んで聞く。
 
 レイも、微笑んで頷いた。
 
 イチゴのうちの一つを掬い、口に運ぶ。
 
 
 
 イチゴをゆっくりと噛みながら、レイはもう一度微笑んだ。
 
 
 
 しばし咀嚼してイチゴを飲み込んでから、レイはもう一つのイチゴをスプーンに乗せると、それをシンジの方に差し出した。
 
 
 
 「碇君……口、開けて」
 
 
 
 シンジは、唖然としてレイを見た。
 
 
 
 何と言うか……どれだけ分かったつもりになっていても、突然のレイの行動は予測できない。
 
 シンジは、赤くなって、慌ててかぶりを振った。
 
 「あ、いや……いいよいいよ、綾波が食べなって」
 
 「美味しい」
 
 「いや……そう、かも知れないけど……」
 
 「食べて……美味しいから」
 
 「いや……その」
 
 「口……」
 
 「………ええと」
 
 「口……開けて」
 
 「………」
 
 「美味しいから」
 
 「………」
 
 「美味しいから」
 
 「………」
 
 「美味しいから」
 
 
 
 結局、あ〜んして食べさせてもらうシンジであった。
 
 他にもお客がいる店内だったので物凄く恥ずかしかったが、実際には周りもカップルばかりなので誰も気にしていなかった。
 
 気の回しすぎなのか? と、シンジは逆に焦ってしまった。
 
 
 
 店を出たときには、もう時刻は8時前だった。
 
 下の店も色々見て廻るつもりだったが、時間がないので今日は諦めて、真っすぐ家に帰った。
 
 いつものことだが、バスの中でも、帰り道でも、二人は手を繋いでいた。
 
 
 
 帰宅後、ミサトのからかいを存分に受けてから、シンジはレイと自分のために半チャーハンを作った。
 
 しかし、ミサトとアスカが鼻を効かせて反応したため、結局、四人分のチャーハンを作るハメになってしまった。
 
 
 
 そうして、食事をしてからテレビを見たりお喋りをしたりして、レイとアスカは自宅に帰っていった。
 
 ミサトもすぐに眠ってしまい(結局リリスの話はしなかった)、シンジも早々に自分の部屋に引き上げた。
 
 
 
 ……携帯電話が非常招集を告げたのは、その数日後のことだった。