第三十八話 「ゲーム」
百五十四



 ランドリーのスリットにIDカードを通すと、小さなランプが、赤から青に切り替わる。
 
 液晶に「OK」の表示がともる。
 
 マヤは、それを確認して、ランドリーのフタを開けた。
 
 
 
 中には、綺麗に畳んでビニールパックされた衣服が入っていた。
 
 マヤは、ランドリーの中から順番にビニールパックを取り出す。
 
 
 
 マヤの横で、リツコもビニールパックを取り出している。
 
 ひとつ……ふたつ……みっつ……
 
 しかしよく見ると、その中身は、全て白衣である。
 
 
 
 「まったく……NERVも、ランドリーマシンくらい、本部の中に置いてほしいわね」
 
 リツコが、ランドリーのフタを閉じながら愚痴る。
 
 「クリーニング代もバカにならないわ」
 
 「せめて、家で洗濯できる時間くらい、ほしいですよね」
 
 ビニールパックを手提げの紙袋にしまいながら、マヤが応える。
 
 入り口のところに寄り掛かって缶コーヒーを飲んでいたシゲルは、二人の方を見て、肩を竦めて呟く。
 
 「家に帰れるだけでも、マシだよ」
 
 
 
 その肩には、あの、ギター。
 
 
 
 「ま……言っても始まらないわ。今やってる実験が一通り終われば、また少し、余裕ができるわよ。それまで、悪いけど我慢してちょうだい」
 
 リツコはそう言うと、自分の荷物を持ってクリーニング屋を出た。
 
 二人が、その後に続く。
 
 
 
 駅のホームに、電車が到着する。
 
 第三新東京環状第7号線。
 
 リニアレールの環状線で、第三新東京市を循環している。
 
 市内に居住するNERV職員の多くは、この電車を通勤の足として利用していた。
 
 
 
 三人が車両内に足を踏み入れると、ほとんど人のいないその中に、新聞を読む冬月の姿があった。
 
 「あら……おはようございます、副司令」
 
 リツコは、冬月に声をかけながら近付き、網棚に荷物を上げた。
 
 「ああ、おはよう」
 
 冬月も、何気なく顔を上げて応える。
 
 
 
 マヤとシゲルは、本来、冬月と会話する機会はあまりない。
 
 通常時も戦闘時も、その指示はリツコやミサトを通して伝えられることが多いからだ。
 
 そのため、この突然の遭遇に、緊張して肩に力が篭る。
 
 「「お、おはようございます、副司令」」
 
 そんな様子に、リツコは目を閉じて少しだけ微笑んだ。
 
 
 
 「今日は早いですね、副司令」
 
 リツコの言葉に、冬月は顎だけ動かして、上を示す。
 
 「今日は、碇の代わりに上の街だよ」
 
 「ああ……評議会の定例会議ですか」
 
 「くだらん仕事だ……まったく碇のやつ、昔から雑用はみんな私に押し付ける」
 
 眉をしかめる。
 
 ゲンドウに対してこのような口をきける者など……それこそ、他にはいない。
 
 
 
 「君等は、今日は零号機の実験だったな」
 
 「ええ、本日1300より、第2次稼動延長試験です」
 
 「調子はどうかね」
 
 「悪くはないのですが……ちょっと、理論値通りに行かない点がありまして……本日の試験で、ほぼ問題なくなるとは思いますけれど」
 
 「そうか、まあ、頼むよ」
 
 「はい」
 
 「チルドレンたちの調子は、どうかね?」
 
 「いつも通り……特に問題はありません。シンジくんとアスカのシンクロ率は良好です。レイも、起動には心配のない、安定した結果を保っています」
 
 「うむ」
 
 「そう言えば……」
 
 横から、マヤが思い出したように言葉を発した。
 
 「シンジくんたち、最近、やる気がありますよね」
 
 「ほう? そうなのかね」
 
 リツコにかけられたマヤの言葉に、冬月が反応した。
 
 マヤも、慌てて姿勢を正す。
 
 「あ、ハイ。ここ数日なんですけれど、実験開始の予定時刻よりも、かなり早い時間に来てスタンバイしてるんですよ」
 
 「ほう……」
 
 冬月が顎を撫でながら、感心したように呟く。
 
 「結構なことだな」



百五十五



 「……また、こんなに早く行くワケェ!?」
 
 教室に、アスカの声が響き渡った。
 
 
 
 今日は、土曜日。午前中の授業が終わり、教室の中は喧噪に包まれていた。
 
 その中に、シンジたちの姿も見える。
 
 正確には、シンジ、レイ、アスカ、トウジ、ケンスケ、ヒカリという、いつもの一団だ。
 
 
 
 「シンジ、アンタねぇ……今日のスケジュール、ちゃんと頭に入ってんの?」
 
 アスカが、シンジの鼻先に指を突き付け、睨む。
 
 シンジは、頭を掻いて笑うしかない。
 
 横で見ていたヒカリが、よくわからないといった表情で首をかしげた。
 
 「アスカ、よくわからないんだけど……どうしたの?」
 
 「ああ、もう、聞いてよヒカリ!」
 
 アスカがヒカリに向き直ると、いかにも不満そうに声を荒気た。
 
 
 
 「今日の訓練……始まるの何時だと思う? 1500! 午後3時よ、ごごさんじ!」
 
 「うん」
 
 「ここから本部まで、歩いたってそんな時間までかかりゃしないっての。それなのにコイツ……もう行こうって!」
 
 「えーと……?」
 
 「よーするに! ヒカリと約束してた買物にも、行けないってことよ!」
 
 「……え!」
 
 ようやく合点がいったヒカリが、驚いてシンジを見る。
 
 「そ……そうなの、碇君?」
 
 「え……あ……その……うん、まぁ」
 
 「しかもコイツ、昨日も一昨日もその前もそうだったのよ! つきあわされるコッチの身になって欲しいわよ」
 
 憮然とした表情で、アスカは腕を組みながら言う。
 
 
 
 当然のことながら、シンジは、闇雲にそんな行動に出ているわけではなかった。
 
 ……NERVの、停電事件。
 
 もう、ここ数日で起こることは分かっていた。
 
 
 
 あのとき、定時に本部を訪れた三人は、見事に閉めだしを食らってしまった。
 
 ケイジまで辿り着くのに、えらい苦労をした記憶がある。
 
 それを避けるために……シンジはここ数日、早めにNERVに向かっていた。
 
 
 
 本当は、日付けを確定できればいいのだが……それはちょっと曖昧でよくわからなかった。
 
 なにか、日記やメモなどという資料とともに、この時代まで戻ることができれば最高だったのだが……実際に時を遡ったのは、シンジのみ……と言うより、シンジの「精神」のみだ。
 
 しかも、遡行前は、まさか自分が時間を遡るようなことになるなど思ってもいなかったので、強く印象に残ったこと以外は、どんどん忘れていくに任せていたのである。
 
 重要なことなのに、どうしても思い出せないことが少なくなく……そのたびに非常にもどかしい思いに苛まれていたが……こればかりは、どうにもしようがなかった。
 
 
 
 結局ここ数日は、空振りに終わっていた。
 
 わざわざ早くに来て、結局何も起こらずに帰る。
 
 そういった日が、すでに4日も続いていた。
 
 
 
 実を言えば、誰かに(この場合はリツコか?)これから起こる停電のことを伝えておけばいいのだと思う。
 
 だが、それを伝えるには、あまりにも不利な状況が多すぎた。
 
 
 
 第一に、シンジは何故、停電が起こったかを知らなかった。
 
 シンジは今回、本来なら知るはずの無い情報……たとえば、JAの暴走が「委員会の策略」であることなどを(おそらくLCLに溶けた時に)理解するに至っている。
 
 だが、今回の事は分からなかった。おそらく、全ての情報を満遍なく吸収したのではなく……あくまでも、不確定な揺らぎによって、幾つかの情報を手に入れたに過ぎないのであろう。
 
 「これから、停電が起こりますよ」と教えるのは簡単だ。だが、「何故?」と問われて「わかりません」では、話になるまい。
 
 
 
 それからもうひとつ。詳しい事実を知らないシンジも、それが人為的なもの……おそらくは、NERVに敵対する何者かの工作によるものであることはわかる。
 
 そうした工作の事実を、事前にシンジが知っている。
 
 それは、不自然きわまりなく……また、彼がスパイであると言うような、意味のない誤解を受ける可能性があった。
 
 
 
 そして、さらに、もうひとつ。
 
 正確に、いつ停電が起こるのか分からない。
 
 それでは、わざわざ進言した時には、まだ工作自体が行われていない可能性があり、情報を察知した敵側が停電工作をやめるという事態も予想できる。本来はそれが望ましいのであり、シンジもそうあることを望んではいるのだが……そうなってしまっては、逆に今後のシンジの言葉について、リツコたちの信頼を失わせる懸念があった。
 
 今後、事態を改善させるために、シンジが何か進言する場面があるかも知れない。
 
 その時に信用してもらえないのは、困る。
 
 それに、今、わざわざ停電について示唆しても、聞いてもらえないかも知れない……と、シンジは思う。
 
 ……ミサトがシンジの意見を容れようと考えていることは、まだ、シンジは知らなかった。
 
 
 
 アスカは、レイの方を振り返ると、ビシ! と指差した。
 
 「ファースト! アンタも、なんか言うことないわけ!?」
 
 レイは、先程からの騒動を、ただシンジの横で黙って聞いていた。
 
 そこに、急にアスカに話を振られて、キョトンとした顔でアスカの顔を見る。
 
 「……私は……いか」
 
 「やっぱいい。なに言いたいのか、大体分かった」
 
 アスカはレイの言葉を思いきりちょんぎると、溜め息をつきながら肩を竦めた。
 
 途中で制止されたレイは、またキョトンとした表情でアスカを見る。
 
 シンジも、レイの言葉を察して、頬を少し紅くしながら苦笑した。
 
 
 
 「とにかく! アタシは買物に行くわよ!」
 
 アスカは、胸をはって声高に宣言した。
 
 「……う〜ん」
 
 シンジも、腕を組んで考え込んでしまう。
 
 
 
 そう何度も何度も、無理矢理連れていくのも不自然だ。
 
 何より、NERVから言い渡されているスケジュールには、何も違反していないのである。
 
 早い時間に訓練に行く理由を、明確に打ち出すことが出来ない以上、このうえ更にアスカを拘束するのは、はた目にもやはりおかしかった。
 
 
 
 ……と、いうことと……もうひとつ。
 
 
 
 ……本当に、停電がこの時期に起こったのか?
 
 その点についても、シンジは自信が無くなっていた。
 
 
 
 何しろ、実際に事件が起こるまでは、記憶以外にそれを知る術はない。
 
 その「記憶」が曖昧なのだから……はっきりとした確証を持つことが出来ないのも、仕方がなかった。
 
 
 
 「……しょうがないかなぁ」
 
 しばしの沈黙の後、シンジが口を開いた。
 
 その言葉を聞くと同時に、アスカはパッと鞄を掴むと、ヒカリの腕を引いて歩き出した。
 
 「えっ、ア、アスカ?」
 
 慌てるヒカリ。
 
 アスカは何も言わずにズンズンと歩いていくと、教室の出口のところで、くるっとシンジの方に振り返った。
 
 「今さら訂正しても、遅いわよ! じゃあ、1500に!」
 
 「い、いいの? アス……」
 
 「いーのいーの! 今までアイツにつきあってやったんだから、今日は勝手にさせてもらうわよ!」
 
 言いながら、ヒカリをずるずるとひきずって、廊下に出ていってしまった。
 
 
 
 後に残されたシンジは、ポカンとした顔で、二人の消えた出口を眺めていた。
 
 何気なく口にしたとたんの出来事だったので、頭の回転がついていかなかったらしい。
 
 
 
 シンジのうしろで、ボーッと事の成り行きを見ていたケンスケが、ボソッと呟いた。
 
 「アスカも、勝手にやるつもりなら、わざわざシンジの許可をとる必要なんてないじゃんか……」
 
 
 
 「で、センセ。どないするんや?」
 
 トウジが、頭の後ろで手を組んで、シンジに声をかけた。
 
 シンジが振り返る。
 
 「……どうって?」
 
 「シンジは、このまままっすぐ、NERVに行くんかい?」
 
 「ああ……う〜ん」
 
 シンジは考え込む。
 
 
 
 どちらにせよ、時間になるまで、アスカは現れないわけだ。
 
 それに……今日、停電が起こるかどうか、まったくわからない。
 
 「スト9、やっとらんやろ、まだ」
 
 「え? ああ……」
 
 「ワシら、ゲーセン行くで。シンジも行こうやないか」
 
 
 
 「う〜ん……
 
 ………
 
 まぁ……いいか」
 
 
 
 「よし、そうと決まったら、とっとと行こうぜ」
 
 ケンスケが言いながら鞄を持つ。
 
 トウジがそれに続き、シンジも後を追おうとして……
 
 レイの事を思い出す。
 
 「あ」
 
 
 
 振り返ると、ただ、レイはじっとシンジを見つめていた。
 
 「おい、碇、行くぜ」
 
 「あ、うん……えと……」
 
 ケンスケに呼び掛けられて、シンジは当惑したように視線を泳がせた。
 
 
 
 ……あ。
 
 そうだ……。
 
 
 
 「あ、あのさ、綾波……ゲームセンターに、行ってみない?」
 
 シンジは、レイにおずおずと声をかけた。
 
 レイは、そのシンジの言葉に、少しだけ目を開いてシンジを見る。
 
 「ゲームセンター……」
 
 「うん……行ったこと、ないだろ?」
 
 こくん、と頷く。
 
 「楽しめるかどうかは、やってみないと分からないけど……何ごとも経験って言うか……その……ね」
 
 よく分からない理屈をこねつつ、シンジは言葉を紡ぐ。
 
 レイは、小首を少しだけかしげて、シンジを見た。
 
 「ゲームセンター……碇君も、行くの」
 
 「ああ……うん、そのつもりだけど」
 
 「じゃあ、行くわ」
 
 てて、とシンジの許に駆け寄ると、レイはシンジのワイシャツのすそをつまんだ。
 
 「あ、え、そう? う、うん」
 
 シンジは、おたおたとして情けない。
 
 
 
 ……というやりとりの二人を眺めながら、ケンスケとトウジは、肩を竦めて溜め息をついてみたりするのであった。



百五十六



 それはともかく、ゲームセンターへの道中、思わぬ新たな同行者に、ケンスケの心は雲間からこぼれる天使の羽衣を身体中に纏ったかのような喜びに包まれていた。
 
 そしてそれは、あからさまに表情に現れている。
 
 シンジとトウジは、終始ニヤけるケンスケを、遠巻きにして眺めていた。
 
 
 
 シンジが、怪訝な表情でトウジに囁く。
 
 「何あれ……どうしちゃったのさ、ケンスケ?」
 
 「んなもん、見りゃわかるやないか」
 
 トウジも、ひそひそとシンジに言い返す。
 
 「綾波がゲーセンで遊ぶ姿なんて、想像できるか?」
 
 「……いや」
 
 「そのチャンスが巡ってきたんやで! ケンスケのカメラがそんなシャッターチャンス、逃すわけないやないか」
 
 「ああ……な、なるほど」
 
 シンジもケンスケの意図するところに気付き、曖昧に笑い返した。
 
 
 
 確かに、レイがゲームで遊ぶ姿は、想像し難い。
 
 それを目にするチャンスも、まず普通なら訪れないだろう。
 
 
 
 シンジがチラ、と、後ろを歩くレイを見る。
 
 レイは、シンジの斜め後ろの辺りをぴったりとついて歩いていた。
 
 「綾波」
 
 シンジが声をかける。
 
 レイは、その声に顔を上げた。
 
 「……なに?」
 
 「あの……綾波ってさ、ゲームセンターがどういうところか、知ってる?」
 
 「ゲームをするところ……でしょう?」
 
 レイが答える。
 
 「どういうゲーム……とか」
 
 「……それは知らない」
 
 ……よなぁ。
 
 
 
 レイは、きゅっとシンジの指を掴む。
 
 「教えて……碇君」
 
 「え!? あ、う、うん」
 
 赤くなりながら、シンジが応える。
 
 
 
 ほどなくして、ゲームセンターに辿り着いた。
 
 「さぁ、どれにする?」
 
 ケンスケが、デジカメを構えながら、ニカーッ! とシンジとレイの方に向き直る。
 
 ……はっきり言って、怪しいことこのうえない。
 
 シンジは苦笑すると、店内をぐるりと一望した。
 
 
 
 「う〜ん……」
 
 パズル……格闘……シューティング……クイズ……アクション……リズム……ドライブ……クレーン……
 
 ……いっぱいあるよなぁ。
 
 綾波が楽しめるのって、どれかなぁ?
 
 
 
 「……ん?」
 
 シンジがふと視線を泳がすと、視界の端で、何かをじっと見つめているレイに気付いた。
 
 (……?)
 
 シンジは、レイの側に歩み寄る。
 
 
 
 レイが、じっと見つめていたのは……
 
 
 
 「……エアホッケー?」
 
 シンジが、呟いた。
 
 
 
 それは、二人一組で対戦する、サッカーとテニスと卓球を合体させたようなゲーム台だった。
 
 テーブルの両側で、それぞれがパッドを持って向かい合い、コースターを打ち合う。
 
 手前にゴールがあり、打ち返せずにコースターをゴールに入れてしまうと、相手の得点となる。
 
 ……ひと昔前なら、ゲームセンターの定番だったゲームだ。
 
 
 
 シンジが、横に立つレイの方を見る。
 
 レイは、目の前でカップルが打ち合っているさまを、じっと見つめていた。
 
 「……綾波、あれ、やりたいの?」
 
 レイが、こくん、と頷く。
 
 
 
 ガチャン。
 
 コースターがゴールに吸い込まれ、イルミネーションがゲーム終了の点滅を繰り返す。
 
 
 
 「やる?」
 
 レイが、こくん、と頷いた。
 
 
 
 「お、エアホッケーかいな」
 
 二人に気付いたトウジとケンスケが、台の側まで歩いてきた。
 
 「おお! これはいいものを選んでくれたなぁ」
 
 ケンスケが、ファインダーを覗き込みながら瞳を輝かす。
 
 「? なにがや?」
 
 「馬鹿だな、トウジ。匡体のゲームもいいけどさ、それじゃあ何枚撮っても、見た目には大して変わらないだろ? こういう肉体系のゲームなら、いろんなポーズが撮れるじゃないか!」
 
 瞳、キラキラキラキラキラァッ!
 
 「……ああ、さよか」
 
 トウジは、黙って溜め息をつく。
 
 
 
 「ルール、わかるよね?」
 
 シンジが、向側に立つレイに声をかける。
 
 「……見てたから……だいたい、わかるわ」
 
 レイが、頷き返した。
 
 「じゃあ、行くよ。準備はいい?」
 
 レイが頷く。
 
 シンジは、静かにIDカードをスロットに通した。
 
 

 パパラパパラパパァ〜ッ!
 
 ファンファーレの音と共に、テーブルの中央が開き、中からコースターがせりあがる。
 
 一瞬の空白を置き、バシュッ! という空気音と共に、コースターが弾けた。
 
 
 
 最初にコースターが飛んで来たのは、シンジの陣地だった。
 
 シンジは、パッドを素早く動かして打ち返す。
 
 カコン!
 
 レイも、パッドを動かして、打ち返す。
 
 カコン!
 
 
 
 カコン!
 
 カコン!
 
 カコン!
 
 カコン!
 
 
 
 レイの打ち返したコースターが、速度を失ってシンジの手前で止まる。
 
 シンジは、狙いを定めて、思いきりコースターをひっぱたいた。
 
 
 
 ガチャチャン!
 
 パパラパパ〜ッ!
 
 
 
 「よし!」
 
 シンジは、思わずガッツポーズをする。
 
 コースターは、一直線に……吸い込まれるように、レイのゴールに飛び込んでいった。
 
 
 
 「おい、碇!」
 
 ケンスケが、シンジの側に駆け寄った。
 
 「あ、ケンスケ、今の見た?」
 
 嬉しそうに、シンジはケンスケの方に振り返る。
 
 だがケンスケは、露骨に眉をしかめた。
 
 「ばっか、何やってんだよ!」
 
 「え?」
 
 ケンスケの言葉に、シンジは怪訝な表情をする。
 
 ケンスケは、シンジの耳許に口を近付けた。
 
 「彼氏ならさぁ、少しは手加減してやれよ! そうでなくたって、綾波は、エアホッケー初めてなんだろ!? 本気出してどうすんだよ!」
 
 「……えっ」
 
 ケンスケに言われて、シンジは、慌ててレイの方を向いた。
 
 
 
 レイは、ポケッとした表情で、手許のパッドを見つめている。
 
 
 
 「……なァにを、甘ったれたこと言っとんのや!」
 
 突然、二人の後ろから、トウジが大きな声を上げた。
 
 驚いたように、トウジを見るケンスケとシンジ。
 
 「あ、甘ったれたって?」
 
 「手加減? アホゥ! 男ならなぁ、そーゆーセコイことはせんもんや! 実力の差は、実力の差や! ウソとちゃうんやで! そんなん、手加減なんぞしたら、相手に失礼やんか!」
 
 「いやいや、それは違う」
 
 ケンスケがトウジの方に向き直って、指を立て、チッチッチッ、と振る。
 
 「ここは、ゲーセンだぜ。言わば、日頃の苦しさ、辛さを忘れて楽しむ、遊戯場、社交場さ。いいかトウジ、ここはウインブルドンじゃないんだぜ? 遊んでいる人間が、みんなで楽しんでこそ、場が成り立つってものさ。実力に差があるなら、余裕のある方が調整してやる。それがスマートなやりかたってもんだろ?」
 
 「いいや! そりゃちゃうで! ええか、実力に差があって叩きのめされたんなら、悔しゅうても諦めもつくし、今度は倒したる、いう気になるやろ。手加減してもろても、負けりゃ悔しいまんまやし、勝っても結局、相手は実力出しとらへんのや。おもろないやんか!」
 
 「誰でも、トウジみたいな熱血野郎だと思っちゃいけないぜ。たとえばエアホッケーなら、一発でゴールが決まっても、つまんないだろ? ラリーが続く方が、二人とも楽しいじゃないか。ラリーを続けるんなら、加減てものが必要さ。いいか、ゲームは、勝ち負けだけが大事なんじゃない。楽しむことが大事なんだぜ」
 
 「いいや! そりゃちゃうで! たとえば、今ケンスケとやっとるスト9な、悔しいが、ワシはケンスケにまるでかなわん。50戦近くやっとるが、まだ一度も勝ったことあらへん。せやけどな、悔しいけど、イヤなんとは違うんや。わかるか? もし、今ケンスケに勝つことができて、それがケンスケの手加減やと分かったら、きっとワシは二度とやらへんで!」
 
 「いやいや、それはおまえがそういうヤツだと分かってるからさ。いいか、おれらは男友達だ。碇たちはカップルだぜ? 見合った遊び方があるだろ」
 
 「いいや! そりゃちゃうで! 男や女や言うてやり方変えんのは、それこそ差別っちゅうやつや! 恋人なら、それだけ分かりおうとんのやろ? 手加減なんぞいらん! 真剣勝負や!」
 
 「いやいや、それは違う」
 
 「いいや! そりゃちゃうで!」
 
 
 
 ガチャチャン!
 
 パパラパパァ〜ッ!
 
 
 
 「「ん?」」
 
 トウジとケンスケが振り返ると……
 
 そこには、パッドを構えたまま、呆然と立ち尽くすシンジの姿。
 
 テーブルの、レイの側の縁が、イルミネーションに輝いている。
 
 頭上には、「1-1」の得点表示……。
 
 
 
 ケンスケとトウジは、ばばっとシンジに駆け寄った。
 
 「わかってくれたか、碇! そうやって、一方的な試合にならないように調整することが大切なのさ」
 
 「シンジ! 見損なったで! 手加減なんぞしたって、そんなんは、ホンマの面白さとはちゃうんやで!」
 
 
 
 シンジは、そんな二人の方にゆっくりと振り返ると、ひきつったような表情で、言葉を紡ぎ出した。
 
 「ふたりとも……今の……見て、なかったの?」
 
 「「は?」」
 
 
 
 匡体の頭上に設置されたモニタに、「REPLAY!」の表示が輝いた。
 
 トウジとケンスケが、慌ててモニターを見る。
 
 
 
 テーブルの中央が開き、コースターが現れる。
 
 コースターが回転し、シンジの陣地にコースターが投入された。
 
 おそらく、ケンスケとトウジの口論が尾を引いているのだろう。どうしたものか決めかねたような、迷いのある球筋で、シンジがコースターを打ち返した。
 
 甘い角度。
 
 そのコースターが、レイの目の前に滑っていった、その瞬間。
 
 
 
 ガコン!
 
 
 
 「うお……」
 
 トウジが、思わず呟きを漏らした。
 
 
 
 まさに、一瞬。
 
 レイがパッドを持つ手を走らせた瞬間、スローモーションでも霞むようなスピードで、コースターは一直線にシンジのゴールに突き刺さっていた。
 
 
 
 「………」
 
 「………」
 
 ケンスケとトウジは、言葉もない。
 
 
 
 シンジは、さきほどの情景を思い返していた。
 
 
 
 さっきの……打ち返す直前の、綾波の表情。
 
 訓練の時の表情、そのまんまだ。
 
 いや、戦闘中の表情と言うべきか?
 
 
 
 冷静に考えてみれば……僕ら三人は、反射神経や動態視力を伸ばすための訓練は、さんざん積んでるはずなんだ。
 
 最初の一回は綾波も状況を完全に把握できてなくて、あの程度の弾道に得点を許しちゃったんだろうけど……もともとあれくらいで、綾波が球筋を見失うわけがないんだよな〜。
 
 
 
 シンジは、レイの顔を見る。
 
 レイは、テーブルの中央……これからコースターが出てくるであろう場所を凝視して、動かない。
 
 いや……正確には、腰を落として、膝を軽く効かせて……どんな動きにも対処できるように、万全の構えで待ち受けている。
 
 
 
 シンジは……心が落ち着いていく。
 
 いや、高揚していく?
 
 わからない。
 
 
 
 シンジも、ゆっくりと腰を落とした。
 
 
 
 そうだ。
 
 僕らにしか、できないんだしな。
 
 
 
 テーブルの中央が、開く。
 
 コースターが、回転しながらせりあがる。
 
 
 
 コースターが、一瞬、ふわっと浮き上がり……
 
 
 
 バシュン!
 
 音を立てて、コースターが、レイの陣に飛び込んだ。
 
 
 
 ガコン!
 
 レイが打ち返す。
 
 一瞬で、シンジの陣に飛び込む。
 だが、今のシンジには、見えている。
 
 
 
 ガコン!
 
 ガコン!
 
 ガコン!
 
 ガコン!
 
 
 
 ガコ!
 
 ガコ!
 
 ガコ!
 
 ガコ!
 
 
 
 ガコガコガコガコガコガコガコガコガコ……!
 
 
 
 呆然と、二人のラリーを、トウジとケンスケが眺めている。
 
 「……目が追いつかん」
 
 トウジが、ボソッと呟いた。
 
 立て続けにシャッターを切りながら、ケンスケも呆然と言葉を発する。
 
 「ベストショットどころじゃない……とりあえず撮影しといて、あとで選ぶしかないよ」
 
 
 
 ガコガコガコガコガコガコガコガコガコ……!
 
 
 
 いつのまにか、二人の台の回りには、ギャラリーができていた。
 
 エアホッケーにギャラリーができることほど、異様な情景もないものだ。
 
 みな、腕を組んだり、仲間と小声で話したりしながら……まるでテニスのトップランカー同士の試合を観戦しているかのごとく、真剣なまなざしを注いでいた。
 
 
 
 ガコガコガコガコガコガコガコガコガコ……!
 
 
 
 「あッ」
 
 ガチャン!
 
 
 
 どれくらい時間がたったのか……
 
 やがて、一瞬の隙をついて、コースターがシンジのゴールに吸い込まれた。
 
 
 
 パパラパパァ〜ッ!
 
 
 
 うおおおおぉぉぉ〜……
 
 周囲からどよめきが上がり、初めてギャラリーに気付いたシンジが、驚いて辺りを見回した。
 
 人、人、人……。
 
 「うわ……」
 
 シンジは、自分の置かれた状況を理解して、一気に赤くなった。
 

   
 振り返ると、レイは気にした風もなく、再び構えをとっている。
 
 シンジは、慌ててレイに声をかけた。
 
 
 
 「あ、綾波! ちょっと待って!」
 
 「? なに?」
 
 怪訝そうな表情をするレイ。
 
 シンジは、照れたように頭を掻いた。
 
 「あ、あの、その……さ、え〜……もう僕、疲れたよ。ちょっと休まない?」
 
 シンジの言葉に、レイは、ゆっくりと構えを解いて体を起こした。
 
 「うん……わかった」
 
 パッドを置いて、シンジの側に駆け寄る。
 
 「あ、あっちへ行こうか」
 
 慌てて、シンジが人ごみの外側を指差した。
 
 レイが頷く。
 
 二人は、人の渦をかき分けるように、外に向かって歩き出した。
 
 
 
 「お、おい! シンジ! これ、どうするんや!」
 
 「10点先取するまで、終わんないぞ!」
 
 背後で、トウジとケンスケの慌てた声が聞こえる。
 
 シンジは、ずんずんと先を歩きながら、首をねじって声をかけた。
 
 「二人でやっちゃっていいよ!」
 
 「……できるかぁ〜! この状況で!」
 
 トウジの情けない声をあえて無視して、シンジはレイの手を引いて人ごみを抜け出した。
 
 
 
 「ふぅ〜……」
 
 隅の壁際まで移動して、シンジは大きく息をついた。
 
 (ああ……驚いた)
 
 まさか、あれほどのギャラリーが集まるとは思わなかった。
 
 
 
 もともと、あまり必要以上に、他人の注目を集めるのは得意ではない。
 
 そういう人生ともながらく無縁だったため、免疫がないことが、ますますそれに拍車をかけていた。
 
 
 
 しかし……今回の、自分自身の反射神経や動態視力には、目を見張った。
 
 ひとえに訓練のたまものだろう。
 
 前回……シンジは、身体能力においても、大きく劣等感を抱いていた。
 
 だが、おそらく、後半の頃には、平均よりは上回る能力を手に入れていたに違いない。
 
 それを発揮することが出来なかったのは……引っ込み思案で、実際よりも自分の能力を低く見てしまいがちな性格のせいだったのだろう。
 
 
 
 しかも今回……再び戻ってきて、前回以上に身を入れて訓練に励んでいる。シンジが、一般から見て目を見張る反射神経を身に付けているのは、容易に想像できた。
 
 
 
 「……大丈夫?」
 
 レイが、シンジの額にハンカチをあてた。
 
 シンジが、それに気付いて、初めて汗だくなことを自覚した。
 
 
 
 シンジは、レイからハンカチを受け取って汗を拭きながら、苦笑した。
 
 「体力ないね、僕」
 
 確かに、レイはほとんど汗をかいていなかった。
 
 ギャラリーの輪から抜け出すための方便という意味もあったが、「疲れた」というのは、シンジにとっては事実だった。
 
 
 
 基本的な体力が、レイに比べて劣っているとは思い難い。
 
 おそらく、シンジはかなり無駄な動きをしていたに違いなかった。
 
 
 
 「綾波……楽しかった?」
 
 「……ええ」
 
 レイは、頷いた。
 
 「それに……訓練にもなったと思う」
 
 「そ、そう?」
 
 「……また、やりたい」
 
 「あ、う、う〜ん……」
 
 やれば、またギャラリーができるに違いない。
 
 それは、さすがに避けたいシンジだった。
 
 
 
 携帯電話を見ると、時刻は2時をまわっていた。
 
 (本当なら、もう少し遊んでいられるけど……)
 
 今はもう、ここで何をやってもギャラリーがつくのは目に見えていた。
 
 それに、やっぱり、少し早めに行っていたい。
 
 シンジは、レイに声をかけた。
 
 「綾波、ちょっと早いけど、NERVに行かない?」
 
 「ええ」
 
 レイも、特に反対するでもなく、シンジの言葉に頷いた。
 
 (トウジとケンスケは……ほっといても、まぁ、いいか)
 
 あの、人の山に戻る気は、どちらにしても、ない。
 
 シンジは荷物を持つと、レイと連れ立って歩き出した。



百五十七



 NERVに到着した二人は、まず、訓練の概要を聞くために、実験制御室へ向かうことにした。
 
 ここでリツコもしくはミサトから詳しい説明を受け、その後必要ならばプラグスーツに着替える、というのが、いつもの順序である。
 
 もっとも、カリキュラム自体は事前に知らされているので、実験内容について、おおよその予想はつく。今日は、おそらくシンクロテストであろう。
 
 制御室に向かうために、エレベーターホールに足を向けた。
 
 
 
 「あれ?」
 
 エレベーターホールに足を踏み入れたところで、シンジは意外な人物の姿に、思わず間抜けな声を発した。
 
 そこにいたのは、アスカだ。
 
 まだ、集合時刻まで、30分近い間がある。
 
 エレベーターを待っていたアスカは、シンジとレイの姿に気付いて、演出気味に眉をしかめてみせた。
 
 
 
 シンジは、アスカの側に歩み寄ると、口を開いた。
 
 「アスカ……どうしたの? まだ、時間じゃないけど」
 
 アスカが、いやそうな表情で肩を竦める。
 
 「うっさいわね……はやく着いちゃったの!」
 
 「まだ30分くらいあるけど……」
 
 「い・い・で・しょ! 着いちゃったんだから! なんか、文句あんの!?」
 
 「い、いえ、ないです……」
 
 睨まれて、思わず首を振るシンジ。
 
 
 
 チン、とエレベーターの到着音がホールに響いた。
 
 
 
 「あら? 三人とも、早いじゃない」
 
 エレベーターの扉が開くと、中にはミサトの姿が見えた。
 
 「いーでしょッ! 早く着いたんだからッ!」
 
 言いながら、アスカがエレベーターに乗り込む。
 
 「なに、怒ってんの?」
 
 ミサトが、不思議そうな表情でアスカを見て、そのままシンジに視線を向ける。
 
 シンジは、曖昧な表情で苦笑すると、エレベーターに乗り込む。
 
 そのあとに、レイが続く。
 
 「制御室よね?」
 
 「ハイ」
 
 「じゃあ、一緒だわ」
 
 言いながら、ミサトが「閉」のボタンを押した。
 
 
 
 「お〜い! チョット待ってくれぇ!」
 
 その時、外から声が聞こえてきた。
 
 見ると、加持が走ってくる。
 
 しかし、ミサトは「閉」のボタンから指を離さない。
 
 「あ、あの、ミサトさん?」
 
 シンジが、怪訝な表情でミサトを見る。
 
 全然、指を離さない。
 
 
 
 バン!
 
 間一髪、扉が閉まる直前に、加持が上向きのボタンを押す。
 
 エレベーターの扉が、再び開かれた。
 
 
 
 加持が、エレベーターに乗り込んできた。
 
 ゆっくりと、扉が閉まる。
 
 
 
 「ヨッ、三人とも」
 
 加持が、シンジ・レイ・アスカに笑いかける。
 
 「こんにちは」
 
 「こんにちは〜、加持さん」
 
 「………(ペコリ)」
 
 三人が、挨拶を返す。
 
 そのまま、加持はミサトの方に笑いかけた。
 
 「ヨウ、葛城」
 
 「チッ」
 
 ミサトが、あからさまに舌打ちをしてみせる。
 
 「こりゃまた、御機嫌ナナメだな」
 
 「来た早々、アンタの顔を見たからよ」
 
 フン、という表情でそっぽを向くミサト。
 
 
 
 「ちょっとォ、こんなところで痴話ゲンカしないでくれる?」
 
 呆れ顔で、アスカが不満をたらした。
 
 ミサトが、ガッという表情で振り向いた。
 
 「痴話ゲンカじゃ、なァいッ!!」
 
 「だとさ、葛城。やめようか?」
 
 「だ・か・ら! 痴話ゲンカじゃなァァァいッ!!」
 
 「ま、まぁまぁ、ミサトさん……」
 
 困ったような表情で笑うと、シンジが二人をなだめようとした、その時。
 
 
 
 ブビュウゥゥゥン……
 
 
 
 「ん?」
 
 「あら?」
 
 エレベーターの電灯が落ち、箱の上昇が止まる感覚。
 
 
 
 アスカが、怪訝そうに見回した。
 
 「なに、コレ? 停電?」
 
 「まっさかァ。ありえないわ」
 
 ミサトが、同じように周りを見渡す。
 
 「赤木が、実験をミスったかな?」
 
 「「ありえる」」
 
 ミサトとアスカの、ユニゾン。
 
 
 
 そのころ、制御室……
 
 ボタンを押した姿勢のまま固まるリツコの背中に、オペレーターたちの視線が集中している。
 
 リツコは、固まった姿勢のまま、声を出す。
 
 
 
 「……わ、私じゃないわよ」
 
 
 
 「ま、すぐに予備回線に繋がるわよ」
 
 ミサトが、特に気にしたふうもなく、言いながら振り返った。
 
 そして、暗がりの中……視界にひとり、姿が見えないのに気付く。
 
 「アラ?」
 
 ……見ると、シンジが頭を抱えて蹲っていた。
 
 
 
 ま……
 
 
 
 ま……
 
 
 
 まさか……
 
 
 
 ……今日ォォ!?
 
 
 
 し、しかも、エレベーターに閉じ込められた!
 
 エレベーターから出られるのは、電力が回復したあとで……
 
 確か、電力が回復したのは、使徒を倒したあとで……
 
 ええと……
 
 つまり……
 
 
 
 ……ま、前よりももっと悪いじゃないかぁ!
 
 
 
 シンジは、自分のあまりの間抜けさに、思わず全身の力が抜けるような感覚を味わっていた。
 
 散々手を回して、その結果が、前よりも悪いとは……。
 
 シンジは、心の中で、絶叫した。
 
 
 
 しまったぁぁぁぁぁぁ!
 
 ど、ど、ど……どうすればいいんだぁぁぁぁ!?