第二十五話 「不安」
七十六



 翌日。
 
 
 
 「おはよう」
 
 「おう、おはようさん、シンジ」
 
 「おはよう、碇」
 
 いつものように、シンジとトウジ、ケンスケは、教室で挨拶を交わす。
 
 「綾波はどうしたんだ、碇?」
 
 「なんか、用があるとか言って……先に出たはずだけど」
 
 「まだ来てへんで」
 
 「え」
 
 慌てて、教室中を見回すシンジ。
 
 
 
 確かに、レイの姿はない。ホームルームが始まるには、まだ15分近くあるため、遅刻と言うわけではないが……
 
 (綾波……どこに、行ったんだ?)
 
 シンジは、なんだか不安になってしまう。
 
 
 
 教室を見回すと、ガヤガヤとお喋りに興じるクラスメートたち……
 
 いつもの、風景。
 
 しかし、よく見ると、いつもとは違う……正確には、数日前から違う風景が見える。
 
 「猫も杓子も、転校生転校生、か」
 
 頬杖をついたまま、ケンスケがぼ〜っと呟いた。
 
 
 
 教室の一角に集まる人だかり……
 
 その中心にいるのは、何を隠そう惣流・アスカ・ラングレ−その人である。
 
 当然、まわりにたかる者達の大半が男子生徒だ。
 
 彼等の質問や会話に、人の良さそうな笑顔で応じている。
 
 
 
 「すごいなぁ、相変わらず……」
 
 シンジも、思わずぼけっとした声で呟いた。
 
 「外ヅラのええやっちゃな」
 
 トウジも、憮然とした表情で応える。
 
 トウジとケンスケは、あのゲームセンターでの一件を目撃している。
 
 今の、人当たりのいい表情を辺りに向けている姿ではなく、匡体を蹴り飛ばして悪態をついたり、数人のチンピラを足蹴にして笑う姿が本性であることを知っているのだ。
 
 もっとも……と、シンジは思う。
 
 あの人当たりのいい姿が正しくて、プライドの高い姿が誤りかと言うと、それはむしろ逆だ。
 
 アスカは、あれでこそアスカなのだ。
 
 激しく打たれ弱い一面があり、プライドの高さに柔軟性がないため、ポキリといってしまいかねない……そこは、あまりよい傾向とは言えない。
 
 だが、あの誇り高さは賞賛すべきであり、また、もっと単純に言えば、ああでなくてはアスカらしさは失われてしまうと言ってもいいだろう。
 
 (それに、今よりも……きっと、胸をはって仁王立ちで笑う姿の方が、きれいだ)
 
 それが、過不足なく……もっとも、釣り合いのとれた彼女の姿なのだ、と、シンジは思った。
 
 
 
 「ま……美人なのは認めるけどな」
 
 ケンスケが、デジカメのレンズを磨きながら言う。
 
 「ケンスケ、写真の方の売上は、どうなんや」
 
 「うなぎ上りだね」
 
 言いながらノ−トパソコンのスリ−プを解き、表計算ソフトを立ち上げる。
 
 「え〜と……ああ、そうだな。だいたい、惣流、綾波、碇の3人が並んで市場を独占してるね」
 
 「は? 僕?」
 
 「……ええ、何も言うな。シンジには、言うてもしゃあないわ」
 
 「???」
 
 よくわからない顔をして首をかしげるシンジに、ケンスケとトウジは視線をやってから、はぁああああっと溜め息をつく。
 
 「ホンマ……エヴァのパイロットって、美男美女が選ばれるんちゃうか……」
 
 
 
 (なに、言ってんだろ、二人とも。
 
 わけわかんないよ……。
 
 ………
 
 それより……
 
 ………
 
 ……綾波……もう、ホームルームが始まっちゃうよ。
 
 どこに行っちゃったんだ?)
 
 
 
 そのころ、綾波レイ。
 
 学校への道すがらにある商店街で、本屋に入っていた。
 
 何を読んでいるかと言うと……。
 
 
 
 (………
 
 ……これも、同じ……
 
 ………)
 
 
 
 レイは、辞書・辞典のコ−ナ−で、しらみつぶしに「振られる」の意味を調べていたのであった。
 
 ちなみに、「胸を大きくするにはどうしたらいいか」についても調査していたが、そんなことは辞書には載っていないし、もちろん医学書などにも載っていない。
 
 もしも、あえて誤解やガセネタを問わず、とにかくなんらかの情報を得ようと思うのであれば、可能性があるのは男性誌の類いなのだが……幸いにも、レイはそういう発想については、全く思い至らなかった。
 
 
 
 (………
 
 碇君に、嫌われてしまう……
 
 そんなの、イヤ……)
 
 
 
 レイは、思考のル−プに突入してしまっていた。
 
 端から見ればどうでもいいような悩みなのだが……当のレイにとっては、世界の滅亡よりも重大な事件であった。
 
 
 
 どうしたらいいのか、わからない。
 
 誰かに聞けばいいのだろうか?
 
 碇君には、とても聞けない……
 
 弐号機パイロットは……イヤ。
 
 ………
 
 葛城一尉?
 
 
 
 レイが非常に危険な選択肢を選びそうになったとき、携帯電話のアラームが、彼女のバッグから店内に鳴り響いた。



七十七



 その、十数分前。
 
 NERV本部・ケイジ制御室。
 
 モニターをめまぐるしくスクロールしていく文字列を、リツコが超人的な早さでチェックしていく。
 
 「……ダメね」
 
 誰に言うともなく、リツコは呟いた。
 
 
 
 ケイジに繋がれた零号機は、半ば溶解したように破損している。
 
 この状態では、到底出動できない。
 
 MAGIのプログラムを使い、修復状況をシミュレートしていたのだが、あまり芳しくないようだ。
 
 (どう見積もっても……あと、2週間はかかるわね)
 
 計算結果をプリントアウトしながら、リツコはコーヒーを一口すすった。
 
 
 
 突然、リツコは、背後から何者かに抱き竦められた。
 
 一瞬驚いたようにビクッとするが、すぐにまた、何事もなかったかのようにプリントアウトに目を配る。
 
 「少し……痩せたかな」
 
 リツコの耳元で、男が囁いた。
 
 
 
 加持リョウジである。
 
 
 
 「そう?」
 
 リツコが、応える。
 
 「哀しい恋をしているからだ」
 
 「どうして、そんなことがわかるの?」
 
 「それは……涙の通り道にホクロがある人は、一生泣き続ける運命にあるからさ」
 
 フフ、とリツコが笑う。
 
 「口説くつもり?」
 
 加持が、黙って抱く腕に力を込める。
 
 「でもね、そろそろやめておいたほうがいいわよ……そこで、怖〜いオネェサンが見てるから」
 
 「ん?」
 
 
 
 ガッ!!
 
 
 
 加持の頭めがけて振り降ろされた金属のフォルダは、加持がすんでのところで受け止めていた。
 
 「オイオイ、当たったら死ぬぞ」
 
 「死にゃあいいのよ、アンタは!!」
 
 笑う加持の言葉に、鼻息荒く怒鳴り返したのは、ミサトだ。
 
 「ったく、手当たり次第に、このバカ!」
 
 「おや? 俺達は、もう恋人でも何でもないんじゃないのか?」
 
 加持が、ニコニコしながら応える。
 
 「それとも、まだ、期待していいのかな?」
 
 「フッ……ざけんじゃないわよッ!」
 
 ブゥン!
 
 ガシッ!
 
 「だから、当たったら死ぬって」
 
 「いい!? アンタが誰を口説こうが知ったこっちゃないけどね、アタシの目の届かないところでやってくれる!」
 
 「つれないなぁ、オーバー・ザ・レインボウじゃ、あんなに熱いくちづけを交わしたって言うのに」
 
 「!!!……な! ……な……なぁ!!」
 
 恥ずかしさか、それとも怒りか、真っ赤になってブルブルと震えるミサト。
 
 「あ・ん・た・ねェ〜〜!!」
 
 ブゥン!
 
 スポッ
 
 「あ」
 
 ガッチャ〜〜ンッ!!
 
 
 
 リツコは、席からゆっくりと立ち上がると、手に持ったマグカップからコーヒーを一口。
 
 そして……ゆっくりと、言葉を紡ぎだす。
 
 「で……
 
 いま壊したモニター、誰が弁償してくれるのかしら?」
 
 「あ、あはははは……」
 
 フィーッ、フィーッ、フィーッ……
 
 「はッ! 警報! まさか、使徒!?」
 
 慌てたように叫ぶと、ミサトは矢のようにその場から飛び去っていった。
 
 残された、リツコと加持……。
 
 「はは、相変わらず逃げ足が早いな」
 
 「……で、加持君が払ってくれるのかしら?」
 
 「え? 俺は何もしてないが」
 
 「同罪よ」
 
 「……ホラ、リッちゃん、管制塔に行かなくていいのかい?」
 
 「そうね……行くわ」
 
 リツコは、机の上にマグカップを置くと、クルリと振り返り、加持を見つめた。
 
 「必ず……払ってもらうわよ」
 
 そのまま部屋を出ていくリツコの足音を聞きながら、加持は苦笑して呟く。
 
 「変わらないな、二人とも……」



七十八
 
 
 
 「ミサト、使徒!?」
 
 NERVの本部内を走りながら、アスカが携帯に呼びかけた。
 
 「そうね、間違いないわ! 急いで、プラグスーツに着替えてね」
 
 「オッケー!」
 
 言いながら携帯を切ろうとするアスカを、シンジが制する。
 
 「何よ?」
 
 「貸して、ミサトさんに話があるんだ」
 
 「フン」
 
 渡された携帯を耳に当てるシンジ。
 
 アスカと並んで廊下を走りながら、声を出す。
 
 「もしもし、ミサトさん?」
 
 「シンちゃん、どうしたの?」
 
 「あの……綾波、来てます?」
 
 「ああ、レイなら、先に管制室に来てるわよ」
 
 「そうですか」
 
 ホッとしたように、息をつくシンジ。
 
 「……でも、管制室、ですか?」
 
 「零号機は、第五使徒の加粒子砲での損害がまだ修復されてないのよ。だから、レイは待機なの」
 
 「なるほど」
 
 そう言えば、そうだった。
 
 それで、僕とアスカが出撃することになったんだ。
 
 「……それはそうと、シンちゃん」
 
 「はい?」
 
 「……レイと、ケンカでもしてるの?」
 
 「ええっ?」
 
 「さっき、シンちゃんが来るから迎えに行ったら、て言ったのよ。ま、冗談だけど……。そしたら、レイ、イヤですって」
 
 「え……」
 
 「それ以上、何も言わないからよくわからないけど……真っ先に飛んでいきそうなのに。何かあった?」
 
 「え……え……でも」
 
 「昨日のデートで、怒らせたんじゃないの?」
 
 「ええええ?」
 
 そんな……と、シンジは思う。
 
 少なくともシンジにとって、幸せな時間だった。もちろん、はたから見れば、レイも同じく幸せそうだった。
 
 それは、別れるまで、ずっとそうだった……。
 
 
 
 まさか……
 
 あそこで、その……キス、したことが、怒らせちゃってるのか?
 
 
 
 シンジは、急速に頭が冷たくなっていくのを感じる。
 
 僕にとっては、自然な流れだったけど……綾波には、そうじゃなかったのか?
 
 嫌……だったのかなぁ?
 
 
 
 シンジにとって、ファーストキスにも等しいキス。
 
 正確には、前回の人生でアスカとキスしていたが……あれは、自発的な意志でしたのとは、少し意味が違う。
 
 あまりにも経験の足りないシンジは、自分のとった行動が正しかったのかどうか、急激に不安になってきていた。
 
 「まあ、怒らせてるんなら、はやく謝っておいたほうがいいわよ〜」
 
 「あ、は、はい……」
 
 「私も、これから移動管制車ででるから。あんたたちも、早くエヴァで来なさい」
 
 「は、はい」
 
 プツッ
 
 
 
 「ちょっと、シンジ!」
 
 「え?」
 
 「携帯!」
 
 「え……あ、ああ、ゴメン」
 
 シンジが慌てて差し出す携帯を、アスカは奪うように取ると、フン、とそっぽを向いて、先に立って走り出す。
 
 しかし、シンジにとっては、先ほどのミサトとのやりとりが頭にこびりついて離れず、それどころではない。
 
 
 
 謝らなくちゃ……でも……何て言って?
 
 
 
 シンジが悩んでいるあいだに、二人は更衣室に到着した。
 
 
 
 エントリープラグに入り、初号機を起動させた後、ウィングキャリアーにてエヴァンゲリオンごと移動を開始する。
 
 ミサトから、通信が入る。背後から聞こえる音からして、移動管制車で、すでに移動中のようだ。
 
 「聞こえる? ふたりとも」
 
 「「ハイ」」
 
 「使徒は現在、海上を第三新東京市に向かって移動中。新東京市の迎撃システムはまだ前回の戦闘での損害が大きすぎて、実戦での役には立たないわ。
 
 だから、今回は上陸直後の目標を、この水際で一気に叩く! 初号機と弐号機は交互に目標に対して波状攻撃、接近戦でいくわよ」
 
 「「了解」」
 
 
 
 シンジは、とりあえず頭を切り替えていた。
 
 レイとのことは、使徒を片付けてから考えよう。
 
 「日本でのデビュー戦だってのに、どうして私一人に任せてくれないのかしら」
 
 アスカのブツブツ言う声が聞こえる。
 
 「しょうがないだろ、作戦なんだから」
 
 「わかってるわよ、ウルサイわね。いい? 足手まといになるようなマネ、許さないわよ」
 
 「それなんだけど、アスカ」
 
 「何よ?」
 
 
 
 シンジは、この使徒を倒す方法について、頭を巡らせていた。
 
 第七使徒、イスラフェル。
 
 ……分裂・合体能力を擁し、二体同時攻撃しか効かない敵。
 
 分裂した後では、勝負にならない。
 
 シンジとしては、一度前回の闘いでユニゾンの訓練をしていることだし、あのときよりはいい動きが出来るだろう。
 
 だが、ユニゾン訓練は、双方からの歩み寄りが必要で、片方が頑張ったのでは揃わないのだ。
 
 
 
 前回も、訓練の経過で、アスカがパートナーに合わせることを選んでくれたからできた成果だった。
 
 どう考えても、今の時点で、アスカは自分に合わせてなどくれないだろう。
 
 それでは、おそらく倒すことは出来ない。
 
 
 
 分裂する前は、二体分のコアが並んでいたはず。
 
 二つ並んだコアを同時に攻撃できれば、分裂する前に倒せるかもしれない。
 
 そのためには……。
 
 
 
 「僕が先鋒で、アスカが援護っていう布陣で、いい?」
 
 できるだけ刺激しないように、あえて当然のように、サラッと口にしたつもりだった。
 
 だが、それでもアスカの逆鱗に、触れた。
 
 
 
 「なんですってェ!」
 
 
 
 「いや、その……」
 
 「なんでそんな必要があるのよッ!」
 
 「なんでって……」
 
 説明など、できない。
 
 まだ使徒を見ていないのだから。
 
 「私が前線に立つわ! シンジは援護!」
 
 「……わかったよ」
 
 
 
 シンジは、つっぱることなく、アッサリと、折れた。
 
 
 
 これ以上、アスカの態度を硬化させても仕方がない。
 
 実際に使徒を目の当たりにした後で、手早くアスカに指示を出すしかないだろう。
 
 アスカが聞いてくれるかどうかは、ちょっとわからないが……。
 
 「行くわよ、ふたりとも!」
 
 ミサトの声と共に、初号機・弐号機の機体は、キャリアから投下された。
 
 
 
 ザシャッ!
 
 初号機と弐号機は、陸近い浅瀬に着地する。
 
 前方に、第七使徒の姿が見える。
 
 「二人がかりなんて、シュミじゃないなぁ」
 
 「アスカ、生き残るためには、手段を選んではいられないのよ」
 
 「分かってるわよ、ミサト」
 
 「アスカ」
 
 「何よ、シンジ」
 
 「使徒を見てみなよ。コアがふたつあるだろ?」
 
 「……ホントだ」
 
 「アレ、同時に攻撃しないと、補完しあっちゃうんじゃないか? あのコアを同時攻撃するつもりで攻撃するように……」
 
 「ウルサイわね! アンタは援護してりゃいいの!」
 
 「アッ、アスカ!?」
 
 
 
 ……やっぱし。
 
 
 
 弐号機はバスターソードを構えると、イキナリ飛び出してしまった。
 
 
 
 仕方がない。
 
 シンジは、援護のために銃を構える。
 
 ユニゾン……やるしか、ないのかなぁ。
 
 
 
 「とおあぁぁぁッ!」
 
 使徒のすぐ前まで一気に距離を詰めた弐号機は、横薙ぎに振るわれた使徒の腕を躱すかのように、空中高くにジャンプする。
 
 そして、そのまま、剣を一気に振り降ろした。
 
 
 
 「でえええええいッ!!」
 
 ズバァッ!!
 
 
 
 使徒は、頭の先から股間に向けて、一気に切り裂かれた。
 
 
 
 「やった!」
 
 ミサトの声が聞こえる。
 
 「フン、ザッとこんなもんよ!」
 
 満足げに言うと、アスカは剣を小脇に抱えて、胸を張るような姿勢で振り返る。
 
 「はぁ……」
 
 シンジは、諦めたような声で、溜め息をついた。
 
 
 
 もちろん、コアは両断されていない。
 
 
 
 「……ミサトさん、N2爆弾の用意をお願いします」
 
 「え?」
 
 通信回線の向こうで、ミサトの間抜けな声が聞こえる。
 
 シンジは答えず、使徒を睨みながら叫んだ。
 
 「動くぞ!」
 
 「え? ……きゃぁっ!?」
 
 まっぷたつに切り裂かれた使徒の体が、ビクビクと脈打つ。
 
 そして……
 
 ズルゥッ
 
 「なにそれ……そんなの、インチキッ!」
 
 アスカの、叫び。
 
 
 
 使徒は、全く同じ、2体の使徒に変身していた。
 
 
 
 「なんなのよ、コノッ!」
 
 アスカが剣を構え、袈裟掛けに切り裂く。
 
 しかし、切り裂いたそばから、瞬く間に復元を遂げる。
 
 「全然、効かないッ!」
 
 「こっちもだ!」
 
 シンジが叫ぶ。
 
 シンジも、残る一体にパレットガンで攻撃を仕掛けていたが、簡単に穴が開く代わりに簡単に復元してしまっている。
 
 
 
 わかっていたことだ。
 
 シンジは、冷静に考えていた。
 
 
 
 分離してしまった以上、ユニゾン以外で倒すことは出来ないだろう。
 
 あるいは何か方法があるのかも知れないが……今のシンジには、思い浮かばない。
 
 そして、今の二人は、ユニゾンとは程遠いのだ。
 
 
 
 どうしても、数日に渡る訓練が必要だった。
 
 かといって、使徒を放っておくことは、当然出来ない。
 
 と、なれば……。
 
 
 
 「駄目です、ミサトさん! 爆雷を!」
 
 「わ、わかったわ、ちょっと待ってて」
 
 シンジの言う意図をようやくと汲み取り、ミサトは管制室に指示を飛ばす。
 
 「戦自に連絡! N2爆雷投下用意! 付近の戦闘員は、エヴァ以外全員退避して!」
 
 
 
 「アスカ!」
 
 「なっなによ!」
 
 見ると、弐号機は使徒のうちの一体を相手に悪戦苦闘している。
 
 正確には、斬っては復元、斬っては復元を繰り返しているだけだが。
 
 「N2爆雷で足止めするから、投下準備が整うまでだけ、時間稼ぎをするんだ!」
 
 「N2爆雷で倒せんの!?」
 
 「無理だよ。でも、表皮を何十%か焼くことはできる。完全に復元するまで、数日は稼げるはずだよ」
 
 「なんで、そんなコトわかるのよ! こんなに、すぐに元に戻っちゃうのに!」
 
 言いながら、アスカは使徒を横薙ぎに払う。
 
 即座に、切断面が再び融合していく。
 
 「う〜ん、なんでって言うか……」
 
 シンジも、言葉につまる。うまく説明できない。
 
 だが、それが、事実だ。
 
 「爆雷なんかでやる傷は、表面グチャグチャになって復元に時間がかかるんじゃないか、っていう発想、かなぁ……」
 
 「よく、そういう風に、のほほんとしてられるわね!」
 
 「してないじゃないか」
 
 シンジは、もう一体を相手に、パレットガンの引き金を絞っていた。
 
 こちらも、同じように、銃創が即座に埋まってしまって、攻撃の意味はあまりない。
 
 だが、撃つのを止めれば使徒が上陸してしまう。それは、避ける必要があった。
 
 「N2爆雷準備完了!」
 
 「アスカ、ATフィールド!」
 
 「わかってる!」
 
 「投下!」
 
 
 
 その数秒後、使徒は、激しい閃光に包まれた。



七十九



 帰投する間、アスカは終始、無口だった。
 
 機嫌を損ねているようだ。
 
 
 
 自分の攻撃が、ほとんど意味をなさなかったことと、勢いとは言えシンジの指示通りに動き、しかもその指示が割と的を得ていたことが、アスカを不機嫌にさせていた。
 
 
 
 では、どうすればよかったのか?
 
 シンジは、プラグの中で溜め息をつく。
 
 アスカに任せておいても、事態は進展しなかった。
 
 前回のように、いいように使徒にあしらわれてから、NERVの指示で爆雷の投下に至れば、「シンジが指示を出したわけではない」という意味では、機嫌を幾らか損なわずに済んだかも知れない。
 
 だが、さすがにシンジも、避けられるのに、あえてやられてみせることはできなかった。
 
 
 
 帰投後、試写室に入るシンジとアスカ。
 
 いつもの、戦闘後のブリ−フィングだ。
 
 試写室には、ミサト、リツコ、レイ、ゲンドウ、冬月が集まっている。
 
 見ると、レイがこっちを見ている。
 
 
 
 レイのこと、怒らせちゃったんじゃないのぉ?
 
 
 
 ミサトの言葉が、頭に響く。
 
 
 
 「やあ、綾波……」
 
 できるだけ平静を装って、シンジはレイに声をかけた。
 
 もっとも、声のこわばりは隠せない。
 
 「おはよう……碇君……」
 
 レイが、顔を赤くして答える。
 
 
 
 あれっ?
 
 
 
 怒ってるようには、見えないぞ……。
 
 
 
 「席について」
 
 ミサトの言葉に、レイ、シンジ、アスカの順に、席につく。
 
 アスカは、シンジとひとつ席を空けて。
 
 レイは、シンジの隣に座る。
 
 レイが、小さい声で呟いた。
 
 「ごめんなさい、碇君……」
 
 「え?」
 
 「朝……先に出て」
 
 「あ……ああ」
 
 「用事が、あったの」
 
 「ああ、いや、いいよ」
 
 
 
 シンジの不安は、かなり払拭されていた。
 
 怒っているようには、到底見えない。
 
 思い違いだったみたいだ……な。
 
 「何の、用事だったの?」
 
 「…………………………言えない……」
 
 「そ、そう? いや、別にいいんだけど……」
 
 再び、不安が鎌首をもたげる。
 
 
 
 だが、その不安の量は、レイの比ではなかった。
 
 普通に喋ってはいるが、彼女の心は不安に支配されていた。
 
 
 
 結局、本屋での調査は無駄に終わった。
 
 このままでは、シンジに振られる。
 
 振られてしまう……。
 
 シンジがNERVに来たときは、その不安が更に大きく、とても顔をあわせることが出来なかった。
 
 顔をあわせたとたんに、シンジから別れを告げられそうな気がしていた。
 
 ……そんなことになれば、生きていけない。
 
 何も、なくなってしまう。
 
 なにも……。
 
 
 
 だが、いつまでも会わないわけには行かない。
 
 ……なにより、実際には、シンジに会いたくて会いたくてしかたがないのである。
 
 だから、意を決してやってきて……
 
 シンジに、先に話し掛けられたことで、なんとか普通の会話ができる程度までは、精神を安定させることができたのだ。
 
 
 
 だが……
 
 レイは、まだ一度も、シンジと目をあわせられなかった。
 
 ……とても、できなかった。
 
 
 
 前方のモニタには、先ほどの戦いの顛末が映写されていた。
 
 前回の戦いの時のように、初号機・弐号機共にやられたわけではない。
 
 一応、無傷で帰投したのだ。
 
 ……だが、結局エヴァにはどうすることもできず、戦自の力を借りたことは変わらなかった。
 
 「パイロット両名」
 
 再後列に座るゲンドウの、低い声が響く。
 
 「ハイ」
 
 慌てて、振り向きながらアスカが返事をする。
 
 シンジは、ただ目を瞑った。
 
 「君達の仕事は、なんだ」
 
 「……人類の滅亡を、防ぐことだ」
 
 「!」
 
 アスカが、驚いたようにシンジを見た。
 
 レイも、目を見開いてシンジを見ている。
 
 シンジは、目を瞑ったまま、ゲンドウに応えていた。
 
 
 
 そうだ。
 
 そのために、僕は来た。
 
 人類の滅亡……
 
 正確には、補完計画を、防ぐために。
 
 
 
 それが、僕の役目……。
 
 
 
 「……それもある」
 
 ややあって、ゲンドウの低い声が響いた。
 
 「だが、現状での仕事は、使徒を倒すことだ。それができんパイロットに、意味はない」
 
 「……倒すさ」
 
 シンジが、また答える。
 
 一度もゲンドウの方に振り向かず……目を瞑ったままで。
 
 「チャンスは、何度もない。使徒に負ければ、人類は滅びるのだからな……」
 
 ゲンドウは、言いながら立ち上がった。
 
 そのあとに冬月が続き、二人は試写室を出ていく。
 
 
 
 「碇君……」
 
 レイが、心配そうに、シンジの拳の上に手を置いた。
 
 「うん」
 
 シンジは目を開くと、少しだけ微笑んだ。
 
 「今日、はじめて……目があったね?」
 
 シンジの言葉に、はじめてレイは気付き……赤くなって俯いた。
 
 
 
 そうだ……と、シンジは思う。
 
 補完計画は、止めてみせる。
 
 それが、みんなの幸せに繋がるのだから……。
 
 
 
 そのためには、使徒を倒さなければならない。
 
 それもまた、事実だ。
 
 
 
 僕は、負けられない……。
 
 
 
 全てを……みんなを、トウジやケンスケや洞木さんを、マヤさんやマコトさんやシゲルさんを、ミサトさんやリツコさんを……カヲルくんを……アスカを……
 
 ……綾波を。
 
 ……護るために……。



八十



 試写室を出た三人の前に、加持が現れた。
 
 「よ、三人とも。元気にしてるか?」
 
 「加持さん!」
 
 パァッ、と顔をほころばせて、加持の腕に取り付くアスカ。
 
 加持は、ニコニコ笑っている。
 
 「どうだ、三人とも? メシ、まだだろ? 一緒に食うか」
 
 「わ〜いッ!」
 
 「はい、じゃぁ……」
 
 「……ハイ」
 
 三者三様の返事。そして、一行は連れだって食堂へと歩きだした。
 
 
 
 テーブルを囲んで、シンジとレイ、向かい側に加持とアスカが座る。
 
 三人はカレーライスを、加持はコーヒーを飲んでいる。
 
 「……碇君のカレーの方が、おいしい」
 
 レイが、一口食べて、ボソッと呟く。
 
 「だってさ、シンジくん」
 
 「あ、ありがと、綾波……」
 
 照れたように鼻の頭を掻くシンジ。
 
 「なに? シンジ、料理なんかできんの?」
 
 疑わしそうな目で、アスカが睨む。
 
 「はは、まぁ、ちょっとはね」
 
 「ど〜せ、大したコト無いんでしょうけどね」
 
 「碇君の料理は、すごくおいしい……」
 
 「は、はははは……」
 
 アスカの睨みは、いつのまにかレイとの間で火花を散らしている。
 
 
 
 シンジは、アスカとレイの間に割ってはいることが出来ず、ただ強ばった笑いを浮かべるばかり。
 
 (しかし……なんだか、本当に仲悪いなぁ……
 
 前回も仲悪かったけど、それ以上だ……
 
 ………
 
 しかし……前回は、アスカが嫌ってて綾波は無視してるって感じだった。
 
 なんか、今回は、綾波も嫌悪感をあらわにしてるって言うか……
 
 ………
 
 なんで?)
 
 その原因は、ひとえにシンジにあるのだが、そのあたりのことは相変わらず、シンジにはよく分かっていないのであった。
 
 
 
 とにかく、この居心地の悪い雰囲気を打破するために、シンジは無理矢理、他の話題を持ちだした。
 
 「加持さん……そう言えば、ミサトさんは?」
 
 「あいつは今頃、始末書の山に埋もれてるよ」
 
 言いながら、面白そうに笑った。
 
 「責任者は、責任を取るためにいるんだからな」
 
 
 
 「うがぁぁぁぁぁ……」
 
 ゲッソリした表情で、なにやら訳の分からぬ唸り声をあげているのは、当の葛城ミサトである。
 
 ミサトの前方には、加持の指摘した通り……始末書やら報告書やらが、うずたかく積み上げられている。
 
 「ハイ、コーヒー」
 
 「……さんきゅぅ〜……」
 
 リツコが差し出す紙コップを、力なく受け取る。
 
 「で……どうするつもり?」
 
 「……何が?」
 
 「使徒を倒す方法」
 
 リツコの言葉に、再び力なく机に突っ伏すミサト。
 
 「何も無いの?」
 
 「あるもないも……この報告書! 始末書の山!」
 
 ガバッと起き上がりいまいましげに両手を広げる。
 
 「生き残りたいんなら、こんなモンは全てが終わってからにしなさいッちゅ〜の! 考えてるヒマもないわよ!」
 
 リツコは微笑む。
 
 「いいアイデアがあるんだけど、いる?」
 
 リツコの言葉に、両手を広げたまま……ポケッとした顔でリツコを見つめるミサト。
 
 リツコは、片手にフロッピーを持って、ウインクする。
 
 「いかが?」
 
 「……いる! いる! いる! いるに決まってんじゃないの!」
 
 ミサトは、ガバッとそのフロッピーを奪い取る。
 
 「さっすが! 持つべきものは親友ね〜!」
 
 「おあいにく。それは、あなたの親友が考えたものじゃなくて……あなたの恋人が考えたものなの」
 
 
 
 ピクッ。
 
 
 
 コーヒーをすするリツコに、ギギギッと油の抜けたロボットのような動きで焦点を合わせるミサト。その目は、すわりまくっている。
 
 「まさか……」
 
 「愛しの、加持君よ」
 
 「いらない」
 
 ミサトはこめかみをヒクヒクさせながら、フイッとリツコの方にフロッピーを差し出す。
 
 だが、リツコは微笑んで受け取らない。
 
 「クビになってもいいの?」
 
 「うっ」
 
 「……クビになったら、モニター代、払えないわよ」
 
 「……オニ!!」
 
 
 
 シンジとレイは、並んで夕焼けの街を歩いている。
 
 二人の間に、言葉はない。
 
 ただ、長い影が、赤く染まったアスファルトの上に伸びていた。
 
 
 
 シンジは、考える。
 
 まず、アスカのこと。
 
 これから……帰ったら、きっとアスカがいるだろう。
 
 そして、ユニゾン訓練の説明が、ミサトさんからあるはずだ。
 
 ユニゾン訓練。
 
 うまくやれるだろうか?
 
 前回よりは、うまく動く自信はある。
 
 訓練そのものは……音楽に合わせて踊るだけなら、そこそこいいところまで、行くかも知れない。
 
 だが、それはこの訓練の主眼ではないのだ。
 
 当然のことながら……使徒は、音楽に合わせて動いてくれるわけではない。
 
 ユニゾン訓練は、音楽どおりに踊ることではなく……パートナーに合わせて動くことを目的とした訓練。
 
 このままで……本当に、うまくいくのだろうか?
 
 
 
 そして、レイのこと。
 
 綾波が朝先に出て、結局学校に来ず、僕に会いにも来なかったこと。
 
 怒っているわけではないのは、さっきからの綾波の態度で分かる。
 
 それは、たぶん、心配ないと思うけど……。
 
 理由を、教えてくれない。
 
 いや、変に隠していることをほじくり出したいわけじゃない。
 
 だけど、なんだか……綾波、思い詰めてるというか……。
 
 どうしたんだろう?
 
 何があったんだろう?
 
 僕では……力になれないんだろうか?
 
 
 
 レイは考える。
 
 碇君……。
 
 あなたに、嫌われたくない。
 
 それは、嫌……
 
 どうしても、嫌。
 
 でも……
 
 どうすればいいの?
 
 胸が小さいと、振られてしまうと……弐号機パイロットは言った。
 
 私の胸は……小さいと。
 
 碇君に……嫌われる。
 
 振られる……。
 
 ………。
 
 どうすれば、いいの……。
 
 どうすれば、碇君の側に、いられるの?
 
 
 
 なんだか、微妙に食い違った不安を胸に、二人は家路を歩いていく。
 
 
 
 家の前で、シンジはレイに声をかけた。
 
 「ちょっと、寄っていく?」
 
 いつもなら、まずレイは隣家の自宅に戻り、着替えを済ませてから葛城邸を訪問するのが日課だった。
 
 だが、シンジは、レイを誘った。
 
 「……うん」
 
 一度、自分の家のドアノブを握りかけていたレイだったが、シンジの言葉に嬉しそうに微笑むと、ぱっと手を離してシンジの隣に立った。
 
 
 
 シンジがレイを誘ったのは、二つ理由がある。
 
 ひとつは、先ほどの不安。
 
 なんだか、レイが遠くに行ってしまうような気がして……錯覚以外の何物でもないのだが……いま、別れるのが躊躇われたのだ。
 
 そして、もうひとつ。
 
 このドアを開ければ、アスカがいるだろう。
 
 あとでレイが戻ってきて、アスカとシンジが二人でいるのを見たら、あらぬ誤解をするかも知れない。
 
 二人で一緒に家に入れば、そういう類いの誤解は避けられる。
 
 そういう杞憂を抱くほどに、シンジの心は不安だった。
 
 
 
 ガチャリ。
 
 
 
 扉を開ける。
 
 そこには、ダンボールの、山……。
 
 
 
 やっぱり……
 
 まあ、当たり前なんだけど……。
 
 
 
 「あら、アンタ帰ってきたの?」
 
 ダンボールの向こうから、アスカが顔を出した。
 
 「なにコレ?」
 
 シンジが、ダンボールの山を指さして言う。
 
 「アタシの荷物よ。アンタは、お払い箱ってワケ」
 
 「……違うと思うなぁ」
 
 「なによ?」
 
 「まだ、使徒を倒してもいないんだよ。こんな時期に、そんなことするわけないだろ」
 
 「じゃ、なんだって言うのよ」
 
 「訓練の一環……かなぁ?」
 
 「アンタ、バカァ? どこにこんな訓練があるって言うのよ!」
 
 シンジは、苦笑した。
 
 そりゃそうだ。
 
 説明を受けなければ、誰だってそう思うだろう。
 
 
 
 アスカが、シンジの後ろのレイに気付く。
 
 「あら、ファースト? あんたもいたの」
 
 レイは、無表情で応えない。
 
 「ああ、いつもは着替えてから来るんだけど、今日は先に誘ったんだ」
 
 代わりに、シンジが答える。
 
 アスカは、大袈裟にウエッという顔をする。
 
 「ナニ、毎日ファーストがここに来てんの?」
 
 「いや……綾波の家、隣だし。綾波ってひとりだし、みんなでいるほうが楽しいから……」
 
 「……あんたら、同棲してんの?」
 
 「なぁ!?」
 
 シンジが、すっとんきょうな声を上げる。
 
 レイは、よく話の流れが掴めていないようで、きょとんとした顔をしている。
 
 「だ、だから、綾波の家はトナリ! って言ってるだろ!」
 
 「じゃ、半同棲? 似たようなモンでしょ、ど〜せ。毎日、夜はシンジがファーストの家に泊まってんじゃないの?」
 
 「ンなことするわけないだろ!」
 
 真っ赤になって反駁するシンジ。
 
 「ど〜だか」
 
 フン、とそっぽを向くアスカ。
 
 
 
 レイは、今のやり取りを、また変なふうに解釈していた。
 
 普通は……泊まりに来るものなのだろうか?
 
 それが、普通?
 
 碇君が、泊まりに来てくれないのは……
 
 ……胸が、小さいから?
 
 
 
 いまや、レイの頭の中では、全てがそこに集約してしまっているようだった。
 
 
 
 そのとき、ガチャリ、と扉が開いた。
 
 三人が振り向くと、ミサトが立っている。
 
 「あら? 荷物、もう来ちゃった? 早いわねぇ」
 
 「ミサトさん、説明して下さい」
 
 シンジが、ダンボールの山を指さして言う。
 
 もっとも、本当は分かっているのだが。
 
 「いい? あの2体の使徒は、おたがいに補完しあっているの。別々に攻撃しても、倒せないのよ。
 
 倒すためには、同時にコアを攻撃する、2点同時荷重攻撃。これしかないわ」
 
 「で? それとこれと、どういう関係があるのよ?」
 
 「そのためには、パイロット両名の完璧なユニゾンが必要なの。これから、アスカとシンちゃんには、一緒に暮らしてもらいます」
 
 
 
 ……しばしの沈黙。
 
 そして……。
 
 
 
 「ええええええええええええええええええええ〜〜〜〜ッッ!!!!?」
 
 建物自体を揺るがすような、アスカの叫び。
 
 耳を押さえながら、溜め息をつくシンジ。
 
 硬直のレイ。
 
 ニコニコ笑うミサト。
 
 「使徒を足止めできるのは、6日間だけ。時間がないのよ。命令拒否は認めませんからね」
 
 
 
 「な、な、な、な……! あのねぇ! 仮にも、私たち年頃の男女なのよォ! 何かあったらどうするつもりよ!」
 
 「心配ないわよ、シンちゃんはレイにラブラブなんだから〜。ね、シンちゃん?」
 
 「ま、まぁ、その……あの」
 
 赤くなってモゴモゴと口ごもるシンジ。
 
 「馬鹿馬鹿しい」
 
 ケッという顔をするアスカ。
 
 
 
 レイには、今のやり取りは、耳に届いていなかった。
 
 その前の、ミサトの言葉が、頭の中に、リフレインしていたのだ。
 
 
 
 一緒に暮らす……
 
 一緒に暮らす……
 
 一緒に暮らす……
 
 弐号機パイロットと……碇君が……
 
 
 
 レイの脳裏に、オーバー・ザ・レインボウでの一幕が思いだされる。
 
 顔をうずめたときの、アスカの胸の弾力。
 
 プラグスーツに着替えるときの、アスカのプロポーション……。
 
 
 
 ………
 
 ………
 
 ……いや。
 
 いや……
 
 いや……
 
 イヤ!
 
 
 
 「私も、一緒に住みます」
 
 
 
 他の三人があっけにとられる中、綾波は毅然とした口調で言い放ったのであった。