第二十二話 「来日」
五十四



 「今度、ドイツからセカンドチルドレンが来ることになったから」
 
 ミサトがそう言いだしたのは、夕食の後片付けを終えて、リビングで寛いでいるときのことだった。
 
 
 
 シンジとレイは、ソファーに座ってテレビを見ていた。
 
 レイは、毎日欠かさず葛城邸へ来て、食事をとる。
 
 
 
 あるとき、食事をするレイに、シンジが声をかけたことがある。
 
 「……綾波、おいしい?」
 
 レイは、顔を上げてシンジの顔を見る。
 
 シンジは、かすかに微笑んで、レイの顔を見ている。
 
 「……おいしいわ」
 
 「そう……よかった。あんまり綾波って、そういうこと言わないから……もしかして、おいしくなかったらどうしようかって思って」
 
 「碇君の料理は、みんなおいしい」
 
 ハッキリと、レイが言う。
 
 レイは、シンジの瞳を見つめている。
 
 シンジは、一瞬驚いたようにレイを見て、それから照れたようにはにかんだ。
 
 「そ、そう? ……そう言って貰えると、僕も嬉しいよ。やっぱり、料理はおいしく食べて欲しいから……」
 
 レイは、じっとシンジを見つめてから、口を開いた。
 
 「……碇君」
 
 「なに?」
 
 「料理……楽しい?」
 
 「えっ? ……ああ、う〜ん、そうだね……。でも、料理そのものが楽しいのもそうだけど、やっぱり誰かに、自分の料理を食べて貰うのが楽しいんだよ、きっと」
 
 「……食べて、もらう……」
 
 少しだけ目を伏せて、考えるように黙るレイ。シンジは、それを不思議そうに見つめた。
 
 「どうしたの、綾波?」
 
 「……碇君」
 
 「ん? なに?」
 
 「……私も、料理したい」
 
 「えっ?」
 
 シンジは、レイの顔を見た。
 
 レイは、俯きがちなまま、上目使いにシンジの瞳を見つめる。
 
 「そうしたら……碇君、たべて……くれる……?」
 
 「……も……勿論だよ!」
 
 嬉しそうに、シンジは答えた。
 
 レイが作った料理が食べられる。それも、勿論嬉しい。
 
 それに、レイが「料理をつくる」という行為……いや、むしろ「料理を人に食べて貰う」という行為に興味を示したことが、シンジには嬉しかった。
 
 
 
 「ありがとう……」
 
 レイも、微笑む。
 
 「綾波、料理したこと、あるの?」
 
 レイはフルフルと首を横に振る。
 
 「そうかぁ……じゃあ、これから僕が料理を教えてあげるよ。夕食は二人で作って……慣れてきたら、ときどき交替してみよう。それでいいでしょ?」
 
 
 
 碇君が……料理を、教えてくれる。
 
 
 
 レイは、嬉しそうに微笑んだ。
 
 「うん……教えて……碇君」
 
 
 
 そうして、レイは、シンジの夕食を手伝うことになった。
 
 まだ始めて日も浅いこともあり、夕食をレイが全て賄えるほどにはなっていない。だが、生まれ付いての味音痴であるミサトとは違い、レイは単に、今まで作ったことがなかったに過ぎない。
 
 レイは、シンジが教えたことを、砂が水を吸収するかのように覚えていく。
 
 シンジは、軽い驚きと……覚えのいい生徒を持った喜びをもって、そんなレイを眺めていたのであった。
 
 
 
 話を戻そう。
 
 そんな訳でいつものように食事を終え、ミサトがビール、後片付けを済ませたシンジとレイがお茶を飲みながらリビングのソファーに腰掛けているときに、先ほどのミサトのセリフが飛び出したのである。
 
 「今度、ドイツからセカンドチルドレンが来ることになったから」
 
 「! ……そうですか……」
 
 「………」
 
 シンジとレイの反応は、予想どおりだった。
 
 シンジは、驚きをもってミサトの言葉を迎えている。
 
 対するレイは、全く反応を示さず、シンジの隣でゆっくりとお茶をすすっていた。
 
 「なぁに〜、レイ……お仲間がくるっていうのに、もう少し驚くとか喜ぶとか……なんか反応はないのぉ?」
 
 ミサトが意地悪に声をかける。だがレイはミサトを一瞥すると、
 
 「……関係ありませんから」
 
 とだけ答えた。
 
 
 
 シンジは、そんな二人の様子を眺めながら、全く別のことを考えていた。
 
 
 
 アスカ……
 
 
 
 シンジの脳裏に、赤いプラグスーツに身を包んだ少女の姿が浮かび上がる。
 
 
 
 青空をバックに白いワンピースをはためかせて振り返るアスカ。
 
 夕暮れの公園で、ベンチにすわっているアスカ。
 
 目に涙を浮かべて、母親を寝言で呼んでいたアスカ。
 
 苦虫を噛潰したように睨み、自分を怒鳴り付けていたアスカ。
 
 キスしたあと、洗面所に飛び込んでうがいしていたアスカ。
 
 腕から点滴の管を伸ばし、うつろな瞳で天井を見つめるアスカ。
 
 獣のような咆哮を上げて、量産機に飛び掛かっていくアスカ。
 
 ……赤い湖畔で、ゆっくりと動かなくなっていく、アスカ……。
 
 
 
 シンジは、膝の上に置いた拳を、ギュッと握り締めた。
 
 思いだしたくない。でも、忘れてはいけない。絶対に。
 
 
 
 アスカを、あんな目に合わせてはいけない……。
 
 なんとしても……。
 
 
 
 アスカを、救わなくては、いけないんだ!
 
 
 
 「……どうしたの、シンちゃん?」
 
 ミサトの声に、ハッと顔を上げた。
 
 ミサトが、怪訝そうな顔で、シンジを見つめている。
 
 「……碇君」
 
 横を見ると、レイが心配そうに、シンジを見ている。
 
 シンジは、慌ててかぶりを振った。
 
 「あっ……いや、なんでもないです。ちょっとボーッとしちゃって……」
 
 「ま、いいけど……シャッキリしてね」
 
 シンジの態度が不審でなかったわけではないが、ミサトはそれ以上深くは追及しなかった。
 
 
 
 「それで……今度、弐号機と一緒に、空母乗ってやってくるのよ〜」
 
 「オーバー・ザ・レインボウですね」
 
 「! く、詳しいわねぇ」
 
 「あ、い、いや、この間ケンスケが、なんかそんな空母がくるって言ってたから……」
 
 慌ててフォローするシンジ。
 
 「ふ〜ん……ま、いいけど。それで……レイ」
 
 「はい」
 
 ミサトに呼びかけられて、返事をするレイ。
 
 「レイに、一緒にオーバー・ザ・レインボウに行って貰うことになったから」
 
 「えッッ!」
 
 
 
 驚きの声を上げたのは、レイではなく、シンジだった。
 
 ミサトもレイも、キョトンとしたようにシンジの顔を見ている。
 
 「……どしたの、シンちゃん?」
 
 ミサトが、シンジに声をかける。シンジも、その言葉で、ようやくと現実に引き戻された。
 
 「あっ……いえ、あの……僕は?」
 
 「え? ……だって、使徒が来たらどうするのよ。チルドレンのどっちか一人は、第三新東京市に残っていてもらわないとねぇ」
 
 「いや、その、そうなんですけど……じゃあ、なんで僕じゃなくて綾波なんですか?」
 
 「シンちゃん、行きたいの?」
 
 「そういう訳じゃないんですけど……」
 
 「シンクロ率も高くて、戦闘経験もあるシンちゃんを残していくのは、当然でしょ?」
 
 「はぁ……」
 
 
 
 前回の世界では、確かにシンジがオーバー・ザ・レインボウまで行ったのだ。
 
 それが今回行けなくなったのは、ひとえにシンジの成績の良さにあった。
 
 前回も今回も、レイに対しシンジの調子がいいのは変わらない。ただ、今回は「良すぎる」のである。
 
 誰の目から見てもシンジを残していくのが当然であり……本部ではなく空母が使徒に襲われる事実は、ゲンドウや冬月、リツコなど、ごく一部の人間だけが知ることであったため、シンジを連れて行くのはあまりにも不自然だったのだ。
 
 もちろん、ミサトも知らない。だから、「チルドレンを連れて行くように」と言われたときに、当然のごとくレイを連れて行くことを申請したのだ。
 
 
 
 「なぁに、シンちゃん……そんなにセカンドチルドレンに会いたいのぉ?」
 
 ミサトが、ニヤニヤしながら言う。シンジは、ミサトの言う意味が、最初わからなかった。
 
 「は? はぁ……まあ」
 
 「なによぉ、シンちゃん、彼女のこと、誰に聞いたの? やっぱり、美人って聞くと会いたくなるぅ?」
 
 
 
 ぴくっ。
 
 レイがわずかに震える。
 
 
 
 だが、シンジをからかうミサトと、ようやく気付いて慌てるシンジは、そのことには気が付かない。
 
 「えっ……あ、いや、ちが……」
 
 「さっすが、隅に置けないわねぇ。ま、シンちゃんかっこいいし〜、案外お似合いのカップルかもしれないわねぇ」
 
 「ん……な、なにを……」
 
 しどろもどろになるシンジ。ミサトは、そんなシンジを見て、ますます悪魔のからかいに拍車をかける。
 
 「彼女も、シンちゃんを一目見てメロメロになっちゃったりしてねぇ」
 
 「ア、アスカがそんなこと、なるわけないじゃないですか!」
 
 
 
 シンジは、畳み掛けるようなミサトのからかいと突っ込みが来るものと思い、必死に自己の再構築と臨戦体制の完備を試みて身構えた。
 
 だが、ミサトの言葉は追ってこない。
 
 数秒の静寂の後、ようやく不可思議な現状に気づき、シンジはおそるおそる、ミサトの顔を見た。
 
 
 
 ミサトは、ボケッとした顔で、驚きをその瞳に湛えながら、シンジのことを見つめていた。
 
 (あれっ……僕、なんか変なこと、言ったかな……)
 
 シンジは、先ほど口をついて出た自分の言葉を思い出すことが出来ない。
 
 対処に困り、考えあぐねていたシンジに、やがてミサトが惚けたように声をかけた。
 
 「……シンちゃん」
 
 「は、はい?」
 
 「……アスカのこと、なんで知ってるの?」
 
 「は?」
 
 数秒の、タイムラグ。
 
 「なんでって……え? その……」
 
 「私、アスカのことなんて、教えたことなかったわよね。……シンちゃん、なんであの子の名前、知ってるの?」
 
 
 
 急速に、シンジの頭の中に、先ほど自分が口走ったセリフが蘇る。
 
 「アスカがそんなこと、なるわけないじゃないですか!」
 
 
 
 あっ……しまった、そうかぁ……!
 
 
 
 「……き、聞いたハナシですよ、聞いたハナシ!」
 
 慌てて、張り付いたような笑いと共に答えるシンジ。
 
 だが、ミサトの疑惑は晴れない。
 
 「誰に?」
 
 「えっ? ええと、その……」
 
 「それなりに、機密事項なんだけどねぇ?」
 
 「え、ええ、と……そのぉ……」
 
 
 
 ミサトは、シンジの頭の中をのぞき見るように、疑いバリバリの視線でシンジを見ている。
 
 チラ、と視線を隣に動かすと、同じくレイも怪訝そうな表情で、こちらを見ている。
 
 
 
 レイは、不思議だった。
 
 なぜ、シンジがアスカのことを知っているのか?
 
 誰かが教えたとは思えない。
 
 シンジの方から、調べたとしか思えない。
 
 
 
 ……なぜ、碇君は、セカンドチルドレンのことを調べたのだろう?
 
 単なる好奇心?
 
 ……はたして、本当にそうだろうか?
 
 
 
 ……この、苦しいような、押しつぶされるような……この感情はなんだろう。
 
 碇君と出会って、私は苦しさや痛みを伴う感覚を、幾度か感じてきた。
 
 ……ヒカリさんは、碇君のことが好きだから、苦しいのだと言っていた。
 
 
 
 ……今、初めて感じる苦しさ。
 
 いつもの痛みや苦しさとは違う、嫌な感覚。
 
 ……これも、碇君が好きだから、感じる痛みなのだろうか……?
 
 
 
 ミサトとレイに、正に射抜くような鋭い視線を向けられて、シンジは生きた心地がしない。
 
 とにかく、この場の追及を逃れるためにも、何か返事をしないわけにはいかない。
 
 
 
 えーと、えーと、えーと。
 
 こういう機密を話してくれそうで……
 
 言ってもまずくないような地位がある人で……
 
 この場の嘘にうまく乗ってくれそうな……
 
 ………
 
 ………
 
 ………
 
 あ……そうだ。
 
 
 
 「か……加持さんですよ」
 
 「かッ……
 
 ………
 
 ………
 
 ………
 
 ……加持ィィィィィィィィィィ〜!?」
 
 
 
 思わず、すっとんきょうな声を上げてしまうミサト。
 
 レイは、意味もわからずにきょとんとしている。
 
 ミサトは、シンジの襟首を掴み、食ってかかるように詰め寄った。
 
 「な、な、な、な、なんでェ!? どーして加持がァ!?」
 
 「え、えと……ほら、加持さんって、アスカのお目付け役をしてるじゃないですか。それで……」
 
 「そ、そうかも知んないけど! それじゃ、どーしてアンタタチ二人が連絡を取り合ってるのよォ!」
 
 「い、い、いや……え〜と、その……ヒ、ヒミツ……」
 
 「ふざけんな!」
 
 「か。加持さんなら、アスカと一緒にオーバー・ザ・レインボウに乗ってくるはずですから……その時に聞いてみたらどうですか?」
 
 「げ! ……く、来んの!?」
 
 ミサトが、茫然とした様子で硬直した。シンジの襟首を離し、よろよろと2、3歩後退する。
 
 テーブルに後ろ手をついて、シンジの顔をボサッと見つめて……それから大きく息を吐いた。
 
 「ああ〜……行きたくなくなってきた……」
 
 「加持さんは、ミサトさんに会いたがってますよ」
 
 「! 加持ィィィィ〜! 一体どこまで話したのよォ!」
 
 「あ、あはははは、は……」
 
 シンジが何と答えていいものやら思案しているうちに、ミサトはよろりらと自分の部屋に入り、ピシャリと扉を閉めてしまった。
 
 ドッと疲れが出て、シンジも床に座り込む。
 
 
 
 何か、変なことになっちゃったなぁ……。
 
 すいません、加持さん……適当なこと言っちゃった。
 
 加持さんなら、きっとうまいこと察して、適当なことを取り繕ってくれるだろう……かなぁ……う〜ん……
 
 とにかく……
 
 こっちに戻ってきたら、うまいこと口裏を合わせておかなくちゃ。
 
 加持さん!
 
 なんとかうまいこと切り抜けてください〜!
 
 
 
 視界に、レイの足が入ってきた。
 
 シンジが見上げると、レイが傍らに立って、シンジを見下ろしている。
 
 「綾波?」
 
 「……碇君……弐号機パイロットのことが……気になるの」
 
 シンジは、戸惑った。
 
 「え? まぁ……その、え〜と……同じパイロットだし」
 
 「葛城一尉は……美人だから、って言ってたわ」
 
 小さな声で、呟くように言うレイ。
 
 「えええ? あ、あれは、ミサトさんがからかってるんだよ。僕は、そんなつもりないよ」
 
 「……そうなの?」
 
 「そうだよ」
 
 レイは、床に座るシンジの横に、座り込んだ。
 
 そのまま、シンジの肩に、自分の頭を載せる。
 
 突然のレイの行動に、何が起きたか訳の分からず、真っ赤になるシンジ。
 
 レイは構わず、安心したように瞼を閉じた。
 
 
 
 ……なぜ、私は、あんなに苦しくなったのだろう。
 
 そして、なぜ、今、こんなに安心しているのだろう?
 
 何が不安だったんだろう……
 
 何が幸せなんだろう……
 
 
 
 ……これも、碇君が好きだから、感じる気持ちなのだろうか……?
 
 
 
五十五



 シンジは、NERVの控室で、小説を読んでいた。
 
 今日は、日曜日。ミサトとレイは、アスカを迎えに行ってしまっていた。
 
 今回は、トウジとケンスケは、同行していない。
 
 訓練は、特にない。シンジは休んでもよかったのだが、特にすることもないので、待機という意味も込めて、NERVに足を運んでいた。
 
 
 
 ページをめくる。
 
 だが、シンジの頭の中には、文章がまるで入ってこない。
 
 
 
 今頃……もう、アスカに出会っているはずだ。
 
 加持さん……うまくやってくれるかな……。
 
 ガギエル……大丈夫かな。
 
 綾波とアスカは、前はあんまり仲良くなかった。アスカは、特に綾波のこと嫌ってたし。
 
 てことは、複座での戦闘って訳にはいかないだろうな。
 
 大丈夫かな?
 
 まぁ……アスカなら、大丈夫かな。
 
 綾波……大丈夫かな……。
 
 
 
 あっ。
 
 
 
 シンジは、ひとつの記憶に思い当たって、息を飲んだ。
 
 忘れてた……。
 
 
 
 今日は、綾波とデートにいく約束をしてたんじゃないか。
 
 
 
 しまった……。
 
 仕事だから、仕方ないんだけど。
 
 シンジは、軽く頭を抱えた。
 
 
 
 綾波、忘れてるのかな……。
 
 ………。
 
 ……そんなワケ、ないか。
 
 仕事だからな。綾波も、何も言わずについていったんだろうな。
 
 ………。
 
 帰ってきたら、一言、声をかけておいてあげなくちゃ。
 
 デートは、来週だな……。
 
 
 
 ……でも、何も考えてなかったから、ちょっと助かったかも……。
 
 
 
 コンコン、と、控室の扉を叩く音が聞こえる。
 
 「はい?」
 
 シンジは、手許の文庫本から、視線を上げた。
 
 「……シンジくん、ちょっといい?」
 
 「リツコさん? どうぞ」
 
 バシュッ、と音を立てて、扉が左右に開いた。
 
 白衣姿のリツコが入ってくる。手には、B4程度の大きさの封筒を持っている。
 
 再び、リツコの背後で扉が閉まった。
 
 「どうしたんですか?」
 
 シンジが問う。
 
 リツコは、封筒の中から、大判の写真を取りだした。
 
 「……これを見てちょうだい」
 
 シンジの前に差し出す。
 
 
 
 そこに写っているのは、ひしゃげたエントリープラグのハッチだ。実験室の、台の様なところに置かれている。
 
 写真の下に書き込みがあり、ヤシマ作戦の日付と、「零」という走り書きがあった。
 
 
 
 「何ですか、これ?」
 
 しばし写真を眺めてから、不思議そうな視線で、シンジは再びリツコを見た。
 
 リツコと目が合う。
 
 しばしの、沈黙。
 
 「……どういうことか、説明して貰える?」
 
 「は? 何が?」
 
 「見て」
 
 リツコはシンジの前まで歩み寄ると、シンジの持つ写真の上に指を置いた。
 
 「物凄い力で、ひしゃげているわ。どうしてこういうことになったのか……見当もつかない」
 
 「え……でも……それ、僕にだって見当もつきませんけど」
 
 「シンジくん……これはね、あなたがレイを助け出した後に、残されていたものなのよ」
 
 「はぁ」
 
 「あの時、零号機のエントリープラグの側にいたのは、レイとあなただけ。……あなたが、やったの?」
 
 シンジは、驚いてリツコの顔を見た。
 
 リツコの目は、しっかりと、シンジの瞳を見据えている。
 
 何も、感じ取ることの出来ない、まなざし……。
 
 「……えええ? お、覚えてないですけど……そんなこと、出来るわけないじゃないですか」
 
 やっとのことで、言葉を搾り出す。
 

 「じゃあ、何故こんなふうになっているというの」
 
 「わかりませんよ……あの時は、綾波を助けたい一心で……細かいことは覚えてないんですけど……使徒の攻撃で、こうなっちゃったんじゃないんですか?」
 
 しばしの、沈黙。
 
 シンジには、空気の粘度が急に増したような、息苦しさが感じられた。
 
 
 
 フゥ、とリツコが息をつく。
 
 「……ま、いいわ。そういうことに、しておいてあげる」
 
 「しておいてあげるって言われても……」
 
 「気にしないで。読書の邪魔をして、悪かったわね」
 
 リツコが、シンジの前に右手を差し出す。一瞬戸惑ったシンジは、すぐにリツコの意図に気付き、手に持っていた写真をその手に返した。
 
 リツコは写真を再び封筒にしまうと、きびすを返して、控室を出ていった。
 
 バシュン。
 
 扉が閉まる。
 
 シンジは、呆気にとられたように、閉まった扉を見つめていた。
 
 
 
 ……結局……なんだったんだ? リツコさん。
 
 
 
 廊下を歩きながら、リツコは考えていた。
 
 回収したハッチの把手には、はっきりと食い込むほどに、シンジのプラグスーツの、パーソナルマークが残されていた。
 
 あのハッチを、シンジがつかんだのは間違いがない。
 
 シンジがその場に到達したとき、現場に残されていたように、ハッチが既にひきちぎられていたら……シンジは、わざわざそれを、触るだろうか?
 
 そんなことはしないだろう。レイを助けるために、ハッチには目もくれずに、プラグの中に飛び込んでいたはずだ。
 
 では、シンジがハッチをつかむことになる状況とは……。
 
 
 
 シンジが、あのハッチを引きちぎったのだ。
 
 それ以外に、想像がつかない。
 
 それが、一番しっくりきて……
 
 
 
 一番、ありえない。
 
 
 
五十六



 シンジが帰宅すると、既にレイとミサトがリビングで寛いでいた。
 
 「おかえりなさい、碇君」
 
 レイは嬉しそうに立ち上がると、玄関の方へ歩いてきた。
 
 「ただいま、綾波」
 
 シンジも、靴を脱ぎながら、レイに微笑み返す。
 
 「そういえば、アスカに会ったんでしょ? どうだった?」
 
 シンジは問う。
 
 レイは、微笑んでいた表情をスッと消し去り、俯いて視線を逸らせた。
 
 「あのひと……好きじゃない」
 
 「そ、そう……」
 
 
 
 うう〜ん……どんな出会い方をしたんだろ。
 
 気になるなぁ。
 
 
 
 「シンちゃん、アスカとの顔合わせ、明日の夜になるから。訓練はないけど、夜になったら二人とも本部に来るのよ」
 
 ミサトが、ビールの缶を煽りながら言った。
 
 
 
 部屋に戻る途中、シンジは綾波にささやいた。
 
 「ごめん、綾波……その、今日、出掛ける予定だったのにね……」
 
 レイは、ぱっとシンジの顔を見てから、頬を染めて俯いた。
 
 「いいの……仕方ないもの」
 
 「来週の日曜日は、どこかに行こうね」
 
 シンジの言葉に、もう一度、顔を上げるレイ。
 
 ……そして、ゆっくりと、微笑んだ。
 
 「……うん……待ってる」
 
 
 
 翌日の放課後、シンジとトウジ、ケンスケの三人は、いつものようにゲームセンターに向かって歩いていた。
 
 「今日ッッこそは、負けへんでぇ〜ケンスケ! 見とれやぁ!」
 
 「はいはい……トウジもさ、そう何度も闘いを挑んでくるんだったら、もう少し強くなってからにすりゃいいのに」
 
 「なんやとォォ〜」
 
 「ケンスケ、調子いいの?」
 
 「まあな。て言うか、トウジの調子が悪いというか……全然進歩がないと言うか。いっつもストレート勝ち」
 
 「そうなんだ……」
 
 「ちょっと待てや! そら、ワイが下手クソや言うてんのか!?」
 
 「そうだけど?」
 
 「なんやとォォォォ〜〜」
 
 三人は、よく一緒にゲームセンターに行く。
 
 とは言え、シンジはNERVの訓練や実験などで、別行動になってしまうことも少なくない。
 
 その間トウジは、馬鹿のひとつ覚えのようにケンスケを連れてゲーセンに行き、馬鹿のひとつ覚えのように同じゲームで対戦を挑み、馬鹿のひとつ覚えのように負け続けていたのだった。
 
 「大体さ……これだけ負け続けてて、戦法に誤りがあるとか、キャラが合ってないとか、違うゲームで対戦を挑むとか、やりそうなもんだけどなぁ」
 
 「そないなことするヤツは、腰抜けっちゅうんや! 信じる道で勝ってこその男やないか!」
 
 「だから、勝てば、だろ……それは」
 
 「なんやとォォォォォォ〜〜〜!!」
 
 「ま、まぁまぁ二人とも……ほら、ゲーセンついたよ」
 
 
 
 いつも、彼らは同じゲームセンターに来る。
 
 トウジとケンスケは、まっしぐらに一階の奥にある対戦格闘台のブースへ行ってしまうだろう。
 
 二人の気が済むまで……と言うか、トウジの気が済むまでの間、シンジは二階のパズルゲームをやっているのが常だった。
 
 そう思い、いつものようにトウジたちに声をかけて、階段に向かって歩きだそうとしたとき。
 
 「おっほぉ〜……見てみぃ、ごっつぅ美人やないか」
 
 トウジが、鼻の下を伸ばしたような声で呟いた。
 
 
 
 シンジは、トウジの声に反応して、振り返った。
 
 
 
 トウジの見ている、その視線の先。
 
 
 
 そこにいた少女は……。
 
 
 
 (……アスカ!)
 
 
 
 薄クリーム色のワンピース。
 
 日本人離れした、均整のとれたプロポーション。
 
 UFOキャッチャーのアームを睨む、気の強そうな瞳。
 
 整った顔立ちをなでる、腰までのびた栗色の髪の毛。
 
 
 
 (アスカ……)
 
 「いっやぁ、美人やのぉ〜」
 
 「ホントだ……こんなコ、このあたりにいたっけ?」
 
 「なんやケンスケ、おまえの情報網でも引っ掛からんかったんか?」
 
 「ああ……まったく、俺としたことが不覚だったよ。これは……高く売れるぞ」
 
 言うが早いが、どこに隠し持っていたのか、例の高画質デジタルカメラを構えてファインダーを覗き込むケンスケ。
 
 呆れるシンジとトウジ。
 
 ポトリ、と、アスカの睨むアームから、景品が滑り落ちた。
 
 
 
 ドガッッ!
 
 
 
 「……ッざけでンじゃないわよ! このポンコツ! ブッ壊れてんじゃないのォ!?」
 
 罵りながら、続け様に、マシンに蹴りを入れるアスカ。
 
 ドガッ、ドガッ、ドガッ!
 
 トウジとケンスケは、茫然とその有り様を眺めている。
 
 「あかん……いっくら美人や言うても、性格ワルすぎや……」
 
 ゲンナリした表情のトウジ。
 
 「ああ〜、強気な表情もまた、いい! こりゃぁ売れるよ〜!」
 
 カメラのシャッターを切りながら、瞳を輝かせるケンスケ。
 
 「………」
 
 苦笑するシンジ。
 
 
 
 「おう、もういいやろ、ケンスケ! 行くで! 今日は負けへんからなぁ〜!」
 
 「ちょと待てよ、トウジ。あと2、30枚撮ってから……」
 
 「何枚撮る気なんじゃぁ!!」
 
 そんな騒ぎをよそに、アスカはなおもシンジには分からない言葉で、マシンに向かって罵り続けている。
 
 アスカの美しい髪が、アスカの蹴りに合わせて、左右に揺れる。
 
 シンジはもう少しその様を眺めていたい気もしたが……
 
 (まあ……いいや。どうせ、夜には本部で会うんだし……まだ初対面だから、ジロジロ見てるのも変だよ)
 
 そう思い、きびすを返すと、階段に向かって歩きだそうとした。
 
 そのとき……。
 
 
 
 「……うッるせぇんだよ!」
 
 野太い怒声が、店内に響き渡った。
 
 
 
 シンジが振り返ると、アスカと知らない男が睨みあっていた。
 
 男は上半身裸で、浅黒く日焼けした肌に、びっしりと入れ墨を施している。
 
 どう見ても、まともな男ではない。
 
 「てめぇがギャーギャー騒ぐから、死んじまったじゃねぇかよ!」
 
 「うっさいわね、そんなのアンタが下手クソだったからでしょ!」
 
 「なんだとぉ!? 俺ぁさっきまでハイスコアだったんだよ!」
 
 「ハ! そんなの、どこに証拠があるって言うのよ?」
 
 「見ろォ! まだ得点は残ってんだよ!」
 
 「フ〜ン……これ、ドイツにもあったわよ。この得点なら、アタシの半分ってところかしら?」
 
 「な・ん・だ・と・ォォォォォォ〜!? おう、てめぇら! ちょっと手伝え!」
 
 男の声に、店内から5、6人の男が現れた。
 
 みな、やはり見るからにまともではない。
 
 ニヤニヤしながら、アスカのことを眺めている。
 
 「どうしようってのよ?」
 
 「おぉ! ちょっと、つきあえや!」
 
 
 
 「お、おい……まずいよ、これ」
 
 さすがにファインダーから目を離したケンスケが、茫然としたように呟いた。
 
 「おう……ほっとくワケにもいかんな。やっぱ、警察かの」
 
 「必要ないよ」
 
 その声に、トウジとケンスケは、驚いたように振り返った。
 
 シンジは、じっと前方の様子を見つめている。
 
 「彼女は、強いんだ」
 
 
 
 そう……アスカは、強い。
 
 およそ、そこらのチンピラでは太刀打ちできないほどに。
 
 それに、NERVの諜報部が、どこかで護衛しているはずだ。アスカの分が悪くなれば、彼らが動くだろう。
 
 もしも、本当にピンチになれば、僕も飛び込もう。
 
 ……喧嘩なんて、全然自信が無いけど。
 
 でも、アスカが傷つくことよりは、そのほうがずっといい。
 
 
 
 「さぁ……こっちに来てもらおうか?」
 
 後から現れた男の一人が、ニヤニヤしながら、アスカの肩に手を伸ばした。
 
 
 
 アスカは、スッと後ろに下がってその手を躱すと、そのまま男の顎につま先を送り込んだ。
 
 ガギョッ!
 
 「ぐあッ!!」
 
 「! このアマァァ〜〜!!」
 
 顎を割られた男が血を吐きながら倒れる様を見て、残りの仲間が激高した。
 
 全員が、一斉にアスカに飛び掛かる。
 
 
 
 アスカは、強かった。
 
 
 
 シンジは、その強さに、改めて目を奪われていた。
 
 NERVの訓練を受け、加持の戦術指導を受けているアスカにとって、これくらいは当然ということなのだろう。
 
 飛び掛かる男達を、次々と蹴り倒していく。
 
 脚力が、そこまであるとは思えない。アスカは、的確な判断と、持ち前の身の軽さ、急所に確実にヒットする技術をもって、チンピラたちを圧倒していた。
 
 (アスカ……)
 
 アスカの類い稀な強さは、その美しい風貌と、瞳から発散される強烈な意志の強さと共に、むしろ「神々しい」という印象までをも与えていた。
 
 
 
 やがて男達は、全員アスカの足許にひれ伏す形となってしまった。
 
 
 
 「フン! あたしとやりあおうなんて、十年早いのよ!」
 
 得意満面で、アスカは啖呵を切った。
 
 店の周りには、いつの間にか人だかりが出来ている。
 
 アスカはそれをまったく気にせず、満足そうに微笑むと、店の中に入って行こうと、歩きだした。
 
 
 
 アスカの背後で、最初に顎を割られた男が、よろめきながら立ち上がった。
 
 「……こッ……の……ア・マァ〜……」
 
 搾り出すように言うと、手許のナイフを、ピン! と広げた。
 
 それを、腰許に構える。
 
 
 
 「あぶない!」
 
 シンジは、叫ぶと同時に飛び出していた。
 
 シンジの声に、驚いてアスカが振り返る。
 
 男は、意味不明の言葉を叫びながら、アスカに向かって走り込む。
 
 
 
 その瞬間、シンジの脳細胞がスパークした。
 
 脳裏に、誰かの姿がよぎる。
 
 
 
 とても到達しえないような距離をシンジは一気に詰め、シンジは、アスカと男の間に割り込んだ。
 
 
 
 男が、シンジに向かってナイフをつきだした。
 
 
 
 男が右手に持ったナイフを突いてくる。それを、シンジは左手で、自分の右側に捌く。同時に、男の右側面に踏み込む。
 
 捌いた左手で、ナイフを持った右手を掴む。反転し、男と同じ向きを向く。
 
 そのまま、持った左腕の腋の下に男の右腕を抱え込み、体重を男の方にかけ、同時に足を捌く。
 
 右手で男の右手首を掴み、逆にひねった。
 
 
 
 「あぐッ!」
 
 男は、情けない声を上げて悶絶した。
 
 右腕をシンジに極められたまま、床に這い蹲るような姿勢になっている。
 
 ひねられた右手から、ナイフが落ちる。
 
 カツーン……。
 
 
 
 それは、まさに一瞬の出来事だった。
 
 アスカは、目の前で繰り広げられた出来事を、呆気にとられて見つめている。
 
 
 
 「なんや、シンジ……あないに強かったんか」
 
 トウジも、半開きに口を開けて、茫然と呟いた。
 
 ケンスケが、カメラから目を離して、応える。
 
 「でも……当の碇が、一番驚いてるぜ」
 
 「……ホンマや」
 
 
 
 気を失った男から離れて立ち上がったシンジは、周りで見ている皆以上に、茫然として自分の手の平を見つめていた。
 
 
 
 なんだ……今の。
 
 アスカが助かったのはよかったけど……
 
 あんなこと、僕にできるわけない。
 
 感覚も異常に研ぎ澄まされて、男の動きがスローモーションみたいだった。
 
 
 
 ……いったい、何が起こったんだ……?
 
 
 
 フォン、フォン、フォン、フォン……
 
 遠くから、かすかにパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
 
 「アカン! はよ、逃げな!」
 
 トウジが、慌てたようにケンスケの腕を掴んだ。
 
 「行くで! おい、シンジ!」
 
 「あ、ああ……碇! 早く!」
 
 ケンスケとトウジの呼び掛けに、シンジは現実を取り戻した。
 
 そうだ……逃げなくちゃ。
 
 「わかった! 今行く!」
 
 二人に声をかけて、後ろを振り返った。
 
 
 
 そこに立ち尽くしていたアスカと目が合う。
 
 シンジは、にこっと微笑んだ。
 
 
 
 「! な……」
 
 アスカが言葉を発するよりも早く、シンジはその場から走り去る。
 
 「……な、何よ、アイツ……」
 
 アスカは、茫然と呟いた。
 
 
 
 シンジは、人込みの中に飛び込むと、一瞬左右に視線を泳がせて、そのうちの一人に近づいた。
 
 コートに身を包み、サングラスをした男。
 
 シンジはその側まで近づくと、他に聞こえないような声で、呟いた。
 
 「後の処理、お願いします」
 
 「! ……わかりました」
 
 かすかに頷く男を後に、シンジはトウジたちと合流すると、そのまま走り去った。
 
 
 
五十七



 夜。
 
 NERVの会議室のようなところで、アスカとミサトが並んで立っていた。
 
 「アスカ、諜報部からの報告、読んだわよ〜」
 
 ミサトが、ニヤニヤしながら声をかける。
 
 「なんの話よ」
 
 「ゲーセンで、騒ぎを起こしたんですって?」
 
 「ああ……その話」
 
 アスカは、馬鹿にしたような視線を宙にやると、大袈裟に肩を竦めてみせた。
 
 「やっぱ、バレてた? でも、あのチンピラども、すッッごいムカついたのよねぇ〜」
 
 「あんまりハデにやらないでよね、アスカ。騒ぎに乗じて、チルドレンの暗殺を企てようっていう輩だって、いないとは限らないんだから」
 
 「ハイハイ、うっさいわね。大体、警備がついてんでしょ? へーきへーき」
 
 「それに、シンちゃんもいるしねぇ〜」
 
 ミサトの言葉に、アスカは怪訝そうな視線を向けた。
 
 ミサトは、腕組みをしながらニヤニヤを繰り返している。
 
 「誰? ソイツ」
 
 「聞いたわよォ、シンちゃんに助けてもらったんでしょ〜?」
 
 「だから、誰よそれ」
 
 「ナイフを持った暴漢から、お姫さまを守った男の子がいたでしょう?」
 
 「ああ……アイツか」
 
 アスカは、あの時の少年の微笑みを思いだす。
 
 
 
 ………
 
 
 
 アスカは、慌てたように頭を振ると、ミサトの方に向き直った。
 
 「アイツ、ミサトの知り合い? よく言っといてよ! 勝手なことして、アタシだけでも勝てたのに、おせっかいなのよ!」
 
 「あら」
 
 ミサトが、大袈裟にのけ反った。
 
 「そんなこと言っていいの? これからも助けてくれるかもしれないのに〜」
 
 「は?」
 
 「少なくともエヴァの操縦に関しては、アスカと同じか、それ以上よ……シンちゃんは」
 
 ニィ〜っとした表情で、覗き込むようにアスカを見るミサト。
 
 アスカは、呆気にとられたようにミサトの言葉を聞いていた。
 
 「ま、まさか……シンちゃんって……」
 
 その時、ガチャリ、と扉が開いた。
 
 シンジとレイが、部屋の中に入ってくる。
 
 アスカは、口をあんぐりと開けて、シンジの顔を見つめていた。
 
 
 
 「すいません、遅くなりました」
 
 シンジは、頭を下げながら扉を閉める。
 
 そして、アスカの見つめる視線と、シンジの視線が合う。
 
 シンジは、アスカの方を向いて、微笑んだ。  
 
 
 「よろしく、アスカ」
 
 
 
 茫然の、アスカ。