Monologue in Spain 2001


第二部 アンダルシア

コルドバ編


Hostal MARI, Cordoba

05/02

セビージャからバスで2時間、ゆらりゆらりと大きな起伏を幾つも乗り越えながらコルドバに着いた。

建築の意匠に関わっている以上、アンダルシアを旅するといえば、やはり“セビージャのカテドラル”、“コルドバのメスキータ”、そして“グラナダのアランブラ宮殿”をはずすわけにはいかないね。 昨日の夜、あらためてスペインの地図を眺めているときに気が付いたのだけれど、コルドバはセビージャと同じく“グァダルキビル川”のほとりに築かれた都市だ。 つまりセビージャの上流。 だからキリスト教徒によるレコンキスタは先ずコルドバを攻略し、グァダルキビル川に沿って南西のセビージャを攻めた。 最後にグラナダ帝国が残ったのは、それがシエラ・ネバダ山脈の中に築かれた都市だったからじゃないのかなぁ。。

バス・ターミナルからタクシーでメスキータの前につけてもらい、そこから荷物を引きながら宿を探した。 車中、運転手との会話で、フラメンコ大会のような祭り(マジョ・フェスティーボ)がこの時期にあると聞いて、ちょっとドキリとした。 セビージャではフィエラ・デ・アブリール(春祭り)を開催している関係で国内外から多くの旅行者を集め、ほとんどのホテルが満室になっていた。 当然この時期の宿泊費も高くなる。 “僕はこれからメスキータの近くで宿を探さなくちゃいけないのだけど、可能だと思う?” 運転手はちょっと渋い顔をしながら“たぶん大丈夫だと思う。休日になっているわけではないから、なんとか探せるんじゃないか。”

転々と旅を続けていくのだから、より安い宿を探していると当然ホテルよりもオスタルやペンションとなる。 3軒まわって全て満室で、4軒目の“MARI”という妻と同じ名前のオスタルが、ツイン・ルームなら空いているという。 フロントの気の良い女性と話しているうちに明日からはシングル・ルームへ移れるというので、一応部屋を見せてもらってからここに滞在することにした。 この部屋は最上階となる3階だからか、その窓の大きさの割には随分と明るくて気持ちが良い。 広くはないけれど、清潔で心地よい。

荷物を置いて早速歩きはじめた。 と言ってもメスキータは後回し、やっぱり最初は川の方を歩いてみる。 ローマ橋を渡り、対岸を右に折れてサン・ラファエル橋から戻る。 ローマ橋の左で大規模な開発が行われている。 それが原因かどうかはわからないけれど、グァダルキビルの水は流れは速いのに随分濁っている。 川沿いに設けられた案内板の一つに、そこに生息する魚が描かれていてブラックバスの存在も認められるけれど、どうも釣りをしようという気にならない。 他に釣りに興じる人も見かけない。 サラマンカでもセビージャでも、休日でなくても何人かの釣り人を目にすることができたのに、ちょっと残念。

明日から少しづつ街を歩こう。 雨が落ちてきた。


Churos con Chocalate , Cordoba

05/03

11時前、顔を洗い朝食を取りに出かけようとすると、フロントで昨日の女性に声をかけられた。 “荷物はまとまってるの?部屋を換えておいてあげるわ。” “でも僕の荷物は結構重いよ、昨日は階段で随分苦労したんだから。” “大丈夫、ほかの男に運んでもらうから。”

ブラブラ歩きながらショッピング街を散策し、気持ちの良さそうなカフェのドアを開ける。 “チュロス・コン・チョコラテ”。 原宿辺りでも人気だと聞いたチュロスの存在をスペインではじめて知った。 セビージャで食べたチュロスが忘れられなくて、ここでもう一度。 揚げたてのチュロスをチョコラテにたっぷり浸してから、とろりと垂れるチョコラテを牽制しつつ口を急ぐ。 堪らないね。 ちなみにサラマンカで食べたチュロスはもっと細くて、食パンのミミを揚げたような感じだったけれど、こっちのは存在感たっぷりで、まったく別物といった有様。 日本のはどちらに近いのかなぁ、、、知らない。

***

相変わらず天気がイマイチでたまにポツリポツリとくるから、セルバンテスが泊まったという“はたごやポトロ”“ポトロ広場”をちらりと覗いただけで、オスタルへ戻ってきてしまった。 フロントでは別の若い女性が“何号室?” “分からないよ、たぶん部屋が替わっているはずだけど。” “ああ、17号室にいたのね。じゃあこれ”と、 16号室の鍵をもらった。

昨日のツイン・ルームの向かいだから逆側を向いている。 同じフロアだから荷物の移動は彼女一人でもできたのかな。 ここもまた最上階だから明るいし、なんと小さいながらバルコニーが付いている! 造りとしては、バルコニーと共にテラコッタ・タイルの床、真っ白なリシン吹付けの壁、天井も板張りの上に同様の仕上げ。 勾配天井の粗末な屋根裏部屋なのだけれど、その狭さが心地よくてなんだか気に入った。 バルコニーに出ると、このオスタルの看板がすぐ下に見える。 そうか、ここは正面の通りを見下ろす部屋なんだ。

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今日も一日中寒くて、通りではフリースの上のウインドブレーカーを脱げなかった。 夕食の後、バルでコーヒーを飲みながらテレビの天気予報に目をやる。 明日は曇り時々晴れ、最高気温は22℃、まあまあかな。 コルドバでも青空の写真が撮りたい。


Mezquita, Cordoba

05/04

メスキータはグァダルキビル川の北側にあるのだけれど、このモニュメントはイスラム勢力の象徴だからちょっと不思議な気がする。 というのも、川沿いに都市を築くのは外敵からコミュニティーを守るために重要なことだけれど、イスラムの彼らはモロッコからスペインに攻め入った(北上)はずだ。 すると常識的に川の南に都市を築いて、キリスト教勢力と対峙するのが自然だと思う。 にも関わらず、あえて川の北側に都市を築いたということは、ひょっとしたらここは新しくイスラムが開いた都市ではなくて、それ以前のローマ帝国の影響下にあった都市を攻め落とし、その上に独自の文化を重ね合わせたということではないだろうか。

ちなみに、その後のレコンキスタ(キリスト教徒の国土再征服)によって、メスキータの中央にカテドラルを築くという荒業が執り行われた。 そう言った意味では、コルドバは最もスペインを象徴する“重ね合わせの都市”と言えるのかもしれない。 ローマン・カソリックの国土をイスラム教徒が征服し(コンキスタ)、さらにキリスト教徒が再征服した(レコンキスタ)、とそれが目の前で再現されているのだから。

補足しておくと、セビージャはグァダルキビル川を挟んでモロッコ側に築かれている。

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独自の幾何学構成を持つイスラムの構築方法は実に興味深い。 しかし僕の想像力を最も刺激するのは、メスキータ建設のプロセスだ。

その工事は代代の王によって、5回に分けることができる。 そのうち第一期から第四期までは拡張を続けながらも、シンメトリー・プランの象徴的な構成を崩さなかった。 ところが第五期の更なる拡張工事の時に、シンメトリーを破ってそれまで守られた平面構成を崩してしまう。

その後、レコンキスタによりこの都市はキリスト教勢力に奪われてしまうのだが、このそれまでの強固な幾何学構成を崩す拡張工事は、やがて滅びる自分の帝国を予期していたのではないだろうか。 それは、ローマ帝国が周辺諸国を支配し続け、拡張に拡張を重ね、築くべき構築物が飽和されたときに滅びたのと似ている。

つまり、欲望を制御する審美眼こそがさらなる発展を支えているのではないだろうか。 自制心は美とともにある。 だからこそ“美”は哲学の主題になり得るのだと思う。 スクラップ・アンド・ビルドを続ける僕らの都市は、はたして歴史に学ぶことができるのだろうか。 

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ちょっと注意してメスキータ内部の天井を見上げると実に興味深い。 もともとの天井は木製仕上げ(板貼り)だが、キリスト教徒の改築にあった部分はゴシックの尖頭アーチを採用し、白く塗られた仕上げになっている。 上の写真でも注意すればアーチの上の天井が、教会建築のようになっていることが確認できる。 また写真の個所はただ尖頭アーチを採用しているだけだが、他の部分にはきちんとリブ・ヴォールトが設えてあったりもする。 

ちなみに、カテドラルとなっている部分はバロック様式だと思う。 イスラムの技術を目の当たりにして、それに対抗するには過剰とも思える装飾の力に頼らざるを得なかったのかも知れない。 と、そう考えれば“プラテレスコ様式”や“チュリゲラ様式”などの発展も頷ける。

もちろんバロックのカテドラルもまた、美しい。


Labadora, Cordoba

05/05

“♪いらぁかぁのなぁみぃとぉ くぅもぉのなぁみぃ・・・”

子供の日です。 ご関係各位の皆様おめでとうございます。 “甍の並と雲の浪”なのかな、内容を考えたことなかったけれどあらためて読みなおすと日本語って美しいね。

スペインの住宅はもちろん半円形断面オレンジ色の“スペイン瓦”です。 日本瓦のうねった断面と違うので、その並びを波に見立てることは難しいのですが、こちらも快晴の青空で子供の日日和になりました。 もちろんスペインは子供の日ではないけれど。。

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そして快晴の青空ともなるともう一つ気になるのが、そう、お洗濯。 そろそろ着る物がなくなってきたからとコインランドリ-を探したら、オスタルから5分ほどのグァダルキビル川に面した大通りに見つけました。 女性の店員が一人いて、理科の先生か薬局屋さんのように白衣を纏っています。 しゃれたインテリ・メガネをかけていてなんだか洗濯屋っぽくないね。

お店の中も手前に整然と3台の洗濯機と同じく3台の乾燥機が置いてあって、こちらがコインランドリー・サービス。 その奥にも作業スペースがあってどうやらそちらがクリーニング店の様子。

そしてこのお店での目から鱗の発見は、1台とはいえパソコンがポツンと片隅に(大型乾燥機の前に)置いてあること。 そう、ここはただのコインランドリーにアラズ、言うなれば“インターネット・ランドリー”なのです!!

コインランドリーで洗濯機を回している間にはたして何をするべきか、というのは僕が西武池袋線沿線に住んだ(実際は有楽町線千川駅の方が近かったと後に判明)4年間の主要なテーマの一つだったけれど、これでお店に置きさらしてあるヨレヨレの漫画本を手にする苦痛から免れることができるではないか! 世の中のコインランドリーに告ぐ、今すぐインターネット・ランドリーに進化せよ!!!

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ローマ橋の上から、相変わらず濁ったグァダルキビル川に目をやった。 注意して見ると、瀬の終わり、淵のはじまりの所に30cmくらいかな5、6尾の群れが泳いでいる。 一度発見すると次々に見つかるもので、川のいたるところで同様に泳ぐ姿が確認できる。 魚の種類はわからないけれど、川面をツバメが滑空しているからまるで日本の田舎にそっくりだ。 良く晴れた気持ちの良い子供の日をコルドバで過ごした。


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Have a good activities and peace!