Monologue in Spain 2001


第一部 カスティージャ・イ・レオン

ポルトガルにも行った編


Atrantico y Rio Duero, Porto

03/25

週末はドライブと洒落た。 シャレたつもりが大雨でシャレにならなかった。 正確に言うと随分と狂った天気で、極端なときは5分おきに傘をさしたりたたんだりと繰り返さなければならなかった。

それでもスペインを飛び出してポルトガルまで行ったのだからなかなか印象深い。 日帰りの強行作戦。 サラマンカを出発したときは朝の光が、所々に現れるスペイン特有の赤い大地を強く照らしていた。 ポルトガルはユーラシア大陸の最西端だから、そちらを目差す僕らの車は朝日を後ろからあびることになる。 

ここで一つ謎が解けた。 ヨーロッパもアメリカも、夜明けと日暮れの両方とも遅い。 今でも、日本で言う夕暮れ時は大体8時過ぎだ。 だからアメリカなんかでは仕事帰りにヨットやらカヌーやらで遊ぶ人が多いと聞いたし、僕だって夕方のんびりと魚釣りに興じることができる。 そういうものだと頭から思いこんでいて、なぜだか考えたことは無かったけれどその理由が今解けた。 ヨーロッパもアメリカも日本に比べてずぅぅぅっと西にあるからなんですね(当たり前、日本はその名も極東だ)。  太陽は東から昇って西に沈むのだから、日本のほうが夜明けも日暮れも早いにきまってるんだ。 笑わないでください、本当に今理由がわかってひざを叩いたところなんだから。

その極東からやってきた僕がさらに西を目差してドイツ人が借りた車に相乗りしてるんだから、それだけでなんだか楽しいじゃないか。

しかしこのドライブで一番強く意識されたのは、日本の自然がいかに豊かで優しく美しいかということ。 というのも、特にポルトガルで感じたのだけれど、道路脇の荒野(に僕には見える)の地面は岩盤がほとんどで、堆積した土を見ることはついに無かったように思う。 これでは物理的な条件として豊かな森林をつくることはできないし(もちろん樹木の存在やその集まりは認められるけれど、日本の森林地帯が想起させる生産的な豊かさは、僕には決して感じられない)、当然地面の保水能力は無に等しいから、雨が降っても地中に蓄えられることなくそのまま地表を流れ落ちる。  今年のイベリア半島は例年にない大雨の年だそうで、各地で大被害がでているけれど、原因の一つとしてこの保水能力の無い地盤と言うのが無関係ではないと、実感として思う。 事実小さな通りがほとんど川のように大量の雨水を吐き出している光景を幾度と無く見た。 日本の風景がいかに人に優しくかつ美しいか!

ポルトという街に着いた。 ドゥエロ川の河口にできた古都で…。 もうわかったかな? そう、ポルトワインの故郷です。 ところが残念ながらその味を確かめていません。 と言うのも、僕らのうちの誰一人としてポルトガル通貨のエスクードを持っていないのだから! スペインではポルトガルでも問題無い、スペイン・ペセタでも使えるよ、とのことでしたが実際には使えなくて結局ポルトではワインはおろかコーヒーの一杯すら口にすることができないのでした。。 後日、文法クラスのトニィに言うと、“おかしいわね。私はいつもペセタで払ってるわよ。”???

土砂降り雨を避けて教会へ。 ゴシックだと思うけれど、ロマネスクな雰囲気も感じられる。 スペインのそれと明らかに違うのは、イスラム装飾の影響が格段に少ないこと。 他の人も雨宿りかな、退屈そうにぽつりぽつりと座っている。 静かに一番前まで歩いて前面の装飾を確認してから2番目の席に腰を下ろす。 さっきから鳴っていたオルガンが頭の後ろの方で次第に大きくなっていく。 クライマックスでその反響する音階の一つ一つが装飾と、空間と、絡まり合い、そこに居る僕を教会のスペクタクルに引き合わせる。 突然ふっと音が遠退いて後ろを振り返ると、2階に設えられたオルガンの上に不思議な薔薇窓が輝いていた。 ローズ・ウィンドウとは言うけれど、十字に開いた花びらのようなステンドグラスの輝きは実に美しかった。 “抽象”というのは実に想像的な行為だと思う。

ここでは写真を撮ってはいない。 名前も忘れた。

帰り際に“ザビエルの砦”に寄った。 別に正確な名前があったけれど、やっぱりこれも忘れた。 そしてここでもやっぱりおじさんが“ペセタじゃだめだよ”。 大西洋に面して古ぼけた、苔むした石造り。 ちらりと砲台ものぞいている。 もちろん日本人なら誰でも名前くらいは知っているあのサン・フランシスコ・ザビエルのことだからなんだか感慨深い。 バスク地方にあるザビエル城のことを“街道をゆく”で読んだけれど、いつか見学する機会があるかなとちょっと考える。

雲の切れ間を狙って車を降りたのだけれど、5分と経たずにまた雨が落ちてくる。 アメリカの方から冷たい風が吹いてきた。


Rua mayor

03/28

石畳は堅い。

先週、靴を買った。 マジョール広場の南にある靴屋さんで、以前から目をつけていたウィンドウの革靴だ。 日本で靴屋さんに行くと、たいてい店内にこれでもかとたくさんの靴が並んでいるけれど、こちらの靴屋さんではどこもそんな様子は無い。 通りに面したショーウィンドウにお薦めの商品が並んでいるだけで、店内には基本的に何も無く、ゆったりとソファが置いてある。

“こんにちは。 あそこの靴を履いてみたいのだけど。あの4500ペセタのやつ。” おじさんは“そこに座ってちょっと待ってて”と言って、ちらりと僕の足元を見てから奥に向かう。 すぐに“さぁこれだ。履いてみて。”と目当ての靴を差し出され、試してみるとピッタリ僕のサイズ。 彼は僕のスニーカーを取り上げて“ほらここに41って書いてある。ヨーロッパのサイズだ。それを見てごらん、同じ41だろ。” おじさん、やるじゃないか! プロとは言え、スニーカーを見て革靴のサイズを当てるなんて! 両足で履いて店内を一周してから、バックスキンの黒い靴を買った。 たった4500ペセタで。

店内で履いてみたときはちょっとソールがかたいかなぁと思ったけれど、別の日に街を歩いてみて納得。 サラマンカは古い都市だ。 基本的に街の中心は石畳の通りになっている。 堅くて凹凸があってよく擦れるからこれくらいのソールがちょうど良い。 事実、僕のスニーカーは土踏まずを残してツルツルになってきた。

イタリアの皮靴はとても優秀だと聞くけれど、同じく石畳の街並が足もとの意識を高めているのだなと気付いた。


Tengais suerte todos!

03/30

昨日、ペルケリア(美容室)に行った。 スペインに来る前に切っておいたのだけれど、最近また風にバサバサとあおられることが多くなったから、まぁ記念にスペインでも髪を切ってみようかと。。

今住んでいるファミリアのすぐ近く、グラン・キャピタン通りのお店に入ったのだけれど、ここは女性の従業員ばかり4人がそれぞれ仕事に当たっている。 インテリアは日本のそれとほとんど変わらないが、彼女たちはみなおそろいのユニフォーム姿。 まぁ実際にはユニフォームというほど大袈裟ではなくて、黒いスウェットシャツと白いデニムのオーバーオール。 丸いめがねをかけて、オーバーオールだからかな、ちょっと“アラレちゃん”に似た店員が僕の担当になった。

全体的にもっと短く、あとはあなたがちょうどよいと思うように切って、と言ったつもりなんだけれど“エンティエンデス(わかった)?”と聞くと“NO!”。 ジェスチャーが始まることになる。 最近、僕は自分の家で妻に切ってもらうことが多いから、美容室に行くことがなくなった。 たまに変な長さの髪の毛を見つけることがあるけれど、それはそれでいいだろう、と思っている。 僕の髪に一通り櫛をいれてから、アラレちゃんが耳の後ろの奇妙に長い髪の毛をつまんだ。 “これはどうするの?”

ザクザクと切りはじめてから20分後、店の奥から口ひげのおじさんが出てきて野太い声で“オラ(こんにちは)!”と言ってから、どれどれと僕の頭を眺めはじめた。 黒いシャツ、黒いレザーのベスト、黒いレザーパンツと黒尽くめの渋い出で立ちだけど、変にシャチホコばったシルエットが何ともコミカル。 さてそのおじさんは、マエストロ然とした振舞いでアラレちゃんからはさみを奪い取ると、カシャカシャと2、3度僕の頭で動かして力強くうなずいてから、また奥へと消えていった。 アラレちゃんはもう一度全体を見まわしてから“はい、おしまい。とってもかっこいいわよ”と締めくくった。

鏡に映る僕の髪型は、きっと誰が見てもこう言うだろう。“あれっ、イトウセイコウ!?”

600ペセタ(約400円)だった。

***

今日は3月最後のクラスだ。 来週からは新しいクラス編成になる。 1ヶ月の留学期間を終えたドイツからのグループは明日帰っていく。 クラスを終えてから、一人一人と握手を交わし、抱き合ってサヨナラを言った。 トーマス、マルク、クラウディア、ターニャ、ファルク、アンネ、“!Que tengais suerte! !Hasta la vista!” 君たちに幸運を。また会うその日まで。

ちょうど一年前、僕は勤めていた設計事務所を辞めた。 そこで僕は、現実を直視した上で可能性を信じてあきらめずに進まなければならない、ということを学んだ。 辞めた理由が何だったのか、その確信の部分が実はまだ掴めていない。 何かが違うと思いつつ辞めたのだけれど、その何かはまだわからない。 無責任だと自分でも思う。

同じ会社の先輩がやはり今日を最後に会社を辞めるという。 ある女性の友達からも、今日を持って職場を離れるとメールが来ていた。

明日、僕は今のファミリア(ホームスティ)から一人暮しのためのピソ(マンション)へと引越す。 ぺぺ、カルメンとも別れの挨拶を交わした。

3月はサヨナラの季節だ、といったのは誰だったか。 少しづつ時が経って行く。 きっと、少しづつ時がやって来る。


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Have a good activities and peace!