Last of the Pieces: Might-be-Blu-e
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第四部「RE・D」・終劇「Requiem-in-Blu-e」

たとえ頭の上の空には、星が無くたって
光が無くたって
僕には世界の姿が見える

「だめだ!こっちにも火の手が廻ってる!」
「おい君!早くこっちに来い!炎に巻き込まれてしまうぞ!」

…だめだ…おきざりには…できない、あいつを…加奈を…

君が世界を照らしてくれるから、
僕は世界の姿を知っている

…このまま逃げていいはずは…許さないぞ…ぼくは…ぼくは…

僕にとってのきらめく星が、
君なんだってこと

…彼女に靴をあげるまで…彼女に輝いてもらうまで…

僕はいつだって知ってるよ、加奈…

…ぼくは…ぼくは…

第四部「RE・D」

加奈…

…姫にガラスの靴を渡す…
…王子になれないじゃないか…!

終劇
「Requiem-in-Blu-e」

第一幕「Yes, I can See the World」
第一場「Home Alone I」

 目を覚ますのはいつも自分の力でだった。誰か甘えさせてくれる人もいなかったし、周りに誰かにいて欲しいと言う風に思うことだって忘れていたように思う。だって、僕は本当にひとりだったから。魂が抜けた様に軽い笑顔の仮面を付けている人達の中で、僕は、本当にひとりだったから。
 同じ家に住んでる同世代に当る男の子達や女の子達は皆、一様にしゃべる事が出来なくなっていた。喋る事と言うよりも、何処かで感情の受け皿を粉々に割ってきてしまったような感じ。笑顔の仮面の大きな人達は、そんな僕と姿の同じ中身の全く変わってしまった友達を丁寧に扱っていた。丁寧に、丁寧に、この家に来たての頃の女の子がお人形を愛でていた様子と全く同じ様に。
 僕はこの家の子供が例外無く笑顔の人達の素直で可愛いお人形でなくてはならない事を直感で理解していた。だから、そうしていた。この人達の出す食事の中にイヤな青白いものが有ったからそれだけは食べずにいたけれど、皆の人形ごっこの真似だけは上手にやっていたつもりだった。みんな自分が本当に人形であるかのように僕が遊ぼうよ、と話しかけても口元はきっと結ばれたままで、僕もその人形ごっこがきっとこの子のしかけてきた遊びなんだろうな、と思ってすかさずきっと口を一文字にしたりした。でもそのにらめっこで勝てた事は一度も無かった。
 次第次第に青白いものを大好きな子が一杯いる事に気がついた。食べる時は皆人形と言うよりもなんだかその食べる時だけの為にふだんは何もせず力を貯めているのかとでも言う様にゲンキに青白い物を美味しそうにしていた。右に習えとばかり、仕合わせな事が全然起こる気配の無かったこの場所でそのささやかな幸福の味を知ろうと、僕もどうしたって人が食べるものには見えなかったそれを味わって見る事にした。結果は、良好だった。
 そして段々と僕はその青白い物の虜になっていった。何もかもに飢えていた僕は、何もかもをその青に埋め尽くされていきたいと願った。

第二場「Home Alone II」

 ぼ、ボクな、まえをしらな、かった、し、よば、れるときはどの、こも、1234567890、の、くみあわせで、よばれ、てて、ぼく、は、それ、がつがつ、が、へんじゃ、ないかな、と、おも、ったので、がつがつがつ、がつがつばっかりがつがつしているじぶんをがつがつがつがつがつきもちいいしがつがつじぶんはがつがつのためのがつがつなこみたいだからがつがつがずってなまえでがつがつかずってなまえでいいかなとおもった。1234567890のべつのよびかたががつがつかずということはしらなかったがつがつするのへたでがつがつががつがつがず!ってしたをかむことがよくあってがつがつがず!ほらまただ、あーしたからあかいのがまたでた。でもあおいのたべてればいたくないみたいむかしはころんでがつがつひざをがつがつすりむくとやっぱりあかくていたかったりしたのにがつがつがつがず!ぼくは5だったけどやっぱりかずでいいですすぐがず!ってやるから。あえがおのひとがまたこの5はやつちゃつたバカだなつていつてる、もうだめなおにんぎょうかなあ。あかいのはきもちわるいからはやくふいてほしいなあ…はやくがつがつがつ…

第三場「Outside Alone I」

 ぼくバカだからすてられちゃったバカにはあおじろいのもうあげらんないっておうちのそとにおいだされたえがおのひとはえがおでぼくをおそとにだしてたきっとぼくのことをかなしませないようにそんなかおをしてくれていたのだろう。ぼくはとうとうほんとうにひとりになった。

第四場「Outside Alone II」

 おそとはくらい。おそとはさむい。おそとはおいしくない。おそとはいたい。おそとはこわい。おそとはひろい。おそとはひろい。おそとはひろい。おそとはひろすぎるおそとはひろすぎるからどこへいけばいいのかな。あおじろいのがほしい。

第五場「Seaside Alone I」

 ああ、あおじろいものがいっぱい!あおじろいものがいっぱいあるよ!すごいなあ!これはえがおのひとたちがぼくにないしょにしてたものかなあ?それともぜんぶぼくのものなのかなあ?いや、えがおのひとたちがぼくにないしょにしてたぜんぶぼくのあおじろいものだだってあおじろいものをいちばんすきなのはぼくだしぼくがいちばんすきなものもあおじろいものだから!すぐにみつかってくれてよかっただんだんおなかがへってきててどうしようかとおもっていたから。これならもうぼくはずっとずっとひとりでもいきていけるぞ!ああ、でもにんぎょうごっこがきらいであおじろいものがすきなおんなのこがきたらこれをわけてあげてもいいかな。ともだちはいてほしいなあおじろいもののつぎにひつようなのはともだちだからね。

第六場「Seaside Alone II」

 あおじろいものは、あおじろいものじゃなかった。たしかにながめているぶんにはあおじろいのにてにすくってみるとぜんぜんあおくない。いろがない。あじはある。でもこのあじはすきじゃない。いやこのあじはどうかんがえてもすきになれるものじゃない。でもとってもにてるしこのあおじろいいっぱいのにせもののなかにきっとすばらしいほんものがひそんでいるにちがいない。だからぼくはぶくぶくなかにはいったさむいくるしいあるきにくいああふくがじゃまだぬごうううなんだかくちのなかにかってににせものがはいってくるはきだすともっとくるしくなるへんなとうめいのぶくぶくがぼくのくちからにげていくぶくぶくそれはださないでいいのにいやだすとなんだかたいへんなことになりそうだでもいっぱいでてくるからまだへいきさきっとすぐにほんものにでくわすさ。

 ……ううああああああああぶくぶくがでてこなくなったああああああああ!?ぶくぶくをてにいれなくちゃどこにあるんだくちのなかにはもうないからはなのあなかああない!みみは!めは!めは!ああ、なんだかめはだめだいたい!このめのまるいやつのうらがわにはいってるかもしれないのに!くそ!くそ!うあああかいのがでてきたどうしよう!いたい!いたいよう!…あおじろいのがないとこんなにいたかったなんて!あああどこだ、いったいどこにあるんだぶくぶくは!いやそれよりもあおじろいものを…あおじろいものを…あお、じろ、い、もの、ヲ…アオ、ジロ、ヒ、モノ、ヲぉ…

第七場「Moonchild Alone in the Dark」

 「つき……よ」
 …ん?…なんだろう…。
 「つきのこよ」
 …つきのこ?なんのことだ?
 「月の子よ」
 …ボクの事だろうか。
 「そうだ、月の子よ」
 !!
 「驚く事は無い。君は蒼き涙を流す者、即ち心話能力者になっていたのだから」
 しんわ…のうりょく…
 「つまり、君の心は既に外界の空気を媒介として外に出られる状態にあった、と言う訳だ」
 …ゆうれい…
 「まあ、そうゆう状態だ。そしてそれが可能な君はそれを肉体に帰還不可能なレベルでやってしまった。これの意味する所が分かるね?」
 …ずっと、ゆうれい…
 「…うん、まあ、そうゆう事だ。とにかく君は、いまや月の子。人々が作り上げた人工太陽の肉体に子供の魂を宿らす者。しかも完全なる個性を持ったままの。君は選ばれたる月の子だ、私がかつてそうであった様にね」
 …ずっと、こせいてきな、ゆうれい…
 「何故君が自分を失う事無く月の子、いや、これから月の王子になる君はもうそう呼んだ方がいいのかな。何故君が月の王子になれたか、その理由を話しておかなくてはならない。私という個体の寿命が尽きないうちに」
 …ゆうれいって、しぬんだ…
 「まあ、死ねる器を持てる幽霊だ。もう何十億年も生きてきた私だがようやっとその最後に巡り合う事が出来たようだ。私、いや我々の体感時間は人間の物とは比べ物にならないからあっとゆう間の夢物語だったがね」
 …じゃあ、ゆうれいって、あっとゆうまにしぬんですね…いがい…
 「どんな生物も、彼らが生きようという方向に向かっているときにその生を無駄だと、長いなどと思っている余裕は与えられていないものだからね。それを幸せと感じるか不幸せだと感じるか、それは人それぞれ、そこに人が永遠を願うか、またはそうでないかの相違も存在してくるのだろう」
 …えいえんかあ…
 「さて、話を本題に戻そうか。君が月の王子に選ばれたのには理由がある。まず一つ、君が孤独だった事。そして君が子供だった事。つまり、孤児だったと言う事だな。二つ、君が腐りかけの人工太陽の時代に生まれついていた事、言いかえれば、閉鎖環境で蒼い涙と呼ばれる液化空気への順応物質、君達月の妖精にさせられるグループの場合には、順応物質であると同時に徐々に冷凍人間としての処置を施す物を与えつづけられた事、これは地上で生きて行けなくなった人間が海人になる為の行いだ。殆ど儀式だがな。何故なら人間は確固たる海人になる事は許されていないのだ。私を除いてはね」
 …うーむ…
 「月の王子ではない月の子には皆個性が無いのだ。月は精神を得るために人の感情を、心を求める。とりわけ外的な、それでいて感情の強度が高まっているときに人の心を吸収する。誰に対して向いている訳でもない、感情の高ぶり、それは基本的に人が何かを願う時だ」
 …あの、ひとのこころをとっちゃったら、ひとはだいじょうぶなんですか?…
 「大丈夫、ではないね。ただ、心と言うのは出て行ったきりということは無いんだ。もし願いが現実からの逃避ではなく現実と向き合う強さであった場合なら月はその人の強さに負けて精神を返してしまうし、つまり、精神の持ちようの弱さ強さが心と言う水の流れの上下に当たるのさ。それに、人は怪我をすると段々とそれが治っていったりもするだろう?それと同じで削られた心と言うのも人は再生できるようになっているんだよ、ある程度はね」
 …そうなんだ、それならよかった。でも、ひとのねがいをか…おいしそうだなあ…
 「ははは、月の王子としての才能が有りそうだな、君は」
 …だって、なんだかきれいそうですよね、ひとのねがいって…
 「そのとおりだ。人の精神は純粋培養される必要がある。そして人からそれを行うのであれば可能な限り美しい精神を拾い集めるのがいい。そしてその対象者となるのが君達の様な「子供」、なのだ」
 …ぼくたちって、いいこってこと?…
 「いや、悪ガキでも純粋ならば使えるがね。善だけでは人間ではないが、悪を取り入れるんで有ればその芽が出ているくらいの段階で摘んでしまうのが一番丁度良い。
 で、それらを不特定多数から吸収する時、月は誰という存在でもない単なる精神の器となる。だが月の王子を生み出す唯一の例外が有る。それは一つ目と二つ目の条件を満たす子供が海で死んだとき、これが三つ目の理由だ。君という子供が、誰からも愛を受けていない、つまり君という人間が死んだときに願いをする存在がいない状態で、なおかつ、これから君が住む事になる海で人間において最も強い願いである「まだ生きたい!」という願い事をした場合、君の精神のそっくりそのままがその地点に最も近い月に転移する。
 そしてその究極の転移は二度と起こることは無い。何故なら、その転移が起きた瞬間に、人類はもう滅びの道をたどっている。全精神含有人工太陽達が、それを合図に海に潜り、そして人類は太陽光の無い世界では存在する事は出来無いからだ。それ以前に私の数十億年待ちつづけた計画を実行に移せば、人類はひとりとして生きてはいないだろうがね、そして私も」
 …ああ、じゃああのえがおのひとたちしんじゃうんだ…ちょっとかわいそう…
 「何しろ、人間を含む全生物には定期的に滅びてもらわねばならんらしい。星の大掃除と言う奴だ。そして次の大掃除を今度任される事になったのが、君だ」
 …え!そ、そうじどうぐはなにつかうの?…
 「液体空気だよ、それも星全体を覆うほどのね」
 …あれ?でも、てきおうしてるんじゃないんですか、ひとはその、えきたいくうきに…
 「液化空気と言うのは、精神含有太陽とセットになって始めて機能する物なんだ。つまり、液化空気のみが他の生命体に触れるとその生命を食いつぶして太陽の不在を埋めようとするんだ。今私はこれから海大地問わずその殺戮の洪水で世界を満たす事になる。それでかなりむごい事になるよ、液化空気には精神の器が無いから、刳り抜かれた生命は何処へも行けないまま液化空気の中を泳いでそのまま砕け散っていってしまう。幽霊と言うのは随分あっけないものでね、自分ひとりでは生きていくことが出来ないのさ。
 それで今海底からその液体空気が上がってきているんだ、海中の全生物の命を奪いながら…」
 …す、すごい…
 「私が死ぬというのは、その超質量の液化空気の操作に使う精神力で朽ち果ててしまうと言う事であるらしい。まあそれが運命であると言うのなら、それに従うしか無いけれどね。私の友もこの儀式に使う精神力を私に託して全員死んでしまった。勿論最後には君らの住居になる海底に元通り液化空気を帰してみせるよ。だから、君は何も心配しないでいい」
 …かなしいおしごとですね…
 「私もなるべくならやりたくなかったさ、こんな悲しい事は。…まあそれでもこの掃除と言うのは最後の手段で、実際に君の行う事と言えば、只何かを夢見る事と何かを愛する事、それだけだ。それを数十億年続けるんだ。君の忠実なる友人となる月の子らと共に。その行為から出でた生命の種がどうなっていくか、それを君らの純粋なる精神波動で導いてやってくれ。そしてその産物が今回の私の時の様な出来そこないであったなら、それを責任持って掃除するんだ、己の命と引き換えに」
 …あいと、ゆめ…
 「私の場合、地上を夢見、ワインを愛した。君は何を願うかな?」
 …ボク…ボクは…
 …ボクが人を夢見て、人を愛すると、世界はどうなるのかな…
 「まあ、結論は今出なくても良い。只、私と同じものは願わん方が良いようだ。何代も前からの月の王子達が導いた結末と同じ様に、人類は結局滅びてしまったわけだからね…彼らは必ず海人になり、自らの創まりの母胎へと還ろうとする。そう遺伝子にプログラムされているからね。文書は宇宙への逃避をほのめかしていたが恐らく全ての人類がそれを試したはずだ。そしてその結末は、我々海を空とする者に計り知れる事ではないだろう」
 …うちゅーじんっているのかなぁ…
 「君の代で彼らも戻ってくるかもな。それも化けて出るのかもしれない、お化けみたいな姿でね、まさに宇宙人の様に。
 そうだ、一つ教えておこう。君はこれから夢を見る。そしてその夢はこの地上で具現化しているはずだ。生物の未発達期には貪欲なる飢えた獣として、人類の誕生後は、不完全なる人類の片割れとしてね。私はその事実を知ったのはつい最近だし、生物期の分身は勿論人間の時の私、というか、彼、と会うことも無かったが、それを知るきっかけとなった女性がいた。それがこの度死んだ」
 …え?…
 「白野加奈。私の世界においての妻であった間はスィームナを名乗っていたね。彼女は地上での私と死別して以後、どういう訳か海の夢ばかり見るようになったらしい…多分、死んで海底に戻ろうとする私の精神体に触れてしまったんだろうな。そして加奈と言う名前が自分の本当の名前ではない筈だと言う考えに縛られるようになっていた。私の側の種族であると言う認識が無意識下に根付いてしまったのだろう。こういう考えも照れくさいが、それだけ彼女が私を愛してくれていたのかも知れないな。
 そう言うことも有って、彼女は私の代の人類始まって以後、最初で最後の海人になれた人間だった。彼女は人類の最後期にあって最も死を後悔しなかった人だった。下らなく堕ちて行く世界とそこに住む人々の為に、献身的に、聖母の様な人生を歩もうとし、身も心も朽ち果てるまでそれを続けた。そして月から爆発の原因となる主に大人由来の余分な穢れた精神のみを与えられ、知性有る猛獣として地獄の使徒と化していた動物達の、以前のカメに当る動物に身を捧げたそうだ。つまり、海で死んだと言う訳だ…。それが彼女を海人へと換えるスイッチになったらしい、私や君の時と同じ様に。
 私はそれまで人という者がどれほど素晴らしい存在か、知りもしなかった。少なくとも、彼女は素晴らしい存在だった。物を愛する事しか知らなかった私に、人を愛することを教えてくれた。何故って、個性を持つ存在が有る事を知ったのが彼女が初めてだったから。いや、本当は個性の存在する世界に自分がいると思いこんでいた…でもそれはそう思い込んでいたに過ぎなかった。人類の死の直前まで自分が個性を持った確固とした大人である、そう思いつづける事、というより、単純に自分が全てと思える子供でありつづける事、それが私の遺伝子だったらしい。子供はどうやら他人を識別する事が出来ないようだからね。心話が常に中性的な無個性の声であったのも、そのせいなのだろう。私を真に成長させたのは、彼女だ。それまでの期間は揺り篭の中が世界の全てと思い込む赤ん坊だな」
 …えっと、ちょっとわからないことがあるんですけど…
 「何かな?」
 …こせいのあるそんざいがじぶんだけって、どうゆうことなんですか?ちょっとそうぞうつかなくて…
 「…それもそうだな、わかるはずないな。私にも、今でも良く分かっていないんだ、私の友、月の子達が私に何を見せてくれていたのか。彼らは、私自身だった。私が海の王国を望んだ時にその幻を見せてくれる、そうゆう存在だった。だから物理的に世界を構築した訳じゃない、我々は言ってみれば精神だけの存在だ、精神世界で王国が築けたならばそれで十分だと思えてしまう存在だったのだ。あの人類の海底移住の成功を謳っていた海底文書という物も結局、彼らが用意した偽りの記録だったんだな、私が今語っているような悲し過ぎる真実から私を遠ざけてくれていたのだろう。蒼い涙を与えられていた君という存在そのものが政治的犯罪についての記述は真実だった事を物語っているがね。隠すにしては中途半端に正しい事も含まれているのは、ある程度の真実味を帯びさせたかったが為なんだろうな。
 それに、心話、ブレインズ・スピーカーは人類のやる行為ではない。個性は私しか無かったのだから、私が小月の無個性の精神の海を泳げるのは分かるとしても人類がそんな事をしていた筈は無いんだ。私と君のように精神体同士の会話と言う意味で心話は有り得るが、人間が肉体に精神を宿している時に心話と言うのはまず有り得なさそうなことだ。それでも私にとっては極々自然な行為だったから、勝手に人類にも出来る行為なんだと勘違いしてしまっていたようだ。私は個性の有る世界に居ると思っていた訳だから、私に出来て人に出来ない道理は無い、という風にね。これに気付いていたら、私は自分の居る世界に疑いを持つことが出来たかも知れない。そんな日常的なコミュニケーションの部分でも、私はまんまと月の世界で騙されてしまっていたと言う訳だな。タイニィ・ムーンにしたって只の爆弾ではなく先程言った大人の穢れた精神のせいだと、つまり爆発の原因は子供が爆発させないようにしたというよりは、汚れた大人の精神が入り込むことによるものだったのだと爆心地の精神の残骸を調べて分かったし、人の感情搾取も全て月の仕業だった。重要な情報からは完全に遮断されていたんだな。ご丁寧に違いなんて無かった我々の月と人間の月との違うことの証拠に月の妖精を演じてくれた友までいたな、全く良く出来た御伽噺だった…私は月の王子と呼ばれる月の囚人であったようだ。
 勿論、我が友月の子が悪かった訳ではないよ、彼らは間違い無く私の親友だった、彼らが居たからこそ私は海よりも深い孤独を癒す事が出来、そして地上を目指す意欲を得る事が出来たのだから。悪いのは、この世界の構造だ。人を騙し、月の民を騙している、この世界が間違っているのだ…。そして、そう言った真実を知ることが出来たのも、私が彼女に出会いそして私の今までがすべて幻だった事に気付いたからなんだ」
 …それがこれからぼくがぞくすることになるせかいなんですね…
 「そうなるね。こうゆう事を知りながら海の王国を築ける月の王子は君が最初だろう。期待しているよ、素敵な王国を築いて欲しい。…話を戻そうか。その「私の世界」において文明を発達させ、人類の世界、と言う物を見知るに到達する、多分、到達してしまう事が即ち掃除の開始を意味していたのだと思うが、その直前に彼女は現れた。彼女は彼女と地上世界における私だった男との間に有る予定だった理想の生活を夢見させてくれた。美しく、暖かく、幸せだった。私は、それが自分がもといた揺り篭より暖かなものだと感じた。だが、私が彼女を求めると、彼女はその存在を消してしまった。初めて人を愛する事を知った私は、初めて人を失う悲しみを覚えた。やはり海人と言う存在は、まともには成立しないのだ。人間と言う有限は、海人という無限とは相反する物なんだよ」
 …かいじんは、あってはいけないそんざい…
 「君に出来る事なら、人類を救ってやって欲しい。多分、人類を愛する事を知った海人は、私で初めてだった…君が二番目にしてその最後を飾ってくれ。
 …さあ、ここらでお別れだ。私の劇を終わりにしよう。…一度死んだと言ってももう一度死ぬのはやっぱりなんだか恐いよ。海人は、ずっとひとりで、死ぬときも、ずっとひとりか…新たな白い月の誕生の前で人の大地を、我々の大地である海を液体空気という蒼い涙で満たして消滅する、終わり行く黒き月、か。今思うと、あの記述は私自身の事を指していたのだな。天からまた海底へと我々の代わりに舞い戻っていく君達の未来を見送りながらこの深く悲しみに沈んだ星の名前を、エル・セルオ『雪よりも白い月』からクル・メルオ『空よりも黒い海』、へと変えようとする、私の事を。私にとって何よりも白く輝く星であり続けてくれた彼女が、涙を流してそれでも笑顔で消滅した時に、涙の流す事も微笑む事も出来なかった私の黒い絶望を…。
 ははは、それにしても知らなかったな、空は、海は青かったのか。黒と言い張る私に彼女が駄々をこねるように主張していた青い空、青い海、か…。そうなのかも知れない、そうであって欲しいとは思っていたが、本当だったとはな…美しいものだな。彼女はこの美しい場所で死んだのか。私もこの美しい世界で、彼女の空と私の海の境目で散る事が出来て良かった。本当に良かったよ、彼女の色に出会えて、本当に、良かった…」
 きっと僕も精神世界の人間になってしまったからなのだろう、この人の姿がまるで本物の肉体を備えているように見えてきた。優しそうな、悲しそうな目をしている。その目は、青を映して、そこから流れ出る涙も青く見えた。その涙があんまりにも綺麗だったから、そんなにまっすぐでそんなにまっすぐに人の悲しみを表している涙を見た事が無かったから、僕ももらい泣きをしてしまった。その涙を通して見える視界は、海と空の隙間の黒い水平線を、滲ませて、薄ませて、ただただ青い青い純粋で透明な世界を作り出した。そう言えば、と思う。僕にしたって今までの人生で青い空なんて見た事が無い。空と言えば暗刻の黒をベースに点々とどうでもいい月の白が有るか、明刻の月光の過剰点灯による白いけだるい光の天井が有るかだったからだ。そう思った時、さっきの彼の一言を思い出した、『雪よりも白い月』。一体雪とは何を指しているのだろう、それを思い出したのは、目の前にちらつく白が有ったせいだったのだろうか、空の慣れない青が眩しすぎてよく見えないが、それでも確かにその空の青の中をゆっくりと降りてゆく白らしき物が有る。僕は目を擦った。そして僕が蒼き涙を流す者で有った事を思い出した、つまり景色を青く見せていたのはこの涙だった訳だ。勿論彼にそんなくだらない事を告げる野暮な事はしない。この涙を取り払ったところに有った景色、それは…。
 ゆっくりと、ゆっくりと、黒い海原を降り積もって行く雪。いや、それは人工太陽達だ、子供達の魂の宿った白い粉雪だ。これからの僕を祝福してくれる仲間達の姿だ。僕はもう、隣にいる美しい涙を流す男の人に別れを言う前に思わず海の方に駆け出していた…海に潜って死んだ筈なのに、海辺で空と海を見ていたのだなと、自分がやはり精神体になってしまっているのだなと思った。でもそんな事はもうどちらでも良かった。
 かいていもんじょ、とか言う物は多分、僕達月の民がこの世界を描き続けてきた日記みたいな物なんだろうな、と思った。彼の前の月の王子達のかいていもんじょは、きっと悲しみで綴られた物だったんだろう。それは彼らが最後まで幻を見せられている事を気が付かないまま、それでも自分達の想像力と知識を総動員して書き上げた一大作品だったに違いない。だからこそ、後を継承した彼は地上に強い興味を持つ事が出来た。だからこそ、彼は強く興味を持った地上の人を深く愛する事が出来、しまいには自分が幻を見ていたと言う事に気付くまでに至ったのだ。さっき彼はそう言う事が分かっていない様な寂しい発言をした。でもそれを彼が分かっているか、分かっていないかはさほど重要ではないのではないだろうか。彼は、脈々と語り継がれてきた月の民の思いを継承した、それが結果として僕への真実の教示というしっかりとした形で実を結んだ。それ以上、何も望む事なんて無い。何も望む事は無いし、それに、恐らくだけど、彼の前の月の王子の代で書き上がったかいていもんじょを見て、その前の王子はそれをあたかも人類がそこに遺した情報の宝石であるかのようなアレンジをしたのではないだろうか。つまり彼の次の代の王子がその真っ白な宝の地図を片手に人類という未知の世界へと何の臆面もなく心配も持たずに旅立っていけるようにと配慮したのではないのだろうか。親が子を思う、愛みたいなものを感じる、僕はそんな物感じたこと無かったから、そうゆうものには敏感なのかも知れない。だから、彼がそれが前々からの王子の血や汗や涙に塗れた重たい地図だったという事に気が付く必要は無いし、もう、今この時点で成立している事以外、何も望まない。きっと、前々からの王子も、さっき泣いていた王子も、そしてこれから王子になる僕も、一つに繋がっている、僕はまだこれからだけど、僕の前の王子は誰一人として王子としてふさわしくなかった者はいなかった、それ以上、何も望まない。
 僕はそんな月の民として完璧な仕事をした彼と、彼の前の月の王子達が凄いと思った、尊敬できると思った。そんな尊敬できる月の王子みたく立派になりたい。そう言えば、彼の名前を聞くのを忘れていた。名前を聞こうと振向くと、もうそこに彼の姿は無かった。無かったけれど、彼の心話が聞こえてきた。
「君もかずと言う名前だったんだね。思わぬ偶然だな。驚かないで聞いてくれ、君は、実は私の二番目の人間族としての夢なんだよ。いや、これから私が消滅するのだ、私が君の夢なのかも知れないがね。それなら何故会話できるんだ、と思っているだろう?それは君が死ぬ直前までが私の夢だったからだ。君の魂は私その物だった…つまり、今君が話しているのはその君の精神の片割れだ、君と言う人間が地上で生きていた時には封印されていた私なんだ。
 私の一番目の人間族の夢の時もね、かずと言う名前の子に生まれたんだ。恐らく、先代の王子が死ぬ直前に見ていた夢も君と同様に蒼き涙を与えられ続ける強制収容施設にいた時のものだったと思うんだ、先々代も、その前も、最初からずっとね。そう言う呪われた名前なんだろうと思う。数のカーズだなんて、悲しい言い得て妙だな。一番目の時も私は孤児院から拾われた少年だったけど、丁度加奈が自分の名前が加奈ではないと思い込んでしまったのと同様、自分の名前はかずの筈だという強迫観念に縛られてしまっていたんだろう。君は施設での番号が5だったよね?私も孤児院での数字は5、だったんだ。この数字にも何か運命的な意味があるのかも知れないな、5、5回目の地上だったのかな?つまり、私は月の王子としての5代目で有った、と言う事になるのかな。全くの想像に過ぎないが、これが正しいとするのなら君が6代目と言う事になる。頑張ってくれよ、6代目君。君の代でこの呪いの名前が消え失せてくれる事を祈ってるよ。
 さて、今度こそ本当にお別れだ、地上での私。二回見る地上での人としての夢のうち、最初の夢にしか愛する人を見つけるチャンスは無いだろうから、それを逃すんじゃないぞ。君の友達とも上手くやってくれよ。年頃になってしっかりとした恋の相手が欲しくなっても、周りにちゃんと個性を持った存在が無いからって私みたいに酒を愛しすぎてしまう、なんて事の無いようにな。それと、最後に約束してくれ。この美しい青を、守ってくれ、愛してくれ、ずっと、永遠に、この青と共に在る事できっとこの粉雪の景色に負けないくらいの輝きを放つ事の出来る人類を見捨てないであげてくれ。きっと君の愛する事になる人も、この青を愛し、この青を愛する君を愛するのだと思う。だから、頼んだよ。君がこの星がずっと流し続けてきた蒼い涙を止めて、この星に透明な涙と言うものを教えてあげて欲しい。蒼い涙なんか流さなくても、空を蒼く、海を蒼く輝かせる事は出来るのだと、分からせてあげて欲しい…」
 はい、貴方達月の王子の御遺志は、僕がちゃんと受け継ぎます。貴方が見ていた青い空、青い海は、真実だったのだと、本物の青さだったのだと、僕が証明して見せます。
「ありがとう」
 その言葉には、ふたり分の響きが入っているように思えた。

 振向いた向こう側にも、粉雪はしんしんと降り注いでいた。僕は手のひらを見た、そこには先程ぬぐった涙の青が付着していた。その青が二つに分かれていた。空と、海だろうか、それとも、彼と、その恋人の人だろうか。どちらにしてもそれを払い落としてしまうのは躊躇われた。それをぎゅっと握り締めると、その握り締めた拳を天に挙げて振り回しながら、僕は僕の友達が降り注いでいく雪原を目指して、思いっきり駆け出した。蹴られた海辺の砂も、真か幻か気持ちの良い白で舞い上がっていた。

―Boys, be Ambitious!―

再・第一部
「光夜」

創劇
「ふたつの名前」

第一幕「ふたりの心…」
第一場「夜の広い場所、光の広がる風景」

…加奈…
…今日は月が綺麗だね…

…うん…
…今日も月は綺麗だね…

…加奈…
…綺麗だね…

…うん…
…ありがとう…

―Never.―
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