Last of the Pieces: Might-be-Blu-e
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第三部「‥Air‥」・絵劇「雪よりも白く」

Eternity--ubiquitously labial Babel, elaborate building--in thousand hymns, from which Gabriel identified Maria.

In this real world, I often see the cold gray uncertain future clouds.
At such a time, the thing to ensure my mind is the fact that I am loved by the white wing of sky blue angel,
Whose cute rain came down on my eyes, seeing the most delicate seas of the three.
First is the original mother water one, and second is the flowing hoydenish air one.
Between these two, I am luckily viewing the whole body of the third one--what people call the joy.
I want to write and finish this drama because I want you to know how luckily living in peace you are,
how greatly moving toward the bluish heaven the world is, and how fast sounding before the smile of your dear, your naked beautiful heart is.

I love you.  You are the one who make me think that I am worth living.
In the good night of '00 Nov. 1,
The first day when the healthy cloud starts to get cold. When he sneezes, you should be careful for his myriad pieces of snow!

Presented by Third Seas Dreamer:
第三部「‥Air‥」

絵劇
「雪よりも白く」

第一幕「Artist O」
第一場「Room XLIV」

「かつて空に、この我々の天使、いとおしい無二なる母、心の天井、それを"宇宙の窓"と読んだ妖精達が住み暮らしていた。彼らには足が有った…陸で生きていくのに適した、頑強で神殿の柱の様に太く逞しく、その足の一歩は大地を生命の太鼓として躍らせ震撼させる。彼らには知恵が有った…地上に巣くうおぞましき地獄の暴徒達、悪魔の様に血肉を好む野卑なる原生動物達、彼らを虐げそこにもうひとつの素晴らしき乳に満たされた安堵と平穏の楽園を創り上げる類まれなる神譲りの、知恵の実の。罪がもたらした彼らの汚れた唯一の財産だった。
 而して罪深き者は罪を忘れたのだ。彼らは羽根を失ってなお、空を追いやられたのだということも気づかずに、地上こそが彼らの箱庭、純粋なる湖、愛すべき娘、贈り主は神である土の彫像、美を美として認識すべき唯一の場所として崇め欲しそして犯し蹂躙した。箱庭は血で濡れ、湖は汚濁した水の中で死に、かのふくよかな乙女はその腐った赤ワインの快楽に溺れ沈んでいった。それを彼らはいぶかしんだ、『御神は我らを見放されたか!』、自ずから明かされるはずの罪への呵責を起こすことすらままならぬ知の麻痺に、如何程に彼の人が慈悲深く在られようとも、笑顔のままに幾百年も静止せざるを得ないような喜悲劇を前に、出す涙も祝福の雨と歓喜され、怒りの火口から赤である赤を炸裂させるべく唸らせたる拳の力も、忘れることを生業とする彼らを目にしては浪費でしかないことを悟らされ、しまいには目であった部分も陥没し朽ち果てそこから新たな無垢なる空へと還って行く青々とした樹という大地の宝石が輝きだすのを、千の秋、千の冬を越す程の覚悟でもって一の春を迎えるのを待つより、我ら悪魔の子らに行動を許されたことはないのではないか、そう思わざるを得ないような、破壊的な歴史的愚行にして堕ちた妖精『人間』を表す上で必要最低限度の、政による天晴なまでの非道である。」
 そこまでを読みふと目を閉ざす。偉大なる歴史小説家アルラ・ヘライモスの書いたこの一節は、私が何年来と憧れ続けている美の巨人達、人間族の幼いまでの生への執着が伺える点で興味深い。こうでなくては、あれ程の神聖への憧れを表わし得たはずはないのだ。
 しばらく転がし続けていた我が喉元の恋人がそろそろ退屈し出しているらしい。丁度文章と求め合うにも一区切りついたところなので、私は今度は美酒という名の詩歌の吟味を唇に預けることにした。
 ためらう様に、静かに優しく、その人は私の口元を潤してくれた。ほろ苦い程度の芳しさが心を弄る。刺激無きものと交流を図るのは心労を増すばかりで時間の浪費でしかない。かといって、私の正気を破壊しかねない程の誘惑の微笑が在るのも困る。ある程度の心地よさ、ある程度のいじらしさ、そうした二者が調和した状態が何事にもよろしかろう。
 エイス・オーシャン。八番目の海。それがこの私の口でのみ泳ぐ事を許された唯一の人魚の名前だ。煌びやかに眩しい藍が、私の部屋に点在する小月光灯に照らされて、壁から壁を神秘的に伝ってゆく。赤いワインは、人間族の最後の遺産のひとつ『海底文書』に記されていた"土の雨"―『光速度星王船ウィーアッグ』に乗った人類が、海底脱出の時に、大地を突き上げ雨の様に降らせたとされるあの疑わしくも華麗な神話の話だ―を連想させるものだとして、我々海人族の間では深く禁じられている。私はあの伝説を快い活劇のように思っているが、一部海に生きることに執着する古い集団が、彼らの武勇伝をそれとして素直に受け止められないというのがその理屈だそうだ。そしてこの私のための優美なる海水の名は、その時に生まれ出た地上の芸術作品を祝する意味で付けられたものである。
 しばしの肉体の解放だ。部屋に備え付けの重力安定装置の動力を切ると、私の体は緩やかに、ささやく様に宙を舞い始めた。我々はこの液化空気の母胎に抱かれていなければ生きては行けない果敢無い存在で、おそらく地上に進出してゆくことは侭ならないだろう。かといって我々が今現在の居住地にのみ信頼を置き彼女を妻とした永住の契りを約束しているわけではない。生物と言うものはいつでも野蛮で新たな未開に飢えている男性的なものなのだ。我らが『大海の勝利者』クリィオ・メルファを中心として進められている『「ワールドワード・ヒストリエ」計画』…"世界を包む言葉と終らない彼の物語"、彼らの言葉を借りたこの計画の概要は、世界の全てを我らの代弁者液化空気で覆い尽くし、我々の無数のドラマを織り成す生存圏をより一層拡大しようというものである。それが遂行された時、この惑星の名は人間族の『エル・セルオ』から海人族の『クル・メルオ』へと生まれ変わることになる。私の国の名を冠した惑星の名前の、なんと誇り高き響きよ。
 重力に身をゆだねていた私の人魚は、今は微睡みながらそこかしこを自由に有意義にたゆたっている。私も彼女の傍らに寄り添うようにしてしばらく並行して泳ぎを合わせていたが、壁の端に当たってしまったのでそこで彼女との口づけを楽しんだ。
 彼女を一滴残らず味わった後、私は『ブレインズ・スピーカー』で自分の召使に「睡眠を」と言う合図を送った。人類の栄光の発明『タイニィ・ムーン』、それを改良した我々の『クレセント・エメラルド』(ちなみに彼らの貨幣は三日月形で、CRESCENTの頭の二文字CRという単位で呼ばれていた)。この物質の放射する電磁波は、人間族にも海人族にも同様に作用し、我々に潜在するある種の超能力を引き出すことが出来る。今の『ブレインズ・スピーカー』というのもその一例だ。思考を直接相手に送り込めるというもので、脳内で誰か―これは決まって自分の声ではなくしかもある共通の声が聞こえる―話しているかの様に感じられる事からその名が付けられている。それは人間の考え出した怪談の中の狼男に作用するのと同様と考えてもいいだろう。月は人に眠る魔を目覚めさせるのだ。
 ただ彼らの場合の「タイニィ・ムーン」は、さながら空中に浮遊する原子力爆弾の様に働いてまうという非常に危険で莫大な力を持っていた…といっても、その点を削除したより日常性の高い「クレセント・エメラルド」であればその危険は無かったのであろうが、それが恐らく彼らを宇宙への逃避へと走らせてしまったのであろう。
 眠り行く脳のまとまらぬ思考を悪戯に転がしているうちに、同じく眠たげな召使の「消灯いたします…」という声が聞こえてきた…例によって男か、女かさっぱり分からない。よって口説きの文句を送り返すわけにも行かないので、とりあえず「君もね」と言おうとした所で消灯されてしまった。小月の光がなくてはあの会話法は使えない。
 「ごゆるりとお休みくださいませ、ラクラミカ王子…」そんな声が響いた様な気がしたが、私は既に眠りの堕天使とのランデブーに夢中になっていた…。

第二場「Sea Sight with Moon」

 眠りの中で、私は人になっていた。
 人間族の少年だ。何か赤い光の壁に対峙している。
 その光が猛烈に危険で有る事が分かる。
 それでもその危険を冒して守らなくてはならない物がある。
 そして、少年の決意は、少年の恐怖を超える。
 守るべき物の為に。
 愛する人の為に。
 少年は、二度と戻れなくなる世界に別れを告げ、
 光に抱かれ、そのまま見えなくなっていった…。

 無感動な頭の波長のまま、私は夢から現実へと強制送還されてしまった様だ。それと一緒になるかの様に、口の中まで渇いて味気なかった。人間族の夢を見たのは初めてだった。今までは、獣であるとか虫であるとか魚であるとかであってあまり私と言う存在に照らし合わせて対等と思われる存在に成り代わった事は無かったのだ。今の夢は衝撃的だった。だが、何か全体像がぼやけて今一それをはっきりとは思い出す事が出来ない。私の見る夢は常に地上の物で、そして日を経るにつれどんどんその夢の中の世界が進化しているのが分かる。だが、それは夢なので、起床後にはっきりとした記憶として残っている事は無い、特に今までは心を持つ生物になった事も無かったし、その夢の内容が夢であると言う事以上に気になった事は無かった。しかし、今回の物には何かもやもやとした不安の様な好奇心が胸の底の方に溜まっている。それでも、所詮は夢だ。思い出す事が出来る訳でもない。私は自分の世界を見つめて生きていく。それだけだ。
 小月光の朝の点灯までにはまだ時間があるのだろう、実際にそれが付けられていないのは勿論、周りのお決まりの定時刻制の喧騒が始まっていない。私はそこまで泳いでいき部屋に取り付けられた管理スイッチのうち、『重力波』、『深空の窓』とをいっせいにオンにして、いっせいに孤独を味わってみることにした。
 『重力波』とはつまり、この無重力的な液体空気の中で足を下に安定させる事が出来る、見えざる力の波の事だ。基本的に上から下へと放出されるが、この城の一部でも、構造上なのか遊び心なのか分からないが(草案を出したのは私だが、各所の必然性について聞かされた事は忘れてしまった)、左から右から出してみたり全く出さないでいてみたり、正反対に下から上に出してみたりと、さまざまにこの力が応用されて、さながら人間族の宇宙船内にいるかの様に設計されている。そしてこの部屋は、私は上から下にする様に設計した。時折は彼らの心理状態生活状態を真似て見るのも一興かと思ったのだ。
 『深空』とは我らにとっての天井の事で、彼らにとってはそれが空と呼ばれていたため、そして我々にとってのそれは、彼らには海、または深海と呼ばれていたという事情からこの名に落ち着いた。我々の文明で用いられる壁は人工的に不透明化されてはいるが、切り替える事でそれを元来の透明に戻すことが出来る仕組みになっている。その変換を今行った、つまり壁を『窓』にした、と言うことである。
 私の周りに、『深空の窓』を通しての一面の美しく深い色をした海水、つまり液体空気が現出した。部屋の内部のそれと完全に溶け込んでしまっているかの様で、そこで重力によって床に足をつけ、空を見上げると、荘厳なまでの不安と孤独に襲われる。液体空気は我々のテリトリー内にシェルターのように張り巡らされているというだけなので、この感覚はその他の大概の地域は未開の象徴としての純然たる『黒い水』に覆われている、と言う事実に起因する所が大きいだろう。その両者はしかし外見的にはあまり大差が無い事から、どちらも海水の一言で呼ばれている。感触で違いが分かる上に我々海人は『黒い水』、つまり本当の塩分を含む海水中での活動もある程度可能なので、外見的な違いが無くても大して危険ではない。ちなみに液体空気のもうひとつの別称はと言えば、小月の光に照らされたる聖なる水と言う意味で、『白い水』である。
 地上からの光届かないはずの深空が何故完全なる闇ではないのかと言えば、他のエリアとの交信を絶やさないための道具として、『黒い水』の領域にも規則的にCR(我々にとっては金の単位ではなく、小月の別称)が配置されているためだ。ある程度人の手で汚されているとは言えども、それを最小限に鑑賞に耐える程度に抑えてあるので、その光景は万の宝石を散りばめた天界の光景の様に美麗でいとおしい。人間族も所有出来たはずのこの絵画は、どんなに愚かしい存在にも生きる活力を与えてくれる物の様に思われてならない。
 彼らは、液化空気への適応を図った事の他に、自分達の母たる存在、大空を忘れることが出来なかったがため、または海の底に沈んでいると言う閉塞感から逃れたかったがために地上の大気を海底にそのまま持ってくることも選択していたようだ。液化空気での生活に精神的な限界が来た時の憩いの場として、または液化空気に適応し切れていない人間の仮住居として使われていたりしたらしい。ほとんど唯一の重要文献たる『海底文書』によると、そういった環境的事実を知っていたのは全ての人間なのだが、真相に関して知ることが出来たのは政治に携わる極一部のエリート階級のみで、後の人間は海底に移り住んだと言う大事が有った事の認識以外では自分達が淡々と静かで平和な生活をしているものだとばかり思っていたのだそうだ。それがどの様な手口で行われた犯罪であるかと言う事実が、あのアルラ・へライモスに吐き気を催させたのだ。政治の人間は、一度大人を全て消してしまっていたのだ。何が起こったかを知ろうはずも無い天界の妖精、子供達だけを残したと言うわけだ。
 それは何故かと言えば、子供を大人から奪って生存の為に使わなければならない絶対的な理由があったのだ。勿論、全員の子供がその目的に必要とされた訳ではない。全員を使えば人類として普通に生きて行ける存在が消滅してしまう。ならば大人をその普通に生きて行く存在として残せば良かったのかも知れない、しかし彼らはそう思わなかった。この大量殺戮に反感を持つ可能性の有る危険分子として大人は全員処理された。
 話を順に追って行こう。まず第一に、『タイニィ・ムーン』は、ただの爆弾だったのだ。我々も例外ではなく小月に太陽光と同程度の恵みを生み出させるには、どうしても核融合の力を借りねばならず、その結果それに爆発の危険性を伴わせねばならなかったのだ。と言っても、政府はその点をこそ利用し地上を炎の海に変えたわけで、その上の人間―そう呼ぶに値する生き物かどうかは神のみぞ知るところだ―たちは、定期的に爆発する小月の性質を利用した。彼らに超能力が有り、そのためにそれらが爆発すると言うでまかせを盾に、それで一地域をまず地獄に変える。人々には思考を送り込めると言うような特筆すべき才覚こそもたらされていたとはいえ、(ちなみに、これは口での発言と大差は無い。送りたくない思考は送らなくて済む様になっている。今のこの私の思考はどこまでも私のものだ)それの爆破に関してはただただ時間と自然の摂理とが絡み合うのみであった。
 爆発の後は軍事の仕事になる。彼らはその悲劇の地域へと飛び、そこで生き残った人間を探す。それが大人であった場合は、容赦なく家畜の様に殺す。その他の人間、つまり妖精達だった場合は、一定数は未来の住人として確保、その他は冷凍人間としての処置を施し、来るべき『海底移住計画』に備える。そして他の地域には、その地域が全滅してしまった、まことに遺憾である、皆さんは来るべき惨事に備え、何事もあきらめず頑張って欲しい、等という虚偽を報道し口先で躍らせる、という寸法である(ただ、こう言った行動は海底移住計画の最終段階として行われた物の様で、計画の最初期には、ただ単に爆発で人口が減っていくに任せていたらしい。都合良く人口の比率がまばらになって来たところで、人間の尊厳を犯す行動に及んだのだろう)。
 だがしかし、その後恐るべき事実が発見された…というより、それは予定されたものだったが…小月が大人の手を離れた行動をし始めていたのである。小月は、妖精のように空を舞い、お互いを求め合ったり、離れてみたり、衝突してみたり、さながら子供の様に振舞い始めたのだ。そしてそれは、冷凍人間化されている間の、遊びたくて遊びたくてどうしようもない子供達の魂が乗り移ったものだった…(驚いた事に、冷凍化された人間には解凍方法が無かったらしい、つまり、もう政府は最初から彼らを道具として使うことを決めていたのだ)。思考を送り込めるようになる等の変化は確かだが、小月が人類にもたらした変異は実際にはこれが最大のもので、真相はわからないが失語症であったり感情搾取と言ったものは結局のところ、空に常に爆発物を抱えていると言う事に対する人々自身の恐怖が自らを蝕んだ結果、もしくは政府が自らの仕組んだ罠を裏付けるために繕った誤情報に他ならなかったのでは無いだろうか。
 なんにせよその奇跡のおかげで、小月は子供達が冷凍化されている状態で生かされている間は絶対に爆発することの無い安全な発光体へと落ち着いた。爆発を目の当たりにしてきた子らの、平和への願いがそうさせたのだろう。
 そして海底に移り住む為に子供だけを選別して生存させた事の絶対的な理由というのはこれにあった。大人から奪って冷凍状態にした子供達のその魂の加護の中で小月を使って、略奪のために破壊し尽くしてしまった古い地上を捨て、また新しい土地、海底で人類の営みを再開しようという、非情極まりない生存主義者達の採った最後の手段であった。彼らも海底には素晴らしい液体空気の詰まった空間があることを前もって知っていたのだ。それさえあれば、喉の渇きもまるで気にすることは無い。太陽光は小月を通して手に入る。それを今現在独占する我々が言うのもおこがましいが、まさに理想郷と言ったところだろうか。ただ排泄が少々厄介なのは誰彼も不問の項目に挙げている。
 その後の歴史は実に不明瞭である―『海底文書』を例外として(これは彼らも遺産とすべくして尽力して遺したものなのだ)、海中で紙という単純にして必要不可欠な道具を失ったこと、また前時代での過ちに対する自警の念から電子技術の発達が封印されてしまったことで、文字による記録を彼らは持たなくなっていったのが大きかろう、その時代の事は現時点では解析不能な音声記録という形でしかほとんど残されていないのだ。だがその他の手段としての映像記録から分かっていることでは、或る一時点で子供達の魂による制御がうまく行かなくなったらしい。悪魔的な表情の狂乱した子供、と言うのがその時代の保存対象の大半を占めているからだ。深海の奥底で、またしても小月は人類の生命を脅かし始めたのだろう…そして止む無く、彼らはこの星を捨て、新たな開拓地を求めて旅立っていったのだ。それが成功したのか、はたまた失敗に終わり何処かで宇宙の藻屑と化しているのか、それは定かでは無い。
 『海底文書』中に記載された神話的な言葉が有る。
 白き月の復活 黒き月の消滅
 そして我々の大地を潤す蒼き涙の降下
 それらの全てが達成されたその時
 我ら 天より舞い戻らん
 かつて地上を制覇した、まがりなりにも大地の民だ。過去の楽園をそう簡単には手放すわけには行かないだろう。その日がいつになる予定なのか、またそれまではどこで一時的な営みを送るつもりなのか、それらが今特に注目されている研究課題だが、何分使用可能な資料が限られ過ぎているため、その進行速度は、子供らがしあわせに過ごす時間を、大人達が過ごしている時の様にのろのろとしたものだ。
 この束縛された心のひとときの解放、とも言うべき行為の最中は、私も何故だか人になって彼らと対話しているような気分にすらなる。今までの思考もひょっとすると他の場所で誰か人間の考えていたことが送り込まれて来ていたのかもしれない、とすら思えてくる。この広大な空間の中では、誰であろうと己を失う。かろうじて取り戻した己の意識で、いつの間にか手にしていた蒼い人生の喜びを見つめながら、彼らの緋色の人生の喜びと、悲しみと、その行く末とを祈った。

第三場「In the Heart of Endless Blue」

 今はもう朝方の心の静けさは無かった。先の朝食で何かいけない物を口にしてしまったかとも思ったがそうではないだろう。やはりこれは、明日にでも伝達されて来るであろう地上調査派遣団からの一報に、何かしら不安のような期待のような、有耶無耶とした面白くない感覚がのたくっているせいに違いなかった。
 我々にはそう、今まで圧倒的に地上の情報が不足して来ていた。彼らが果たして我々と同程度の身体的特徴を備えていたのか、友好的気質に基づいた営みをしていたのか(戦争という愚の骨頂の為に自らを滅したとは言え)、そう言った事の、論拠ではない実際的な証左物となる何かが掴めるかもしれなかったのは勿論、現にそもそも地上というものを目にしてきた者は、海人族の中には誰一人として存在しなかったのだ。そのため今回の調査は、なにやら実質的な部分を省いてお祭り騒ぎめいたところが有った。私もその昨今の計画の息苦しさを紛らすような砕けた空気を愛していた。そして、あの夢の事も何か分かるかも知れない、論理的でないのは分かっている―何故なら、人類はもう疾うの昔に絶滅している筈の種族なのだから―がそう思った。
「ラクラミカ王子、御伝達がございますっ」
 唐突に頭に響く妖精の囁き声に我に返る。と同時に、この伝達を経由している小さな月がゆらゆらこちらへ泳ぎ渡ってくるのが横目に見えた。今のでもう我慢の限界、はやくおなか一杯餌を食べさせて、という事だろう。こうなってはこちらも敵わないので、早速彼らの好物である金色の満月草を宙に投げてやる。すると彼はまるで空気に引っぱたかれたかのようにその草目掛けて直進していき、何秒と掛からないうちにそれを平らげてしまうと、伝達開始OK!という意味でまた部屋の片隅に戻り、居眠りでもしているかのように静止した状態で静かな発光をはじめた。手間の掛かる子供のようだった―そう、彼らは月の妖精にさせられたタイニィ・ムーンに宿った子供の生き残りなのだ。我々のクレセント・エメラルドは彼らの爆発しない特性だけを抽出して非生物加工した物だ。つまり我々の月に生命は宿っていない。ただ、タイニィ・ムーン自体ただの子供の願いの宿った物で子供の心それ自体ではないため、本当にペット程度の行動性と知能しか持っていない。その様を見る度、人の罪の痛々しい名残を見せられているのだな、と私は人間族に特別に入れ込んでいるせいも有って物悲しくなる。
 その段階まで行ってやっとまた伝達再開可能となる。私は先ほどの声の主にまずその事を詫びてから、詳しい事情を尋ねると、どうやら先刻旅立った地上調査団のクリィオ・メルファ国属の深海艇四十隻が、無事に中継地点にまでたどり着いた、ということを報告してきたそうだ。その後にはまだ技術の面で遅れを取る他国の船がたどり着くのを待つ、というのが命令されるべき行動となる。私はその通りの事を伝えてくれる様にとまず間違いなく司令官であろうその声の主に返答すると、慌てた口調で「あ、以上、司令官マリーシィでありましたっ」との返事が返ってきた。話の最後の最後まで、私は誰と話しているのか教えてもらえなかったと言う訳だ。油断が有るのか浮かれているのか知らないが、今回は特に気に留めないでやる事にした。
 このままうまく計画が遂行されれば、我々の種族がはじめて大地に立つ事になるのだ。これを記念すべき瞬間と呼ばずして何を記念とすればよいのだろう。私は今度はこちら側から、ゆらゆらと先の光の子供の眠る傍らまで泳いでいくと、その心地よい夢を遮る事のない程度に、暖かな体をゆっくりと撫でてやった。今になって分かった事がある。先ほどのざわめきは、明日になればもっともっと大きくなるという事だ。大きくなっていく海の平穏の破壊者、波は、浜辺に打ち寄せられるまでより一層大きくなるように方向付けられているのだから。

明日出会う大いなる世界の意思の前で、
小さく卑しい私に出来る事はといえば、
その偉大さを崇めその前に平伏す事のみだ。
そうして無になって私は初めて、
美しさに出会う事が出来るだろう

―ラクラミカ・サイニズ・ノルティノオリオ

―Demon's Hope―

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