Last of the Pieces: Might-be-Blu-e
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第一部「…夜」・前劇「ふたつの言葉」
/第一幕「おもい」・第二幕「ゆめまで」

   ワールドワード・ヒストリエ座
        最終公演

日時:10/11
   LM10:00〜DM11:00

大人 お一人様 2000CR
小人 お一人様 1000CR

前売り券もございます。
お求めの際は当劇場、または
お近くのチケット売場をご利用下さい。

長らくのご愛顧、有り難うございました。
劇団一同、心からの感謝を捧げると同時に、
少しでも多くの皆様に、
当劇場の最後の劇を観て頂ける事を願っております。

 子供の笑顔が通り過ぎて行く。夢見ている顔。幸せな顔。子供達の願いは、幸せは、そのままの形で未来へと変わって行けるのだろうか。この世界の、未来は子供達を幸せにしてやることが出来るのだろうか。
 うさん臭い体たらくのチケット売りが、ここ一帯で熱心に商売を続けている。もう顔を覚えてしまった者さえある。あんな事をしても、大した金は入るまいと言うのに、無視されても、蔑視されても、煙たがられても、懸命の商売は続いている。この時代には金は必須だ。ちっぽけな金のためにでも、ああも必死になるのにはそれなりに理由はある。だが、そうそう娯楽に金をはたいてはいられないというのも、他の人々の理屈だ。
 ふかしていた煙草が尽きてきた。風に吹かれて、幾つかの灰が手に付着してきている。
「まるで、私の人生その物だな」
 誰かにそう言われたのかと思ったほど、その声は突然で、私の頭に無かった物だった。だが、それは明らかに私の喋った物だった。寂しい言葉、乾いた声。私の物だ。
 何が、私の人生その物だというのだろう。煙草、朽ちて跡形もなくなってゆくこのもろい嗜好品のことか、それとも、弱々しく風に吹かれて飛ばされて行く灰のことだろうか。いや、違うか。私は少し笑いをこぼしそうになった。両方だな。
 だが、実際に笑い声は出ていなかった。笑い声は、最近では子供の笑い声しか聞くことが無い。自分とは無関係な子供の、自分の知らない幸せを喜ぶ笑い声だけしか、聞くことが無い。
「…。…」
 今度は、明らかに他人の物である声が聞こえてきた。先程から話しかけていたらしい。思考にふけっていた私を呼び覚ますように、妙な男は、妙な口調でチケットを一枚私の顔の目の前に躍らせていた。チケットは、悲しげに先程から少し強い風を体に受けて、男の手から逃れたそうに、身をよじって、私の顔に触れようとしている。
「ああ、そう、だな、一枚頂こうか」
「へい毎度!あっ」
 金と品物の当然の取引をすますと、男は恥ずかしそうに向こうの方へ行ってしまった。今の言葉から察するに、以前には、店頭に立って張りのいい声を出すような、明るめの仕事に就いていたのだろう。時代の流れには、皆逆らい様が無い。
 チケットと私だけが、その場に取り残された。最初チケットの哀れな姿がいたたまれなくなって思わず買ってしまったのだと思ったが、あの人間への哀れみも、そこには有ったのかも知れなかった。あるいは、自分の姿に重ねたか。とにかく、買うはずの無かった物を、私は手にしていた。
 先ほどまではこの場を―そう、この場を―去る予定だったのだが、買ってしまったのも何かの縁だ。数奇な縁もあったものだな、そう思いながら私は、遠くに光り、瞬き続けるネオンの下の劇場へと向かった。煙草は、ゆったりと私の足元へと落下していき、私の足の下敷きになった。

第一部「…夜」

 むさ苦しいほどの人いきれ。だが、悪くない。人の波に成すがままにされ揉まれつつ、私はそれでも確実に、入場口の方へと流れ込んで行っている様であった。大勢の人間の詰まった空間というものには、たいてい、それだけ多くの人間の感情の高ぶりが有る。集まる理由があってそれに、これだけの数の人々の要求がぶつけられるのだから、ある種の祭りめいた熱気を感じてしまう。事実、そこには興奮した、人々の若々しい表情が満ちている。だからこそ、私はあの仕事に取り付いた。この表情を、この世界から消してはならない。しかし、それにも随分疲れてしまったようだ。残ったのは、一生分の疲労と、短くなった時間。悲しみと喪失しか、今までは無かったような気さえする。
 みな口々に、勝手なことを言い合っている。もう本当にこれで終わりなのか、いつか再開する予定はないのか、劇団は今後どこへ行くのか、何かやましい事件があったのではないか。思い入れるがために色々な詮索をするのはいいが、もう少し程度の高い、思いやりの有る会話は出来ないものなのだろうか。
 時計を見る。開幕時間は、明刻の十時だ。開幕までには、ゆうに三十分はあるようだ。明刻。それは、ただ明るいという時間でしかない。今のこの世界には、太陽はない。弱り切ったその太陽の光が、ぼんやりと世界を照らしているだけだ。あまり詳しい事は知らないが、太陽には休眠期という物が定期的に有るらしく、今それのお蔭で人類は人工太陽、月の世界の恩恵に与っている。その周期は数十億年単位で動いているそうだ。
 ちなみに月は明刻暗刻あるいはライト・モーメント(LM)ダーク・モーメント(DM)と呼ばれる昼夜の再現をするのだが、それの風情の無さと言ったら格別である。昼夜の区別は月光の光量の増減によってのみ行われる。それでも昼は休眠中の太陽の出ている時間帯に合わせた物にはなっているが、太陽光それ自体でははっきり言って昼夜の区別が出来る程の光量は無い。つまり、太陽光だけで生きようとしていたならここら一帯はもうとっくに氷の街と化しているだろう。今この星に生命が存在している事自体が既に不自然なほどの環境だった。終る星、こんな言葉がマスメディアで騒がれていたのも一昔ほど前のことだ。今現在それが本当になってしまっている精神の重圧下でそのちょっとした退廃的な詩情を楽しめる人間などはもう残ってはいないのだ。
 少し目を離していた間に、段々と私の位置は入場口の方へと向かっている様だ。前方にひしめいていた頭の数が前よりもずっと減っている。すでに中へと入った者が皆、こちら側にいるよりは整とんされた列となって、奥の闇へと消えて行く。その風景は、私に妙な怖気を与えた。闇の向こう側に行けば、もう二度と光を見ることが無いというような錯覚に陥ったのだ。
 劇場のアーケードの下に入り込む前に、もうしばらくはそれを眺めることが出来なくなってしまう前に、私は白く空しい空を見上げた。私が騙されてでもいるかの様に、真白い他には本当に何の感動も安心もない。満天の星空を見上げて感じる圧倒的な不安定さとは全く価値の異なる、うだるような惰性に漬かったやるせなさが、頭の中をひどく締め付けるだけだ。
 アーケードの下に潜り込んで、また劇団の一員との当然の疎遠な手続きをして、中の闇へと歩みを進める。あの先程の空の映像が頭の中にこびり付いて離れない。歩き行く道は、いつまでも変化無く、闇に包まれているように思えた。そう、この世界はきっと、ずっと夜なのだ。冷酷な夜の暗闇の中を、この世界はずっと歩んで行くのだ。

「こんにちは!みなさん当劇場の最後の劇を見に来ていただいて、ほんとに有り難うございます!最後になったからには、とことんサービスさせて頂きます!」
「本日みなさんにお見せます劇には、全部で四つの劇を予定しています。みなさん最後まで、ごゆっくりとお楽しみ下さい。では最初の劇になります、『ふたつの言葉』です、どうぞ」

たとえ頭の上の空には、星が無くたって、
光が無くたって、
僕には世界の姿が見える
君が世界を照らしてくれるから、
僕は世界の姿を知っている
僕にとってのきらめく星が、
君なんだってこと、
僕はいつだって知ってるよ、
加奈…

加奈…

前劇
「ふたつの言葉」

第一幕「おもい」
第一場「夜の広場」

 頭上に浮かぶ幾多の月影に照らし出される人影。年端も行かないやわな体の青年の姿が、ほのかに薄暗がりの中に浮かび上がる。
「はあ。この気持ちを伝えたいなあ。あいつは、僕のことどう思ってるのかな…」
 天を仰ぐ青年の傍らに、もう一つの人影。ほのぐらい中で、小さな体がぼんやりと現れている。
「あっ!こんな所にいたのね、もう随分さがしたんだよ。どうして夜になると、そうやってひとりになろうとするの」
「べ、別に何でもないさ」
「そうかなあ」
「それよりかな、こんな時間に危ないじゃないか、外に出たりしちゃ」
「もうあたしは子供じゃないんだから、いいじゃない。かずちゃんの面倒はあたしが見なくちゃいけないんだし。さ、行こう」
「あのさ、あの呼び方はやめてくれよ、何かみっともないだろ」
「え?そーお、かな?あたしはけっこう気に入ってるんだけどなあ」

第二場「二人の住まい」

 日差しではない、朝の光が青年の顔を照らす。安らかな寝顔。やがて目を覚ます。
「…う、うー。目覚めが悪いなあ」
 少女が青年のそばに飛び込んでくる。はじけるような笑顔。
「おっはよ、かずちゃん!」
「あう、そんな大声で叫ばないでくれ、頭が…」
「ふふ」

第三場「朝の街並」

 広がりのある空間に、まばらに立ちならぶ建物。装飾が美しい。色鮮やかな街の中を、青年と少女は歩いている。
「さあて、なにを買おうかな?」
「ははは、気が早いな」
「だって、楽しみじゃない、休日のお買い物なんて。久しぶりだし」
「ずいぶん、行ってないな、そういえば」
「うん、だから前からずっと楽しみだったんだ、今日」
「そうか」
「それにしても、人がすくないや」
「うん?ああ、そうだな。もうこんな時間なのに」
「かずちゃんじゃないんだから、寝坊しているわけでもないだろうしね」
「それを言うなよ、僕はいつも仕事があって遅いんだから」
「あ、ごめん。でも、どうしたんだろうね」
 あたりを見わたしている少女。少女と、近く一面に咲いている花々を見る青年。
「きれいにいないや」
「きれいだ…」
「うん…え?なにが?」
「あ、いや、あそこの花がな」
「あの花が?」
「そう、あれ、あの花」
「特別に、あの花だけが?」
「そ、そう、あれ」
「そう」
 時間がゆっくりと流れて行く。あたり一面を、一様にうすく藍色に染めていく。

第四場「暮れる街並」

 青年と少女が歩いている。行きと同じ道を戻っている。
「僕は、何でいつも運搬係なんだろう…」
「お花、夜は眠ってるみたいだな」

第五場「二人の住まい」

 青年が玄関にほど近い所で休んでいる。
「こ、腰…」
「え、なあに?」
「や、別に…」
「そう。もうちょっとで、ご飯だからね」
 少女は玄関から少し遠い台所に立っている。ふかい鍋の中に何かが煮込まれている。
「ふんふんふん♪」
「はあ…」

第六場「二人の住まい」

 食卓に青年と少女が座っている。暖かそうな鍋物の湯気が、うすく二人を包んでいる。
「どうかな?今日は、いつもとすこし変えてみたんだけど」
「まあまあ、かな」
「…そう」
「…ね、ねかな」
「え、なに?」
「あ、これ、あったかいね」
「うん」
「…あ、あのさ」
「うん」
「…かなって、料理とか上手いよな」
「へ?…ほんと?」
「あ、たまに」
「…そう」

第七場「寝室」

 はっきりと見えるでもない天井をじっと見つめている青年。
 微動もしない。天井以外の物を、全て忘れてしまってでもいる様子で、青年は、じっと横たわっている。
「明日から仕事、か」
 天井から視線を外す。
 横を向いたまま、じっとしている。
「…かな」
 ため息をついている。
「かな…」

第二幕「ゆめまで」
第一場「月工場」

 光る物質が規則正しく、青年の前を流れて行く。一様に、何の変化も無い輝きが、通り過ぎて行く。
「…ふう」
 汗が、青年の額からこぼれ落ちる。光る物質の上に落ち、蒸発する。
「目が、疲れるなあ」

第二場「夜の街道」

 仕事を終えて、疲れた肩をゆっくり上下させながら、青年は帰路についている。
 次々と打ち上げられて行く光り輝く物質の方を見ようともしない。足許にこそ見るべき物があるとでも言いたげに、うつむきながら歩いている。
 闇の中を、動いている。
 生まれたての月が、青年にかよわい光を当てている。
「…ぃつけ…やろ…」
 誰かの罵声は、青年の耳に届かない。深く深く、奥の闇へと入って行く。
「かなの手料理が食べたいな…」

第三場「酒場」

「まだかこっちは!」
「ねえ、お酒はやくしてよ!」
「た、ただいま!」
 客に酒を出すために、あちらこちらへと忙しく働いている青年。
「こっちもおねがい!」
「は、はい!」
 一生懸命に客をもてなす。額から汗が絶えることはない。
「おまちどうさまでした」
「はい、ありがと。偉いのね、若いのに」
「あ、いえ。家族のためですから」
「感心ねえ。じゃ、頑張ってね」
「あ、どうも。失礼します」
「おい兄ちゃん、こっち頼むよ」
「はい、今すぐ」

第四場「住居の前」

「ただいま!」
「おかえりなさーいっ!」
 戸口で一組の男女の愛が確かめ合われている。一人の青年が、じっと見入っている。
「いやあ。もううちに帰るのがまち切れなくって…」
「…うふふ」
 熱くやりとりを繰り返しながら、男女は住居の中へと消えて行く。誰もいなくなってからも、青年はまだ見つめている。
「…はやく帰ろう…」

第五場「二人の住まい」

「ただいまー、って、誰もこたえてくれやしないか」
 疲れた顔で中へ上がり込んでいく青年。
「…あ」
 諦めたようにうつむいていた表情が、驚き混じりに明るくなる。
「かな…」
 静かに一点を見つめている。使われることもなく寂しげにしている食器を前にして、少女は、先程まで読んでいたらしい本と雑誌の上に眠りこけてしまっている。
「全く、こんな所で眠る奴があるかよ」
 と言いつつ、青年は自分の席にくたりと座る。
「あれ、なんだか」
 青年は立ち上がり、はっとなっていすを見つめる。青年の席に、ぬいぐるみが置いてある。食器をもう一度見る。
「…家族のため、か。ほんとだよな」
 しばらく立っていた青年は、そのぬいぐるみをつかみ、起こさないように少女を抱きかかえると、少女の部屋へと運んでいく。そして、その部屋を後にし、青年の自室へと入っていった。

これから語られる物語に、じっと目をこらして下さい。
そして貴方の幸せを見つめ直して、それを抱き締めて上げて下さい。

−彼の科白−

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